弱虫

毎日が苦痛で仕方なかった。


元々外面のいい2人なので、店は常連客も多く、わりと繁盛していた。

それに母の料理の腕はなかなかのモノだったことも大きい。



その日は朝から体がだるく、熱もあったので学校を休んだのだが、お昼を過ぎた頃に急におっちゃんが部屋に入って来た。


店は2時、3時位になるとさすがにお客さんも途切れ暇になるので、その時間を利用して買い出しか何かのついでに寄ったのだろう。


そんなに長居は出来ないはずだ。


横になっていたのだが、一旦起き上がって

「なに?出て行って」

「ご飯持って来たんや、食べてへんやろ」

「食べた。いらんわ」


そう言ったとたん、押し倒されて胸を揉みまくられた。

「もう、いやや・・・・」

泣いていたら「ちょっと小遣いくらいあげるやんか」


1万円。

「いらんわ」


しかし、1万円札を置いて出て行った。


やられずにすんだ。

でもこのままやったらやられてしまう。



もう店の手伝いはしたくない、と宣言しファーストフード店でバイトを始めた。

出来るだけ一人で家にいる時間を作らないようにしなくては。



母はあれから何も言わないが、気付いていたと思う。

しかし決してかばうような事はしてくれなかった。


母は私達よりもおっちゃんを優先していた。


お金も子供の教育にかける位なら自分達で使った方がマシだと思っていたのだろう。

2人共ギャンブル好きだったので、学費に使うくらいならパチンコや馬、ボートに使いたかったのだと思う。


それに私が働くようになれば、出て行くという事も分かっていたのだろう。

母は私にいて欲しくないのだ。

学校の三者面談では先生から絶対に進学するべきだと強く勧められていた。

「お母さん、これからは女の子でも4年制の大学へ行くべきです。

4年制が無理なら、せめて短大でも。

短大なら花嫁道具の一つにもなりますよ」


私は家を出て進学したかったのだ。

しかし、母は進学には難色を示していた。


たまたまバイトが休みだったことを知ってか知らずか、一人でいる時におっちゃんが帰ってきた。


後ろから羽交い絞めにされ、首のまわりを舐めまくられた。


きもい・きもい・・・きもい・・・・きもい。


硬くなった性器をやたらと押し付けてくる。

男の力は想像以上に強く逃げられない。


耳元で囁く。

「いう事聞いたら、大学行かしたるわ。車も買うたるで」


「もう!離して!離して!!」


やっとの思いで、逃げた。


もう進学とかそんなんええわ。働くわ。


いや、そんな事よりもう死んでしまいたい。この世の中から消えてしまいたい。

手首をカミソリで切ったら簡単に死ねるのだろうか?


それとも高い所から飛び降りる方が確実だろうか?


カミソリなら家にあったはずだ。

そっと当ててみたが、怖くてそれ以上は無理だった。


死ぬことも出来なかった。


嫌な事があっても、言えない。

死にたいと思っても、死ねない。


私は弱虫なんだろうか?弱虫だからバチが当たっていつもこんな目に遭うのだろうか・・・・


どうしてもっと強く抵抗出来ないのか?

そうしたいのに出来ない。

分からない。そんな自分も嫌だった。

弱虫な自分がたまらなく嫌だった。


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