第6話 庭園の過去

放課後になるまで、管理整備棟の特別書庫室で調べものを続けようと思ったけど、レイティア様に追い出されたしまった。

なんでも、シャイン様に交換研修の為の勉強会を直にするそうなの。

シャイン様は、脅えるような瞳でこっちを見てたけど、お助けできないので、退散してきました。


基礎学校の放課後になるまで、学校内にある図書館で調べものにふけることにしました。基礎学校と言えど、ここの丘には、学校は一つしか無いから歴史は古いのです。だから、知りたいことは、ここである程度、探せると思ったの。

ここの図書館は、思った以上に広く、色々な書物が沢山あったので来てみて正解でした。


来月の交換研修が始まるまでに知識を増やさないといけないことが多い。

中央管理整備室に行けば、ありとあらゆる資料や歴史、種族図等の文献が沢山あるのは知ってる。でも、私はこの丘だけに伝わる歴史や資料で充分だと思ってる。

欲を出して知識を貪っても、私の頭が混乱するだけなのは私自身が知ってるから。


そういえば、ここの基礎学校に来るのも、私がこの丘に来たばかりの頃に見学して以来かな。あの時は、純粋に他種族のお子様達の質問攻めだったっけ…。

お子様達から助けてくれたあの方が瑠璃様だったのかな?

妖艶な雰囲気を醸し出してるけど、どこか不思議な感じの魔族の方だったと思う。


数冊の本を棚から取り出し、本を机の上に置いて、椅子に座って読みふける。

この丘の歴史と風景の変化が読み取れる歴史書を見て、何故か懐かしく感じる。

懐かしさは何でだろうと思いながら、歴史書を読み終える。

そして、この丘には最初から区分特区が無かったことを知る。

詳しいことが書かれてないのでなく、無いのが当たり前の書き方をされていた。

読み返しても、種族差は肯定されてるが、誰もが平等であるということが顕著に書かれていた。


「ルーモ主任の口癖よね。この本の影響なのかしら…。」


そんな独り言を言いながら、ふと目に入った変わった古い歴史書を読むことにする。


これは遥か昔のお話。この光の大庭園ライト・ガーデンの昔話をここに記すとしよう。

光の大樹の下には、転移門ゲートがあり、6つの庭園を自由に行き来が出来たと言う。

ライトナイトフレイムアクアウィンドサンドの6つの大庭園。

それぞれの庭園には、多種多様な種族が住んでおり、庭園の整備を行っていた。


この光の大庭園ライト・ガーデンは、天族を主とし、他種族と共に庭園の管理整備を行っていた。

各庭園のいい所は、真似てみたり、それぞれの庭園にしかない物は交換したりして、交流は盛んだった。しかし、ある日を境に、天族は管理業務のみを行い、庭園の整備は他種族に任せ、上から下僕に対して命令するかのように庭園の管理整備を行うようになった。天族の中でも上位天族以上の力を持った七名の天族は七大天族と呼ばれ、実質、光の大庭園ライト・ガーデンの支配者となった。


そして、その日から時は流れ、光の大庭園ライト・ガーデンの管理業務のみを良しとしなかった天族の一部が、闇の大庭園ナイト・ガーデンに行った際、整備された美しさと他種族との交流の楽しさに目覚め、移住をしていった。闇の大庭園ナイト・ガーデンは、光の大庭園ライト・ガーデンの技術を取り入れ、新たな光を取り入れ、庭園美が増していった。


光の大庭園ライト・ガーデンの多くの天族は他種族を見下し、他の技術を真似たり、取り入れようとはせず、庭園に変化は生まれなかった。

整備技術の向上を見られず、下僕と見ていた他種族に業を煮やした七大天族の一部が、他の大庭園の技術の簒奪を企てた。その企ては光の大庭園ライト・ガーデンの整備士達の意地によって阻止されたが、整備士の大半が大怪我を負い、各庭園の地下で療養した。阻止されたことに怒りを顕わにし、天族の力は強大であった為、他の大庭園へ宣戦布告し、武力侵攻による支配を始めた。


他の大庭園は、武力侵攻を良しとせず、交渉を試みるも全て拒否される。

そして各々の大庭園は、それぞれの庭園美を守る為、支配に応じる大庭園もあれば、抵抗する大庭園もあった。


抵抗する闇の大庭園ナイト・ガーデンはその筆頭であり、天族に対抗するだけの力を持っていたからである。共存共栄の為に移住した天族を堕天と見下し、称された種族が居たからである。闇の庭園に移住した天族は、自らを魔族と称して、天族に対抗することとした。そして他の庭園の守りにも行ったと言われている。


