~MIREI~

「あれ、ユウタとアオイじゃん!」


それは偶然だった。


最近忙しくて会えなかった男友達と再会したミレイ、ヒナ、ユイの三人。


「おお、久しぶりだな」


「おひさ〜」


ユウタとアオイを合わせたこの五人は幼馴染。


「元気してたか、ミレイ?」


「うん。おかげさまで」


ユウタは五人の中で一番年上。ユウタとユイは兄妹。あまり会えなかったのも、今年から大学に行き始めたから。小さい頃からみんなを引っ張ってくれていて、そんな頼れるお兄さんのような姿にミレイは惚れていた。


「ヒナは?」


「うん〜元気〜」


だけど、去年のことだっただろうか。ヒナも同じく、ユウタが好きだった。ヒナは去年ユウタに告白したが、「妹としか見れない」と言われ、ふられている。そんなことがあって、仲が悪いと思ってしまうが、今はお互いとてもいい親友でライバル同士の関係だ。


「会いたかったよアオイ!」


「俺もだよユイ!」


ユイとアオイは中学の頃から両思いだ。付き合っているかは幼馴染達にもわからない。





「あれ……?」


わいわいはしゃぎすぎて気づかなかったが、ユウタとアオイと一緒にいるもう一人の男子がいた。初めて会う人だ。


「ああ、こいつは大学の初めての友達」


ユウタがその人をミレイたちの前に立たせる。


「初めまして、レイです」


その人はユウタとアオイよりも背が高くて、黒髪で、少しつり目で、世間でいうイケメンだった。


しばらくレイを見つめてしまうミレイ。


レイが視線に気づいたようで、目が合ってしまう。彼のニコッと笑いかける顔はとてもかっこよかった。





――その日は、公園で子供の頃のようにいっぱい遊んだ――





再会して三日後、ユイ、ヒナ、ミレイの三人はあるレストランで食事をしていた。


机も椅子も、壁も一面真っ白な、不思議なレストランだった。出されるのは普通のイタリア料理。ヒナは大好きなピザに、ミレイは大好きなパスタにかぶりつく。それをユイは呆れ顔で眺める。


「一名様ですか?」


「はい」


隣の机に新しいお客さんがくる。顔は見ていないが、雰囲気的に男性だったので、ヒナとミレイは控えめに食事を始める。





数分後、男性の頼んだ料理がくる。美味しそうな(グラタン)の匂いのせいで思わず彼の顔を見る。





その人は……





「レイ君!?」


ヒナたちもレイ君の方を向く。


「あー、ほんとだ」


レイも驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。





「三人とも本当に仲が良いんだね。ミレイちゃんたちの話はよくユウタから聞いたよ」


「まさか、あの恥ずかしい出来事も!?」


ミレイの顔が次第に赤くなっていく。


「ま……まあ」


「まじかぁ……」


へたれるミレイに三人は笑った。





「そういえば、お兄ちゃん達と一緒じゃないんですか?」


ユイが不思議そうにレイに質問する。


確かに、とヒナとミレイが思う。こんなレストランに、一人で来る人はあまりいないからだ。


「ああ、ユウタとアオイなら多分——」





その時、ユイの携帯が叫ぶように鳴る。


「お母さんか」


ユイはミレイ達にも聞こえるようにスピーカーをオンにした。


「もしもし?」


『ユウタとアオイが誘拐されたの』


「「「え!?」」」





あの日から、何日たつだろう……


最近の日常は、学校終わりに警察署に行って二人の手がかりを聞くこと。新人っぽい刑事さんが捜査状況を詳しく言ってくれるので助かっているが、居場所はまだつかめていない。





