幕間第四-五話:僕の中の英雄


「───うわぁぁ初っぱなからやられてんじゃねぇかぁぁっ!!!」

 そこは管制塔。教官達はここで選抜試験の監視と各システムのオペレート、並びに各受験者の採点をしている。

 そこでモニターを見ていた教官の一人、本田が悲鳴を上げていた。

 彼が見ていたモニターでは、採点していた第一試験小隊───折原、斎藤、麝香、穂村で編成された小隊だ───が対城塞戦試験をいとも簡単に突破したところだった。

「にしても、折原の奴……ADよりSCスカイ・キャバルリーの方が向いてるんじゃないか?」

「確かに事前検査の結果といい今の跳躍といい、彼は空間認識能力が割りと高い方らしい」

別の教官が彼のデータが書かれた書類を見ながら一人ごちたところに雪姫が反応する。

 話はそれるが補則を入れると、【SC】とは【AD】の亜種と言える機動兵器だ。

 【超高密度炭素複層複合繊維ナノラミネイテッドカードボード】製という共通の分岐点で戦闘用ヘリコプターから派生したそれは『空の騎兵』という名通り空が主戦場となる。戦闘機や爆撃機などそれぞれ専門に特化した機種には劣るが【AD】並の破格の汎用性による様々な作戦に対応する様は優秀だが、反面でパイロットにはその場で様々な事態に対応できる判断力や、なにより高い空間認識能力を必要とした。

「こないだの射撃訓練は散々だったはずだがな……」

「……動きながら撃った方が当たるというやつなんじゃないか?」

「そんなもんかよ……」

 本田がごちたのを宥めるが、無理はない。【AD】には自動照準オートロックオン機能がないから手動で照準を付けなければならない為、パイロットの腕前が直接関わってくるからだ。

 なんせ『地上のドッグファイト』と称される【AD】同士の戦いは激しく動き回りながら撃ち合う為に自動照準が追い付かない為───なにより【超高密度炭素複層複合繊維ナノラミネイテッドカードボード】なんてものがあるから小口径砲の射撃など牽制に等しく、白兵戦をメインにせざるを得ない為に、むしろ邪魔だという理由で搭載されなかったのだ。

 さらに碧徒は射撃訓練にて標的をほとんど外しており、そのため【AD】で激しく動きながらの射撃でほとんど当てるというのが信用できないでいたのだ。


「そういえば次は対AD戦試験でしたね」

 ここで雪姫はふと話題を切り替える。

「私は出ませんが、彼等の健闘を願わせていただきます」

「あぁ、任せておけ。

せいぜい一人二人脱落していくところを拝んでてくれよ、 殿

 そういって、担当の教官達が準備に取り掛かった。



 試験が始まるなり、順調に倒されていく担当教官達。


 その終盤のことだ。

 三人が取り零した一機───番号からして本田が操作する機体だ───が、流華の【閃雷】に迫っていく。

 大河と武尊が気付く時には既に碧徒の【閃雷】は駆けていた。


『―――碧徒さん……!!』

『……無事ぃ?』

『───はい……!!』

『……そ』


 素っ気ない応対。そうしながらも、碧徒の機体は本田の駆る標的機とドッグファイトを繰り広げていた。


『あっぶねぇえ──────なぁっ!!!』


 罵声を放ちながら、対物ナイフを頭部に当たる位置に突き出した碧徒。

 別所で教官により操作されていたそれはパソコン越しで操作する為にカメラが搭載されていた。故に唯一の視界を潰され動きを止める。


 直後全速で後退した碧徒。そこには大河が倒した標的があった。

 いや、用があったのはそれではない。


『大河ぁ……借りるよ?』


 それに突き刺さっていた大剣。それを右手で保持し引き抜いた。


『これで……』


 刃から滴るオイルを払い、フルスロットルで碧徒は突っ込んでいく。

 当てる直前。


『……


 回線越しに、確かに聞こえてきたその言葉。

 碧徒が止めを刺したことで、彼らの試験は終了となった。

 その瞬間を目の当たりにしていた雪姫は───


「……やっぱり、凄いな…………」


 誰にも聞こえない程小さな声で、一人そう呟いていた。

 その目許が、微かにだが潤んでいる。


「……■■は……」


 続く様に漏れたその名は、自分でも霞んで上手く聞き取れなかった。

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