ヨヌイールチの精霊

 組まれた木が勢いよく燃えている。

 パチパチと火の粉が夜空に舞い上がっていて、明かりに照らされた村人たちは楽しそうに笑っていた。


「おう、王様! 食べてるか?」


 俺は、丁度手に持っていた、肉のパン包みを少し持ち上げて、声をかけてきたその男に見せてから、勢いよくかじりついた。


 ピザ生地とパンの中間くらいの、ふんわり甘い香りがするもちもちとした皮を噛みきった直後、シャクっ!、とみずみずしい野菜にいきつく。炭火であぶられた肉の香ばしさがぶわっと鼻に抜けていった。肉は柔らかく、しっかりと味付けがされているけれど、新鮮な野菜のおかげだろう、しつこさは感じない。これ、お弁当にしてもらって明日の朝か昼にまた食べたい。


「良い食べっぷりだな、おい!」


 がっはっはと笑い、村の顔役であるその男は俺のカップに酒を足した。俺も笑ってその酒をごくっと飲む。口当たりは軽いけれど、甘くはない。ふわっと花の香りがする、さっぱりとした良い酒だ。


「新国王に乾杯! アテル王国に乾杯!」


 俺が飲み干したカップをタン、とテーブルに置いたところで、男が広場に向かって叫んだ。隣に座っているディドレさんがちょっとだけビクッとしていたのを少し、申し訳なく思う。ごめんねディドレさん。こういうノリ、きっと始めてだよね。


「新国王に乾杯! アテル王国に乾杯!」

「新国王に乾杯! アテル王国に乾杯!」


 男に続き、人々が唱和する。やがて彼らは歌い出し、合わせるように楽器が鳴らされ、そして踊りだした。


 楽しい。俺は楽しいけど、やっぱりディドレさんは怯えているみたいだ。

 料理でちょっと汚れた手を専用のボウルで軽く洗い、綺麗な布で拭いてから、隣でひきつった笑顔を浮かべたディドレさんの手を優しく握った。


「初めてだと、怖いよね。でも、大丈夫」


 村人たちの姿勢は、やっぱりなんだか格好が悪く見える。もう少しなんとかできないものか、とつい考えてしまう。

 素手で料理をつかんで食べることも城や神殿ではあり得ないし、大きな口を開けて料理にかぶりつくだなんて、きっとディドレさんもはしたないとか、見苦しいと感じていることだろう。

 さらに彼らは料理の汁や脂のついたその手を、服で拭っているようにも見える。


 けれど、彼らは不潔でないと今の俺は知っている。けっこうこまめに手を洗って、腰から下げた手拭いでしっかり拭いていたりする。よく見れば、手拭いも使いっぱなしではなく、かなりこまめに変えているようだった。

 大きな声で笑うのも、慣れてしまえばつられて陽気な気分になってくる。以前は俺も、ああいう者たちには何をされるかわからない、近寄られたくないと思っていた。


「彼らは俺たちとはいろいろ違うけど……でもね、心から俺たちのことを歓迎してくれてる。俺たちの結婚を喜んでくれているんだ」

「レオリール様……ええ、もう、わたし、レオリール様がいてくだされば、何も怖くありません」


 よかった。さっきまでちょっと怯えていたディドレさんがにっこりと笑ってくれた。


 ……今はまだ、なにもできない王様だけど、彼らが笑っていられる国を作っていければ良いと、俺は最近考えている。きっとテオ様はこれからもいろいろ助けてくれるだろうし、うららちゃんはこれからもマイルールを主張して、いろいろ引っ掻き回してくれることだろう。甘い甘い飴玉みたいなディドレさんの瞳がキラキラしていて、綺麗だと思った。


「ま、結局はなんでもいいから飲んで騒ぐ理由が欲しいだけなんだよね、こういうのは」


 もっもっもっもっと山盛りのサラダを食べていたうららちゃんがボソッと言う。その隣では同じくらいの山盛りサラダにもっもっもっもっとアイがかじりついていた。


「国民なんてものは勝手に期待を上乗せしてきて、勝手に失望してくるものだからね。こうやって人気をある程度稼いでおくのは良いことだよ」


 テオ様は自分の前に積まれた料理から手早く野菜を抜いて、うららちゃんの皿に乗せている。ああ、またその運用なんですね、と思ってなんとなくその様子をディドレさんと見ていたせいか、うららちゃんはだんだん増える野菜の不思議に気がついたようだ。じーっとテオ様を見つめだした。するとテオ様はたまらなく嬉しいという様子で微笑む。


「テオ様って本当にうららちゃんのことが好きだよね」

「ええ、わたしもああいうご夫婦に憧れます」

「………………え?」


 美しいテオ様の微笑みを見てしまったらしい若い女の子たちが、きゃーっと黄色い声をあげていた。


「あのさぁ、好き嫌いするのはいいけど、レオリールとかアイが真似したら困るじゃん。たまにはちゃんと食べよう?」


 ザクザクとうららちゃんがフォークに刺した野菜を、テオ様の前に差し出す。テオ様はとても複雑そうな表情でそれを食べていた。


「いくらなんでも、もういいんじゃないのか?」


 ついさっきまで、森で獣を狩ってきていたバティストは、焚き火の近くのヤニックを呆れた顔で見ている。

 ヤニックはさっきから、棒に生地をつけては焼き、つけては焼き……と繰り返していた。


「いや、まだまだだ。俺の本気はまだまだだ……」


 ヤニックの焼いている生地からは、ものすごく甘い香りがする、そのせいだろう、小さな子供たちが数人、周りにいる。ゴツい男ふたりと、それに群がるかわいい子供たち、中心には焼き菓子。なんだか愉快でほのぼのとした風景だった。まさか歓迎の宴でバームクーヘンを焼く人間が現れるとは誰も思わないだろう。


 昼間、鳥の巨大モンスターを数体倒したせいか、なにやら勢いづいてしまったらしいバティストが捕獲してきた獣の山。それを見た村人たちはずいぶんと驚いていた。結果がこの宴である。


