第3話エリアボス

「さて、次の村に向かうか。」


冬休みという事もあり早朝から悠馬はログインしていた。時刻は午前七時。普通なら親にグチグチと言われるだろうが悠馬の家には誰もいない。

両親は共働きで母は月に二、三度帰ってくる程度。

父は年に一度帰ってくるかどうくらいだった。

兄弟はいない。

なので誰にも邪魔される事はない。


「この街を出て真っ直ぐ行き森を抜けるとあるみたいですよ。もうかなりのプレイヤーがそこに向かっています。後それともう一つ。ここで受注したクエストは別の場所でも報告可能なので受注して行く事をオススメしますよ。」


「情報収集はしっかりやったみたいだな。ありがとな。」


「私にはこれくらいしか出来ませんので。その代わり何処かで美味しい食べ物奢ってくださいね。」


「食べ物なんてあるのか?」


「調査済みです。しかも食べ物によってはバフが付く物もあるみたいですよ。」


「マジか!じゃあ片っ端から食いまくるか!」


「ぜひ、そうしましょう!」


と二人で頷き合った。


「じゃあ、まずは小遣い集めだな。クエスト受注したら直ぐに出発しよう。」


そして悠馬はアイのオススメクエストを受注。全部で三つ。討伐クエストが二つ。採取クエストが一つ。

アイが徹夜して調べた物だ。どれも次の村に着く時には完了できるだろう物を集めたらしい。


「よし、行くか。」


と悠馬は街から出た。

〈始まりの草原〉

それは見渡す限り殆どが草原だった。スタート時見渡した限りでもかなり広い事はわかっていた。遠くに木がいくつも連なる場所があった。


「あそこだよな。」


「はい、あそこが目的の森です。」


「結構遠く感じるけどVRの中だから疲れる心配は無いから走って行くか。」


「採取クエストの物を見落としたりしないでくださいよ。」


「わかってるよ。」


と言い悠馬は走り出した。すると目の前に小型のモンスターが現れた。名は〈serge wolf〉意味は羊毛の狼。

今回の討伐クエストの討伐対象だ。

悠馬は脚を止める事なく剣を抜きサージウルフに向かって行った。サージウルフは悠馬の存在に気付き飛びかかって来た。悠馬は剣を下段に構え切り上げた。

サージウルフの下顎に命中した。体力ゲージが三割程減る。そしてサージウルフは宙を舞って仰け反り状態の一時的スタン状態にだった。

悠馬は上段に構える。そしてズパァッンと盛大なサウンド音が高らかになり剣は垂直に切り下ろされた。


これが〈スラッシュ〉だ。


見た目はただの垂直斬り。だがその攻撃には攻撃力補正も加わっており普通の攻撃より段違いに強い。

サージウルフは頭から真っ二つ割れ爆散した。


「ふぅー。」


と一息着くと今倒したサージウルフから手に入れた経験値とゴールドそれとドロップアイテムが書かれた画面が出現し悠馬は一通り見てから画面を消した。


「後四体だっけ。」


「はい。サージウルフは序盤のモンスターという事であちこちに設置されているので直ぐにクリア出来ると思います。」


それから、アイの言った通りサージウルフ次々と出現し僅か十分程でクエストをクリアした。

その後更に採取クエストを終わらせ悠馬は森の中に脚を踏み入れた。

〈静寂の森〉と森の名称が表示された。

森の中は太陽の光が僅かに差し込む程度の明かりしか無かった。

悠馬は一通り森を一通り眺め再び歩き出した。


「名前の通り物音何一つしないな。」


まあ、それが不気味とも言えるが。

・・・っ。VRの仮想の世界で感じるはずのない殺気を感じたような気がした。

振り向くと亜人種であろうモンスターが襲いかかって来ていた。咄嗟に前方へ飛び回避した。

フォーカスすると〈thief wolf〉と表示されていた。

二つ目の討伐クエストの討伐対象だ。

背中の剣を抜剣し〈スラッシュ〉を発動させた。

ジャンプ攻撃を外した際に発動する僅かな硬直時間を狙いクリティカルポイントである頭部にヒットしシーフウルフの体力ゲージは一撃で吹き飛んだ。


「危なかったな。」


「隠密スキル持ちのモンスターだったようですね。

すいません、これは情報収集不足でした。」


「気にするな。」


しかし、さっきの感覚はなんだったんだ。この世界で殺気とか六感的な物があるわけ無いのにな。気のせいか?


「ユウ周りに警戒を怠わらないでください。」


「ユウ?」


「YUUでユウではないんですか?」


「ああ、そっか。」


忘れてた。自分のアバターネーム・・・。

適当に付けるもんじゃないな。


・・・っ。まただ!今度は多いな数は三!

振り向きながら抜剣し剣を逆手持ちで持った。

まずは一体目!!

クリティカルポイントである首元に迫っただが甲高い音を立て剣は受け止められた。


「なっ!!」


悠馬は体重に身を任せ転がった。

更に三体のシーフウルフは悠馬を取り囲んだ。そして見事と言うしかない三体の息のあった連携攻撃が始まった。立て続けに甲高い音が響く。


「くおっ・・・。」


このままだと押し切られる。しかし一体目と段違いに強い。同じエリア内のモンスターとは思えないな。

でもパターンが読めれば怖がることはない!


「はああぁぁ!!」


悠馬は横薙ぎに三体のシーフウルフを薙ぎ払った。

一瞬三体の位置が横線一本に重なる瞬間がある。ここを狙えば簡単に崩せる。

ノックバックによりスタン状態になったシーフウルフのクリティカルポイントを正確に斬り裂き三体のシーフウルフは爆散した。そしてクエストクリアの文字が浮かび上がる。


「今の強かったな。アイ、理由は分かるか?」


「すいません。そこまでのアクセス権限を与えられておりませんので。私でも何が何やらです。」


「そうか。次の街に行けば何か分かるかもしれないからまず街へ行こう。」


「そうですね。ですがまだ距離があります。注意していきましょう。」


「ああ。」


悠馬は僅かなだが確かな違和感を感じながら歩き出した。

それからも何体もモンスターと戦闘を繰り広げるがあの三体みたく連携攻撃してくるモンスターはいなかった。

森に入ってから約一時間が過ぎた頃森が開けいくつも民家の光が見えた。

森が抜けた頃、悠馬のレベルは5に上がっていた。


「着いたな。」


「街というより村ですね。」


アイには街と伝えられていたので一瞬ここかと思ったらどうやらここが目的地らしい。


「まずはクエストの完了報告をしに行こう。」


「それとポーションも買っておいた方がいいと思います。今まではノーダメで来ていますがあの三体みたいに連携攻撃を使うモンスターが他にもあるかもしれませんので。」


「そうだな。その事についてもこの村である程度情報収集をしておこう。」


村の門を潜ると〈カルム村〉と表示された。


「クエスト報告は何処でするんだ。」


「村の中心にあるみたいです。」


わかった、と言い村の中心に向かうと〈オリジン〉のよりは小さいがクエストボードそれとクエスト報告のNPCが立っていた。

三つのクエストを報告すると盛大なファンファーレ音がなりレベルが6に上がった。

2から6に上がった事もありスキルポイントが8になっていた。悠馬は手に入れたスキルポイントを使い


〈片手剣装備時攻撃力5%上昇〉


〈片手剣装備時クリティカル時攻撃力3%上昇〉


の二つを習得した。


「次は情報収集だな。近くにプレイヤーがいればいいけど・・・。」


「私もプレイヤーの位置はわかりません。ネットでプレイヤーがたくさんいる場所はわかるんですが。」


「まあこの村にプレイヤーがいなかったら次の街か村に行けばいいよ。どちらにしてもエリアボスと戦う前街か村には必然とプレイヤーも集まるしモンスター達の事はそれでもいいさ。」


だがまあ、見渡した限りプレイヤーはいないがNPCの量が少なく感じる。一様村全体を見て回るか。

しかし本当に静かだな。辺りを見渡すと一軒だけ他の民家より大きい家があり目が止まった。

中に入ると沢山の薬草が並べてあった。

そしてそれをゴマすりのような物で薬草を練りこんでいるおじいさんがいた。頭の上には?マーク。

クエストが発生している証拠だ。


「クエストが発生していますね。」


「そうみたいだな。」


と言いおじいさんに話しかけてみる。


「おじいさん。何か困った事でもありますか?」


すると?マークが!マークへと変化した。


「はい。今この村ではある病いが蔓延しています。

ですがそれを治す為の薬草を盗賊達が全て一つ残らず奪って行ってしまいました。

なのでお願いです!盗賊達から薬草を取り返してください!」


するとクエスト画面が表示された。

〈盗賊達から薬草を取り返して!〉

とクエスト名が表示された。丸マークのボタンを押すとクエストが受諾されましたと表示された。


「では、お願いします。」


「はい!任せください!」


クエストを受諾し民家から出てからなるほどと実感する。だからこんなにNPCの人数が少なかったのか。


「お人良しですね。別に受け無くても良いようなクエストですよ。」


「わからないぞ。こういうクエストが案外キークエストの可能性もあったりするからな。じゃあ盗賊の巣穴って所に行くか。クエストログからここから東に行った場所にあるらしいし。」


「その前に一度装備を整えてはどうですか?後その初期武器で行くなら鍛冶屋にいって耐久値を回復させてもらった方がいいと思います。」


「そうだな~。」


悠馬はメニュー画面を呼び出しゴールドを確認する。

今までのクエストと討伐したモンスターで1500ゴールド程あった。


「お金も溜まっているし武器を新調するか。それと道具屋でポーション買い込んでから向かおう。」


武器屋で初期武器である〈ブロンズブレード〉から

〈アイアンソード〉に変え、回復ポーションを八個程買い残りの所持金は100ゴールド程になった。


「よし!行こう!」


険しい道だった。当たり前といえば当たり前たが道はとにかく歩き難い。木の根や石やらで道はゴツゴツ。水で地面が濡れていたりしてグチャクヂャ。

時々襲いかかってくるモンスター達。

そして何よりこの無意味とも言える程のリアルな感覚。

仮想世界だから肉体的疲労は無いとはいえこのリアルな感覚によって現実並みに集中力が浪費される。


「大丈夫ですか?」


とアイの心配そうに聞いてくる。


「まあ、なんとか。」


「少し休みますか?」


「とてもじゃないけどこんな所じゃあ休めないな。座り込んだりでもしたら疲労で寝てしまいかねない。その時モンスターに襲われたらたまったもんじゃないからな。」


「それもそうですね。

モンスターにやられたりするとペナルティーもあるようですし。」


「ペナルティー?」


今初めてこのゲームでペナルティーがある事を知った。どんなゲームでも大概デスペナルティーは存在する。経験値の何割か取られたり所持金の何割か取られたりする。そしてトドメのセーブポイントからのやり直し。もしくは死に戻り。よくある事は良い所まで行って最後に興奮していると初見殺しとも言える程の鬼強いモンスターが設置されていたりトラップが設置されていたりする。


「はい。このゲームでのペナルティーはまだサイトに上がっているだけのものですがかなり鬼畜仕様です。」


仮想の唾を飲み込んだ。なぜなら初めてアイがデスペナルティーの事を鬼畜仕様と言ったからだ。アイが鬼畜と言う言葉を使った時は大概半泣きになるか号泣してしまうくらい厳しいものなのだ。


「このゲームで死んでしまった場合、全アイテム、所持金を全て失います。」


「ぜ、ぜ、全部!?」


「それともう一つこれが最も鬼畜仕様だと思ったものがあります。」


「まだあるの!?」


「はい、もう一つはレベルが1に戻る事です。」


「ななな、な、ナニィィーー!!??」


聞いた事ない。全アイテム、所持金が全てロストするだけじゃなくレベルも全てロストするなんてそんな仕様があり得るのか。一度も死ぬなって言っている様なものだ。


「なので無理した戦いはしないでください。」


「りょ、了解。」


盗賊の巣穴って場所大丈夫かな。

ボスみたいのいないよな・・・。

と言うか絶対にいないでください。

お願いします。

なぜかこの世界には存在しない神に祈ってしまった。

いや、この世界にも神はいるか。

ゲームマスターとかシステムとかって言うものが・・・。


「うわ~、ほぼ真っ暗。」


外から覗くと少し松明の火が少し見える程度だった。

奥までとてもじゃないがしっかり見えなかった。


「盗賊が巣穴にするだけありますね。雰囲気が盗賊いますよ~って主張している感じですね。」


「そんな可愛い感じで言うなよ。緊張感が台無しだぞ。」


「それはすいません。では早速行きましょう。不意打ちには気をつけてくださいよ。名前からしてシーフウルフ辺りがわんさかいそうなので。」


「ヘーい。」


アイが言った通りシーフつまり盗賊の名を冠する者達がわんさかと襲い掛かってきた。

シーフウルフはもちろんな事シーフゴブリンとか言う初対面のモンスターがいた。

しかもシーフゴブリンは短剣をシーフウルフと同じ様に使うだけでは投擲攻撃を仕掛け更にその攻撃には僅かではあるがスタン効果を持つというクセ者だった。


「なんだよあの数わ!」


「今はとにかく逃げましょう!」


後ろを振り返ると通路がいっぱいになる程のモンスター達がいた。

こうなったのは経緯を説明しよう。初めは普通に倒しながら洞窟を潜っていた。だが突然他の奴とは名前が違うモンスターがいた。

名は〈Chief of a thief goblin〉意味は盗賊ゴブリンの長。

盗賊ゴブリンの長は悠馬を見つけたるなり角笛を持ち出し洞窟全体に笛の音が響き渡る。すると洞窟全体が地震の様に揺らいだと思って振り返ってみるとこの状態だ。

洞窟内は迷路の様になっており逃げるには困らないがその代わり洞窟から出られない状態だ。マップを開けばいいのだがそんな余裕はとてもじゃないがない。


「ユウ!あそこに扉が!」


とアイが指差す。角を曲がった所に扉があった。急いで開け中に飛び込む。

そして扉を横切って行くモンスター達の足音が消えだんだんと遠くなっていった。


「た、助かった。」


「はい、危なかったですね。」


フゥー、と二人で安堵の息を吐き部屋を見渡すと目の前に松明の光に照らされた二つの宝箱があった。

他にも周りは金貨などが山積みの様に置かれていた。


「ここは、宝物庫か?」


「おそらくそうでしょう。ですがあの金貨の山は単なるオブジェクトで動かす事は出来ない様ですが。」


「でも目の前には宝箱が二つある。早速開けてみよう。良い物が入っていれば良いけど・・・。」


頼むからミミック的なのはやめてくれよ。

と慎重に一つ目の宝箱を開けると画面が出てきた。


〈3000G〉を入手しました。


「おぉ!序盤では中々の大金だな!ミミックじゃなくて良かった。」


「ですがまだもう一つありますよ。こっちはミミックだったりして。」


「怖い事を言うなよな。」


と言うがやはり警戒してしまう。あるゲームでは宝箱を開けてミミックだった。そこまではまあ別に良いと思うが初ターンに即死魔法かけられパーティ全滅なんてことはザラにある。慎重に開けると一つ目と同様画面が出て来る。


〈chief's coat〉を入手しました。


盗賊のコート?と思い装備画面を開き装備概要を見る。防御力はまずまずといった所だが装備に特殊ボーナスが付与してあった。


隠密ボーナス

(隠密率10%アップ)


クリティカルボーナス

(クリティカル率5%アップ)


