第3話 査察
古竜さま…クラ爺と談笑してると、この庭園では、珍しい強風の音が近づいてくる。この庭園で地上に風が吹くことは、余りないのです。
庭園内の整備で、花壇や草花の受粉等が必要な時に古竜さまにお願いするか、管理補佐官にお願いして風を吹かせて貰っているのです。
なので、こんなにも強い風が近づいてくるということは、レイティア様が焦ってるってことかしら?
普段のレイティア様なら、焦ることなく、爽やかな風を纏ってるのに。
ここに着いたのかしら、上空で気配を消しつつ、強い風を止め、ゆったりとした風を纏って舞い降りて来る。
「お、遅くなりました…。申し訳ありません。クラルテ様。」
気配も消さずに凄い強い風を纏って、急いできた為か、焦って来られた様子。
息切れはしてない者の精神的に大変、疲れた様子にも見える。
「おぉ、珍しくお嬢が遅刻するとは、補佐官の嬢ちゃんは、何をしでかしたのかな?」
「いえ、余りにも本日の重要資料が散乱しつつ、査察日もやはり皆に知られており、お説教をしてたら時間が…。」
「ほうほう。可愛がってる弟子の面倒を見るのも大変じゃな。」
「弟子って、違います。単なる教え子の一人です。」
「まぁ、自分の能力を過小評価しておるからな。あの補佐官の嬢ちゃんは。」
「緊張せずに普段の力を出せればいいのですが…。」
「何、お主にいいところを見せたくて、空回りしてるだけじゃ、問題なかろう。」
お二人のやり取りを見つつ、レイティア様にお茶を淹れてお出しする。
「あら、アニス。ゴメンなさいね。挨拶もせず。」
「いえいえ、レイティア様が来るまで、クラ爺と楽しくお話ししてましたから。」
レイティア様がお茶を一口飲んで、一息つく。
「では、改めて、アニスにクラルテ様のことを紹介するわね。」
「ん、お嬢、別にする必要ないぞ。」
「でも、この丘の管理整備官の紹介を…。」
「ん、もうバレとる。」
「は?」
「だから、もういろいろとバレとる。」
クラ爺は淡々とレイティア様は、混乱した様子で私に話かけて来る。
「アニス、えーっと、どういうことか説明してくれる?」
「はい。クラ爺は、この大樹の丘を守護兼管理整備官をされてる古竜さまですよね。」
「おぉ、端的にまとめたのう。さすがはアニスじゃ。」
「あのクラルテ様、もしや自分からバラしたりしてませんよね?」
「そんなことをする訳なかろう。この子はわしとの会話と雰囲気とやらで見抜きおったわ。」
大変、満足そうに愉快に話す古竜さま。それを聞いて、ますます困惑するレイティア様。私は、何か大変なことをしたのかしら?
「あのレイティア様、私、何か大変なことをしたのでしょうか?」
「アニス、あなた、ホントに人の子なの?」
「それ、クラ爺にも言われましたが、ホントに人の子です。」
「私ですら、この方の正体を見破るのに数年かかったのにそれをたった1日で見抜くだなんて…。」
「話し方や雰囲気が古竜さまにそっくりだったので、変化しての査察かと思いまして。」
「雰囲気って気配のことよね?この方の気配を変えるのは巧みなのよ。」
「いえ、たぶん、エルフ族の方のいう気配とは違うかと思います。その方の話し方や特徴、その方が持ってる独特の気配のようなものですかね。」
レイティア様が解らない様子で、珍しく首をかしげている。
うーん、言葉で説明するのって難しいなぁ~。
そろそろ時間だし、説明も面倒だし、お仕事に逃げることにしようっと。
「あのとりあえず、そろそろ査察のお時間だと思うのですが…。」
「あぁ、もうそんな時間なのね。このことは後でしっかりとお話ししましょう。それと一つ。」
「はい。何でしょうか?」
「このことは、
「えぇ、別に誰にも言うつもりはありませんが…。」
「別にわしは、バレても構わんのだけどな。」
「クラルテ様は、この
「お主がその一番の
レイティア様のお顔が一瞬にして、真っ赤になる。そして立ったまま恥ずかしさと困惑した表情を両手で隠されて立ち尽くしている。
私は、レイティア様の意外な一面が見れて驚きつつ、クラ爺はレイティア様の不用意な一言にやや呆れつつも、私に笑顔で話される。
「とりあえず、わしが古竜であることは、秘密じゃ。この丘で知ってるのは、あとはルーモだけじゃからな。あと他の衆は、視察と査察で来る爺さんである認識の程度だから、不用意にわしのことを話すでないぞ。」
「わかりました。秘密ですね。あの?今まで通りに普通に接するということで、宜しいでしょうか?」
「そうじゃ。別にかしこまらんでよい。何かあったら、また気軽に相談しに来い。年寄りの生きがいじゃて。」
「はい。」
気持ちを切り替えて、笑顔で一言答えると、古竜さまも優し気な雰囲気で嬉しそうな顔をされる。
「では、視察に行くとするかの。レイティア嬢ちゃんはいつまで顔を真っ赤にして立っておる。さっさと切り替えて行くぞ。」
「は、はい。クラルテ様。アニス、いい絶対に秘密だからね。」
「えーっと、レイティア様が査察前にポカして、お顔を真っ赤にしたことも秘密ですよね?」
「アニス、今度、レイティア嬢ちゃんの楽しいお話を沢山、教えちゃるからな。」
「古竜さまもアニスも私をからかって遊ぶのはやめてください。もう、現場に行きますよ。」
今日は、大樹さまの周辺の庭園整備状況の査察ということ。
この庭園の現場査察は、毎回、問題がないことで有名であり、管理整備棟の査察で引っかかる程度なんです。
この大樹の丘にある庭園の整備は、基本的に自然庭園なので、剪定、除草、自然石の修繕及び交換回収、害駆除等がメイン作業なんです。半年に一度に新しく大規模な造園を作成する為、その際には設計、施行を管理官と整備士共同で行われます。
今回は、現存する庭園の通常査察なのですが、古竜さまが一緒なので少し違うのかな?
