修学旅行の悲劇

「みんな集まったかー?」


せっかくの修学旅行だっていうのに。

浴衣を着た生徒たちを集めたのは文化委員の加苅かがり君。

私たちの出し物は演劇。加苅君の考えたストーリーを、文字に起こして脚本にするのが私の仕事。

内容は一度聞いたことがある。バトルアクションだということしか覚えていないけど。


「これを見ろ!」

円になって座っている生徒たちの中心に立った加苅君は、銀色に光った物を掲げる。

「エアーガン!?」

男子が銀色の銃を見て目を輝かせる。一方女子は「だから?」といった様子で話の続きを待っている。

「ただのエアーガンではない。この地域にしかない、本物に限りなく似せて作られた貴重なエアーガンだ!」

と加苅君が言うと、男子が「おー!」と雄叫びを上げる。

「これを演劇に使う小道具にしてもいいか?」

「確かに、作業が楽になっていいね」と小道具組の女子が納得する。


「おい加苅、一回その銃で撃たれる練習をさせてくれ」とザコ役の田中が言う。

いいぞと加苅君は返事をし、銃を田中に向けた。

バーン!とふざけた口調で田中を撃つ。

『う~やられた~』と言って倒れていく…………はずの田中。


額から少しずつ、少しずつ赤い液が流れている。そして、頭から地面に倒れた。


「……えっ」

撃った本人も、周りにいた生徒たちも、今何が起こったのかわからず、ただ茫然と死体を見つめていた。数秒間。


何を思ったのか、加苅君が田中の隣にいた山田を銃で撃つ。


「きゃああああああああああああああああ!!!!!!」


状況を理解しだした生徒は鼓膜が壊れるほどの叫び声をあげ、広間から逃げようとするが、いつの間にか外から鍵を閉められ逃げられなくなっていた。腰を抜かして立ち上がれない生徒たちも出てきた。


加苅君は何かに目覚めたのか、狂ったのか、悪魔に取りつかれたように生徒を一人ずつ、一人ずつ殺していく。


私はとっさに逃げ回る生徒を盾に隠れたが、それも加苅君のせいで倒れていく。


だめだ、これじゃあ、全員殺されてしまう。

盾にした生徒の隙間から、加苅君の様子を伺う。

ちがう、加苅君じゃない。あれは狂いだした悪魔だ。


私は、勇気を振り絞って、加苅君から銃を奪おうとしている男子たちのもとへ行った。彼らは結局銃を奪えず、撃ち殺されてしまっている。


学年のみんなが次々と倒れていくその光景は、人生見てきた中で一番残酷だった。


「加苅君、やめて!」

加苅君の目の前に立ち、大声で叫んでも、まったく目を覚ましてくれなかった。

その代わり、彼の赤く染まってしまった目と合わさる。

私に奇妙な笑顔を向けてきた。

「オマエハ……オレガコロス……シネ」

「わ、私は死なない! 加苅君の作った物語を、書き終えるまで、私は死なないから!!」

「ウルセエ――」


バンッ! と私に向かって銃が撃たれる。

死んじゃう……!


カチン……


「あれ……」

弾があったのは感じたのに、痛みは感じない。

閉じていた目を開けると、足元に弾が転がっていたのを見つける。

バンとまた加苅君が私に向けて二発撃つ。

弾は心臓を向かって発射されたが、私の体を貫通しなかった。


「ナゼダ……」


どうして私の体を通らないのかはわからないけど、ちょうどよかった。


降ってくる銃弾を跳ね返しながら、狂った加苅君の飛び蹴りをかましてやった。

一瞬で気絶し、頭から地面に倒れる。




一件落着。だけど、失ったものが多すぎた。

周りを見渡す。倒れたみんなのいる床が、赤い液で染められている。


あの赤い液は、なんだろう。



【終】

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