フェリクス王子(おまけ)
「はー……おとなしい、せめてまともな感覚を持った嫁が欲しいです」
フェリクスは、転生者だ。さすがに赤ん坊の時からはっきりと意識を持って、転生者として生きてきた訳ではないが、気がつけば前世の記憶がはっきりとあった。
魔法があり、電気はない、分かりやすいほど明らかなまでに異世界らしい異世界。『精霊』だなどという、偉そうな存在が当たり前のような顔をして、城の中を歩いている世界で、
ただ、精霊である彼は、なんと前世の友人だった。
「なんなんだよ、この世界」
別に国王に子供が居なくても支障は無い。が、王の直系の子供は多ければ多いほど良い、というお国柄らしく、十歳の時からフェリクスには妃が与えられている。
いらない、妃など邪魔だ、とどれだけフェリクス……伸弥が訴えても、それはどんどん増やされ、今度十五人目の妃が選ばれたそうだ。
フェリクス王子の妃は全員、美しい。が、全員が全員、ひどく趣味が悪い。なんだか香水や化粧、部屋の香と全部が混じってなんとも言えない異臭を放っていて、宝石にも極彩色の衣類にも調度にも、吐き気がした。何度言っても改悪されるばかりで、その辺りは早々に匙を投げた。
更にいうならなぜか彼女たちは性に開放的過ぎる。伸弥は正直、ぐいぐい来る彼女たちが怖かった。恥じらえとは言わない、せめて、ふたりきりでさせて。
だから、伸弥がそんな妃たちの過ごす離宮に足を運ぶことはほぼ、無いに等しい。
「いったい、何なんだよ、この世界」
ハーレムうはうははどうしたんだよ、と伸弥はテーブルに突っ伏した。
「俺は、『ソカカレ』じゃないかなと思ってる」
『ソカカレ』。
『ソカレリル・カレィドスコォプ』という、スマートフォンのアプリで遊ぶオンラインゲームだ。
伸弥もコーガイもそのゲームにのめり込み、同じギルドに所属していた。
「『ヨヌイールチ』とか『コーガイ』『フェリクス』だなんて聞いたことないぞ」
伸弥は目を細めて、コーガイを見る。以前に一度、伸弥は異世界に転移したことがある。その時も、何て言ったか、やはり聞いたことの無い国名で、聞いたことの無いキャラクターばかりだった。
「けど、『レオリール』は覚えてるだろ」
『レオリール』は前世での伸弥の妻、
その麗自身は普通の主婦だったけれど、異世界ではなんと『異世界より渡りし巫女』だとかいう大層な肩書きを持つ女性で、ついにはとある国の王妃にまでなってしまったのだが。
異世界と現世日本を往き来するのでは困るだろうと、伸弥は幼なじみだった麗と結婚する道を選んだ。ちなみに麗との間に子供は三人、孫は八人できている。それなりに愛のある家庭だった。
「ああ。覚えてる」
「『レオリール』が、この国が占領した国『アテル』にいる」
「マジか」
そこで、はたと伸弥は気がついた。厄介で、とても重要なことを思い出したのだ。
「『アテル』……?」
『アテル』は、伸弥の妻、麗がいるかもしれない国だった。
麗はこちらでは『うらら』と呼ばれていて、こちらの世界の夫は、うららを溺愛しているヤンデレ気質の優秀すぎる男だ。
「うわ……俺、アテルには関わりたくない」
「いや、でも、今度妃に選ばれたハリエットって娘、『レオリール』の従姉妹だぞ」
「…………なっ………………」
「最近、アテルの方に精霊の気配をびしばし感じてる」
「うわ……俺、どうやったら生きていけるかな……」
レオリール・コルベリは領主になれない ササガミ @sasagami
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