査察は、整備作業、作業効率、時間、庭園風景、整備士及び管理者の態度、姿勢、管理整備棟内の各室内の書類、整理状況等々の確認。造園の際には通常査察に加え、予算、設計内容、場所、作業工程及び日数、必要植物の栽培管理状況等々の細かい確認が追加されるらしいです。
視察は、整備状況を見るだけなので、査察に比べると楽なんですけどね。
レイティア様、直々の新人研修時に教えて頂いたことなので、査察に関しては一応、理解してるつもりです。でも、本来あるべき整備士の新人研修以上のことを教わってるみたいなんですよ。その研修について、シャイン様にお話したら、新人管理者研修及び整備主任研修のほぼ中間的な研修内容だったみたいなんです。通りで解らないことが多かった訳で、質問を繰り返した記憶が…。
さて、この大樹の丘の管理整備官は、古竜さまがしているのですが、管理整備官室に来ることがないので、不在と思われています。なので、管理補佐官のシャイン様が立場上で、管理整備棟の筆頭となっています。管理官及び整備官が不在です。その為、管理部はシャイン様、整備部はルーモ様が一番上の立場になります。また管理整備官が居ない為、管理整備部の業務は管理部と整備部に分担されています、
管理官の下に管理者が多数いるのですが、種族的にはエルフ、ハーフエルフ、ドワーフ、小人族、魔族と呼ばれる方々が管理をされています。
整備官が不在の為、整備主任のルーモ様が整備筆頭で、整備副主任も不在となっています。主任曰く、今の立場は、古竜さま直々の頼みだから仕方なく引き受けたとのこと。ただ、ここ最近は面倒ごとが増えてきてるので、自分の補佐と言うか面倒ごとを押し付ける為に副主任を作ろうかと考えてるらしいです。
種族的にドワーフ、ハーフドワーフ、エルフ、ハーフエルフ、小人族、魔族と呼ばれる方々、そして一人だけ、人の私がいます。
魔族の方々は、上級、中級、下級と分けられているみたいなのですが、詳しいことを知らないんです。整備士の中には、上級魔族の方もいるみたいなのですが、主任が自分も含め、全員平等という考え方なので、この丘に区分特区は存在しません。
区分特区というのは、上級及び中級魔族の方々に与えられた区分で整備管轄が他の庭園では、分けられているそうです。
他に人魚や天族と呼ばれる方々など、この庭園にいない種族が他の6つの大庭園から視察で来られることがあるそうです。
そんなこんなで、今日の査察もほぼ問題なしのはずだったんですが…。
整備士と管理者の皆様は、クラ爺が査察官ってことまで知らなかったので、主任の所に向かう際、戸惑った様子でした。
視察時が飴で査察時は鞭って、査察開始前に主任と会った時に言ってたっけ。
あとレイティア様よりも厳しいみたいで、査察時のクラ爺は、簡単に一言で言えば、怖いらしいです。
査察開始後、レイティア様の単独の査察時より皆様、緊張感があって、クラ爺は怖いというよりも厳しかったです。一緒にお付きをしてた私は、凄く勉強になったけど、古竜さまって雰囲気が変わると威厳が出て、怖く見えるんだな。
竜の威厳って知らなかったから、古竜さまを全く知らなかったら、私、怖くて動けなくなってたかも…。あれでも、古竜としてバレない様に威厳は抑えめだって言ってたけど、充分、怖かったんですけどね。
人の子である私に対して、竜の威厳を会う際に微調整して、耐性を付けてくれてたってレイティア様が査察後に教えてくれました。普通の人であれば、威厳に対して、その場で失心して、その後、回復するのに一週間以上寝込んでしまうらしいです。なので、私は普通の人以上に竜の威厳に対しての耐性を持ってるので、それに伴って上級魔族の下位魔術程度なら跳ね除けられるそうです。
私の気付かないところで、中級魔族の方が悪戯で私に精神操作系の魔術を使用したそうですが、無効化されたとのお話でした。管理補佐官と整備主任から厳重注意と私への謝罪にて、処罰無しになったみたいです確かに謝りに来られた中級
査察後にそういうお話を聞いて、私、人であって人でないのかなって不安に思ってしまい、寮に帰ってから、ある程度のことを伏せて両親に連絡したら「そこでの生活で、必要なことだから大丈夫。」って。
そして「どう変わろうとも、私たちの自慢の娘であることは変わらない。」って言ってくれて安心しました。
こうして、無事、長い査察の一日が終わりました。
今日は色々なことがありすぎて、とても疲れたのは言うまでもありません。
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