「おぉ!中々良い装備じゃないか!」


そして早速装備する。見た目は茶黒の目立たな色のフード付きのコートだった。

どうやらコートとはアクセサリーの分類に入るらしく、初期防具の〈ブロンズ ガード〉の上に重ね着している状態だ。


「もしかしたらこれがこのクエストクリアのキーアイテムだったりしないか?」


「その可能性は充分にあり得るかもです。」


「じゃあ早速リベンジマッチだ!」


扉を少し開けモンスターがいないか確かめ部屋を出た。

来た道を走りながら戻ると巡回しているモンスター達がいた。フードを深く被り岩陰に身を潜めた。

モンスターが過ぎ去って行くのを待ってから岩陰から出て再び走り出した。

隠密率アップだけあって少し離れた的には見つからずスムーズに盗賊ゴブリンチーフの元に帰って来ることができた。近くにあった岩陰に身を潜め辺りを見渡した。

周りにはモンスターはおらず岩のオブジェクトが配置されているだけだった。


「ここからは慎重にいった方がいいですね。」


「ああ、そうだな。」


出来るだけ足音を殺し岩陰を伝って盗賊ゴブリンチーフに近づく。何度か危ない場面は有ったが気付かれずなんとか盗賊ゴブリンチーフの目の前に来た。


「たしかあの笛でモンスター達を呼び出したよな。」


盗賊ゴブリンチーフの腰には角笛がぶら下がっていた。


「はい、なのであの笛を壊すか奪うかすれば他のモンスター達は寄ってこないと思われます。」


「じゃあ初撃であの笛を壊すか。」


息を殺しながら盗賊ゴブリンチーフへの初撃のタイミングを見計らう。

そして、盗賊ゴブリンチーフが背中を見せた瞬間悠馬は飛び出した。素早く抜剣し初撃を正確に角笛を捉えた。

角笛は粉々に砕け消滅した。

盗賊ゴブリンチーフは何が起こったのかわかってない様子で動きを止めていた。


「ふっ!」


角笛を壊してから更に盗賊ゴブリンチーフにもダメージを与えた。盗賊ゴブリンチーフの体力ゲージは一割弱程減った。盗賊ゴブリンチーフは斬られたか瞬間に素早く前方に跳びのき腰の短剣を抜剣した。


「ギャアアァァア!!」


と怒りの声を発し短剣を振りかざし襲いかかって来た。悠馬は盗賊ゴブリンチーフの攻撃を弾き攻撃をした。肩口にヒットした攻撃で体力ゲージは更に一割程も減った。


「勝てる!行くぜ!!」


悠馬は自分から仕掛けにいった。盗賊ゴブリンチーフは必死で反撃して来るが悠馬はそれを弾き攻撃を放ち続けた。そして盗賊ゴブリンチーフの体力ゲージが残り二割に差し掛かった時、盗賊ゴブリンチーフは大きく後方に飛び退いた。

そして・・・。


「グギャアァァアァァア!!!!」


と耳がつんざきそうな声で叫んだ。最後の悪あがきかと一瞬思ったがそれは違った。

悠馬もその時に気づいたが盗賊ゴブリンチーフの裏に一つ扉があった。それがゆっくりと開く。

そしてモンスターのカーソルが浮かび上がった。


名は〈The king of thieves〉盗賊の王と表示された。


見た目はシーフウルフより大きいサイズ程度だが体力ゲージの色が違った。本来赤なのが黄色の色をしていた。


「あの体力ゲージってまさかとは思うけど二本あるってことだよね。」


「はい、多分そうです。盗賊の王がまさかのシーフウルフさんのビッグサイズとは驚きですね。盗賊ゴブリンシーフさんよりあっちの方が統率性を取れそうですね。」


「そんな呑気なこと言ってる場合か!あれ勝てるの?」


「勝てるも何ももう逃げれないようにされていますよ。ほら後ろを見てください。」


後ろを振り返るとさっきまで無かった木製の門があり部屋を密室空間にしていた。


「・・・。よし、勝つしかないな。」


「頑張ってください。応援してますよ。」


「おう!」


悠馬はひとまず盗賊の王様は無視し体力ゲージが残り二割の盗賊ゴブリンシーフを叩きに行った。

だが盗賊の王は悠馬と盗賊ゴブリンシーフの間に凄まじい速さで割り込んで来た。


「はやっ!」


盗賊の王様はどうだと言わんばかりに一瞬にやけてから抜剣し中段から攻撃を仕掛けて来た。

悠馬は体を捻りターンをして躱しそのまま遠心力を利用し攻撃を仕掛けた。


「せいっ!」


盗賊の王は剣を振り切っていた。なので防御は間に合うはずもなく攻撃は脇腹にヒットした。盗賊の王の体力ゲージが少し減るのを確認しすぐに盗賊ゴブリンシーフを視界に捉えた。

そして剣を振りかざし剣が震えだす。


「はあぁぁあ!!」


〈スラッシュ〉を発動させ攻撃は盗賊ゴブリンシーフの頭部を直撃し残りの体力ゲージは急減少し盗賊ゴブリンシーフは爆散した。

倒した事を確認しもう一度盗賊の王を見やると怒りの目で睨み唸っていた。


「ガルルゥゥウ!」


「ユウ、気をつけてください。」


「ああ、なんか雰囲気が変わったな。」


すると盗賊の王は右手に持っていた短剣を捨てた。

そして、腰の裏にあった直剣を取り出した。


「ガアアアァァア!!」


「なっ!!??」


盗賊の王の頭の上にある体力ゲージの横に次々とバフが加えられていった。


〈攻撃力アップ〉

〈防御力アップ〉

〈攻撃速度アップ〉

〈移動速度アップ〉

〈クリティカル率アップ〉

〈クリティカル時攻撃力アップ〉


次々とそれらのアイコンが現れる


「反則だろあんなの・・・。」


「ですが戦わなければ全てを失います。」


「普通ならここは一度死んで死に戻りで終わるんだけどな。このゲーム死に戻りじゃなくて生まれ変わりだからな。仕方がないやってやる!」


そして、悠馬は地面を蹴った。


「はああぁぁあ!!」


気合の入った初撃は甲高い音を立て受け止められた。

だが悠馬は手を止めず連続攻撃を仕掛けた。

甲高い音をが響く旅火花が散る。

敵との一進一退の攻防戦が続く。

悠馬が攻撃すれば盗賊の王は全てを払いのける。

逆に盗賊の王が攻撃をすれば悠馬も全てを叩き落とした。

そんな緊迫した戦いに悠馬は血湧き肉躍ると言う言葉がふさわしいと思うほどの高揚感を感じていた。


「うおおおぉぉおぉお!!!!」


「ガアアアァァアァァア!!!!」


悠馬と盗賊の王は同じ構えを取る。

上段からの垂直斬り〈スラッシュ〉を同時に放った。

爆発にも似た音と衝撃波が仮想の空気を震わせた。

悠馬と盗賊の王はスキル発動後の硬直により鍔迫り合いの様な形で動きを停止していた。

気づくとお互いに残りの体力ゲージはほぼ並び残り一割程になっていた。


「やるな!」


とわかるはずもないモンスターに悠馬は語りかけた。

だがモンスターは言葉がわかったのか口が動き薄い笑みを浮かべた様な気がした。両者は同時に後方へ飛んだ。


「ガアアアァァア!!」


「うおおおぉぉお!!」


と両者は全力で叫んだ。

この勝負はどちらか体制を崩した方が負けるつまり先に崩した方の勝ちだ!


「いくぞ!!」


悠馬と盗賊の王は同時に地面を蹴った。

盗賊の王は〈スラッシュ〉の構えをとった。

だが悠馬は中段で構えただけだった。

そして盗賊の王の剣は弧を描き始めた瞬間、悠馬も剣を振った。甲高い音が響き静寂の時間が訪れた。

そして遠く離れた場所に盗賊の王の剣が突き刺さった。

悠馬は振り返り剣を上段に構え〈スラッシュ〉を発動させた。スキル後の硬直で動けない盗賊の王はなす術なくまともにくらい残りの体力ゲージは吹き飛んび爆散した。


「勝った・・・。」


「お疲れ様です。」


「ふぇ~~。」


と安堵の息を吐き悠馬はその場に座り込んだ。


「彼奴つえぇぇー。」


「当たり前ですよ。あのモンスターは中ボスクラスのモンスターでしたから。」


「え!マジで!?」


「はい!そう言うことでユウもとっても強いと言うことですよ。よく頑張りました。」


「あ~疲れた。あっ、レベル上がった。」


「おめでとうございます。」


「しばらく休んでも問題ないかここ。」


「大丈夫です。盗賊の王を倒した事でここら辺一帯が休息エリアに変わりました。」


「なら少し休もう。」


「賛成です。見ているだけでしたがとても疲れました。」


「「はあぁーーー。」」


と悠馬とアイは地面に寝転び再び安堵の息を吐いた。


「いやぁー、それにしても彼奴強かったなー。

しかも戦っている中でドンドン強くなるし。」


「それは見ててもわかりました。同じ攻撃は見事に防がれてました。逆にユウの攻撃を自分の物にして仕掛けていましたしね。」


「本当な。もう少し戦いが長引いてたらやられてな、あれ。ていうか俺達何しにここに来たんだっけ。」


「クエストで薬草を取りに来たんですよ。」


「あーあ、そうだった、そうだった。

で、薬草はどこにあるんだ?」


辺りを見渡しても岩、岩。この空間には岩のオブジェクトしか存在しなかった。

だが奥に古くなった木製の扉が半開きになっていた。


「あそこは確か盗賊の王が出現したところだよな。」


「はい、薬草もあの中だと思われます。」


中に入ると汚いが豪華そうな椅子が一つ置いてあり周りには沢山の薬草の山が置かれていた。

そして豪華な椅子の前に一つの宝箱が設置されていた。

まずは一つ薬草を手に持つと薬草は消えその代わり画面が開いた。

〈静寂の薬草〉と書かれていた。


「これでクエストはクリアだな。

それじゃあお楽しみの宝箱の中身はっと。」


開くと周りの薬草と特に変わらない様に見える草が入っているだけだった。

そして草を手に持つと薬草と同じ様に消え画面が開く。


〈万能の静薬草〉


「これは?」


「さあ、これだけではわかりません。」


「まあ、持って置いて損はないだろ。

じゃあ村に帰るぞ。」


村に帰ると相変わらず人気が全くなかった。

民家には明かりが灯っているが人がいるとは思えない程静かだった。辺りを見渡しても少しプレイヤーがいるくらいだった。

そして一つの民家の中に入ると変わらずひたすら薬草を練り込んでいた。


「おじいさん。」


声をかけるとおじいさんはゆっくり振り向いた。


「薬草を取り返して来ました。」


画面を開き〈静寂の薬草〉を取り出す。


「おお!これは!これで村は救われます。

なんとお礼を申していいか。」


「いえいえ、早く待ちの皆さんを助けてあげてください。お礼は後ほどでも構いませんので。」


「ありがとうございます。薬草を取って来て貰っただけではなく村人の心配をしてくださって。薬は直ぐに完成させ村人全員に配って来ます。少し時間が掛かると思われますが私の家で待っていてもらえないでしょうか。

ぜひ、お礼をしたいのです。」


「わかりました。では、この家で待たせてもらいます。」


おじいさんNPCは一礼をし振り返り座り込み手渡された〈静寂の薬草〉を器に入れ練り込み薬を完成させ扉を開け村人に薬を配りに行った。


「暇だし、アイテム整理でもするか。」


メニュー画面を開きアイテム覧の画面を開いた。

モンスターからドロップした素材アイテムがほとんどだったが一つのおそらく武器である物に目が止まった。


「〈ウルフズ ブレイド〉?」


アイテムを実体化させるとそれは盗賊の王が持っていた直剣だった。武器の部類は片手剣。耐久値をかなり消耗しているのかボロボロだったがその武器の性能はとんでもないものだった。おそらく序盤では最強の性能に見える。だが・・・。


「STR要求値高すぎだろ。」


「まあ、それを振り回していたのは盗賊の王様ですしね。あのモンスターの毛皮の外からでも見えた筋肉は素晴らしいものでしたから。」


「うーん、今あるステータスポイント全部使って足りるかどうかだな。」


ステータス画面を開く。中ボスクラスのモンスターを倒しただけあってレベルは二つあがって、レベルは8。

ステータスポイントは15pと表示されていた。


「なんとか足りそうだな。」


今あるステータスポイントをSTRに全振りした。

どんなゲームでもSTRとは攻撃力を表す。このゲームでもそれは同じだがこのゲームのSTRは装備の幅を増やすことが出来る。強い武器を装備しようとすればそれなりのSTRが要求される。

他にもVIT、AGI、DEXがある。


VITは体力ゲージの増量、防御力の強化。


AGIは素早さの強化、スキルの発動速度がアップする。

この世界でAGIを上げると現実ではあり得ないくらい速く走れる様になるらしい。


DEXは器用さ。つまりスキルの使用時クリティカルに当てやすくなるということだ。


「これで装備可能になったな。」


装備画面を開き〈ウルフズ ブレイド〉をクリックし装備をクリックする。背中の〈アイアンソード〉が消え代わりにずっしりとした重さのある武器が出現した。


「性能ぶっ壊れすぎだろ、これ。」


攻撃力は〈アイアンソード〉の倍はあった。

他にもボーナスが五つ付いていた。


〈STR大アップ〉

〈攻撃力20%アップ〉

〈クリティカル時攻撃力40%アップ〉

〈AGI大アップ〉

〈スキル発動時間短縮〉


「この段階で手に入る武器なのかこれは。」


「確かに他の武器より明らかに吐出し過ぎていますね。〈アイアンソード〉でも現段階でも上の下といった具合でしたのにそれを圧倒してしまうとは驚きですね。」


「他のプレイヤーはこれを入手したのか?」


「いえ入手した形跡はありません。それにこのクエストはオンリーワンクエストです。」


「つまりこのクエストはこの世界でたった一人のプレイヤーしか受けれないって事か?」


「はい、そうです。他のプレイヤーはどうやらお金に目が眩んでスルーしてしまった様ですが。」


「じゃあラッキーだったな。」


「はい。とてもラッキーでしたね。」


「お待たせしてすみません。」


とどうやらおじいさんが戻ってきたようだ。


「では、何かお礼の品なのですがこの村に伝わる御守りです。あらゆる悪病を避けれる事でしょう。」


と首飾りを手渡された。


「ありがとうございます。」


「いえいえ、お礼を言うのはこちらです。お気を付けて。」


「はい!」


民家から出て直ぐに首飾りのステータスを確認する。

部類は首に付けるアクセサリー。

〈聖人の首飾り〉

防御力6


〈ボーナス〉

〈全状態異常10%ガード〉


「悪くはないけど〈ウルフズ ブレイド〉のインパクトが強すぎてなんかテンションが・・・。」


「はい、嬉しいには嬉しいですが余り上がりませんね。」


「まあ、ひとまず次の街に向かおう。」


「そうですね。ですが、その前にその武器は直さないといけませんね。」


「ああ、そうだった。」


強い武器だけあってNPC鍛冶屋の修復で3500ゴールドあったお金幅を全てを失った。


「修復費高くない?」


「仕方がないです。規格外の強さを誇ってるんですから。それだけ価値に見合った働きはしてくれるはずですよ。」


「じゃなきゃ困る。三つ目の街までこいつの火力と重さを把握しておきたいな。」


だが、剣を降る時に掛かる重量は把握できたが、火力は異常なあまり殆ど分からなかった。

次々出現するモンスターは全て一撃で狩れる強さを誇り、たまに出現するレアモブはクリティカルでも無いのに一撃で九割程削れる程の強さだった。モンスターの狩る速さが尋常じゃないくらいスムーズだった。おかげで三つ目の街に付いた時レベルは10になっていた。


