第16話「旅人達の声」

 ―――竜胆白が目覚めた隣に―――


 俺は昨日デッドビートの二代目リーダーに就任した。もちろんそれは悪事を行いたいからでは無い。そんな連中が居るということは裏社会がある訳で、そこの事情を把握する事こそが本当の目的。リーダーになった事なども城の連中に報告するつもりだ。


 秘めておけば、後に裏切った人間や、昨日居なくなっていた人間が告発すれば、俺の信用が無くなる。

 しかし、楓にはリーダーになったとは言わず、潜入して、また姫の身に危険が起きないようにすると言っておく。


 そうすれば、姫の護衛をも担当する様な要人の既知の事実となる。

 この国の裏社会と表社会、そしてさらには俺が居るのは王都の宿屋。つまりここには旅人が集まる。遠い場所の現状や、他の国の情報提供までもが手に入る確率が高い。

 俺の計画は着々と進行している。俺はそう思い眠りについた。


 夜が明け、朝になった。俺は目覚めたのだが、面倒な事になった。

 昨日の夜、姫の事やらデッドビートの事で完全に忘れていた事がある。それはこの宿屋の看板娘らしいエミリーの事だ。恐らくだが、彼女の様な人間は祭り等の事柄を重んじていると思われる。そして、陽の光がない夜の方が人目につかないため、夜の祭の方がエミリーにとって楽しみだっただろう。そして俺はやる事があると言ってアリア姫の所に行った訳だが、俺は特に何も思わない。


「ねぇ起きてエミリー。」

 俺は起きてまず、俺の肩に抱きついて眠っているこのエミリーを起こす。

 俺は確かに部屋の鍵を閉めた筈だ。

「おはよう、ねぇどうして昨日は来てくれなかったの。私ずっと待ってたのに、そして探しにも行ったのに。どこで何してたの。」


 これは恐らく答えなけれならない質問だが、王城の姫を連れ出して、その護衛役と戦闘し、その後はこの前の組織を潰して、そのままその組織を新しく建て直したなどとは言える訳がない。


「ちょっと、用事で色々な所に行っていたんだ。少しでも生活の役に立つような事がないか。俺はまだ全然ここの事を知らないし、それで色々知識を付けるためだよ。」

 とりあえずそんな嘘のようで嘘ではない事を述べる。明らかな嘘より、茶を濁す様な事を言うべきなのは基本だ。


「嘘ついてる。他の女の子とデートしてる所を私はちょっと見てるよ。その後は、少し目を話した隙に何か凄いものに人だかりが出来てどうなったか知らないけど。」

 後の人だかりの件から姫を王城へ連れていく所を見られたのだろう。


 これは面倒な事になってしまった。

 見られたのが中盤位の事で、その後も俺が姫と一緒に居たと勘違いしてしまうのではないだろうか。

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