第6話「悪戯の可愛い」
―――竜胆白は悪戯する―――
エミリーは父親の娘が何処の馬の骨とも知れない人間と共に居させる訳にはいかない。その心理を突いて、俺が宿屋の部屋を一つ所有する事の許しを得た。
そして俺は一人、エミリーから逃げる様に外へ出たのだが、エミリーに追いつかれてしまった。地の利は大きいと理解した。
「ねぇ、今日はお祭りがあってそれで昼から屋台がたくさん出てるから、一緒に行こう。」
夜までは色々下見をしておこうと思ったが、別に姫の誘拐と言っても、この前の奴をおびき出す為の誘拐だから、まぁ姫と祭りを回れば会えるだろう。なら、姫を飽きさせない様にする必要があるかも知れないな。
「分かった一緒に回ろうか。」
道なんかに詳しいエミリーに案内してもらう方が何かと楽だと言うのは分かりきっている事だ。
「ありがとお。向こうにね私の好きなお店がたくさんお店を出してるんだ。是非とも行ってほしいな。」
エミリーは明るい娘だ、しかし、俺に利用されていることにも気づけない娘。俺にとってはそちらの方が都合が良いのだが。
「エミリーは凄く元気なんだね。」
俺は全く異性に興味が出た事がなかった。若い頃他の奴らが遊び呆けている間、俺は運動と勉学に勤しんでいたから、全くそんな思い出はない。
だがしかし、本当にこのエミリーが好意を寄せていると言うのならば、悪い気はしないな。だから俺は少し悪戯したくなったのだった。
「エミリー、可愛いな。」
聞こえるかどうか位の声でそう言ってみる。どんな反応をするのか気になった。
「えっ、今なんて言ったの。ねぇお願いもう一回、もう一回言ってほしいな。」
反応はこんな感じだった。前を歩いていたエミリーは嬉しそうに振り返り、こちらへ引き返して、そう言った。
「言わないよ。だから、ほら案内を続けて。」
やはり可愛いと言われると嬉しいものなのかな。俺は別に泉谷隼人として前の世界で生きていた頃、カッコイイなどとは散々言われてきたが、全く何も感じなかった。俺は金と世界にしか興味がなかった。
まぁ、今まで興味もなかった事にも手を伸ばしてみても良いかも知れないな。
「えぇ、可愛いって言ったよね。絶対に可愛いと言ったよね。ちょっと位は好意があるのかな、そうであって欲しいな。」
前を歩くエミリーは多分そう言っている。多分小さい声で言っているのだが、浮かれて声が大きくなっている。
当初の予定とは違ったが、日中はとても楽しめるものとなった。エミリーが本当にわかりやすい人間だと分かった。エミリーには恐らく恐れる程の裏はないだろう。もしこれが演技ならば恐ろしい。
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