「爽快感ハンパないな・・・。」


「ですね・・・。」


三つ目の街にはたった数十分程で辿り着いてしまった。

街の外観は〈オリジン〉程ではないがなかなかに大きな街だった。

街に足を踏み入れる。

街の名は〈イグザム〉。

街はプレイヤーやNPCが多く街は活気に溢れていた。

目の前にある通りだけでもかなりの数の店が連なっていた。武器屋に防具屋、道具屋に鍛冶屋など様々な店が立ち並んでいた。


「凄いな。」


「ええ、〈カルム村〉とのギャップが凄すぎて混乱しそうです。」


「真逆だからな。それと新しい街に付いたって事で一度ログアウトするか。もう朝からぶっ通しでログインしてるからな。腹も減ったし。」


「なら宿屋を借りましょう。宿屋に止まらないと中身が無いアバターがその場に十分程残ってしまうのでプレイヤーキルされる可能性があるので。」


「え?そうなの。〈オリジン〉の時はそのままログアウトしたけど。」


「あの時は何にも持っていませんでしたから。

今はその武器〈ウルフズ ブレイド〉っていう激強武器がある事なので。」



「それもそうだな。それで宿屋はどこだ?」


「そこの角を曲がったら有るようです。」


アイが言った通り看板に〈INN〉と書かれた建物に入った。エプロンを着たNPCに声を掛け一部屋借りた。


「なかなか広いな。たった10ゴールドなのに。」


中には机と椅子、ベッドが一つずつ置いてあった。


「じゃあ俺は一回落ちるな。」


「ユウが落ちている間この村のクエスト調べて置いてあげますね。」


「ああ、頼む。それと美味しい飯屋でも調べて置いてくれ。」


「どうしてですか?」


とアイは首を傾げた。


「言ったろ。片っ端から食べ歩きをするって。」


アイは目を輝かせた。


「わかりました!飛びっきり美味しい店も探しときます。」


「おう!じゃあ後でな。」


「はい!」


とメニュー画面を開きログアウトボタンを押した。

感覚が遠のき浮遊感を味わってから再び感覚が戻った。

目を開けるとそこはもう仮想世界と似て非なる現実の世界の自室のベッドの上だった。


「仮想と現実の違いってなんなんだろ・・・。」


と悠馬はそんな事を呟いた。

直ぐに自分が現実逃避していた事に気づきその考えを振り払った。

時間は午後二時。ログイン時は六時。つまり八時間ぶっ通しでログインしていたようだった。

立ち上がり大きく伸びをした。


「腹減った。」


二階の自室から出て一階のキッチンへ向かう。幅一人暮らしと相対して変わらないので食材の調達や料理はもう慣れたがやはりめんどくさいと思ってしまう。

金は毎月親が講座に振り込んではくれている。

ゲームしている時は親が居なくてラッキーと思ってしまうがやはり一人というのは寂しいものだな。

朝起きて即ログインして居たので目やになどがつき酷いものだった。そんな寝起き見たいな感じの顔を洗うため洗面所に向かう。

そして、約十六年間と三ヶ月ずっと鏡で見続けている自分の顔を見てため息をつきたくなる。

周りからは


『ザ・日本人顔!』


と言われるほど普通の顔なのだ。一度でもいいからイケメンになりたいと何度思ったか数知れない。

一度でもハーレム主人公になりたいと何度思ったことか。

しかも俺には青春時代など一生やってこないだろうと確信がある。

なぜなら俺は男子オンリーの電気科だからだ。

学校には確かに普通科、情報科など女子はいる。

だが!!なんと電気科だけが別棟という嫌がらせとしか思えないものだった。なので俺は中学卒業以来女子と一度も話した事がない。


「虚しい・・・。」


鏡の自分を見ただけでここまで虚しくなってしまう。

なんて惨めなんだ。ため息をついて顔を洗い昼飯を食べ自室のベッドの上に戻る。

そういえば仮想のアバター容姿見た事なかったな。

アイに聞いてみるか。

ヘッドギアにスイッチを入れ画面に十秒のカウントダウンが始まった。


「お待ちしておりました。」


「成果はどうだった?」


「バッチリです。たくさん調べて起きました。

ですが、少し耳に入れてもらい事がありまして。」


なんだ?と聞くと少し残念そうな顔を浮かべた。


「今日の夜七時からこのエリアのボス、エリアボスを倒すためのレイドパーティの募集を今この先の三つ目の街で行われています。」


「速いな。もうエリアボスを見つかったのか。

まだ二日目だぞ。」


「はい、今のユウなら今から急いで行けば間に合います。ですので・・・。」


「いいや、今回は参加しなくていいや。

アイとの約束もあるしな。

俺は約束は絶対に破らない主義だからな。

さっ、食べに行こうぜ。」


はい!っと嬉しそうに返事したアイだったが顔にはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「ふぅー、食った、食った。」


「とても美味しかったです。」


悠馬とアイは〈イグザム〉の食物店を歩き回った。

全て回りきった時には六時を回っていた。


「こりゃ、この後モンスター討伐とクエストこなさないとな。財布の中身がすっからかんだ。」


「そうなると予想してクエストも調査済みです。」


「おっ、流石だな。」


「それとエリアボスの方なのですがレイドパーティに五十人程が集まったようです。そして全員が現段階最強レベルと最強装備を整えているようです。」


「だいたいレベルはどれくらいなんだ?」


「平均は18といったところです。」


「高いなー。」


従来のコントローラ握ってやるゲームなら一日中やれば一瞬で到達できるレベルだが現在のVRゲームはそうはいかない。実際に身体を動かし行動しなければならないからだ。一戦するだけでもかなり集中力を消耗する時もある。〈ウルフズ ブレイド〉みたいな無双武器があれば話は別だが・・・。


「なら今回は楽勝で攻略しそうだな。

今日中に次のエリアが開かれそうだな。」


「はい、なので次のエリアボスの為に準備を整えていきましょう。私が言うのもなんですが。」


「まだ言うか?俺もたくさん食べて満足してる。アイがそんな事を言う必要性はないぞ。俺には感謝の言葉しか出てこないぞ。ありがとな。」


「ありがとうございます。」


「よし!ならまずは資金集めだ!クエスト受注しに行くぞ。オススメクエスト今回も期待しているからな。」


「はい!任せておいてください!」


だが、次のエリアボスどころか次のエリアが開くことはなかった。なぜなら・・・。


「全滅した?

ハイレベルプレイヤーのレイドパーティが?」


今日、夜十一時エリアボス攻略パーティが全滅したと攻略サイトの掲示板にアップされていた。

細かな情報によれば全五十人中、四十二人が死亡。

残り八人が離脱に成功したと記載されていた。


「完敗したようです。」


とスマホからアイが話しだした。


「私にもこの情報は信じられません。

これだけではただゲームバランスが崩壊しているようにしか思えません。」


「アイ、本当にレイドパーティはハイレベルプレイヤーだったのか?」


「それは間違いないと思います。〈オリジン〉でたくさんのプレイヤーが復活ポータルから出現したのが報告されています。」


「そうか・・・。」


ゲームバランスが崩壊している。政府が作ったゲームにそんなバグが存在するのか?

それが無いとすれば・・・。


「キークエスト。」


「えっ、キークエスト?」


「ああ、そうだ。大体のゲームには必ずボス前になんらかのキークエストが設置されている時がある。

それをハイレベルプレイヤー達は見落としたんじゃないか?」


「それは十分にある可能性ですね。少し調べてみます。悠馬は今日は早めに休んでください。今日は朝からゲームし続けていたので精神的にも疲れているはずですから。」


「わかった。じゃあ、よろしく頼む。」


「任せてください。では今日はこれで。」


「ああ、おやすみ。」


そう言うと通話が切れた。

なぜかアイの口調には焦りの雰囲気が混ざっていた。



「ここか?」


「はい、そうです。この奥にいるモンスターを倒せばクエスト完了です。」


やはりキークエストは存在していた。街にいる一人の老人NPCに話しかけクエストを受注。〈イグザム〉の街の隅に一軒だけ佇んだ家があった。その中には一冊の本が置いてありそれを読む事でクエストを進行することができた。

クエストの内容は討伐。

イグザム洞窟と言われる洞窟の奥いるあるモンスターを討伐するという内容だった。


洞窟は冷たい風が吹き風に乗りモンスターの声が聞こえて来た。明らかにソロで挑むものじゃないと感じさせる雰囲気を漂わせていた。


「まあ、〈ウルフズ ブレイド〉なら一撃か。」


そっと愛剣の柄を握る。安心感を与えてくれる頼り甲斐のあるずっしりとした剣から手を放し歩き始めた。


思った通り洞窟内のモンスターも幅一撃で倒さてしまった。ゴールドと経験値が凄まじい程の速さで溜まる。洞窟の最深部に着いた時レベルは13になっていた。

ボージョンを十五本程用意したが必要性は皆無だった。


「この扉の向こうだな。」


「今までの敵はゴミ当然でしたがボスモンスターがいる可能性があるので準備はしておいたほうがいいと思います。」


「それもそうだな。」


メニュー画面を開きステータス画面を開く。


STR 15

VIT 0

AGI 0

DEX 0


と今までのステ振りが表示された。

右上には7pと表示されていた

悠馬はそのステータスポイントを

AGIに4ポイント、

DEXに3ポイント振った。


次にスキル画面を開き片手剣のアイコンをクリックし片手剣のスキル画面を表示させた。

こちらのスキルポイントは6p。

そのポイント全てを使い

〈ホークドライブ〉

という片手剣スキルを習得した。


そしてアイテム覧からポーションを五つ実体化させ初期装備の〈レザーレギンス〉のポーチに入れる。

これは普通のゲームでいう言わばショートカットみたいな物だが他のゲームと違い注意点がある。

それは戦闘中にポーションが割れて消えてしまうというデメリットがある。

全ての準備を整え悠馬はゆっくりと扉を開けた。


中はオープンフィールド、障害物らしき物はないが中心に岩の塊が配置されていた。

悠馬が部屋に踏み込むとその岩は少しずつ動き始めた。岩に張り付いた苔が剥がれ落ち、岩の破片が僅かに崩れる。

全長はおそらく三メートル。

体力ゲージは緑色。つまりは三本。

モンスターネームは〈The Guardian Golem〉

名前の通りゴーレムそのものだ。


「守護者か・・・。この奥の何を守ってるか知らないが道を譲ってもらうぞ!」


悠馬は〈ウルフズ ブレイド〉を抜きはなち地面を蹴った。悠馬の接近に気づきゴーレムは右腕を振りかぶる。

石柱にも似た拳から繰り出す攻撃は凄まじい威力を誇るだろうとみただけでわかる。

だけど・・・。


「遅い!」


悠馬はゴーレムの両足の隙間に滑り込みゴーレムの後方に回り三連続攻撃を繰り出す。三連撃目の攻撃が終わると同時にゴーレムは上体を捻りコマのように回転した。悠馬は初期行動から予想付く攻撃だったのでバックステップで躱し再び距離を詰める。剣を下段に構える。

すると身体は不思議な力に押される加速する。

一気にゴーレムの懐に入り。足で踏み込み急停止し身体に働いていた力は一瞬下に向きすぐに上に向いた。そして同時に剣も動き出す。

これは部屋に入る前に習得したスキル。

〈ホークドライブ〉だ。

敵に接近し切り上げ攻撃、切り下げ攻撃の二連撃技。

一撃目の攻撃はゴーレムの腹部から入り肩口に抜け、続く二撃目はゴーレムの頭部から入り、ゴーレム股関節辺りに抜けた。

先の三連撃と合わせゴーレムの体力ゲージは一本目の四割程減少した。


「行けるな。」


その後も悠馬は一撃も浴びる事なくゴーレムの体力を減らし続けた。そして残り最後の一本目、赤い体力ゲージになった瞬間、ゴーレムに変化が起きた。


「ガガギゴゲギギガゲ」


と音を漏らし赤い二つの目が点滅する。そして、ゴーレムの部位の境目に赤いラインが光り出す。


「ガアアアァァア!!!」


と咆哮にも似た音が漏れる。するとゴーレムの体力ゲージの横に盗賊の王と同様にバフが追加されていった。


「こいつもか・・・。ならここからが本番だな。」


愛剣である〈ウルフズ ブレイド〉を握り直す。


「行くぞ!!」


と地面を蹴った。

ゴーレムは両腕を振り上げ地面に叩きつけた。地面が揺らぎ悠馬はダッシュを中断し腰を落とししっかりと地面に踏ん張った。だがゴーレムが叩きつけた部分から地割れが走り悠馬に迫った。地面が揺れているせいで悠馬は動けず悠馬の右足に地割れが届き足が半端埋まってしまった。


「くっ・・・!」


地面に脚が想像以上にしっかりとはまって悠馬は動けなくなった。ゴーレムは今までの移動速度よりも数段上の速度で迫り右腕を振り上げた。

悠馬は愛剣を地面に深々と突き刺して脚がはまっている部分を砕き僅かに隙間を作り右に前転し躱した。

そして躱した直後即立ち上がりゴーレムに向かってダッシュ、二度攻撃を与えてから再び距離を取った。

ステータスアップ状態のゴーレムへの攻撃は二連撃与えたが一ドット削れたかぐらいだった。


「弱点は設定して・・・ある・・・よなこれ。」


ゴーレムを全体を見回す。頭部には赤い目が光るだけ。両腕、両足はステータスアップしてから赤いラインが張り巡っているだけで弱点らしきものは無し。

そして、残りは胴体。よくよく見ると胴体の中心部に直径三十センチ程の赤い宝玉が脈動する様に赤い光を放っていた。

あれはもしかして・・・。試してみるか。

悠馬はゴーレムに急接近した。ゴーレムは左腕を振り上げ悠馬を叩きつける。悠馬はその攻撃をギリギリで躱し全力でジャンプした。そして赤い宝玉を思いっきり突き刺した。甲高い音が響いたが今までと感触が違った。

一定の速度で脈動していた赤い光が乱れた。

ゴーレムの体力ゲージも全体の五パーセント程削れた。


「よし!!」


ゴーレムのゴツゴツとした体を利用し地面に着地する前にゴーレムの身体を踏み台にし再びジャンプし剣を下段に構える。〈ホークドライブ〉を発動させ二連撃とも宝玉にヒットする。ゴーレムの体力ゲージがさらに十五パーセントほど減少する。悠馬が着地した瞬間ゴーレムは膝を着いた。そのまま倒れ込むと思ったがゴーレムは右腕を引き絞る。石柱からのただのストレートパンチだが悠馬はスキル後の硬直により一瞬だが動けなかった。

躱しきれず愛剣で防御した。だがゴーレムのストレートパンチは一瞬も止まる事なく悠馬を吹き飛ばした。


「ぐはっ!!」


直撃は避けだが壁に叩きつけられた衝撃により悠馬の体力ゲージが急減少し残り三割程で止まった。

悠馬は頭がグラグラする中ポーチにあらかじめ入れておいたポーションを一瓶取り出し、中にある液体を飲みほした。だが体力ゲージは少しずつ回復し始めるだけで一気に全快はしなかった。

それはこのゲームのポーションは即時回復ではなく徐々に回復していくタイプのアイテムだからだ。

現段階では即時回復アイテムは確認されていない。

悠馬は体力ゲージがある程度回復するまでゴーレムから距離を取りながらエリア内を逃げ回った。

だが、ステータスアップしたゴーレムの移動速度に更に範囲攻撃を全て躱しきる事は出来ず僅かに回復しながらも僅かに体力ゲージを削られる。それでも体力ゲージはなんとか全快した。悠馬は体力ゲージが全快するのと同時に地面を蹴った。ゴーレムの残り体力ゲージは六割だった。悠馬はゴーレムの体力ゲージを全ての削りきるつもりで接近した。ゴーレムにその意思が伝わったのかゴーレムの赤い目がいっそ強く光る。

ゴーレムは両腕を振り上げた。そのモーションで範囲攻撃という事を察知し悠馬はジャンプし、地響き攻撃を躱しその後の地割れも躱し一気に接近した。

だがゴーレムの攻撃はそこで終わらず右腕を引き絞り打ち出す。更に今度は左腕も振り上げ打ち出した。悠馬は左右にステップし躱しきった。悠馬はゴーレムの左腕を踏み台にしジャンプした。

