頼まれると断りきれないな~、可愛いから



 眠っているとき、誰かがそっと自分の髪を撫でた気がした。


 やさしい手……


 のような気がしたのだが。


 さわさわという梢の揺れる音を聞きながら、紬は目を覚ました。


 やはり、王子がちょこんと足に寄りかかるようにして座っている。


「王子……付いててくれたんですか?」


 だが、返事がない。


「王子? 王子?


 ……死にました?」


 本体に帰ったのだろうかという意味で言ったのだが、すぐに人形は、

「殺すな、莫迦者。

 ちょっと眠っておったのだ」

と言ってくる。


「お前が気持ち良さそうに寝ているからつられた」

と言う王子に、


「そうですか。

 目を開けてらっしゃるので、わかりませんでした」

と言うと、渋い声で、


「……お前が目を開閉式に作らぬからだ」

と言う。


「あ、そうだ、王子。

 さっき、私の髪を撫でてくれました?」

と訊くと、うむ、と王子は頷く。


「風にあおられて、頬にかかり、鬱陶しそうだったので払ったのだ」


 紬が少し笑い、

「一瞬、普通の男の人に触られた気がしました」

と言うと、


「莫迦め。

 私は普通の男の人だ」

と言う。


 いやー、でも、ずっとその姿しか見てないですからねー、と思いながら、

「……付いててくださってありがとうございます」

と改めて礼を言った。


 いや、まあ、寝不足なの、この人のせいなんだが……。


 でもまあ、頼まれると断りきれないよな、可愛いから、と思いながら、微笑み見つめていると、王子は何故か照れたように、もじもじし始めた。


 ……いや、左右に揺れているだけなんだが、そんな感じだ。


 なんか可愛いな。


 ひょいっと手のひらに載せると、目許まで人形を持ち上げ、じっと見つめる。


 すると、王子はいきなり、

「おのれっ。

 私を悩殺する気かっ!」

と叫び出した。


 紬の視線から逃げるように後退した王子は、手のひらから落ちかける。


「あっ、王子っ」


 紬は、落下しかけた王子をつまんで止めた。


「……くっ。

 こんなことで紬に助けられるとはっ」


「早くすべての戦に勝利し、この人形から出なければっ」

と言う王子に、


「いや、可愛いから、そのままでいいですよ」

と言うと、


「この私をマスコット扱いか!

 庶民めっ!」

という、よくわからない捨て台詞を残し、王子は居なくなった。


 ……なんなんだ、と思っていると、王子が走って行った近くのテントから、今の会話を聞いていたらしい将軍の呑気な声が聞こえてきた。


「その格好じゃ仕方ないんじゃないですかねー?」

と。



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