「しかし、行きと同じ街道をそのまま戻ることになるとは思わなかったな」


 パルヴィーンが、村の料理上手たちが作った新しい料理を持ってきてくれた。これはなんだろう、パッと見はグラタンのように見える。でも、皿が葉っぱなんだよね。


「そうですね。このまま国を一周するのかと考えていました」


 テオ様がイスメールに言ってグラタン風に見える料理を早速取り分けてもらっていた。目を輝かせ、食べたさそうにしていたうららちゃんに、それを差し出す。スマートだ。

 俺も見習おうと、パルヴィーンにグラタンを取り分けてもらう。そっとディドレさんの前に皿を置いたら、お礼を言ってもらえた。


「それだと余計な『吹き溜まり』を新しく作りかねないからね」


 うららちゃんに、サラダより優先される料理があるとは思わなかった。『吹き溜まり』っていうのは、魔物が妙に湧くポイントのことだ。そんなものが増えられたら、堪らない。


「ま、その辺は任せてよ。うまい具合に『吹き溜まり』無しでモンスターを減らす方向になんとかするからさ」


 モンスターが完全に居なくなるのも困るので、その辺は上手く調整しながら、なんとかしてくれるとうららちゃんが宣言してくれた。


「まぁ、美味しい。一口いかがですか?」


 ディドレさんがフォークに乗せたグラタンを、俺に差し出してくれる。

 ヤバい。もったいなさすぎて食べたくない。でもめちゃくちゃ食べたい。ディドレさんがかわいい。


 ホワイトソースはしあわせの味でした。


「……それに、そろそろあちらの国も動いているだろうからね。一旦王都に帰ったほうがいい」

「ヨヌイールチが?」

「絶対気づいてると思うよ。アタシなら、もう、とっくに乗り込んできてる時期」


 うららちゃんにグラタンのお代わりを渡しながら、テオ様は困ったように笑う。


「普通の精霊は自分の国からは出ていけないだろう」

「レリオがすごかったってことだよね?」

「そうだけど……例え我々であっても、負担が大きいのは確かなんだ。無理をして欲しくないな」

「……わかってるって」

「よし、完成だ!」


 焼きたてバウムクーヘンが皆に振る舞われ、夜は更けていく。

 時々巨大モンスターを召喚し、倒し、合わせてモンスターや獣をバティストが刈りまくり、宴になる。そんな旅をして、俺たちはクロウェルドに戻った。


 クロウェルドに到着したら早速、対策会議のようなことをしてヨヌイールチの侵攻に備えることになった。

 データスの集めてくれた情報だと、ヨヌイールチのフェリクス王子が、嫁入りするハリエットを迎えに来るため、こちらに向かってきているようだ。


「ハリエットのお迎え、ねぇ……?」


 そのうちヨヌイールチの使者が本当に来て、ハリエットを迎えに来た、と言えば、俺達も表向きはそう対応するしかない。


 ヨヌイールチとアテルの国境には険しい山脈が広がっている。行き来ができるのはこのダラム平原だけだ。昔は砦だったと言うダラムの城で、俺たちは王子一行を迎えるための準備をしていた。


 俺の準備といえば、ディドレさんと一緒に、王族としての礼儀を復習することだけだ。歓迎やらなにやらの手配はプロスペリとイスメール、データスがやってくれている。もし万が一ヨヌイールチが攻めてきたときの対応もアークイワとヅンズィエを中心に、準備はしている。


 応対するための礼装をさせられた俺たちに、テオ様が最後のチェックをしてくれていた。うららちゃんは最近ずっと、窓辺からヨヌイールチのほうを睨みっぱなしだ。


 ハッとしたようにテオ様がうららちゃんを見るのと、うららちゃんが勢いよく立ち上がるのは一緒だった。


 ふ、と 違和感を感じる。


「アイはレオリールを守るっ!」

「あいっ!」


 儀礼用だから、と言われて腰におびていたハナチラシミナモは、いつのまにかうららちゃんの手の中に収まっていた。

 代わりに、アイが俺の肩に乗る。

 ぼとり、と目の前の床にアイが宿ると言われている剣が落ちたのを、俺はあわてて拾い上げた。


 ふぁさっ。とうららちゃんが羽を広げた。


 でも、音はやっぱりしなかった。


 壁も、窓も無視して、うららちゃんは羽を大きく動かす。人の姿をして、背中にフクロウの羽を持つ精霊はハナチラシミナモを手に飛んで行ってしまった。 窓の外、遠くにヨヌイールチ一行らしい集団が見えていて、そこにうららちゃんが突っ込んでいった。


「ふっっざけんなーーーーーっ!!」


 ビリビリと空気が振動したのは、うららちゃんが信じられないぐらいの声量で叫んだからだ。


「え? は?」


 なんで、うららちゃんはいきなりヨヌイールチ王子一行に突っ込んで行ってしまったんだ!?

 話し合いができなくなるじゃないかっ!


 領土を奪われたことでヨヌイールチを不快に感じているのは知っていたけど、あそこまでキレるだなんて思ってなかった。急いで護衛を連れて、俺たちはうららちゃんが暴れている場所に向かおうとした。

 けど、ある一点で テオ様が立ち止まってしまう。


「ここより先が今のヨヌイールチだ。我々はここより先に行ってはいけない。……うららさんの負担を増やしてしまうからね」


 少し遠いけど、ヨヌイールチ一行にいた一人の男性と、うららちゃんが戦いを繰り広げているのがここからでもよく見える。


 気がつけばヨヌイールチの方々も呆然としているのがわかった。


「止め……止めさせないと!」

「今はいけない。特に私と君だけは、絶対にここから先に行ってはいけないよ」


 テオ様が魔法を展開し、俺とテオ様の前に壁が現れた。ガラスによく似た、花水晶の透明な壁だったから、戦闘は引き続きよく見える。


「何がどうしていきなり、うららちゃんは飛び出していってしまわれたのでしょう」


 ディドレさんがポツリ、とこぼした言葉に、テオ様は顔をしかめながら返した。


「言っていたよね? うららさんは、アテルを取り戻すと。それは精霊同士の話し合いでしか行われないことだ」

「あれが?あれのどこが話し合い!?」

「普通、本能的に精霊は多くの土地を求める。それをふまえれば、すんなり返して貰えるとはとても思えない。だから、返してもらおうとするならば、ああして戦って勝ち、奪い取るしかないと私も思うよ」