悠馬は剣を上段に構え〈スラッシュ〉を発動させた。

赤い宝玉を捉える。そして、今までとは違う音が響いた。ゴーレムの宝玉が粉々に飛散したのだ。

するとゴーレムの体力ゲージの横にあったステータスアップのアイコンが次々に消失する。代わりにステータスダウンのアイコンが出現する。

それを確認し悠馬は硬直終了後は剣を下段に構え〈ホークドライブ〉を発動させた。


「終わりだ!!!」


二連撃攻撃はスキル時の凄まじいエフェクト音とともにゴーレムの残りの体力ゲージを吹き飛ばしゴーレムは爆散した。その後、経験値とゴールド、ドロップアイテムが表示され、更にレベルアップと表示された。


「はあ、はあ、はあ。」


目の前が絡む中、愛剣を支えにして踏み止まった。

身体的疲労はゲームの中なのたがらある訳がないが精神的疲労は別だ。戦いが終わった瞬間一気に押し寄せて来た。


「気を失わないで下さいよ。このまま気絶してしまうとアバターだけ残してユウの意識だけがあっち側に帰ってしまいますから。」


「わかってるよ。でも少し休憩。ここも当分は休息エリアになってるんだろ。」


「はい。当分は大丈夫だと思います。ですがあまりゆっくりしていると再びポップして来ますよ。」


「ちょっとだけだから。」


悠馬はその場に座り込む。


「パーティ募集してみようかな。運が良ければ知ってるプレイヤーがいるかもしれないし。」


「初回生産数は少ないですが可能性はあると思います。」


「ていうかこのゲームなんで初回生産数が一万個なんだ?」


「お金の浪費、もしくはサーバーの関係上かもしれません。プレイしていてわかる通る他のVRゲームと違って細かいグラフィックに現実とほとんど変わらない風や水に触れた時の感覚までしっかりしてますし。」


「確かに他のゲームより現実の感覚に近いな。痛覚信号も少し強め設定されてるしな。おかげで壁に叩きつけられた所が少し痛むしな。」


「首チョンパされたりしたらとんでもない事になるかもしれませんね。」


「怖い事言うなよ。」


俺は想像してみて背筋が寒くなるのを感じ軽く身震いした。

部位欠損だけは何が何でも避けよう。

しばらく休んでから悠馬は立ち上がり、ゴーレムが守っていた部屋の扉を開ける。

部屋の中は少し広めで中心には台座が設置されていた。

台座には赤色の液体が入った瓶が置いてあった。


「これがボス攻略のアイテムなのか?」


「アイテムの説明覧を開いてみて下さい。」


悠馬はアイテムに触れるとアイテム説明覧の画面が開いた。



〈無精薬〉

あらゆるバフを打ち消す。

弓矢に塗り使用する道具。

使用回数5回。



「弓矢?」


「弓矢は七種類の装備の一つです。片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、片手槍、両手槍、そして弓です。」


「じゃあこれはレイドの中の弓使いに渡すか。でも次の攻略はいつぐらいになるかだな。前回四十二人の死亡者が出たから当分は・・・。」


「いえ、もう既に二回目の募集を張り出してあります。今回は一回目のプレイヤーとは別ですがどうやら前回離脱に成功したプレイヤーが募集しているようですね。

レイドパーティの参加プレイヤーは今夜二十一時に集合だそうです。」


「まだ九時間以上はあるな。ひとまず〈イグザム〉に戻ってクエスト完了報告して、攻略会議場に向かおう。」


悠馬は〈無精薬〉をストレージにしまい〈イグザム〉へと帰還した。クエスト完了の報告をし経験値とゴールド、それと鉱石アイテムを受け取った。


「鉱石っていう事は武具の強化か作製に使うのか?」


「鍛冶屋に持ってけば何かわかるかもしれませんよ。」


「そうだな。」


鍛冶屋に鉱石を持って行き鍛冶屋NPCに説明を受ける。

やはり鉱石アイテムは武具の強化、作製に使用するアイテムだった。

だが、強化にも作製にも規定のアイテムが必要とするらしく鉱石のみでは強化、作製はできなかった。

しかも手に入れた鉱石は〈ウルフズ ブレイド〉を強化する鉱石ではなかった。


「残念でしたね。」


「まあな。でもゴールドが溜まったから防具は買っていこうかな。流石に初期防具じゃもうきついしな。」


「そうですね。ノックバックによって壁に激突したとしても体力ゲージが半分が消し飛んでましたしね。」


「防具屋の案内頼む。」


「わかりました。ちなみに今現在の所持金はどれくらいですか?」


悠馬はメニュー画面を開きゴールドを確かめる。ゴーレムと道中に倒したモンスター、さらにクエスト報酬によって六千ゴールド程溜まっていた。


「六千ゴールドって所だな。」


「それだけあれば十分でだと思います。防具屋はこっちです。」


アイについて行き防具屋の店内に入る。

防具にもSTR が要求される。レベル的には問題ないんだろうがSTR のほとんどは〈ウルフズ ブレイド〉に持っていかれていたので主に軽装を買う事になった。

購入した防具は、

〈スチール ガード〉

〈スチール ガントレット〉

〈スチール レギンス〉

悠馬はスチールシリーズを買い揃えた。

防御力は初期防具よりかはマシになったが、やはり軽装なだけあって防御力は心許ない気がした。

だがその代わり軽装には重装に無いメリットがある。

それはAGIにボーナスが付きスキルの出が早くなるメリットがある。


「じゃあ攻略会議場に行くか。」


「攻略会議が開かれる街はここから四つ目の街です。道中のモンスターはほぼ一撃で終わるとおもいますので余裕で間に合うでしょう。」


アイの言った通り悠馬は〈ウルフズ ブレイド〉の強さを改めて痛感しながら次々とモンスターを狩りながら街を一目したら次の街、次の街へと向かい十七時頃に攻略会議が行われる街に到着した。


「到着したな。」


街には多くのプレイヤーが行き交っていた。ランクが高そうな装備を身に付けている者も少なくなかった。嫌でも最前線にいると実感させられる空気を醸し出していた。レベルもおそらく20近くは有るだろうとおもわれる。悠馬は約五時間モンスターを狩りまくったおかげで最前線の平均レベルである18に到達していた。


「まだ時間があるからアイテムを買い揃えてからゆっくりするか。」


「それとこの街の食べ物店を周りましょう。」


「そうだな。でも俺は程々にだな。晩飯の前だし。現実の方で栄養失調で倒れるのはごめんだからな。」


「なら私がユウの分もしっかり食べてあげます。」


「太るぞ。」


「残念ながらAIは太りません。」


それもそうだ。AIが太るってどういう事だよと自分に突っ込みたい。そして財布の中の半分はアイの腹の中に吸い取られた。心なしか丸っとした気がする。

いやいやそれは無いと思いながらアイを何回も見てしまった。そろそろアイに怒られると思いながらも見ているとアイに気づかれ軽く睨まれた。


「太ったりしません!」


「わかってるよ。」


それから一度ログアウトし現実で晩飯を終え再ログインし悠馬は攻略会議に参加した。

攻略会議は大きな広場で行われた。

集まった人数はぱっと見ニ十人前後。人数は少ないもののほぼ全員が最高クラスの装備を整えていた。

周りが騒つく中三人のプレイヤーが広場の中心に立った。


「皆さん今日はお集まりしていただきありがとうございます。この攻略会議を募集したタツヤです。

よろしくお願いします。」


と髪の毛を綺麗に整え、きめ細かい綺麗な顔をしたイケメンアバターが名乗った。

装備は両手槍。


「俺の名はヘキヤだ。タツヤのパーティメンバーだ。よろしく頼む。」


次に名乗ったのは大柄な体にしっかりとした筋肉髪の毛を短く整えた厳ついアバターだった。

装備は片手斧に大盾。


「私の名前はシズカです。よろしくお願いします。」


最後に女優レベルの美貌な顔をし黒髪ロングのプレイヤーが名乗った。

装備は弓。


リーダーのパーティの自己紹介が終わり本格的にボス攻略の会議が行われた。


「まずは前回のボス戦の情報を伝える。

ボスの名は〈ザ・ビギニング オブ ザ ワールド〉

容姿は人型。装備は片手剣。

体力ゲージは青色、つまりは四本ある。

攻撃方法は序盤は単発攻撃ばかりだが連続攻撃を仕掛けてくる事もあるがどの攻撃は落ち着いて対処すればどれも大したことのないものばかりだ。

だが体力ゲージば二本目になると範囲攻撃を仕掛けてくるようになる。範囲攻撃にはスタン状態になる効果があるので絶対に避けてくれ。

そして最後のゲージになると全ステータスアップのバフが付与されこちらの攻撃がほとんど効かなくなる。

前回の敗因はこれだ。」


「じゃあ、それに着いての攻略方法は見つかったのか?」


と一人のプレイヤーが発言した。


「ああ、見つかった。と言うより掲示板に書き込んでくれた者がいる。ユウさん前に出てきてもらっていいかな。」


とこのレイドパーティのリーダーになるであろうタツキに前に出てくるよう促された。

なぜ、悠馬が前に出てくるよう促された理由は悠馬は一度ログアウトした後掲示板に攻略の鍵になるアイテムを手に入れたと掲示板に書き込んでおいたのだ。

悠馬はプレイヤーの間を抜けタツキの前に立った。

メニュー画面を開き〈無精薬〉を実体化させる。


「これだ。効果は敵のあらゆるバフを打ち消す。だがこのアイテムは弓矢に塗って使用するアイテムだから弓装備の人に渡してくれ。」


「ありがとうございます。これはシズカに持たせるよ。彼女は現実でも弓道をやってるから安心だ。

任せてもいいよなシズカ。」


「任せて。」


と〈無精薬〉を受け取った。悠馬は〈無精薬〉を渡し終え元の位置に戻った。


「これで後半戦のバフについてはユウさんのおかげで解決した。次に役割を決めたいと思う。

役割は三つに分けたいと思う。

シールド部隊、アタッカー部隊、アチャー部隊、それぞれ自分にあった部隊に入ってくれ。

シールド部隊はヘキヤの所に。

アタッカー部隊は僕のもとに。

アチャー部隊はシズカの所に入ってくれ。」


プレイヤーが一斉に動き出しそれぞれ自分に合った部隊の所へ向かう。悠馬はアタッカー部隊の場所へ向かった。全員が部隊の位置につく。

シールド部隊は五人。

アタッカー部隊八人。

アーチャー部隊四人。

計十七名のプレイヤーのレイドが完成した。

だがやはりプレイヤーの数は圧倒的に足りてない。

一回目の攻略時の半分以下の人数しかいない。この中にも何人かは一回目の攻略戦に参加した者達もいるだろうがそれでも相当な苦戦を強いられる事は目に見える。いくら事前情報がありバフの対処が出来るといっても厳しすぎるように感じた。


「じゃあ次はいつボス戦に挑むか時間を合わせたい。この中にも社会人はいると思いますので希望の時間がある人は挙手してください。

何人かのプレイヤーが挙手をし希望の時間を言う。

発言したメンバーがほぼ全員希望の時間が一致していたため明日の十八時この場に集合しボス戦を挑む事になった。


「じゃあ今日の会議は以上って事で。

何か質問のある人はいますか?」


十秒程待ち質問のある者がいない事を確認した。


「では、攻略会議は以上です。後は自由解散でお願いします。」


会議が終わるのと同時にプレイヤーは広場から立ち去っていく者その場のプレイヤーと話し合っていくプレイヤーに別れた。悠馬はその場から立ち去っていくプレイヤーだった。


「アイ。この街のクエストボードはどこだ。」


「ここを真っ直ぐに行った所にあります。」


「わかった。ありがとな。」


明日までに出来るだけレベルを一つは上げておきたい。

そう思い悠馬はクエストボードに向かった。

クエストボードの前には攻略会議を早々と切り上げて行ったプレイヤーの殆どがクエストを受注していた。

その中にタツヤパーティの姿もあった。

悠馬は人混みを抜けクエスト受注のアイコンをクリックしクエスト受注画面を開く。

相変わらずとんでもないクエスト量だった。だから毎度アイにクエストを厳選してもらっているわけなのだが。

今回は全百種のクエストの中、十種類まで厳選した。


「ん、これは?」


悠馬は一つのクエストに目が止まる。



〈闘いを望む者〉


〈内容〉

討伐クエスト

〈ザ・ソウル オブ ア ファイター〉


〈報酬〉

EXP 700

闘心スキル取得



「闘心スキルか。名前からして戦闘時に役に立ちそうだな。でもこのモンスターネームは・・・。」


もうそろそろ大体わかる。『ザ』が付くモンスターが強敵モンスターだって事が。このゲーム始めて一日に一回は『ザ』が付くモンスターと戦っている気がするがどれも苦戦を強いられる戦いばかりだ。

だから気になってしまう。『ザ』が付くモンスターを倒して得られるスキル、闘心スキルとはなんなのかを。


「これにする。」


「いいのですか?このモンスターはかなり強敵だと思われます。他のクエストを二、三個受けた方が効率が良いと思います。」


「もともとはアイが厳選したクエストだろ。」


「それはそうですが。明日はボス戦です。今死んでしまうと明日のボス戦の参加は不可能になってしまいます。」


「大丈夫だ。危なくなったらすぐに逃げる。」


そう言いクエスト受注ボタンを押し丸ボタンをクリックした。


「受注完了だ。準備はこの街に来てもうしてある。早速向かおう。少し遠いから早くいくぞ。」



・・・



悠馬は薄暗い森の中を歩いていた。

森の名前は〈戦士が眠り地〉

この森の奥に討伐対象がいるため悠馬は一人で歩いていた。どういう訳かここら辺一帯モンスターの出現率が非常に少ない。不気味な程に静かな空間だった。


「静かですね。」


「嵐の前の静けさって奴なのかな。」


音は悠馬が地面を踏みしめる音が静かに響くだけ。

服が擦れる音までしっかりと聞こえる程静かだった。

そんな空間の中後方から足音が聞こえてくる。

悠馬は一瞬同じクエストを受注したプレイヤーかと思ったが何故かすぐにその考えを捨て茂みに身を潜めた。


「どうしたんですか。」


「なんかな・・・。」


隠れてから数十秒がたったころ緑色のフードを深く被った男が歩いてきた。男が通り過ぎるのを待ってから悠馬は後をつけた。すると森の中に少し開けた場所があった。そこには八人のプレイヤーがいた。歩いてきたプレイヤーを合わせて九人。全員が同じく緑色のフードを深く被っていて顔は見えなかった。

人数からして悠馬はやはりここのクエストを受注してパーティを組んでモンスターに挑むプレイヤーかと思ったがなのに話しかけに行く事が何故が躊躇われた。

それはあのプレイヤー達から放たれる異様な威圧感のせいだと悠馬は感じ取った。

じっと見ていると一人のプレイヤーが話し始めた。


「ボス。例の話は本当でした。これならクエストを受けるよりずっと効率の良く金を集められます。」


「そうか、それは良かったな。」


そう受け答えたのは倒れた木に腰掛けているプレイヤーだった。フードで顔は見えない。装備は片手斧だった。


「ですがリスクもあります。それを行うと賞金首になりブラックリストボードに顔ごと貼り出され賞金首になり他のプレイヤーに狙われる危険性があります。」


悠馬は賞金首というこの世界で初めて聴くワードに疑念を感じた。賞金首と言うからには恐らく犯罪行為をする事だろうとまでは予想付くが今の話からしても賞金首になってしまった時のメリットは微塵も感じないと感じた。


