第一章:即席の防衛部隊
第一話:半ば強制の入隊式
「開口一番に言わせて貰う」
学校の教室の様なつくりの部屋。そのまま教室に例えるなら大人数の生徒が座るであろう均等に並べられた机とパイプ椅子の席には、上は四十代、下は少ないが十代の男女が順不同で座らされていた。
その部屋に女性が一人、入室するなり教壇へと向かいながらそう切り出した。
黒く長い髪をポニーテールにしたその女性は、黒っぽい程に濃い緑色の軍服の様な衣装を身に纏っている。
軍服の様な、と表現したが、女性の着ていたカーキー色の
その女性は、教壇の机を一度勢い良く叩き、
「―――貴様らは屑だ!」
突然、そんなことを言い出した。
その罵声に近い一喝に、屑呼ばわりされたこの部屋にいる者のだいたい半数くらいが萎縮してしまっている。
「おっと、失礼。
確かにこの中にも数名くらいは例外が居たかもしれないな」
笑みを浮かべつつ言葉を繋げながら女性は黒板へと向き直り、チョークで何かを書き始める。
「だが、敢えて言おう───今ここに居る貴様らはだいたいが
書き終わったのかチョークを置くなり、振り返り様にバンッ!と豪快に黒板を叩いた。そんなことを言われ、この部屋にいる総勢八十七名のほぼ全員に何かしらの共通点があるらしい青少年男女達は、何か引っかかったのか皆一斉に何とも言い難い表情となってしまう。
『I・G』
これは最初に黒板に書かれていた文字だ。何のことだろう、と恐らくは誰もが思っていたであろう。そして。その文字は女性によって書き足された英単語に『=』で結ばれた。
『Instant Guardian』
「インスタント、ガーディアン……」
書かれたその字を反芻する様に、誰かが読み上げる。
『即席の守護者』
英語に触れなくなって久しい者達が多かったが、それでもある程度の理解があればそう訳すことができるだろう。
「世界情勢というものは限り無く不安定なものだ……手短に行きたいのでここでは詳細を省くが、特に最近は隣国の動きも気になるしな」
そこまで言うと、女性は「そこで、だ」と黒板を叩く。
「今日から貴様らには、新設特務部隊【
その一言に対し、一同は「は?」と言いたい様に口を半開きにして動揺を隠せずにいた。
「貴様らの殆どは自殺願望があってここに来たのだろう?」
ここでいきなり屑と言われた共通点であろうことをカミングアウトされてしまう。
思い当たったとされる者達の表情が一斉に変化していく。
「それだけではないな、重軽問わず出所したてか服役中だった犯罪者もいれば社会復帰する気すら無い
それを聞いた何人かが、笑った気がした。
「よって、だ」
再度、彼女は今度は机を叩く。そして―――
「貴様らの命は、この
どうせ死にたいのなら、せめて国の為に死んで貰おうか!!」
―――一同へ向け、彼女はそう言い放った。
「「「はいぃぃぃっ!!?」」」
一同のだいたい七割方が騒然とし、すっとんきょうな悲鳴を上げるのだった。
そんな中、一人だけ。
彼女の言葉を、ほとんど無表情のまま聞いていた者が一人だけいた。
癖が強いのかあちこちカールがかかった髪を肩より少し低い位置まで伸ばしている男性だ。
その容姿は髪型を除けば良くも悪くも普通の、少なくとも実年齢さえ聞かなければほぼ平均的な顔立ちと言えよう。白髪混じりの髪も相まって黙っているその姿は四十代から五十代ほどにもみえる。それに特徴を強いて挙げるなら、深淵を覗く様な、虚無を目の形にしたかの様な眼差し。
その彼は、まるで彼自身が人形であるかの様に、ただ高らかに謳う女性士官を見詰めていた。
ひとまずの講義を終え、寮舎に戻ろうとしたところで、
「―――貴様ら何をしているっ!!」
前の曲がり角から響いたその怒号に反応した黒咲雪姫は、そちらに向かう。
そこでは数名が何かしらのことで口論になっていた様であり、雪姫はそれに仲介することになった。
どうしたのかと問い質せば、曰く、騒動を起こしたらしい如何にも不良と思える青年が、髪の長い壮年の様な男性が反応を示さなかった事に腹を立てた様だ。
「……せっかくの縁なんだ。
どうせなら仲良くしたまえ」
少々きつい冗談を交えてそう言い(少なくとも雪姫は冗談を交えたつもりだった)、事態を収めさせる。
煮え切らないのが余程不満だったのか、不良そうな青年は「クソッ」と短く毒づきながらその場を後にした。
もう一人の方ものそのそと、何事も無かったかのようにその場を後にした。
「あの不良の方が
もう一人の方は、誰だったか……」
一人、輪郭が濃い坊主頭の男がそう呟き、それにつられる様に集まっていた者達が発言していく。
「一人だけ自己紹介どころか何も話さなかったからね……」
「シンゴ○ラ第二形態みてぇな目してるしな……」
それが反感を買ったのだろう、と理解できた。シン○ジラ似はさすがに言い過ぎだと思うが、虚無という概念を無理矢理瞳の形に模ったかの様と以外に何とも言えない彼の眼差しも馴れない者には不快だった様である。
「……
その名を雪姫が答える。
「年齢は24歳……」
年齢まで答えたことで、その場にいたものの悉くが驚愕することとなる。
「は……!!?」
「あの
実年齢より最低でも二十歳は老けて見えていた。
「一体どんな環境にいたらあんなんになるってんだ……?」
「…………」
独り言の様に呟かれた問いに応えるべき答えもなく、無言のままその背中を視線で追っていた雪姫。その瞳は、どこか憂いを帯びている様に見えた。
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