われても末に

「またね!!」

 今朝、 親友がアメリカへ発った。

 父親の転勤で数年は海外にいるという話だ。


 彼女とは幼稚園からの幼なじみで、中学時代も合唱部で同じアルトパートだった。

 そんなに強くないし、規模も小さい部活だったけど、とても楽しかった。

 クラスも3年間一緒で、学校行事の思い出にはいつも彼女がとなりにいた。


「手紙も書くし、メールも送るから!だから、ちゃんと返事してね!」

 いつもと同じ、気の強そうな笑顔。

「もちろん、アメリカにはお餅ってないのかな?大好きなお餅、送るからさ」

「やった!ありがと若葉わかば愛してる〜」

 この大げさなリアクションもしばらく見れないのかと思うと、寂しい。

「アメリカで暴食しすぎて、帰ってきた時に体重120キロとかになってたら、やだからね」

「むしろ今より背が伸びて、スタイル抜群になってやる!」


 そんなことを言っているうちに、出発の時間が来てしまった。

「最後にひとつ。ホントはこれ、恋歌ってくくりなんだけどさ、まぁいいかなって」

 と言って彼女が差し出した紙には、達筆な字で

『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の

 われても末に逢はむとぞ思ふ』

とだけ書かれていた。

 授業でやった百人一首の中、彼女が一番好きな和歌うた。崇徳院の詠んだものだ。

「流れの速い川で、岩にあたった水が二手に分かれてもまたひとつになるように、私達も今は別れてもいつかまた逢って一緒になろう」

 確か、そんな意味だったはず。

「今は遠く離れても、帰ってきた時はまた会おうね!」

 そう言い残して、彼女はアメリカへ飛んでいった。



 春、と言っても桜が散り、若葉の緑が目立ち始めてきた頃、入部届けを手に大学のアカペラサークルの部室の扉の前に立つと、背中から懐かしい声。

「若葉!これから4年間よろしくね!」


 私より背も高くなって、かつて言っていた「スタイル抜群」になった彼女は、入部届けを手にドアを開けて先に室内に入っていった。

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