「なら、狙ってきたプレイヤーを返り討ちにすれば済む話だろ。違うか?」


「はい、そうですが。」


「なら問題ねぇだろ。序盤はひたすら装備を揃える。作戦はゲームが盛り上がって来た時に実行しよう。

いいなお前ら。これは俺のためじゃねえ。

お前達のためだ。だからこの話は絶対に漏らすなよ。」


そしてプレイヤー達は解散していき街の方角に歩いて行った。


「今の話は一体なんだったんだ。」


「現段階では謎ですね。一様調べておきます。なんだか危険な香りがするので。」


「それは俺も同意見だ。良くない感じはするよな。

でもその前に!」


「はい!いきましょう!」


ひとまずさっきの会話は無視し悠馬は討伐対象の下に向かった。

だが悠馬達は知る由もしなかった。

この小さな火種が後々プレイヤー間だけでは無くこの世界を脅かすほど大きな業火になる事を知らずに。



森を歩き続けると石でできた門が見えて来た。門の入り口は鉄の扉で閉ざされていた。門に近づくとその門は見上げるほどの大きさだった。

だがその門の前には一人のプレイヤーが立っていた。


「ん?先客か?」


黒い長い髪が風に吹き付けられ揺れ、葉の間を抜けた太陽の光が髪に反射してとても綺麗だった。

後姿からして女性プレイヤー。近づき顔を見ても後姿だけでは無く顔も整って、清楚感溢れる顔立ちだった。

装備は腰に片手剣カテゴリの刀。防具は軽装だがどれも見ただけで現段階ではかなりの高ランク装備をしている事がわかった。


「すいません。貴方もここのクエストを受けたんですか?」


と聞くがまるで聞こえていないように無視された。


「もし誰かと待ち合わせしてから受けるのでしたら先に言っても行かせてもらっていいですか?」


再び無視される。何度も無視された事から悠馬は門に手を掛けたその時。


「横入りしないでもらえますか。」


「完全に無視してたからよろしいものかと。」


「無視?貴方は何を言ってるのかしら。」


「いや、だって無視してたじゃないですか。」


「無視なんてしてないわ。応える必要性が無いと思っただけ。」


「いや、無視してないなら応える義務はあると思うのですが。」


「義務?応えるも応えないも個人の自由だと思うのだけれど。違う?」


悠馬はただ口を半開きにして呆然とするしかなかった。なんなんだこの人。


「じゃあ、私先に行くから。」


「えっ、ちょ、ちょっと待って。この先のモンスターは強敵だぞ。」


「そんな事知ってるわよ。私は貴方達ニートと違って現実の方は運動神経抜群だからプログラムなんかに負けるなんて事まずあり得ないわよ。」


「そ、そっすか。」


うわー、この人自分で運動神経抜群とか言っちゃってるダメな人だ。絶対この人運動神経悪い匂いしかしない。


「自分で運動神経抜群って言っちゃってるダメな人とか思ってるでしょ。」


うわ、心の声聞こえてるし。


「なら見せてあげなくも無いわよ。私の戦い。」


「なら、ぜひ見学させてもらおうか。あと一つ訂正させてくれ。俺はニートじゃない。体力テストの評価はBは毎年取ってる。」


「それはごめんなさい。でも私は毎年Aなのだけれどね。」


「そっすか・・・。」


ほんとなんなんだこの人は。顔は綺麗なのに性格がとてつもなく悪いとだけはわかった。

謎の女は視線を門に向け門を押し開けた。


「絶対に手を出さないでよ。」


「出さないから安心しとけ。」


門の中は太陽の光が降り注ぐ障害物のないオープンフィールドだった。吹き抜けるそよ風がとても心地よく感じるエリアだった。だがそのエリアの中心にこのエリアにそぐわない強烈な威圧感を放つモンスターがいた。


〈The soul of a fighter〉


見た目は洋風な騎士。

身長は二メートル程。

体力ゲージは緑色。

装備は右手に片手剣。左手に盾。

防具は銀色に光る鎧。顔全体を覆い隠す兜。

見た目から防御力がかなり高い事が伺えた。攻撃力の方も鋭く光る片手剣からしてかなりのものだろう。

悠馬が見た目から得られる情報を集めていると横にいる自身の自信に溢れまくっている謎の女は地面を蹴り開始早々飛びかかっていた。


「おい!少しは・・・。」


と呼びかけたが悠馬には見向きもせず真っ直ぐ突っ込んでいた。

AGIがかなり高いのかかなりのスピードだった。

騎士は剣を高々と振り上げた。同時に謎の女も刀の柄を握った。

そして戦いの始まりと思える一撃が振り下ろされた。

たがその一撃は甲高い音を立て跳ね返され、騎士は大きく後退した。だが謎の女は追随を行わなかった。体制から見てスキル後の硬直状態。型からして〈スラッシュ〉だ。だが・・・。


「〈スラッシュ〉ってあんなに速かったか?」


しかも速いだけじゃない。音からしてもかなりの重みもあった。それに的確な一撃。タイミング角度も全て完璧にだった。

自信を持っているだけの実力はある様だった。

その後も謎の女は華麗に攻撃を躱しながら的確な攻撃を与え続けた。謎の女は防御時に受ける衝撃ダメージ以外のダメージを一切受けていなかった。

騎士の残り体力ゲージは二本目の僅か一ドット。その最後の一ドットが謎の女の一撃によって吹き飛ばされた。


「ガアアアアアァァア!!」


と怒りの咆哮が迸る。やはり最後の体力ゲージに入った瞬間、全ステータスにバフが掛かった。

謎の女の顔は一切変わらず冷静だった。その様子から何度も強敵と渡り合って来たという雰囲気が滲み出ていた。

これなら圧勝だと思っただが何かに違和感を覚えた。フィールド全体を見渡しても変化はない。騎士の姿にも特に変化はなかった。あるとすれば兜の隙間から今までより赤い目が一際強く光を放っていることくらいだ。

そして視線を体力ゲージの右上に存在するバフのアイコンに目をやる。無数のバフが付与されている事からバフのアイコンが一秒毎に変化する。その中に今までのモンスターでは見た事の無いアイコンがあった。

今までの全ステータスのバフのアイコンに更に鬼の様なアイコンが混ざっていた。

すると騎士の鎧の継ぎ目から赤黒い瘴気が立ち上る。


「なんだあれ・・・。」


と悠馬が唖然と見ている中謎の女は相変わらず表情を一切変わっていなかった。

謎の女は剣を構えなおし地面を蹴った。


「警戒心なんて微塵もないな。」


バフが付与されて御構い無しに突っ込んでいった。

速度、威力がました騎士の攻撃を謎の女は今まで通り避け刀を振り下ろした。だが謎の女の攻撃は空を斬った音だけが鳴った。騎士は足を僅かに動かし鎧を掠めるギリギリで謎の女の攻撃を躱した。

謎の女も驚きを隠せない様で一瞬動きが止まった。

だが流石と言うべきだろう。脚の角度を変え腰を捻り地面に衝突する寸前に刀は素早く切り返した。体を一回転させ遠心力を加えた攻撃はズバァアン!とエフェクト音を奏でる。

あれは片手剣スキル範囲攻撃の〈ウインド スラッシュ〉だ。


〈スラッシュ〉を習得後には二つの分岐点がある。一つは悠馬が習得した〈ホーク ドライブ〉。

そしてもう一つがあの〈ウインド スラッシュ〉だ。

あのスキルは360度の範囲攻撃に加え更に放った後、風の斬撃波が敵を追撃し切り裂く攻撃だ。

プラスノックバック効果も付与されている。


敵は再び鎧を掠めるギリギリで躱すが〈ウインド スラッシュ〉の風の斬撃波をもろにくらい後方へと吹き飛ばされた。更に転倒状態により僅かに動きが止まった。

謎の女は硬直が終わるのと同時に地面を蹴りハイスピードで騎士に接近する。まだ騎士は体勢を立て直せていない事からもこれは勝ったなと思って見ていると騎士に僅かな変化があった事を悠馬は見逃さなかった。

騎士の赤い目の光が一瞬消え再び目が光りだす。そして雰囲気が変わったのを仮想の肌で感じた。

謎の女は変化に気づいていないのかそのまま突っ込み剣を振り上げ力強く振り下ろした。


「なっ・・・!?」


剣は甲高い音を立て盾で跳ね返された。謎の女は仰け反り状態になり体が硬直、その機を逃さず騎士は体勢を立て直し剣を上段に構える。凄まじいエフェクト音を立て〈スラッシュ〉を発動させ謎の女に直撃した。

謎の女は吹き飛ばさ地面を転がった。

他人の体力ゲージなので不可視で見えないがおそらく今謎の女の体力ゲージは物凄い勢いで減少しているだろうことは予想がついた。逆にあれ程強烈な一撃をもらって体力が残っている事に関心してしまった。

だがあまりの衝撃に流石の女剣士もすぐに立ち上がる事は出来なかった。騎士は一歩、一歩女剣士に近寄って行く。

そしてまだ立ち上がれない女剣士の前で騎士は歩みを止め剣を高らかに振りかざしそして振り下ろした。

だが騎士の剣は割って入ってきた剣により受け止められた。


「貸しな。」


と女剣士に振り向き言ったその時剣にあった重量が消える。

〈スラッシュ〉だと思い硬直状態にあると思っていたがどうやら違かったらしく剣は素早く引き戻され悠馬の腹部目掛けて突き攻撃が迫る。だが甲高い音が響き軌道がそれ騎士は体ごと後方へと流れる。


「なんか言った?」


「いえ、何も言ってません。」


「手出しはしないでとお願いしたはずなのだけれど。」


「でも、さっきのは危なかっただろ。」


「どこを見てそう思ったの。全然余裕そうだったじゃない。」


「どの状態が余裕だったんですかね。あのままだと殺られてたぞ。」


「あれくらい余裕で避けれたわよ。」


「そうですか。」


どうやら自分がピンチだった事を認めたく無いらしい。


「どうする?このまま手伝ってやろうか?」


「なに?もうすぐ勝てそうだから少し手伝って報酬を少しでも貰おうってこんたんかしら。」


「そう言うつもりで言ったんじゃ無いんだけどな。」


「じゃあ、どう言うつもりで言ったの。」


「親切心で言っただけだ。お前の残り体力そんなに多くないだろう。」


女剣士は視線を少し動かし自分の体力を確認する。見えなくてもわかる。あれ程の攻撃が直撃した事とガード時の衝撃波ダメージで体力ゲージは恐らく真っ赤って事が容易に想像がつく。


「ええ、少ないわよ。でもこれだけあれば問題ないわ。一人でやれる。速くどいてもらえるかしら。」


「俺は目の前でプレイヤーを見殺しにする趣味はないんだ。」


「ちょっと待ちなさい。私は負ける要素は何一つある様に見えないのだけれど。」


「ありまくりだ!悪いけど問答無用で共闘させてもらうぞ。安心しろ手に入れた報酬はお前に全てやるよ。」


「地味な見た目してるのに強引なのね。わかった共闘させてあげる。」


何故上から目線・・・。まあいいけどさ。

悠馬はメニュー画面を開きパーティ申請を女剣士に投げた。


「なにこれ。」


「丸ボタン押しとけ。」


「わかった。」


謎の女がボタンを押すと悠馬の視界にある自分の体力ゲージの下に小さな体力ゲージが増えた。これが謎の女の体力ゲージだ。やはり謎の女の体力ゲージは残り数ドット程。よくもまあこれで強がれたもんだなと関心してしまった。

そして小さい体力ゲージの上に名前が表示されるがその名前を見て悠馬は硬直した。


「おい、この名前はなんだ?」


「何って何が。」


「何がじゃねぇよ!なんで顔文字なんだよ!なんて呼べばいいんだよ。」


「そうね。いつまでもお前呼ばわりは不愉快極まりないからレイナと呼んで。」


「了解。ひとまず俺が前衛に行く。レイナは後衛で回復してくれ。」


「どうやって?」


「は?」


「いや、ポーションとかで。」


「ポーション?私このゲームが人生初めてのゲームだからそう言うのわからないの。」



嘘だろ?と思ったがその顔には嘘を付いている顔には一切見えなかった。


「これを飲んどけ!」


とポーチから三瓶だしレイナに渡す。


「一つで多分フル回復できるからもう二つはポーチにしまっとけ。」


「わかった。」


レイナはポーションを飲み干しもう二つをポーチにしまった。レイナの体力ゲージが回復し始める。


「全回復したらこい。いいな。」


レイナは頷き後ろに下がった。

悠馬は背中の愛剣を抜き地面を蹴った。


まずはタゲを取らないとレイナを後方に下げた意味がない。ダメージを与えてタゲを取る!


「ふっ!」


と悠馬の初撃は甲高い音を立て盾で受け止められた。このゲームでは自分にタゲがあるか確かめる術が無い。

だがこの感じはもう既にタゲは悠馬に向いている。初めて攻撃した悠馬にタゲがあるのかはわからないが好都合だった。

悠馬は更に追撃を行う。だが全ての攻撃は盾によって受け止められた。レイナとの戦いを見ても良く受け止める。とてもプログラムだけで動いている様に見え程の的確な防御、まるで攻撃を全て読まれている様な気分だ。

連続攻撃で相手に反撃させない様に攻撃し続けた悠馬だったがとても硬い盾が柔らかくなった気がした。

だがそれは柔らかくなったのではなく受け流されたのだ。体勢を崩した悠馬に銀色に光る刃が迫る。

体勢を崩し前傾姿勢になっていた体をそのまま重力に逆らわずそのまま前転し攻撃を回避した。

そして前転時で体勢が悪い中、悠馬は下段に構え地面を全力で蹴った。そして体に不可視の力が背中を押し加速する。〈ホーク ドライブ〉を発動させたのだ。

どれだけ体勢が悪かろうがシステムの補正があれば強引に体勢を立て直し攻撃に転じる事ができる。


「せあぁあ!」


渾身の攻撃。完全に意表を突いたはずだった。

だがそれでも騎士にダメージを与える事が出来なかった。下段からの一撃目は盾によりガードされ、二撃目のジャンプ斬りはバックステップで躱された。

騎士は一旦距離を置き構え直した。

左手の盾を前に出し後ろの右手剣を中段に構えた。


「今のでもダメージを与えられないのか。」


完全に意表を突いたつもりだった。だがそれでもダメージは与えられなかった。今の攻撃を躱された事は精神的に辛いが悠馬は冷静を保ったち剣を構え直す。

視線の左端でレイナの体力ゲージを確認する。


半分くらい回復していた。

正直今の俺の防具だと耐えれて一撃か二撃程だ。レイナの防具は俺のより強いだろうがせめて安全圏まで回復するまで時間を稼ぎたい。


レイナの顔を見ると今にでも飛び出して戦いそうな顔をしているがなんとか堪えている様な顔をしていた。


それにレイナが完全に回復する前にこの騎士の弱点を一つでも探り出さ無いとまず間違いなく耳が痛くなるまで嫌味を言われるのは間違いない。アレはああいう性格だ。


悠馬は騎士の全体図を隅々まで見る。体全体はほぼ完璧に銀色の鎧で包まれている。だがそれでも完璧じゃ無い。鎧のつなぎ目の隙間に僅かに騎士の主体が見える。

悠馬は一か八かで突撃した。騎士も迎え撃つように地面を蹴った。バフの効果でかなりの速さだがそれでも追いつけない速さじゃない。

騎士は剣を振り下ろした。悠馬は当たるか当たらないかのギリギリまで引き寄せ左に僅かに移動した。

剣は空を斬り後方に流れる。悠馬はそのままの騎士の懐に飛び込んだ。腰部の主体に剣で正確に切り裂いた。


「はいった!」


騎士の体力ゲージが三割程も減少した。

それもそうだ。あそこの部分は実質防御力が0に等しい。ここを攻めれば倒せる!

追撃を行おうとするが騎士は腰を振り剣を引き戻し悠馬の追撃を許さなかった。


「そろそろ私も参加していいかしら。弱点も見つかったみたいだしね。」


レイナの体力ゲージは七割程回復していた。安全圏である証拠に体力ゲージは緑色になっていた。


「無理はするなよ。」


「そっちは脚を引っ張らないでね。」


相変わらず上からの目線だが頼り甲斐のあるパートナーが出来た気分だ。今まで数あるVRMMOをやって同じ様にパートナーを組んだりした事はあるがここまで頼り甲斐のあるパートナーは久しぶりだ。

不意に悠馬の顔に笑みがこぼれる。


「行くぞ!」


二人は同時に地面を蹴った。

一撃目の悠馬の攻撃を騎士は盾でガードする。レイナはその隙に流石の速さでレイナは右側に回った。完全なフリー状態になった腰部にレイナは騎士の主体に正確に攻撃を浴びせた。騎士の体力ゲージが半分を切る。騎士は剣を逆手持ちにし回転した。凄まじいエフェクト音が発生し、更に風の斬撃波が追撃をした。逆手持ちにしてはいるがあれも〈ウインド スラッシュ〉だ。

悠馬とレイナは剣そのものは素早く後退し避け、風の斬撃波は悠馬はジャンプして回避し、レイナは姿勢を地面に接触するギリギリまで低くし躱した。

レイナはその低い姿勢のまま地面を蹴った。

悠馬はやや前方にジャンプしていたためそのまま突っ込んだ。


レイナは〈ホーク ドライブ〉を発動させた。

一撃目は騎士の下顎にクリンヒットし騎士は仰け反り状態になった。

レイナが上空に飛び上がってきた瞬間に悠馬は〈スラッシュ〉を発動させた。


「「はああぁぁああ!!」」


二人の声が重なる。

凄まじいエフェクト音とともに二人の剣は騎士の両腕を跳ね飛ばした。

騎士は不自然な体制のまま一時停止しそして残りの体力ゲージが無くなると光を粒子となり爆散した。


「やったな!」


「楽勝だったわね。二人掛かりではあったのだから当然と言えば当然なのだけれどね。」


「そんな事言わずに素直に喜んだらどうなんだ。」


「でも結局はプログラムじゃない。パターン化された動きなんて時間を掛ければ見えてくるから恐るに足らないわ。実際に私一人でも勝てたもの。」


「まだ言いますかね。言っとくが絶対にお前一人だったら負けてたぞ。間違いなくな!」


「何を根拠に言ってるのかしら?私の実力も知らないくせにそんな適当な事を言わないでもらえるかしら?それ以上適当な事を言うなら殺すわよ。」


「やってみやがれ。」


「男に二言はないわよね。なら今すぐ勝負しなさい。」


「責めて一度街に帰るまで待ってくれ。それにここで戦ったりしたらブラックリストに名前が公開されて他のプレイヤーに袋叩きにされるぞ。」


「そんな事にはならないわ。全員返り討ちにするから。」


「そうですか。それと俺からさっきのモンスターの報酬をもらう前に殺したら報酬渡せなくなるぞ。」


「それはいらない。これ貰ったから。」


そう言うとポーチからポーションを二本取り出した。


「いや、それなら街で普通に買えるぞ。」


「小さな事でも貴方に貸しを作るなんて死んでも嫌よ。だからそれで貸しはなしよ。」


「わかった。」


と言い報酬画面を見る。本当にいいのかなこれ?

経験値とゴールドは大した事はないのだがドロップアイテム覧に輝いているアイテム名があった。


〈チェーン ベスト〉

防御力20


〈ボーナス〉

VITアップ

斬撃耐性20%アップ



部類は〈シーフズ コート〉と一緒だ。

どっからどう見てもレアドロップの表記だよな。まあいいかあっちがいいって言うなら。


「じゃあ街に戻ったら勝負いいわね。」


と悠馬の隣を横切って歩いて行った。


「ああ、わかった。」


悠馬はレイナの後を追う様に歩いた。


「街に着いたら勝負の前にクエスト報告先に済ませていいか?と言うよりお前もクエスト受けたからあのモンスター倒しに来たんだろ?」


「そうね。先に報告を済ませてからにしましょう。あのお爺さんも私の報告待っているだろうしね。」


「お爺さん?」


「ええ、そうよ。貴方は違うの?」


「いや俺はクエストボードから受けたんだが。」


「なら、偶然討伐対象が同じクエストを受けたのね。」


「なあそっちのクエストはどう言う内容なんだ?」


「内容は覚えて無いけど報酬は覚えてるわよ。

確か闘志スキル取得だったかしら。」


「闘志?俺は闘心スキル取得だったぞ。似た様なスキル名があるもんだな。何か意味でもあるのか?」


「ただの手抜きでしょ。さあ、早く戻るわよ。もう夜遅いのだから。」


時間は既に0時を回っていた。


「こんな遅くまでやってて親に怒られないのか?」


「私の家には基本誰もいないわよ。今の時代どの家庭もそんなものじゃ無いかしら。」


「まあな。」


実際俺も基本家には誰もいないからな。

攻略会議が開かれた街、〈レザリア〉に着いた時には一時前だった。


「なあやっぱり明日にしないか。眠いんだが。」


「なに?逃げるの?」


「いや逃げるんじゃなくて普通に眠い。」


「情け無いわね。私はまだ全然起きていられるわよ。」


と言っているが帰ってくる道中この女は約五分に一度は目をこすり口を押さえながらあくびをしていた。


「仕方がないわね。じゃあ明日にしましょう。」


「なら集合時間を決めておこう。どうする?」


「そうね十時に噴水広場に集合でいいかしら。」


「わかった。」


「それじゃあ私はクエスト報告してくるから。」


「ああ、わかったじゃあな。」


レイナは無言の返事をしないまま路地を歩いて行った。


「変わった人ですね。」


と今までずっと静かだったアイが服から飛び出した。


「常時上から目線だしな。」


「それより戦う約束なんてしても良かったんですか?明日はエリアボス戦ですよ。気力はある程度保持しておいた方が良いと思うのですが。適当に言い訳して断った方が良かったのでは?」


「適当に誤魔化せたらそうしてるよ。アレは誤魔化せれる奴じゃないよ。そんな事よりクエスト報告しに行こうぜ。」



クエスト報告のNPCに話しかけクエストを完了させた。クエスト完了画面で〈闘心スキル〉を習得したと表示された。

今現在レベルは18。スキルスロットは合計二つ。一つは片手剣スキルで埋まっていた。

そしてもう一つの方に〈闘心スキル〉をセットした。そして〈闘心スキル〉のスキルツリーを表示させた。

スキルポイントは8p。6pを使用し一つ目のスキルを習得した。習得したのはパッシブスキル。

スキル名は〈剛気〉。体力ゲージが半分を切るとSTRが上昇するスキルだった。


「わりとどこにでも有りそうなスキルだな。」


「そうですね。残念ですか?」


「いや別にそうでもないよ。スキルはまあ、あれだけど今回のクエストでレイナとか言う優秀な剣士も発掘できたから残念ではないかな。」


「綺麗な人ですしね。」


「そこはどうでも良いだろ。それと今綺麗な人で思い出したと言うか彼奴にも言われたけど俺のアバターって地味なのか?」


「えーと、ですね。」


と何故かアイは困った顔をした。


「実際に見てもらった方が良いと思いますので窓ガラスの前にでも立って見て自分で見てください。」


どう言う事と思ったが悠馬は自分のアバターを見て愕然とした。


「なんで現実と同じ顔なんだ。」


「それはですね。そもそもアバター生成時は現実とのギャップが無いように身長体格はぼぼ一致させてあります。それで、顔の方なのですがユウが今使っているVR機品、〈FIG〉の登録時の事を覚えていますか?」


「そう言えば色々なんか書いたな。現在の身長、体重、後顔写真を渡した覚えがある。」


「身長と体重と顔はユウが使っている〈FIG〉メモリーの中に登録されています。そして体格は一月に一度〈FIG〉が現実の体に微量ながら電波を発して把握しています。それで顔の方は本来初期登録時の顔をカスタマイズしてからアバターを生成する様になっているのですがユウがこのゲームに初ログインした時間は大量のプレイヤーが流れ込んで来ていたので顔のカスタマイズを省かれそのまま生成された可能性があります。」


「マジかよ。」


「しかもこのゲームはアバター変更が出来ないので今のままやるしかありません。」


「仕方がないか・・・。

・・・わかった。このままでやるよ。」


と言ったが悠馬は願った。

運営さん。アバター変更機能追加してください。



悠馬はレイナとの集合時間より一時間程早くログインした。ログアウト前にレイナにフレンド申請をしておいたがどうやら一様フレンド登録はしておいてくれた様だった。フレンド登録していればその人が現在ログインしているかして無いかの確認ができる。他にもメッセージを飛ばせたり現在地を知る事もできるという機能も付いていた。


「本当にやるんですか?」


「当たり前だ。その前に準備もしなくちゃ行けないからな。」


「準備と言っても対戦中は基本アイテムは使えませんよ。装備を変えるだけなら一時間前にログインする必要性はないと思うのですが。」


「装備じゃなくてだな。ちょっと魚を集める必要性があるんだ。特にタツヤパーティなんかな。」


「はい?」


・・・・


「ねぇ、これってどういう事?なんでこんなに観客がいるわけ?」


「さー、たまたま他の人達もここに偶然集合場所が一緒でたまたま対戦しようとしているプレイヤーがいたから見ていこうって感じゃないか。」


「なら場所を変えましょう。こんなに人がいるならやりにくいわ。」


「別にいいだろ。面倒だし。それにここで負けたら観客が沢山いて緊張したからって言い訳も出来るぜ。」


「それは貴方がつく言い訳じゃないかしら?」


「俺はお前には負ける気がしないぞ。」


すると悠馬は指を鳴らしあっそうだと言い出した。


「勝ったら負けた方のお願い出来るって事にしないか?」


「なにその子供みたいな賭け。」


「あれ、やっぱり負けるのが怖い?」


レイナは鋭い眼光を向けてきた。


「いいわ。その賭け乗ってあげる。場所もここでいいわ。」


「よし、なら対戦申し込みを送るぞ。」


と言いメニューを開きレイナに対戦申請を送るとレイナは少し強めにボタンを押し対戦の三十秒のカウントダウンが始まった。

レイナの装備は基本は軽装で完全AGI型。でもあの刀の威力も昨日の共闘戦でかなりの威力がある。

そして俺の装備も軽装。

昨日と違うのは〈シーフズ コート〉から〈チェーンベスト〉に変更したくらいだが、それだけでもかなり防御力が上がっている。それにこっちの武器は現段階最強クラスの〈ウルフズ ブレイド〉。

装備だけならこっちが有利なはずだがレイナはかなりの手練れだ。気を抜いたら一瞬でやられる。

だから最初から本気で行く!


そしてカウントが0になった瞬間二人は同時に地面を蹴り初撃は両者上段斬り甲高い音が響くのと同時に衝撃波が伝わる。驚いた事に攻撃力は互角だった。

このゲームの攻撃力は剣その物の攻撃力、アバターのSTRとプレイヤーの剣を振る速さで決まる。武器の強さは俺が上だ。つまり剣を振る速度で負けているという事だ。

両者の互角の力だったので攻撃力は中和されお互いの体力ゲージは動かなかった。だがこのまま鍔迫り合いになり力の勝負になればSTRにかなり振っている悠馬が有利だ。だがレイナは直ぐに間合いを取り再び距離を詰めて来た。今度は左右にステップしながら接近して来た。

悠馬はレイナを視線から外さない様目で追った。レイナの二撃目は中段からの横切り悠馬は剣で受けた。

そしてそのまま威力を殺さない様剣を傾けながら悠馬は膝を曲げ低い姿勢になった。レイナの刀は悠馬の頭上を抜けた。そして下段からの斬り上げ攻撃。だが悠馬の剣は横からの衝撃により左に流れ空を斬った。レイナは悠馬の剣の側面を蹴り飛ばして攻撃を逃れた。

レイナは中段からの横切りのまま体を一回転させ凄まじいエフェクト音が響いた。

レイナは〈ウインド スラッシュ〉を放った。

レイナの刀は悠馬の脇腹を斬り裂きさらに風の斬撃波の追撃。悠馬の体力ゲージは三割程減少した。

悠馬はバックステップで距離を置いた。

その瞬間周りのプレイヤーが一斉に騒ぎ出した。周りから歓声の声が響く。


「ハア、ハア、つぇー。」


息を吐く暇もないレイナの連続攻撃は凄まじいものだった。それにこちらの攻撃への対処も速い。


全てガードするのは無理だな。ダメージくらう覚悟でカウンターを合わせるしかないなこりゃあ。


悠馬は剣を力強く握り直しレイナに向かいダッシュした。レイナは向かってくる悠馬に向かい突き攻撃仕掛けてきた。悠馬はほんの僅かに体を動かした。レイナの刀は?を掠める体力ゲージが僅かに減った。

だがレイナは突き攻撃仕掛け前傾体制で腕を伸ばしきっていた。

これなら当たるだろ!!

中段からの横切りはレイナの脇腹に迫っていく。当たると思ったその時レイナの体霞むほどの速度で移動した。

たが悠馬は腰を回し左脚でダッシュの威力を殺し全力で地面を蹴った。レイナは悠馬の接近に気づき振り向き後方に飛んだ。

悠馬の攻撃はレイナの腕を斬り、レイナの体力ゲージが一割程減少した。

レイナは斬られた場所を見てから悠馬の顔を見て微笑の笑みを浮かべた。


「やるじゃない。」


「そっちこそ。さっきの移動速度は一体なんだよ。」


「昨日手に入れたスキルよ。一時的にAGIを増強してくれるらしいの。」


〈闘志スキル〉か。俺のは確かSTR増強型。レイナのはAGI増強型か。それに一時的にしろAGI増強は厄介だな。

クールタイムはどれくらいだうか。


「厄介なもん手に入れたな。」


「それは貴方も似た様な物持ってるでしょ。」


「でも俺のはまだ解放してないんだ。」


「あら、後先考えずポイントを振るからそうなるのよ。振るならじっくり考えた方が良いわよ。」


「親切にあんがとさん。」


「ねぇ、そろそろお互い本気でやらない。このままやっていても無駄に時間を食うだけだし。」


まじかよ。あいつあれで本気じゃないの?

こりゃ厳しいな。


「いいぜ。探り合いはここまでだ。俺も本気で行くぜ!」


と言うが実際今までも本気でやっているつもりだったんだけどな。


「じゃあ、行くわよ!」


「来い!」


レイナは地面を蹴った。土が舞う程の速度。そして更にレイナの姿が霞むほどの速度に上昇した。

暴風が巻き起こった。レイナは悠馬の前で急停止し下段からの斬り上げ攻撃。レイナの動きは停止していたが刀の方は急停止時の反動でほとんど見えない程の速度で迫っていた。悠馬は反射的に剣で防御したがレイナの攻撃力は相当なもので衝撃だけで体が僅かに宙に浮いた。

そして空中に浮いた悠馬に向かい振り切った状態からの上段斬りが追撃した。一撃目の攻撃で手の感覚が麻痺している中悠馬は剣を引き戻し柄で防御し直撃を防いたが衝撃で後方に飛ばされた。

悠馬は後方に飛ばされながら脚に力を込めた。地面に脚が着いた瞬間地面を割砕かんばかりに地面を蹴った。

悠馬のダッシュを加えた全体重の上段斬りをレイナは真っ向から受け止めた。だがさすがに衝撃を完全に抑えられず踏ん張ってはいるが四メートル程後退した。

悠馬は追撃しようと地面を蹴り下段に剣を構える。悠馬の体は不可視の力により加速した。

悠馬は〈ホーク ドライブ〉を発動させた。

レイナは刀を上段に構える。どうやってやっているか謎の超高速〈スラッシュ〉を発動させた。

そして二人の剣が交錯し空気が震える程の衝撃波が全体に伝わった。お互いの体力ゲージが一割程減少した。

両者互角の攻防だが悠馬は二回のガード時の衝撃ダメージで一割程減少して残りは半分。

たいしてレイナの体力ゲージはまだ七割程残っていた。

スキル発動後の硬直時間が終わっても悠馬とレイナは剣に力を込め攻めぎ合っていた。

だがその時悠馬の体から白い蒸気が漏れ出していた。

視界右上の体力ゲージの横に鬼のアイコンが表示された。そして急にレイナの力が弱くなったのを感じた。

いや、これは〈闘心スキル〉の〈剛気〉だ。

体力が半分を切った事で発動したらしい。悠馬は剣に全力で力を込めた。レイナは悠馬の力が上がったのを感じ悠馬の剣を切り払って距離を置いた。


「なにそれ?」


「俺の〈闘心スキル〉だよ。俺のはSTRが増強するスキルなんだ。」


「へぇーそうなの。でも力だけで私に勝てると思わない方がいいわよ!」


とレイナは地面を蹴った。

悠馬は剣を構え直した。

レイナは今まで本気でやってなかったみたいに更に攻撃速度を上げてきた。

悠馬の剣とレイナの刀が交錯するたび火花が散る。

だが連撃の中、一瞬レイナの連撃が乱れた。

その隙をつきレイナの脚を蹴った。レイナは咄嗟の事で反応が遅れ体制を崩し尻餅を着いた。そして悠馬はレイナの首筋に剣先を向けた。


「クリティカルポイント。首はねられたら即死だぞ。」


悔しいのか顔をしかめたが直ぐに溜息つき


「私の負けよ。」


そしてレイナが負けを認めた事で悠馬の視界に【WIN】と表示された。そして周りの観客から拍手が巻き起こった。


「一瞬連撃が乱れたな。」


「だって貴方完全に腕固めてたでしょ。あの最中まるで壁を叩いている気分だったわ。衝撃が吸収されないから体制が崩れるのも当たり前でしょ。」


「まあな。」


そう、俺は連撃の最中ひたすら防御に徹し腕を固めてレイナの連撃が乱れるのを待っていた。

これは前やっていたゲームでバカみたいに硬い盾を持ったプレイヤーと勝負した時俺はひたすらその盾を叩き続け崩そうとしたが逆に弾かれ続けた。

しかも連続で弾かれながら攻撃し続けると腰と脚にかなりの疲労が溜まり必ずどこかで連撃は崩れる事を知っていた悠馬独自の防御技だ。


「よし、じゃあ俺のお願い聞いてもらおうかな。」


「何をすればいいの?」


「何をするかっていうとだな・・・。」


「ユウさんちょっといいかな。」


よし魚が掛かった!

そこに現れたのはレイドのリーダータツヤだった。


「どうした?」


「うん、そこの彼女かなりの強さだね。

だからお願いがあるんだ。今日のボス戦に参加してほしい。」


「は?なんで私がそんな事を・・・。」


「おっ、いいぞ。確かに戦力には持って来いだな。

よし、じゃあ俺のお願いはレイドに参加する事だ。

いいか?」


レイナはめんどくさそうな顔をしたが首を縦に振った。


「決まりだな。」


そしてレイドに強制的にレイナを参加させる事に成功した。その後タツヤは陣形を考えると言って他二人とともに去っていた。周りの観客も続々と去って行った。


「ねえ。私をボス戦に参加させたいなら別に周りの観客は必要なかったんじゃないの?」


「いやそれがだな。俺あのレイドリーダーのタツヤとフレンド登録してないから呼び出す方法はこれくらいしか思いつかなかったんだ。」


「へぇー、そうなんだ。でもやっぱり周りの観客は貴方が呼んだのね。」


「あっ、いや、それは、えーと・・・。」


「いいわ。貸しにしといてあげる。それでも私に嘘を着いた事を後悔してもらう事になるけど。」


これからどんな事を要求されるのやらわかったもんじゃ無いなこれは。なるべく貯金はして高級アイテムはなるべく残すようにしておこう。


「で、これからどうするの?集合までかなり時間があるけど。」


時刻はまだ十時二十分程。レイナとの対戦は五分も経たずに終わり、それからタツヤとも少しレイドについて少し話した。レイナを加えてもレイド人数はやはり少ない事は否めないらしい。第一回目のボス戦で四十二人失ったのはかなりの痛手だったらしい。他にも一万人程のプレイヤーがいるが死んだ全ステータスが初期化された者も少なくないらしい。それ以外に死んでいないプレイヤーもいるが死んでしまって今まで貯めたゴールドを失うのを恐れ街の小さなクエストクリアに励んでいるらしい。


「レベリングにでもしな行くか?」


「レベリングって何?」


そうでした。この方はゲーム初心者だった。ゲーム単語は一切わからないらしい。


「レベリングって言うのはレベルを上げるって事だ。」


「じゃあ森にでも行きましょう。」


「どうせ行くなら効率がいいところがいいよな。

アイ、どこか効率の良いところしっているか?」


「はい、もちろん知ってます!」


アイが内ポケットから出て来た。

すると何故かレイナは眉を寄せアイに顔を近づけた。


「何それ?」


「何って〈FIG〉に付いているAIだぞ。初めて仮想世界にログインした時いただろ。」


「いいえ、私のにはこんなのいなかったわ。それに他のプレイヤーもこんなの連れているところなんて見た事が無いわ。」


「え?そんなはずはないだろ。全〈FIG〉にはAIが搭載されているんだから。」


「それは知っているわ。でもそのAIは喋ったりなんかしない。ただ脳波を感知して調節を行う為の物だもの。それにそれだけの為の物に喋る機能なんて必要性ないでしょ。」


「と言われましても俺が初めて仮想世界に来た時アイが居たんだよな。アイはなんかわかるか?」


「さー、私にもわかりません。私の初めての記憶はユウさんに会った事なので。」


「まあ良いわ。わからないならあの人に聞けばわかるし。」


「あの人って?」


「それは秘密よ。で、レベル上げに行くんでしょ。早く行きましょう。」


「あー、そうだった。アイ、それで効率の良い場所ってどこだ?」


「街を出て北に向かうと〈獣の森〉ってところがあります。そこはポップ速度が尋常じゃなく速いらしいので普通のプレイヤーでは一分も持ちませんがユウさんとレイナさんの強さなら全然へっちゃらで効率良くモンスターを狩る事ができると思います。」


「なら早速行こうぜ。」


「ええ、そうね。ボス戦前に少しでもレベルを上げておきたいし。」


「レイナってレベルいくつなんだ?」


「十八よ。」


俺と同じかよ。


「どうやってそこまでレベル上げたんだよ。お前ゲーム初心者だろ。」


「どうやってって。各地の街や村の長老達に金を払うとその周辺にいる強敵モンスター達の場所を教えてくれるから強敵モンスター達を倒して行ったらいつの間にかなってたって感じね。」


「へ?それ初耳だぞ。マジか。今すぐ行きたいが時間ないしな。」


「諦めるのね。」


悠馬はため息をついた。その時目に入ったレイナの高ランク装備が目に入った。


「なあ、お前の装備ってまさかどれもボスから手に入れた物だったりするのか?」


「え?なんでわかったの?」


「いや、なんとなく・・・。」


こいつ本当にヤベェー奴だな。回復アイテムなしで今までのボス全部倒して来てたのかよ。しかもソロで。


「じゃ、じゃあ、取り敢えずレベリングしに行くか。」




・・・


「・・・。」


あれを見て言葉を発せられるものがあるのだろうか?

レイナは鬼人の如く次々と出現するモンスターの即死ポイントである首を刎ねまくっていた。それがここに来てから何分経ったことか。さすがに疲れてきてペースは落ちてきていた。すると突然少しキレている様な声が聞こえてきた。


「ユウ!交代!」


「りょ、了解!」


とレイナと交代し悠馬が前に出た。


「今から一時間休憩なしで頑張りなさい。」


「は!?なんで!」


「今まで見ていただけなのだから当然でしょ。」


それを言われたら返す言葉がない。

レイナは倒れた木に腰掛けメニュー画面を開き水を取り出して休憩モードに入っていた。

その間にも次々とモンスターが出現し続けモンスターに囲まれレイナが見えなくなった。


「だー!もう、やってやるよ!」


アイの言った通り出現スピードが尋常じゃなく速い。

レイナみたく首を正確に刎ねる技術はないが愛剣の攻撃力でなんとか殆どのモンスターを一撃で倒す事ができた。

そして途方もない程の長い一時間が終わりレイナにバトンタッチした。


「なあ、今思ったのだがなんで交代交代で戦っているんだ?」


「貴方が最初サボったからでしょ。」


と一言言いレイナはモンスターの群れの中に姿を消した。

それから二人合わせ合計で十回交代を繰り返し森を出た。その時にはレベルは3つ上がり21になっていた。

時刻は十五時と表示されていた。


「私街に戻ったら一度ログアウトするわ。昼抜いてしまったしね。それに勉強もしなくちゃいけないから。」


「冬休みの宿題か?」


「冬休みの宿題なんか二日で全て終わらせたわよ。貴方みたいに溜め込むタイプと一緒にしないで。」


「俺は初日で終わらせたぞ。このゲームのためにな。」


「なら家庭学習でもしたらどうなの?ゲームばかりしてないで。」


「俺はテストが一週間前にならないとやらない主義なんだよ。よう言うお前はどうなんだよ。」


「私は来年の学習内容まで完璧に覚えているわよ。」


「そっ、そっすか。マナー違反かもしれないけどちなみに何歳なんだ?」


「今年から高校二年生ってところかしら。」


「俺と一緒かよ。」


「あら、そうなの?と言うか今の時代でよく貴方みたいな人が高校生になれたわね。褒めてあげるわ。」


「馬鹿にしすぎだ!一様自慢できる程学力は普通だぞ。」


「へー、そうなの。」


「どうせお前は天才の部類なんだろ。」


「よくわかったわね。毎回全国模試で一番よ。」


「文武両道できててそりゃー良かったですね。」


「努力の差よ。貴方も努力すれば出来るかもしれないわよ。ゲームなんか辞めて。」


「そう言うお前だって今ゲームやってるだろ。」


「お父さんに貰ったからね。お父さんに貰ったのならやらない訳にもいかないしね。」


「お前の親父さんは何やってんだ。」


「わからないわ。」


「わかんない?」


「ええ、何度聞いても教えてくれなかったから。

そう言う貴方のお父さんは何やってるの?」


「電気工事士の仕事をやってる。」


「普通ね。」


それから街に戻り宿屋を取りレイナはログアウトした。

悠馬も一度ログアウトし遅めの昼食を済ませた。


そして集合時間、十八時の時刻、集合場所にレイド参加するプレイヤーが集まった。そこにはちゃんとレイナの姿もあった。


「では、皆さん行きましょう!」



現実と太陽の位置が一致している事から六時にも関わらず空は真っ暗になっていた。

そんな真っ暗な森の中を月と星の光が照らしていた。


「綺麗だな。」


「ええ、そうね。現実だと街の光でここまで綺麗に星は見えないからね。

でも、星を見上げるのは良いけど周囲には警戒しておきなさいよ。いつ襲って来るかわからないしね。」


「ああ、わかってるよ。」


それからしばらく森の中を歩き続けた。歩いている中モンスターが襲って来たりはしたがハイレベルプレイヤーの集まりであるこのレイドパーティに手も足も出ず瞬殺されていった。

森を抜け、平野を歩き続けると目の前に見上げる程の壁が見えた。その壁に巨大の入り口があった。


「あそこがボスのいるダンジョンだ。

ダンジョンの中のモンスターの強さはそれなりに強いから気をつけてほしい。」


全員が頷いて応えた。

タツヤが言うにはモンスターはそれなりに強いらしいがやはりこのハイレベルプレイヤーの集まりであるレイドパーティには歯が立たず瞬殺された。

午後十九時、ボス部屋の扉の前に到着した。


「ダメージを受けた者はポーションで全快しておいてくれ。全員の準備が完了したらボス戦に挑む。」


その声とともに全員がメニューと言いメニュー画面を呼び出した。ポーチの中にポーションを入れ装備を確認した。装備の耐久値の確認を終えた。

そして全員が陣形の配置についた。


「作戦は手筈通りやる。

それと僕から一つ皆に言いたい事がある。

絶対に勝ちましょう!」


「「「おおおおぉぉぉおおおおぉお!!!」」」


そして、前衛シールド部隊隊長であるヘキヤが力強く扉を開けた。地面が揺れる程重い音が響きながらゆっくりと扉が開いた。


「行くぞ!」


と力強くタツヤが叫び、再び全員が叫びながら全員がボス部屋に突入した。

中は真っ暗な空間が広がっていた。

すると突然空間が明るくなった。

そして部屋の奥に一体のモンスターが玉座の椅子とも言うべき椅子から腰を上げた。


〈The beginning of the world〉

見た目は人型。身長は三メートル程だ。

だがボスの身体の周りは殆ど黒いオーラに覆われ赤い目が鈍く光っていた。

そして玉座の椅子の右隣に突き刺さっていた黒剣を抜きはなった。そしてゆっくりと一歩を踏み出した。

その瞬間極寒の中にいるような冷たい威圧感が押し寄せて来た。この場の全員が息を鋭く吸った。


「全員行くぞ!」


とタツヤが全員を鼓舞するように声を張り上げた。

その瞬間ボスは大気に波紋状の模様を作る程の速度でレイドパーティの目の前に突っ込んで来た。


「シールド部隊!」


「わかっている!」


ガン!と重い甲高い音が響いた。ヘキヤが身体を張って一人でボスの攻撃を受け切った。

だがボスは止まらず片手剣を高々と振り上げ追撃を行おうとした。

さすがにあれを二撃連続は危険だ!


「ふっ!!」


悠馬はヘキヤの後方から飛び出し〈スラッシュ〉を発動させボスの剣を跳ね上げた。


「今だ!!」


とアタッカー部隊に呼び掛けた。

アタッカー部隊は突撃にワンテンポ遅れたが全員が一斉に突撃した。その中唯一一人一種も遅れずに飛び出し者がいた。それはやはりレイナだった。一瞬も怯まずボスに突撃していった。


「さすがだな。」


「おい!」


「は、はい!」


と突然ヘキヤに呼び掛けられた。


「お前はアタッカー部隊だろ。ボスの攻撃はシールド部隊に全て任せろ!」


「りょ、了解!」


と応えた途端ヘキヤはボスに向かい地面を蹴った。


「回復してないけど大丈夫かよ。」


「大丈夫だよ。」


といつの間にか前衛から戻ったタツヤごいた。


「ヘキヤの体力一割も減ってないから。」


「あんな攻撃をまともに受けてか。」


「まあ、VITとSTRに全振りしてるしそのSTRの装備上限幅防具に回しているしね。」


「そうとわかったなら貴方も次の攻撃に備えて。」


レイナがいつの間にか隣にいた。


「わ、わかった。」


そして再び甲高い音が響きボスは仰け反り状態になっていた。更に後方からアーチャー部隊の弓矢の攻撃がボスを襲った。

そしてアタッカー部隊がボスに突撃していった。

二回の突撃で四割もボスの体力を削り取った。


「いけるわね。」


「ああ。」


「でも気を抜くのは早いよ。本番はラストゲージからだから。でも今回はユウさんが手に入れたあとアイテムがあるから大丈夫だけどね。」


「それでも楽観視はするなよ。」


「しないよ。」


そして悠馬、レイナ、タツヤはボスの剣が弾かれると同時に地面を蹴った。


ボスの体力が半分を切った。ボスは腰を捻り身体を一回転させた。〈ウインド スラッシュ〉だったが威力は桁違いに違った。地面の砂を巻き上げながら斬撃波が迫る。

悠馬とレイナは素早く範囲外に退避したが数名のアタッカー部隊が斬撃波の直撃を受けた。

〈ウインド スラッシュ〉そのものにスタン効果は無いがボス特有の効果なのか直撃を受けたアタッカー人が動けなくなっていた。


「俺がタゲを取って引き離す!」


と悠馬が叫ぶがレイナに襟首を掴まれた。


「貴方はアタッカーでしょ!」


「そうだ!だからお前は下がってろ!俺がタゲを取って引き離す!」


とヘキヤが前に出て空気が震える程の声で叫んだ。


「うおおおおおお!!」


「な、なんだ?」


「あれは〈護人スキル〉だよ。ヘイト値を上げるスキルなんだ。」


「そうなのか。」


ボスは一際鋭く赤い目を輝かせヘキヤを睨みつけた。


「この隙に体勢を立て直そう。」


スタンは十秒で解除され陣形を立て直した。アーチャー部隊の牽制もありヘキヤは体勢を立て直す間耐え抜いた。


「ヘキヤ!下がれ!」


「おう!」


「シールド部隊はヘキヤの回復するまでの護衛。アタッカー部隊でボスを叩く!行くぞ!」


この戦いの中作り上げられたノックバックの効果が付与されているスキルで硬直時間を稼ぐというアタッカー部隊の戦略により鳴り止まないエフェクト音が響く。


「次だ!」


「任せておけ!レイナ!やるぞ!」


悠馬とレイナは同時に〈スラッシュ〉を発動させた。

二人の剣はボスを同時に斬り裂きボスは大きく吹っ飛ばされた。


「成功だな!」


「ええ、そうね。」


スキルのタイミングを完全に合わせると威力はもちろんノックバック効果まで倍になるという技を悠馬とレイナがこの戦いの中で編み出した連携攻撃だ。

たまたま生み出したこの連携攻撃は効果的だったがすぐに他のプレイヤーに扱う事はできず、現段階悠馬とレイナのみが使用可能な連携攻撃だった。


そしてボスの体力ゲージが残り一本の赤色に色を染めた。

黒いオーラが部屋全体に充満する。そしてボスの体力ゲージの横に次々にバフが追加されていく。


「シズカ!!」


とタツヤが叫びシズカは頷き、ポーチから瓶を取り出し瓶の中に素早く矢を入れた。

矢は赤い光を放った。そしてシズカは矢を弦に掛け引き絞り撃ち放った。

矢は流星の様に赤い弧を描きながらボスに向かい飛翔した。だがその時一瞬だけボスの赤い目が消えた。

そして代わりに青い目が光り輝いた。その目には何故だが明確な意識の様なものを感じた。

ボスは剣を中段に構えを剣を横薙ぎに一閃した。

凄まじい暴風が巻き起こった。

矢は暴風の壁に阻まれ軌道がそれ壁に深々と突き刺さった。


「なっ・・・!?」


悠馬は絶句した。


「なに今の!?

