第17話「修羅場確定」

 ―――竜胆白は責められる―――


 どう事情を説明すればいいか、そんなものはすぐに浮かんだ。

「あの人は俺の用があった人の家の人で、偶然出会ったから一緒にその人の家に行く事にしただけだよ。」


 エミリーならこのくらいの理由で大丈夫だろう。もし、納得がいかないようなら、あまり使ってはいけないが、仕方ない。とりあえず甘い言葉でもかければ何とかなるだろう

「道端に倒れていたようなハクにそんな知り合いがいたの。」


 実に的確な指摘だった。だがしかし、本当の事を話す訳にはいかない。

 そう言えばこんなふうに、何でもない人間と話すことなんてあまり無かった。

 頭が良い方が逆に利用しやすい訳だな。

「とりあえずほら、昨日の夜の分も今日出かけようか。」


 楓に伝えなければならない事はあるから、昼までは何とか時間を開けなければならない。

 にしてもエミリーは、今まで話した人間と違い何が目的か分からない。俺から何の利を取ろうとしているのか、慎重に見極めなければ。


「大丈夫だよ別に、きっとハクには今日もやる事があるんでしょ。」

 目的が本当に分からない。何がしたいのか全くわからない。

 利益で動く泉谷隼人にはエミリーの考えは理解出来なかった。


 エミリーは初めから警戒してあまり親しくしない頭の良い竜胆白は、自分を信用していない事を理解していた。

 だからその目的は信用してもらう事。そうしたいならばこの竜胆白の好きにさせるべきと思った。

「けど、何かあったら相談してね。私にできる事なら何でもするよ。」


 エミリーが考えている事が全く分からない。もしエミリーのような人間がこの世界に多くの割合を占めるのであれば、この世界を支配するのは不可能だ。

 もちろん暴力がもたらす世界支配は不満と反感を買うのは分かっているからその様な愚行には至らない。


 しかし、頭の良い人間を出し抜いて地位を確立してきた俺が、この様に得を求めない者の考えは分からない。

 幼い頃からずっと言われてきた事がある。何かを求めるなら、まずは相手の欲しい物を提供しろ。これは昔ワガママを突き通す方法として習った事。俺はこれで世界の人々が求める者にまでなった。


 しかし、何を求めているのか想像がつかない。ここで本来は予定を作る事をしたくはないが、何処かへ出かけても悪印象を抱かれる事はないならば、ここは出かける予定を作るべきだろう。

「また、用事が終わったら戻ってくるから、それから街を散策しようか。俺はまだ、街に何があるかあまり把握はしてないしね。とりあえずじゃあ行ってくるね。」


 俺は手を振り、外へ歩き出す。


 多分これが正解だと、俺を見送るエミリーの満面の笑みを見ればそんな気がした。

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