第34話「時計台の上から」
―――竜胆白は再会する―――
エミリーの案内の元、俺は時計台までたどり着き、今はその上から街を一望している。
時計台は都心部の中央にある。まず西の方は広く、作物を育てる畑が地平線の彼方まで広がっている。次に南の方には大きな通りがあるり、そこには多くの人が店を出している。
南西は遠くに行くに連れてスラムとなっており、南西に街を抜けた所にデッドビートのアジトがある。
東、東の方が住宅地だろう。この街に住む者の家はもちろん宿泊施設も東側に集まっている。
南東の方に俺が泊まっているエミリーの実家の宿、マックの邸宅などがある。そして街の北の山に王城があり、その山のもう一つ奥の山を越えれば赤の国に着くらしい。
北東の方には左、右大臣などの権力者の家が立ち並んでいる。
隠れるとしたらどこにするか。
「エミリー、エミリーがこの街でかくれんぼするとしたらどこに隠れるかな。」
「私ならね、街の北西の方に洞窟があって、そこに隠れるかな。子供の頃はそこでよく遊んだんだよ。」
畑の奥の洞窟を果たして他国からきた人間が発見できるのだろうか。
やはりかくれんぼと言うのは無理があった。
洞窟の場所を見ていた時だった、誰かがはなしかけてきた。
「君達はいつか私の曲を聴いていただいたカップルではないですか。」
一度聞いた事のある声だった、そしてその台詞から誰かはすぐにわかった。
「あなたは確かブリングさんでしたよね。こんな所で何をされているのですか。」
棺の様な箱を撫でながら、ブリングは再び話し出した。
「私はただ時を待っているのですよ。明日には新しい場所ですので。ここでこの夕暮れに黄昏て、本当にただ屍と時を待っているのです。」
四弦の楽器を抱きながらそう答えた。
屍と言う名の由来が気になってしまった。なぜ屍と言う不吉な名前を楽器に付けたのか。
「一つ気になったことが、その屍と言う名の由来は何だろう。」
ブリング遠くの空を眺めながら、その回答を話し始めた。
「私の家系は代々音楽家でした。そして、先祖代々一つの弦楽器を長きに渡って制作していました。その亡骸を経て私の手によって完成した楽器、それこそが屍。そしてこの棺は鎮魂の為のものなのです。」
そしてブリングは遠くを眺めて黄昏る。
「それならまた、いつか会える事を願うよ。さぁ、エミリー帰ろうか。」
静かにエミリーを呼び、その場を後にした。
このブリングとは、もう今はこれ以上話すべきではないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます