19日目の夜(最終話)

「あの杖がゲートの役割を果たしていたようだ。制御されていなかったせいでマナの力に富んだ生物……お主の世界の魔物たちが勝手に行き来していたようだ」

 制御下に置かれたことで無事魔物の出没は収まったらしい。おかげで館が爆破されることもなく、俺の部屋は今日も無事だ。

 良かった良かった。

「しかしどういうことだ。なぜ賢者の品がお主の部屋にあった?」

「50年くらい前にこっちの世界で隠遁を決め込んだ賢者の遺品さ。それが1年前に日干しされたことで魔力が充填されて、制御されないままに発動してしまってた。それからも大家の母屋に保管されていたけど、1週間前に遺品を整理した際に俺の部屋に移ってきたってわけさ」

 腑に落ちない顔をしているスズにあらためて説明し直す。

「お前の世界の時間で言えば、大体2年前に賢者はこっちに来て、大体2~3週間前に魔力が充填されたってこと」

「なるほど、時間の流れがそれほどまでに違うのか」

 細かく計ったわけじゃないが、大体向こうの1時間がこっちの24時間に当たるはずだ。そうでないとこないだの別れ際の会話が成り立たない。

「お前としては半日足らずでこっちに戻って来たつもりだろうけど、もう10日以上経ってるからな」

「なかなか実感することは難しいがどうやらそうらしいな」

 あとは名前の件も真相に辿り着く助けになっていたが、翻訳機(もしくは生命維持装置)を通じてだと説明が面倒そうだったのでスズには話していない。まあ、別にそれで誰が困るわけでもないか。

「しかし、残念だったな。あれだけ探してた賢者様に会えなくて」

 飛び込んでくるたびに名前を連呼してたことを思い出しつつ、部屋の壁にもたれているスズに声をかけた。

「大丈夫だ。ちゃんと会えたからな。勝るとも劣らぬ賢者殿に」

 スズが俺を見て微笑んだ。よく意味が分からなかったが、まあ本人がそれでいいなら別にいいか。

 このあと、例の杖の解析が進むことで生命維持装置の性能が上がったり、スズがほぼこっちに入り浸りになったり、なぜかスズが武緒さんをライバル視し始めたりと色々あったが、俺にとって何より重要なのは夜の睡眠時間を無事確保できるようになったということだ。

 何しろ深夜に異世界からいちいち日帰りで女騎士様が飛び込んでくるようなことはなくなったわけだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

女騎士と四畳半と行方知れずの大賢者 ギア @re-giant

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