2章「スラム勢力戦」

第1話「スラムの他勢力」

―――竜胆白は気付く―――


黄色の国の王都の南西にはスラムがある。

ちなみにスラムがある理由は楓から聞いている。

元々は今のスラムに当たる場所に住んでいたのは、王国でも他国との繋がりに疑問を持つ人間達だった。


それがある日謀反を起こした事で粛正されたらしい。

そして、そこに住んでいた人々は国に住む立場を追われ、碌でもないことにその殆どが我が子を残してどこかへ去っていったらしい。


もちろん他の場所に住んでいた人々は、孤児やら野犬などがうろついているようなところに住みたいとは思わなかった。

そしてそれも関係して大臣等は北東に住み着くようになったらしい。


スラムとなってしまったのは主なき家だけが残り、そこは子供達の住処となり、その場所に近づくものはいなくなった結果こそが今のスラム街となる。


今はそのスラムにあった組織デッドビートを元々率いていた人物、その人物が閉じ込められている牢屋の前にいる。

ただ、雑談などをしに来ているわけではなく、重要な要件で来ていた。


ここに来る前に俺はデッドビートのアジトで集会を開いていた。


「さて、今日デッドビートのメンバーを招集した理由だが、それは私がここを去るという事を告げに来た」


集会が始まって初めに口を開いて話した事がそれならばやはりそうだろう、デッドビートの各員はザワついた。


「私はデッドビートを去るわけだが、君達がここ最近存在出来たのは私のお陰だ。この間黒の組織の残党をたまたま見つけた功績をデッドビートの頑張りかのように仕向けていた。そしてデッドビートが取るべき形を私は最後に提唱しよう」


元の世界には少し前まで暴力団と言う組織があった。その組織は現代には必要がなくなってしまった事で衰退しきってしまったのだが、かつては悪を裁く悪として平和の為に必要なものであった。


そして今のこの国はどうだろうと考えた所、最近は黒の勢力も頻繁に活動している。ならば、この王都で事件が起きる事も珍しくないだろうと考えた。

そこで発生した悪をデッドビートが制圧して行けばデッドビートはある意味では治安維持の組織として認識されるだろう。


もちろんいつか平和な時代に戻る事になれば彼らは無法者には変わりなく排除されてしまうのだろう。

あとは、発生した悪との戦いによってその命を落としてしまうかも知れない。

だが、どっちにしろ手も付けられなかったゴロツキ程度の人間だ。居なくなってもさほど問題は無い。


だからデッドビートはこの方針に固めて行く方が良いだろう。


「お前達は悪を裁く悪になるんだ。つまりはお前達以外に悪事を働くものを倒して平和を維持する。そうすることでこの街の人間もお前達を必要な存在だと思ってくれる。そんな風に活動している組織を見た事がある。上手く行けば大金持ちも夢ではない」


人間と言うのは、元の世界の考えだが、この世界でもおそらく通用するものだろうと考えたい事。この様に長々と話せば何を言っていたかを忘れやすくなる。

しかし最後に言った事は記憶に残りやすい。

俺はここで最後に大金持ちにもなれるかもしれないと言う事を印象付けてた。


「おいおい金持ちだってよ」


「悪を裁く悪って格好いいな」


「これは悪くないんじゃないか」


やはりそんな風に肯定的な声が数多く飛んでいた。

こんな単細胞共には考えられる奴はいないだろう。

しかし、デッドビートには一人だけ確実に頭の回る人間がいた。


「私はこれからここを去るまでの間にブートンを釈放できるように掛け合ってみる。それが出来ればブートンがもう一度お前達を導いてくれるだろう」


売店からものを盗んだり、夜道で人からものを盗ったりと、儲かりもしない事をしていたスラムの人間の一部をまとめて姫をさらうことで身代金を要求すると言う作戦を考えついたのはブートンだった。

そして、その作戦はおそらく俺が居なければ成功していただろう。


戦いこそ脳筋な戦い方だが、戦略は組めると投獄されているブートンと話していて感じた。

ならば、ブートンに考えを伝えればおそらくだがその良さに気づくだろう。


「特に質問だったりもなければ俺はここを出てブートンの事を交渉に行ってくるが…」


数秒待っても誰からの質問もなかったため、俺はアジトを出て来た。


「よぉ、今日は何のよう出来たんだ?」


ブートンは以前よりも痩せていた、と言うよりも窶れていた。


「初めてあった時のあの訳の分からない話し方はしないんだね。」


バカにしたような態度でブートンにそう言った。

しかしブートンは特に取り乱したりはしない。


「しばらく前から言っているだろうあれはキャラ作りだとな。それに巨大戦車主砲もただの想像だよこの間訳のわからない男が言っていた事を元に名付けただけだと言っただろう。あとは」