下位の天族を先兵とし、他の大庭園に武力侵攻を行う天族に対し、抵抗する大庭園に上級魔族と中級魔族を派遣し、防衛及び抵抗方法を伝えたと言われる。

闇の大庭園ナイト・ガーデンには、七大魔族と呼ばれる魔族の中でも遥かな力を持つ7名と下級魔族が残り、抵抗を続けていた。


やがて、抵抗方法を身につけた他種族は、天族に対して抵抗を始める。支配を受けた大庭園の種族は独自の能力によって天族を補佐したと言われる。

全大庭園を巻き込んだ抗争は、美しかった各大庭園を衰退させていった。


神々は、この抗争に関与せず、ただの傍観者であった。

しかし、終わりの見えないこの抗争を収束させるために各大庭園から英雄と謳われる者達が現れた。

ライトナイト大庭園ガーデンに誕生した英雄は、美しい純白の羽根と気高き漆黒の羽根を持つ双子の少女。

魔天の双子と呼ばれ、七大天族と七大魔族の抗争を一瞬にして止めたと言われる。


傍観者に徹していた神々は、この英雄生誕を異変と危険視し、1人の執行官を派遣する。

執行官は、英雄と謳われし者達を集め、全大庭園を巻き込んだ抗争を1週間で収束させる。

収束後、執行官によって転移門ゲートは限られた者にしか使えないように制限を施した。

そして、執行官は一部の庭園の種族配置の変更を行い、その後、神々の元に戻ったと言われる。

英雄と謳われし者達は、自ら姿を何処かへと消したと言われる。


全庭園抗争を始まりから終わりまで見ていた神々は、美しき庭園に戻す為、また争いを再び起こさない為、それぞれに特別管理顧問官を配置することにした。


そして、3年に一度、神々による小庭ミニガーデンの品評会を行い、品評会の審査で一位になった作品には、願いを一つだけ叶えることとした。

品評会への参加は自由であり、各庭園に住まう者、全員に平等な参加権があり、各庭園から複数の出品を可とした。

願いを込めた作品がその願いに相応しいかを転移門ゲートが判断し、願いに相応しくない者は転移門ゲートを抜けても元の場所に戻されてしまい、願いに相応しい作品を持つ者だけが行くことができる聖地である。


品評会の年に転移門ゲートへ行けない者に対しても、品評会に参加できる願いの作品であれば、転移門ゲートを抜けなくても、品評会への参加は可能である。これは特例ではなく、品評会への参加は自由にして全ての者に対して平等であり、願いを込められた作品であれば、各庭園の象徴が庭園の全てを見通せるからである。その際に参加、不参加を決めるのは作品の作成者であり、作成者が不参加を望めば、聖地へ転移することは決してない。


品評会が行われる聖地は、願いを叶えた作品が一堂に会せる場でもあり、特別管理顧問官であっても決して行くことができない場所である。

願いは、全ての庭園に住まう者に対して平等であり、その願いに相応しい作品であれば、全てが叶えられるという。


種族の配置変更は、光の大庭園ライト・ガーデン闇の大庭園ナイト・ガーデンの天族と魔族の配置を逆転し、天族のみに対して、一時的に管理官職権限の全てを剥奪した。

その後、品評会とは別に各庭園の交換研修を神々によって配置された特別管理顧問官の権限で行うようになる。

交換研修は、互いの庭園の情報及び技術等の提供を主とし、各庭園での一定期間の研修を行う。

研修者は、各庭園の中央管理局にて選定を行い、研修者を決めることとする。

研修先の庭園において、情報及び技術提供をお互いに行うこと。


交換研修開始数百年後、天族の反省を認め、管理官職権限を神々によって配置された各庭園の特別管理顧問官の賛成一致で付与された。

こうして、各種族の差別が撤廃され、平等化されることになる。

しかし、種族による能力差は残っており、再び過ちが起こらないように常に各庭園に配置された特別管理顧問官によって監視が続いている。


………。


……。


…。


この本に書かれてることは、全て本当のことなのかしら?

ここまで詳しい資料があるだなんて…。


「あなた、その本を読めるの?」


ふと、後ろから声を掛けられる。


「え、はい。」


後ろを振り向くと一人の女性が立っていたの。

少し驚いた様子で。

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