「もう、耐えられない」


ミレイが机をバンと叩く。


「私たちだけで、二人を探そう」


ミレイの言葉に勿論、ユイとヒナは驚いた。


「でも、危ないよ……」とヒナ。


「それは警察の仕事でしょ?」とユイ。


「それでも、私は探す」


これ以上説得しても折れないだろう。そう思ったユイとヒナは賛成した。





ヒナはインターネットで情報収集。ユイはユウタの友人たちに聞き込み調査。ミレイはレイに聞き込み調査。


レイに連絡をすると、「〇〇公園で待ってて」と言われた。





「ここか……」


待ち合わせ場所となった公園に着く。周りに遊んでいる子供はいない。そして、公園の目の前にはボロアパートがある。マンションの壁はヒビだらけ。明らかに怪しい。だけど、怪しいからこそ、ここにユウタとアオイがいるかもしれない。レイが公園に到着する時間までまだある。


ミレイはボロアパートの中に入った。





辺りは薄暗く、一つ一つの部屋に誰も住んでいないような雰囲気だった。


地下へ続く階段もあり、薄気味悪い。


だが、二階に上がり、一個目の部屋を通り過ぎると、その部屋から老人が出てきた。


こんなボロアパートでも、人が住んでいるのか。老人の雰囲気が誰かと似てる気がしたが、


気にせず上の階に上って行く。


ボロアパートの最上階は4階。同じく誰か住んでいる気配なし。だけど、一部屋だけドアが少し開いていた。


ミレイは中を覗いてみた。


「え……」


玄関から奥へ続く廊下に、黒くなってしまった血が散らばられていた。


ミレイの足が竦んでしまう。


そして、その場に倒れこんでしまう。血で散らばられた廊下の向こうには人の影が。目の良いミレイはその影を確かめた。


「いやっ!……」


確かめたミレイの身体は激しく震え、涙目になってしまう。声が出そうになり口を押さえる。


廊下の向こうの人影は、血まみれになったユウタとアオイの体だった。


「言わなきゃ……警察に言わなきゃ……」


急いで警察に電話しようと携帯を出そうとしたが、手が震えて出すのも打つのも困難だった。


タッタッタ


「え……」


いつの間にか、背後に二階でみた老人が立っていた。老人はシワだらけの口元をニヤリとさせ、持っていた金属バットを振りかぶった。


避けようとしたのに、身体が余計に震えて動けない。


やばい……殺される。


覚悟を決めて目を瞑った。けど……


ガバッ


痛みも感じず、殴る音もなかった。ゆっくりと目を開くと、そこにはレイが……


老人は舌打ちをし、さっさと金属バットを捨てて去った。


「立てるか?」


おい被さっていたレイは立ち、手を差し出す。彼の手を取ったが、身体がまだ震えていてなかなか立ち上がれない。


「しょうがねえ」


レイはそう言うと、ミレイに背中を向けてしゃがんだ。


「乗れ」


「う……うん」


そっとレイの肩に手を置く。


軽々と持ち上げられ、一気に視線が高くなった。


レイがゆっくりと歩き出す。


「お前、心臓がすごい鳴ってるぞ」


「あ、びっくりしたからかな……?」


だけど、本当はレイのせいでドキドキしている。どうかと思うが、ミレイはレイに恋してしまった。


「助けてくれて、ありがとう」


ミレイはレイの首元に手を回し、ゆっくりとその背中で眠りについた。





「ん……ここ……どこ……?」


目を開けると、一面灰色の壁で覆われていた部屋にとじこめられていたことに気づく。手足は縛られ、身動きができない。


「レイ……ここどこ……?」


レイは背中を合わせた状態で、同じく縛られている。


「油断してた……」


レイは声を押し殺して悔しそうに言う。


「どういうこと……?」


「あの老人に、ボロアパートの地下に閉じ込められた」


「うそ……あの薄気味悪い地下に!?」


ボロアパートを入った時に見た地下へ続く薄気味悪い階段を思い出す。


そもそもこのアパートは人が住んでいる気配はなく、ただあの襲ってきた老人しかいなかった。あの老人がユウタとアオイを殺したに違いない。


「まさか……あの老人……このアパートで人を殺してるの……?」


身体がまた震えだす。


「ああ、俺らの今いる地下でも、殺してるみたいだ」


そう言ってレイは床を指差した。


そこには、黒くなってしまった血が散らばっていた。


「いやっ……死にたくない……」


涙をホロリと流すミレイの肩に、レイは手を置いた。


「ここから出よう」


「え……」


レイはいつの間にかしばられていた手を解いていた。ゆっくりとミレイを抱きしめる。


(私……やっぱりレイが好き……)


