第2話「死後の世界」

 ―――泉谷隼人は目が覚めた。―――


「アイツどこにいやがる。」

 ここは病院ではない。明るい日差しが差す白い部屋。部屋にあるのは窓と扉、そしてこのベッドのみ。


 刺された患部にはもう痛みがない。もうしかすると完治するまで眠り続けていたのか。

 それにしてはおかしい。植物状態になっていたのであれば、病院で目覚めなければならない筈だ。

 しかし、ここは病院ではない。つまり予想も出来ない様な事があったということだろう。


「お目覚めですか。」

 扉から女が入ってきた。この女は状況を知っているだろう。しかし、一つ気がかりな点がある。


 何故この女は今俺が目覚めたタイミングで入ってきた。確かに俺が物音を立てたならばその物音に気づいたと言うのが一番最もらしい理由だが、俺は目を覚まして辺りを見回しただけだ。何か裏があるのだろう。


 監視カメラがあるとか、いや、直ぐに姿を現すのならモニタリングを行う理由はない。ならば何故この女はこの部屋に入ってきたんだ。


「今の状況を知っているだろう。教えて欲しい。」


 怪しさしか感じないが、情報確保の為には仕方あるまい。とにかく少しでも多くの情報を聞き出すしかない。

「貴方は死にました。」


 はぁ、何を言い出すんだこの女は死んでいる人間が会話をするとでも考えているのだろうか。そんな事はありえない。俺が死んでいるのならばお前ば誰だという話だ。神か何かか


「馬鹿馬鹿しい。」

 全て理解していた。

「死んでいると言うならば、その証拠を示してくれ。」

 理解している。

「貴方自体がその証明ですよ。」

 やはりそうだろう。


確かに俺が死んでいるのならば理解できる。俺がこんな所で目覚め点滴なども無く、恐らく傷もないのだろう。完治などしているわけが無い。全くの筋肉の衰えもない。俺は死んでしまった訳だな。


「まぁ、それは察していた。では改めて教えてくれ、今の状況を知りたい。」

 死んだ事を受け入れるとして、死後の世界についての理解は生者でしかなかった俺には分からない。更には会話を進めれば、まだ確信が持てていない死んだ事も恐らく本当か納得ができるだろう。


「分かりました。貴方がここに居るのは、可哀想な貴方への施しです。もう一度、人生をやり直してみませんか。」

 可哀想か、確かにあれだけ成功していたのに、こんなに容易く死んでしまうのは可哀想だな。


「やり直す。それは生まれ変わりと言うことか。それならば俺はやり直す事にならないと思うが。」

 恐らく赤子に俺の知能を持たせれば、その脳の容量を容易に超過してしまう。その後の事は全く想像も出来ないのだが。


「貴方は貴方として、でも貴方ではない者として異世界に転生してもらいます。」

 異世界、そんな物があるとは思いもしなかった。

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