第10話「赤の歴史の洗礼」

 ―――竜胆白に炎刃が襲う―――


 楓という者、その気配は竜。そう感じるのも当然なのだ。

 俺は振り返った。そこに見えたのは赤い髪にその隙間から見える黒い角、顔立ちは俺と同じく日本人に近しいもの。そして、その虹彩は黄色に輝き、縦長の長円瞳孔は細く鋭くこちらへ向けられている。


「君は何をしているんだ。姫に手錠をかけてどこへ連れて行く気だったのかな。それに今日君と同じ様な気配を城の中でも感じた。何か魔法を使って城の中に潜り込んでいただろう。僕には感じる事が出来る。」


 城を見て回っていた事がバレている。あの魔法は完全な訳ではなかった。わかりやすく言うと霊感が強いとか、そういう類の人間には見えると言うことだろうか。

「もちろん何かがある事は見えていた。けれど実態がない為僕には攻撃できなかった。透明化とは別の魔法だね。まぁ、それはこの後君が生きていたら続きを聞こう。」


 完全にこの楓と言う男は俺を殺す気でこちらを睨んでいる。そしてその権限がこの楓にはあるのだろう。

「ちょっと待って楓、この人は違うの。」

 姫はそんな楓にこう言葉をかけたが、そんな事は聞こえていなかった。

「まぁお姫様、戦って治めることにしますよ。」


 確かに気配からして只者ではないが、武器も持っていなそうではあるし、それならば格闘技をしていた俺にも勝機はあるかもしれない。


 全意識をこの楓と言う男に集中させる。いつ来ても攻撃に対応出来るように。

 時間の経過が段々と遅く感じる。これが格闘技をしていた頃よく使っていた技能。

「ちょっと待って、楓はこの国で今一番強い人で、楓の武器はその魔法。」


 もちろん俺にももうその声は届いていなかった。

 楓は低く構え、五メートル程距離を置いた。その構えは右腕を後ろに引いた半身の構えであり、恐らく右腕で攻撃を仕掛けようとしていると判断出来る。


 大体の動きは想像出来た。その為元の世界の人間とは比べ物にならない運動能力で五メートルを跳躍してきたが、その拳を交わせる。「赤の歴史聖剣よ来たれ。」距離を半分程詰めた所でそう述べた楓の右腕手の先から何かが現れる。


 炎を纏う刀であった。俺は焦りながらも何とか反応し右手で咄嗟にその刀身に掌底打ちを放ち、その軌道をずらして、攻撃を交わす。

 何とか攻撃を交わしたが、もう精神力が維持できそうにない。あの予想外の攻撃を交わした所で限界を超過した。

「それは一体何なのかな。」


 苦し紛れに笑顔を作り、楓にいきなり現れた炎の剣について聞いてみる。このまま戦い続けても勝てそうにない。だから、何とかやり過ごすしか手はなかった。

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