 バシン、だぁん、ドカン、と、およそ剣と槍での戦いとは思えないような音や振動が辺りには響いている。


「でも……止めないと」

「ダメだ」


 厳しい声で、テオ様は言う。


「精霊はね、自分の領地を出れば、それだけで崩壊が始まっていく存在だ。うららさん程の霊格があるから、ああやって戦っていられるだけで、彼女でさえ、もうわずかに崩壊が始まっている。私たちまであちらに行けば、うららさんの崩壊を更に進めることになる」

「崩壊って……」


 崩壊って、まさか、あのうららちゃんが崩れて消えてしまうのだろうか。

 テオ様の表情は苦々しそうで、手は、震えていた。


「それでも私たちは、アテル王国を取り戻したいんだ」


 ヨヌイールチの集団から、一人の男性が走っていくのが見えた。


 彼が何かを言い、なぜか戦闘が止む。

 うららちゃんは腹立たしそうに、剣を何も無い方角に向けて振った。バスっと大地が割れ、その強大な力を俺たちは思い知る。


「……っレイっ!!!!」


 直後、ふらりとうららちゃんが倒れた。

 バン、とテオ様が花水晶の壁に両手を叩きつけた。


 うららちゃんは先ほどまで戦っていたはずの男性に抱えられ、運ばれる。堪らないという様子で壁を魔法で消去したテオ様はそれでも、ヨヌイールチに足を踏み出すことはできなかった。

 幸い、うららちゃんはこちらに……テオ様の腕に返してもらうことができた。


「やぁ、レオリール王」


 うららちゃんを抱えていた男性と、もう一人の男性が先頭になり、その後からヨヌイールチ一行が向かってくる。

 明らかに、うららちゃんが非礼を働いたことになるんじゃないのかな、これ。どうしよう。


「俺はフェリクス。こちらはコーガイだ。彼も含めて話がしたいんだけど、申し訳ないことに彼はうららちゃんほど精霊としての能力は高くないんだ。ここでこのまま、話をさせて貰えないかな」


 今ここにイスメールとプロスペリが居てくれないのが不安だけど、これから来てもらうことはできそうだ。テオ様がいるだけマシだと思いながら、俺は護衛に話し合いができる場所の手配をするよう、指示を出した。ついでにイスメールも呼ぶように言っておく。


 会議に使える大型テントを準備させて、俺、うららちゃん、テオ様、イスメール、パルヴィーン、フェリクス王子、コーガイさんがテントに入って、話をすることになった。


「久しぶり、うららちゃん」

「……久しぶり」

「元気してたか?」

「見ればわかるでしょ」


 なぜかヨヌイールチの精霊に気に入られているらしく、ぐりぐりうららちゃんは頭をなで回されている。そしてやはりなぜか、精霊たちはフェリクス王子とも知り合いだったみたいだ。


 テオ様の笑顔が輝いている。これは、俺でもわかる。

 テオ様は今非常に機嫌が悪い。うららちゃんも機嫌があまりよろしくなさそうだ。ヨヌイールチのふたりは機嫌が良さそうだけど、さっきまでうららちゃんが盛大な失礼を働いている。


