乙女の姿しばしとどめむ
県立文化センター メインホール
満員の会場、揺れるペンライト、観客席の熱気。
入口の大きな看板には『
結成から5年目を迎えた、6人組人気アイドルグループ、スターライト・ガールズ。グループ初の卒業を発表したのは18歳の吉野リリア。
来春に大学受験を控え、学業に専念するため、8月末のこの公演をもって卒業する。
当初、東京ドームなどを計画していたこの公演は、リリア本人のたっての希望によって彼女の地元のこのホールで行われることになったという。
「みんなー今日は集まってくれてありがとう!私のアイドル人生最後の1日、思いっきり盛り上がってくれますか?」
イメージカラーの水色の衣装をまとった彼女は、満面の笑みで挨拶をした。
家が隣で、物心つく前から仲の良かった幼なじみ。
小学生の頃に私と一緒に遊びに行った東京でスカウトされた
昔から、背が高くて美人だった親友のラストステージ。
親友として、ファンとして見逃すわけには行かなかった。
「時間が経つのは早いもので、次の曲で最後となってしまいました。」
ファンへの今までの感謝を込めた挨拶を終えた今、私がアイドル「吉野リリア」として歌う曲はあと1曲。
5年間のアイドル活動も、残り数分となった。
「デビュー曲で、私の一番好きな曲。それでは、聴いてください ───」
一歩踏み出すと、まばゆいライトに目がくらみそうになる。
イメージカラーのペンライトで埋め尽くされた客席の、水色の波。
ライトに照らされた彼女は、いつにも増して美しく輝いていて、もっと見ていたいと思った。
この時間がもっと長く続けばいいのに…
「天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよ
乙女の姿しばしとどめむ」
若き日の僧正遍昭が舞姫を見て歌ったという和歌。
天女のようだという舞姫を見る彼は、このような気持ちだったのだろうか…
あっという間に曲が終わる。
私の5年間が、終わる。
「5年間、ありがとうございました。さようなら!!」
深々と一礼すると、大きな破裂音と共に紙テープが宙を舞う。
そして、ステージの照明が一際まばゆく輝くと同時に私の乗ったセリが奈落へ降りてゆく。
辛いことも沢山あったけど、充実した、楽しい5年間だった。
まだ、客席からファンの皆さんの歓声が聞こえる。
これだから、ステージにのることは止められなかったんだ。
やっぱり、私はステージに立つことが大好きだ。
微かに滲む視界を拭って、歩いて行けば5人のメンバーが待っていた。
イメージカラーは水色。グループ一番のクールビューティーと謳われた彼女の涙を見たものは、誰もいない。
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