超・矛盾してますよ~

 


 あのあと、将軍は、

「まあ、王子もたまにはあのルックスなしに勝負してみればいいんですよ」

と薄情にも笑っていた。


 入ってる容れ物は三人官女だが、豪快に……。


 次の日、また次の対戦が始まった。


 王子はみなを集めて叫ぶ。


「みな、心してかかれっ。

 これは、全員倒すまで、終わらないデスゲームだ!」


 ……と刺されても痛くもかゆくもなさそうな、もふもふの詰まったにんぎょう姿で言う。


「平和ですね……」


「だからお前は何故、そう緊張感がないのだ」

と王子はこちらを振り向き、言ってくる。


「ところで、この戦闘、勝つとなんのいいことがあるんです?」


 クラスマッチみたいなもんだから、商品はジュースとか?

と思ってると、


「その年の一番になった国が、それぞれの国から、作物を貰えたり、好きな嫁や妾をもらえたりする……」

と言ったあとで、王子は、


「まあ……私はそれはいい」

とチラッと何故かこちらを見る。


 チラチラ。


 見方が可愛いではないか。


「王子、肩に乗せてもいいですか」


「なんでだ……」


 いや、可愛いからですよ、と思っていると、

「お前は戦場には出せないからな。

 人間のままだし、危ないし。


 兵士たちの身体も出来た。

 修繕以外の用はないから、私のテントで休んでおれ」

と言ってくれる。


 はあ、どうもありがとうございます、と言いながらも、やっぱり、気になるので、その日も将軍と戦闘を見ていた。


 この日の相手軍は何故か招き猫の軍団だった。


「ふふふ。

 お前たちがあちらの世界から優れた人形を持ち帰ったというので、我々も手に入れてきたっ。


 幸運を招くというお猫様の人形だっ」


「そうなのですか?」

と将軍が訊いてくる。


「右手で招いていると、金運。

 左手だと人。


 この猫たちは左手なので……


 ああ、敵を招いてますね……」


 左手が可動式になっているようなのだが、所詮は陶器。


 この間の人形のように簡単に撃破されていた。


 学びなよ、君たち、と左手で招きながら、突進してくる猫たちを見た。





「勝利、おめでとうございます」

と言うと、うむ、と王子は頷く。


「お前もくつろげ」

と言われたので、はい、とテント前の草原で祝杯を上げる兵士たちと歓談していた。


 そのうち兵士のひとりが、いや、見かけは左大臣なのだが―― 話しかけてきた。


 紬は話を聞きながら、……このボディを将軍にした方がよかったよな、と思っていた。


 でも、とりあえず出来ていたのが、三人官女のボディだったので、将軍が三人官女になってしまったのだ。


 付け替えてやろうと言ったのだが、首から切り離すと言うと、将軍が、

「遠慮させてください……」

と怯えて逃げたので、そのままになっていた。


 その中身が兵士の左大臣が、紬に、

「紬様は、やはり、王子のような方がお好みなのですよね?」

と訊いてくる。


「お、なんだ、お前。

 恐れ多くも紬様に気があるのか?」

と周りのみんなが茶化してくる。


 いや、王子のような方って、こういう可愛いのがって意味かな?


 本体知らないし、と思ったあとで、紬は、

「そうだ。

 この間から、いろいろイケメンがどうとか、好みがどうとか訊かれるので今日は持ってきてみましたよ」

とポケットから雑誌の切り抜きを取り出す。


「まあ、一番好みかなあ、と思うのは、この人です」

と好きなドラマに出ている俳優さんを草原に置いて見せると、みんな、それを覗き込んでいたのだが。


 いきなり、王子が、タッと走り出し、居なくなった。


「あっ、王子!」

とみんなが声を上げる。


 将軍が彼らにとっては大きすぎるその切り抜きを上から覗き込みながら呟いた。


「うーむ。

 王子とは似ても似つきませんね」


「そうですか」

と言った紬に、将軍は、


「でも、私の意見では王子の方が格好いいと思いますよ」

と言ってくる。


 まあ、好みもあると思うが。


 ハードル上げてくるなあ、と思う。


 草原に置いて見せていたので、他のマスコットも―― 失礼、他の兵士たちもわらわらやってきて、眺め始めた。


「これが紬様の好みの男性らしいぞ」


 いや、ちょっといいなってだけなんですけど、と深刻な声で語る人形たちに思う。


「王子とは全然違うタイプだな」


 だから、王子はどんな感じなんですか……。


「誰なんだ、この男は」


「このようなキメ顔で写真を撮るなど、軽い男に違いないっ」


 いやー、この人これがお仕事なんで。


 だが、人形たちは、

「紬様はこの男に騙されているに違いない」

とひそひそと話し出す。


「この男を見たら、紬様から授かったこの剣で刺してくれるわっ」


 いや、刺繍糸ですけどね、それ。


 しかも、百均で大量に買ったやつだ。


 こんなもので、チクチクされてもたいして痛くはなさそうだが、地味に嫌だなー、と紬が思っていると、そのうち、たっ、と走って王子が戻ってきた。


「あっ、王子っ」

と言うマスコットたちの間を通り、やってきた王子が紬に言う。


「紬!

 その男は見た目は良いかもしれないが、中身がどうかはわからぬだろうがっ。


 姿形に惑わされるのは愚かなことだぞっ」


 ええっ!?

 自分の本体はイケメンだから、期待しろとか言う人のセリフですかっ、それっ?


 何故か紬の好みについて、戦術よりも真剣に、喧々諤々けんけんごうごうの議論がなされているうちに、夜も更けた。


 ああ、帰らなくちゃな、あっちは朝だけど……と紬は星の瞬く夜空を見上げた。





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