 ……俺の胃が心配です。


「しんちゃん、コーガイさん、アテル、返して」


 我慢できない、とでもいうように、テオ様がうららちゃんを膝の上に抱き上げた。


 フェリクス王子は『しんちゃん』じゃないと俺は思う。


「うん、俺とうららちゃんの仲だしね。いいよ。な、コーガイ」

「ああ。俺たちの仲だからな」


 じたばた暴れて、うららちゃんはテオ様の膝からも降りる。

 ふわりと溶けたかと思うと、テーブルの上にカピバラ姿で伏せの体制になった。


「おっ!? すげぇ、マスコットになれんのか!?」

「マスコット?」

「覚えてないのか?『ソカカレ』の……」

「あーあーあー『ソカカレ』は精霊の秘密だからっ!人間に話しちゃダメだから! 生きる気力無くすかもしれない級守秘義務だからっ!!」


 ……そんな重大な秘密、明かさないで欲しい。

 俺は必死でその謎言語を脳内消去することにした。


「時間はきっとかかるだろうけど、仲良くしよう」


 フェリクス王子はそう言ってくれた。

 今回の失礼を、彼らは失礼だとは思わなかったらしい。運が良かった。


「だって、精霊って、そんなもんだろ」


 コーガイさんはそう言って、笑ってくれた。


 そのあと、精霊同士で何かのやり取りをして、ダラム平原とダラムの城までは、アテルの国となった。けど、コーガイさんもダラムの城までは入れることになったそうだ。

 その辺はうららちゃんと、コーガイさんだけでのやり取りだったから、何がどうしてそうなったのかがよく分からない。


 ……俺、国王なのに。


 それにしても、ヨヌイールチはアテルを失う。かなりの損害を出すんじゃないだろうか。


「こちらとしては、『魔除けの聖石』の返却を求めないでもらえれば、充分だ」

「……やっぱり、ヨヌイールチに持ってってたんだ」


 言いにくそうに、でもはっきりと要求を口にしたフェリクス王子を、うららちゃんが睨んでいた。


「『魔除けの聖石』?」


『魔除けの聖石』と聞いて、フィアーナで貰ったあの小さな板のことを思い出した。


 ふぅ、と大きくテオ様が息を吐く。


「それで手を打とう。今後は、輸出品に含める」

「ありがとう」


 テオ様とフェリクス王子が握手をして、アテル王国にあまり損害が無いことだけ、俺は理解した。


 ……俺、国王なのに。


 後で聞いたことだけど、昔、クロウェルドはほとんどが『魔除けの聖石』と呼ばれるあの黒っぽい石でできていたそうだ。


 そして、アテルに精霊が眠りについてほぼ居ないも同然、と知ったコーガイさんの先代の精霊さんがアテルに来て、あらかたの『魔除けの聖石』をヨヌイールチに持っていってしまったらしい。そのせいで、アテルは魔物が増えてしまった、と。

 先代の精霊はヨヌイールチを出たことで崩壊し、コーガイさんが精霊になった。


「『魔除けの聖石』はなぜかアテルでしか産まれないものだし、ヨヌイールチでもあれは便利なものだし、国交が無いうちは簡単に輸入もできないしで、ヨヌイールチはかなり困ってたらしいよ」


 昔は、他国を経由してまで入手していたと聞いて、その便利さを旅で知っている俺はうなずいた。

 あれがあるとないとでは、かなり、いろいろなことが変わるだろう。


 数日間、フェリクス王子はクロウェルドにも滞在し、ハリエットを連れて帰っていった。俺とも同年代だったし、けっこう、フェリクス王子ら親しみやすくていいやつだった。


 ハリエットはちょっと嫌がっていたけど、フェリクス王子に微笑まれたら顔を真っ赤にしていた。そのときに、ハリエットの教育係とかいう男が、何か問題を起こしたらしい。けど、そちらはデータスが上手く処理してくれたみたいだ。


 ……そして、


 何回か大地の魔力をおとなしくさせる為の旅をしたあと、クロウェルドの城で、俺は国王業に専念することになった。

 時々は、テオ様……アラステア様に、相談をするけれど、大体はプロスペリとイスメールと国を運営している。

 アラステア様は今、息子たちの教師をしてくれている。半年後には学校が完成して、そこの校長になることが決まっている。


 フェリクス王子も今は国王となり、友好的な関係を結べている。あちらの国ではお妃が二十人もいるのに、世継ぎが居ないのはもう、立派なネタ扱いだ。会うといつも「女が怖い」と言っている。コーガイさんは、フェリクス王子の甥を次の国王にと考えているらしい。


 イスメールとパルヴィーンは結婚した。でも、パルヴィーンは引き続きディドレの侍女兼護衛をしてくれている。

 ヤニックは相変わらず、城で俺の護衛をしてくれているけど、バティストは、本人の希望で『吹き溜まり』が今も残ったままのウィックトンに住み、モンスターを狩ってくれている。


 領主にはなれなかったけど、俺、代わりに、国王になりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る