ミレイは決意した。この人について行くと。


レイがミレイの縛られた手を解いた。


老人だから忘れん坊なのか、幸い地下の扉が開いていた。


静かに扉を押し、地下を出た。


だけど……


「待て……」


老人が金属バットの次に、切れ味の良さそうなナイフを持って近づいてきた。


「くそ、俺らが出るのを待ってたのかよ……」


「え……?」


手足縛っておいてなんでいちいち待つの?とミレイは思いながらも逃げる準備をする。


少しずつボロアパートを離れていく。老人もまた、ナイフを持ったままボロアパートを出た。


ミレイが周囲を見渡す。


森だ……


「レイ!」


レイの手を思いっきり引っ張り、2人は森に逃げていく。





「ここならもう、大丈夫だよね?」


「結構走ったから大丈夫だろ」


ビルが見えないくらいまで森の奥につき、大きい樹の影に座る。時間は午後4時。そろそろ空が赤くなる時間だ。


「疲れた〜」


ミレイがポンとレイの肩に頭をおく。


このまま眠りにつきそうな勢いだった。目を閉じようとしたが、


スッ


「……ん?」


レイに押し倒される。まさか……キスされるのかな?


ドキドキしながらミレイは再び目を閉じようとした。


キラン


レイは右手を背中に隠し、光に反射する物を持っていた。その物が次第に背中から離れる。


「カッター……?」


グサッ


反射的に避けたものの、


「レイ……どうしたの?」


レイがニタリと笑う。地面に刺されたカッターを引き抜き、またミレイに向かって刺そうとする。


「いやっ!」


身体を起こし、上手くレイから離れた。その拍子にレイがカッターを落とす。


ミレイは反射的にそのカッターを取る。


そして、カッターをレイに向ける。


レイはゆっくりと立ち上がり、ミレイの前に立つ。まだニタリと笑ったままだ。


「な……なんで……私を殺そうとしたの……?」


「カッターを返せ……」


レイが一歩前に出る。ミレイも一歩下がる。


「答えてよ……」


「返せ……」


一歩前に出られ、また下がるが続き、背中が樹木に当たる。もう逃げ場がない。


「レイお願い、答えて」


ずっとニタリと笑っていた顔がスッと獲物を殺すような顔になる。


「さっきの老人は俺の祖父だ。お前があいつに殺されてたまるか」


キュンとしそうな言葉を言われたが今では恐怖でしかなかった。


祖父が殺人犯なら、レイも……?


「人……殺したことあるの?」


「……ああ」


地面に響くような声の低さで言われる。ミレイも、樹木に支えてもらえないと立っていられなくなった。


「俺の趣味、知ってるか?」


表情はそのままだが、口調は楽しそうだった。


次に言われる言葉を待つも、聞きたくない気持ちも襲ってくる。


「人の肉を削ぐことだ」


その言葉で全てが繋がれた。レイはユウタとアオイを友人だとは思っていない。ただのターゲットに過ぎなかった。そして、ミレイも……。


「特にお前は削ぎやすそうだ。だから、お前は俺が殺すんだ」


立つのもしんどくなり座り込んでしまったミレイ。レイがどんどん近づいてくる。


「や……やめて……殺さないで……」


頬に涙が伝う。


レイはまたニタリと笑う。そして、彼の両手がミレイの首を締め付けようとしゃがんでくる。


どうしよう……殺される……。咄嗟に目を瞑った。


あと何ミリの所で締め付けられようとしたその時、





スッ





カッターを横に振り回したミレイ。何かを切った感覚がした。ゆっくり目を開けると、


レイが頬からダラダラと流れる血を押さえつけている。


それを見たミレイは、身体に電流が走ったような感覚を覚える。





「あれ……楽しい」





END

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