スキルじゃ無かったわよね。」


「エフェクト音は聞こえなかった。

だからスキルじゃ無いと思う。」


「ねぇ、タツヤ君。あれは何?」


「わからない。前回はあんなのはしてこなかった。」


「まさかだけど剣圧とか無いよな・・・。」


「本当に剣圧だとしたらあの暴風を生み出す剣をまともにくらったらひとたまりも無いわね。」


「ああ、そうだな。」


「二人共来るよ!」


「タツヤ、下がれ!ここは・・・。」


と後方で声が聞こえた時凄まじい爆発音で声は掻き消された。爆発音の音源であるボスを見るが土煙が立ち上り瓦礫が空を舞うだけでボスはそこにはいなかった。

そしてボスは悠馬達の前に突然現れた。


「なっ・・・!」


再び絶句した。

速い!

ボスは上段に剣を振りかぶっていた。

間に合え!!


「オオオォォオオオ!!」


悠馬は上段に構え〈スラッシュ〉を発動させた。

悠馬の剣が動き始めるのと同時にボスは剣を振り下ろした。そして、悠馬の剣とボスの黒い剣が衝突した。

爆発にも似た衝撃波が伝わる。仮想だが骨や筋肉が軋んでいる様な感覚が襲った。


「くおっ!!」


徐々に悠馬の剣が押され始める。システムによる不可視の力が弱まり始めたその時、


「ハアアァァア!!」


「セアアァァア!!」


と両サイドからレイナとタツヤが飛び出した。

エフェクト音が響く。レイナとタツヤのスキルがボスに炸裂した。ボスはノックバック効果により吹き飛ばされたが体力ゲージは僅かに減少した程度だった。


「た、助かった。」


「奴気を抜かないで、次が来るわ!」


ボスは地面に脚が付くのと同時に再び姿を消した。

そして再び目の前に現れたと思った時、三百六十度に全体にボスが姿を現した。三百六十度にに現れたボスが重なり合い黒い壁に囲まれている状態になった。


「ユウさん、レイナさん。お互いに背後を守り合うんだ!」


「わかった!」


悠馬とレイナ、タツヤは背中を合わせた。そして黒い壁から黒剣が凄まじい速さで伸びて来る。悠馬はそれを払いのけるが再び伸びて来る。背後からも立て続けに甲高い音が響きわたる。


「ユウ君、タツヤ君五秒後思いっきり上に飛んで!」


とレイナから甲高い音が響く中、指示が伝わった。

悠馬とタツヤは返事を返さなかったが三秒後ボスの黒剣を全力で払った。一瞬だが連撃が止まった瞬間を逃さず悠馬とタツヤは上空に飛んだ。

そしてレイナは逆手持ちに持ち替え腰を思いっきり捻った。


「はああぁぁああ!!」


気合とともにエフェクト音が響く。三百六十度範囲攻撃である〈ウインド スラッシュ〉を発動させた。

その瞬間黒い壁は消えた。


「タツヤ!上だ!」


とヘキヤの声が響く。悠馬とレイナ、タツヤは同時に上を見る。一瞬でボスは天井近くまで飛び上がっていた。そしてボスは天井を蹴り急降下に入った。

僅かにボスの黒剣が赤みを帯びていた。その光からとんでもない威圧感を感じた。

あれをくらったらやばい!

悠馬は着地と同時に地面を蹴り上空に躍り出た。驚いた事にタツヤも同じ様に着地と同時に地面を蹴って上空に向かっていた。

悠馬は上段に構えを〈スラッシュ〉を発動させた。そしてタツヤも両手槍を上段に振りかぶっていた。


「「うおおぉぉぉおおおお!!!」」


赤みを帯びた黒剣に悠馬の剣とタツヤの槍が衝突した。だが威力は止まらず二人は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。だが二人が地面に叩きつけられた瞬間、硬直が終了したレイナが上空に飛翔した。

ボスはスキル後の硬直状態の様で空中で動きを止めていた。


「ふっ!!」


レイナは〈スラッシュ〉を発動させボスの胸元を斬り裂いた。ボスは自由落下状態からノックバック効果による後退で空中で完全に静止した。


「今だ!!」


とタツヤが声を張り上げた。

そしてボスに向かいシズカの放った赤い光を帯びた矢の他にボスに向かい矢の雨が降り注いだ。

全打全てボスの背中に突き刺さった。

そして矢の赤い光がボスの体全体に張り巡った。

ボスの体力ゲージの横にあったバフが次々に消え始めた。そしてそれと同時にボスの体から黒いオーラが薄れ始めその時地面に墜落し砂煙を巻き上げた。


「やったわね。」


「ああ、やったな!」


「大丈夫か!お前ら!」


と後方体からヘキヤの声が響く。


「三人とも下がって回復するんだ。後は俺たちに任せろ!」


「頼んだぞ!ヘキヤ!」


「ああ!」


とタツヤとヘキヤは拳を打ち付けあった。


「ねえ、あれ・・・。」


とレイナが砂煙に指を指した。砂煙が薄れボスが少しずつ姿を現した。ボスの体から黒いオーラは完全に消えていたが中から全身黒い姿をしたボスが現れた。

黒銀の仮面を付け黒いコートをたなびかせていた。

そしてボスの黒いコートの中から表面とは裏腹に白い主体を現れ手には黒剣が握られていた。


「あれがボスなのか?」


ボスの頭上にはしっかりとボスの名前が表示されていたがそれでも疑ってしまう程の変化だった。だがそれでも絶対的威圧感には何ら変化は感じなかった。

ボスはその場から大きく後退し玉座の椅子の前に立った。

そして黒剣と対になるように置かれていた純白の剣を抜いた。そして威圧感がさらに増した。


「どうやらここからが本当の本番らしいな。」


「ええ、でも私達は一度下がりましょう。体力は半分を切ってるしね。」


「ああ、そうだな。」


ボスの体力は残り一本。

バフも全て消えた。

だがバフがかかっていた時よりもボスは途轍もなく強くなった気がした。

後方から次々とシールド部隊とアタッカー部隊が悠馬達の横を抜け声を張り上げ、ボスに走り込んで行った。

それを見ていると肩に手を置かれた。


「速く回復して前衛に戻りましょう。」


ああ、返事をしポーションを飲み干した。


「後少しだ!行くぞ!」


「「おおおぉぉぉおおおおぉ!」」


とヘキヤが指揮を取りシールド部隊とアタッカー部隊を率いてボスに突っ込んで行く。

そして後方から銀色の軌跡を描きながらいくつもの矢が飛来して行った。

そしてボスは矢が飛来しているのを確認したのか視線を一瞬上に向け動き出した。

だが先程までのスピードは無い。


「シールド部隊!」


とヘキヤが叫ぶと大盾を構えボスの攻撃に備えようと姿勢を低くした。

ボスは黒剣を振りかぶり横に一閃した。

立て続けに甲高い音が響く。

その攻撃はシールド部隊に全てシールド部隊が受け止めた。

だがボスは即座に黒剣と白剣の二連撃攻撃をシールド部隊に浴びせた。

更にもう一度、両方の剣を上段に振り上げ叩きつけた。二本の剣による二重攻撃は多少後方に下がりはしたがシールド部隊は耐えきった。

そしてボスは地面に剣を叩きつけた状態になり隙を見せた。


「今だ!アタッカー部隊!」


ヘキヤの指示が飛びアタッカー部隊が一斉に飛び出した。

だがその時、蒼く光る瞳が強く光を放った。

ボスは叩きつけた剣を引き戻し下段に構えた。

そして、一気に加速し剣を一気に振り上げた。

アタッカー部隊の数人が宙を舞った。更に切り上げ攻撃で飛び上がっていたボスが宙を舞っているプレイヤー目掛け剣を叩きつけた。

地面が割れ土煙が舞いそして、衝撃波が後方にいる悠馬達にも届いた。


「二刀で〈ホーク ドライブ〉をやったのか?」


「そんな事よりまともに数人くらったわよ。」


土煙が薄くなるとボスの足元に四人のプレイヤーが横たわっていた。そして横たわってプレイヤー達から光が漏れ出しそして爆散した。

そして、耐えたプレイヤー達は爆散したプレイヤー達を見て動きが停止していた。

ボスはスキル後の硬直状態動けないでいた。


「止まるな!今だ攻めろ!」


とヘキヤの指示が飛びアタッカー部隊のプレイヤー達は一斉に動き出した。


「うおおぉぉお!」


とアタッカー部隊のプレイヤー達の声が響くのと同時にエフェクト音が次々に響きわたる。

ボスの体力ゲージは二割ほど減少した時ボスの硬直状態が終了した。

硬直状態が終わるのと同時にボスは二刀を中段に構え腰を捻った。

シールド部隊は素早くアタッカー部隊達の前に立ち盾を構えた。


「〈ウインド スラッシュ〉だ!

シールド部隊!〈インパクトガード〉を展開しろ!」


そうヘキヤが叫ぶとシールド部隊の盾は緑色に発光した。

そしてボスは体を一回転させ二刀による〈ウインド スラッシュ〉を発動させた。剣そのものはシールド部隊がガードしたがその後に来るはずの斬撃波が発生しなかった。


「〈ウインド スラッシュ〉じゃないのか?」


「あれは〈盾スキル〉の〈インパクトガード〉だよ。

あらゆる衝撃波を無効化するんだ。」


「衝撃波って事はガード時の衝撃ダメージも無力化するのか?」


「うん、そうだよ。

でもクールタイムが長いらしいけどね。

じゃあ、僕達もそろそろ行こうか。」


「だな。」



ボスは再び硬直状態になった。

そしてアタッカー部隊が前衛に飛び出した。

今度は一瞬も時間をロスせず間髪入れずに攻撃が与えらた。

そしてボスの体力が半分を切ったその時だった。

ボスの体から蒸気が漏れ出し、ボスの体力ゲージ右横に鬼のアイコンが表示された。


「バフがかかったのか。」


「シズカ!隙を作ったら〈無精薬〉を頼む!」


「了解!」


シズカは素早く矢を準備し矢を弦に掛けた。



ボスは再び剣を中段に構え腰を捻った。


「また〈ウインド スラッシュ〉が来るぞ!

全員離れろ!」


とヘキヤの声が素早く響いた。

だがボスは前衛にいたプレイヤー達が範囲外に出る前に〈ウインド スラッシュ〉を放った。

前衛のプレイヤー達全員が斬撃波をまともにくらった。


「危ない!」


「私が行く!」


とレイナはとてつもない速さで突っ込んで行った。

レイナはスキルを使い一瞬でボスの前に移動し立ち塞がった。

レイナは〈スラッシュ〉を発動したその時だった。

硬直状態のはずだったボスは二刀の剣を上段に振り上げた。


「レイナ!」


悠馬が叫んだ時にはレイナの〈スラッシュ〉が発動し、ボスも剣を振り下ろしていた。

凄まじいエフェクト音が響きながら二本の剣と一本の刀が交錯し、凄まじい衝撃波を生み出した。

だがレイナは一瞬は耐えたものの吹き飛ばされた。

体力ゲージが三割程減少した。


「二刀での〈スラッシュ〉か!」


「ユウさん!

次の攻撃、僕達で防ぐよ!」


「 わかってる!」


ボスはスキル後の硬直を無視し大きく飛び上がった。

そしてボスの剣が赤く染まる。


「大技が来るぞ!

タツヤさん!」


ボスは降下にはいったその時悠馬とタツヤはボスに向かい飛び上がった。

悠馬とタツヤはスキルを発動させた。


「「うおおぉぉぉおおおお!!」」


悠馬の〈スラッシュ〉とタツヤのスキルがボスの背中を捉えボスは不意の攻撃により吹き飛んだ。

不意打ち攻撃によってクリティカルのエフェクト音が響いた。ボスの体力ゲージが二割減少した。

ボスは地面に着地したが体勢を崩した。


「今だ!畳み掛けろ!」


とタツヤが叫ぶとアタッカー部隊、シールド部隊が一斉に走り出した。

硬直状態が終わると悠馬とタツヤも後を追った。

後方からアチャー部隊の矢が飛来しボスを突き刺した。

そしてアタッカー部隊とシールド部隊が一斉攻撃を仕掛けた。

ボスの体力がジリジリと減り残り一割。

残り一ドットのところになった瞬間ボスは体勢を立て直した。

そして黒剣を一振りし攻撃していた全員を剣撃と剣圧で吹き飛ばした。

だが一人、全員が吹き飛ばされる中一人の少女飛び出した。


「ふっ!」


と小さく声を出し刀を振るった。

だがボスは左手の白剣で防御した。

レイナは素早く切り返すがそれも防御された。

そして、レイナとボスは激しく打ち合いを始めた。


「ユウさん。最後の攻撃頼むよ!

僕が隙を作る!」


「任せた!」


タツヤは悠馬の前に出た。

レイナに攻撃がヒットする瞬間タツヤは白剣とレイナの間に槍をねじ込みそして弾き更にスキルを発動させ白剣をボスの後方に吹き飛ばした。

ボスは仰け反り状態になるが素早く体勢を戻し黒剣を中段に構えタツヤとレイナを振り払おうとした。

だが、


「はああぁぁああ!!」


とレイナは叫び〈スラッシュ〉で黒剣を叩きつけた。


「ユウさん!」


とタツヤの声が響いた。

悠馬は飛び上がり〈スラッシュ〉を発動させた。


「うおおぉぉぉおおおお!!」


剣はボスの首筋から入り脇腹に抜けた。

そしてボスは崩れ落ちそして光を帯びそして、

盛大な爆散音をたて光の粒子となり散った。

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