と言う所まで言ったところで俺はその続きを割り込んで話し出す。


「魔法を使う時に唱えているブワァンと言うのは絶対に言わないと行けないことなんだろう。知ってるよ、今日はいつもみたいなそんな話しじゃないかよ…」


ちなみにブートンが魔法を使う時にブワァンと唱える理由も知っている。

ブートンの中でブワァンと言っている間は自分の体が変化いていくイメージが出来るのだろう。

呪文がその魔法のイメージを膨らませる要因であったり、決まったルーティーンが魔法のイメージを膨らませると言うのは楓の講義で理解している。


「今日はブートンに条件付きでここを出てもらいたくて来たんだ。嫌じゃなければ外に出て隼の為に務めてもらうけど」


もちろんブートンと言う人間は、以前から話をしていてある程度理解出来ている。

この国の大臣の数人よりブートンは優れているだろう。

そんな人間だと判断したから俺は外に出せるように交渉しようと思う訳だ。


「外には出たい、条件を教えてくれ」


「外に出られたとしてやってもらう事はデッドビートを代わりに指揮して欲しい。そして、その方針は悪を裁く悪と言う方針で、自警団として活動してもらう。その内容は主に黒の勢力の撃退、他にも悪人を成敗して力で平和へと導く事だ。そうすれば組織は最低限認められるだろう」


それを聞いてブートンは手で顎を押さえながら少し考え込んだ。

そして、暫くしてからその口を開いて話し出す。


「ほう、確かにそれが出来れば言った通りになるだろう。じゃあそれをするとして当面の目標はスラム街にある勢力を制圧して行く事だろうな」


スラムには他にも勢力がある。今の言い方だとそういう事になる。

その勢力は確かに初めにデッドビートがこなす仕事には持ってこいだろう。


「他勢力って?詳しく教えて欲しいな」


ブートンは俺に目を合わせてから、親指を立てた腕を上げ、ニヤリと笑う。


「実は俺も何とかしたいと思っていたんだよ。それじゃあ説明する。デッドビート以外にもスラムには勢力があるんだ。まずはブロッサムって言う五人組だが、これは一人一人が強い組織で、遭えば撤退しろと言ってある。攻めてこないのは数で圧倒しているから流石に戦えないんだろう。次がドラゴンスレイって組織だが、ここはあの楓とか言う赤の国の竜人を倒そうとしてる組織だ。そんでスラム最大の組織がブラッドパーティと言う組織。スラムの西半分はそのブラッドパーティの領域、正確にはブラッドパーティとその配下の組織の領域だ。俺達に影響がないのはデッドビートの拠点が王都の外にあるからだ。とまぁ、名のある組織はその位だ」


ブラッドパーティと言う組織を牽制する事ができればその影響は大きいだろう。

ならば、ブラッドパーティを倒す方法を考えるべきだろう。


「ブラッドパーティを倒すには何をすればいい?何か有力な情報はある?」


「俺には検討もつかないな…それこそこの城に務めている奴らに聞く方が得策だろうな」


確かにスラム最大の組織ならば、王も放置する訳にはいかないだろう。

ブラッドパーティについては楓に聞いてみる事にする。


「とりあえず、協力してくれるって言う方向性で間違いないかな?」


もはやそれ以上気になる事もないし、早く答を聞いて、ほかの場所へ行くことを優先したい。


「ふっ…もちろん協力するに決まっているだろう。聞くまでもないな。というわけだ、ここから先の行動については言われた通りにしよう。隼の代わりはしっかりやっておいてやるさ」


大体こうなるだろうと言うことは把握していた。

ブートンは物分りがいいとはそれもこの五十日で知っていた。

さて、ブートンを外に出すように交渉しに行く相手はアリアだ。

アリアもすぐに協力してくれる様な人間だと思うんだが、流石に自分を誘拐した人間と言う所が不安要素だが。

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