卒業
父の酒量はどんどん増えていった。
千円札が数枚、無造作に机の上に置かれている日は帰って来ない。
帰って来ても深夜。酔った女連れ。
「いやぁ~タケウチさん、ほんまにええの~おくさんいてへんのぉ~」やたらと大きい声ではしゃいでいる。
酔っ払いホステス。
駅から少し離れた寂しい場所にある「もぐら」というスナックのホステス。
週末は一週間分のまとめ買いをするために車でスーパーに買い出しに行っていたのだが、いつも遠回りをしていたのでおかしいと思っていた。
そして「もぐら」の前を通る時はスピードを落としゆっくり走る。
そして必ずチラッと「もぐら」を見ていた。
もちろんシャッターは閉まっていたが、父にとっては「もぐら」という店が気になっているのだという事はすぐに分かった。
そして、「もぐら」がスナックであることも理解していた。
それにしても、フエーの狭くて汚い部屋によく女を連れ込む気になったな。女もフエーに連れ込まれるなんて相当なバカだ。どうせブスに決まっている。
しかし、立派なお屋敷に住んでるようなお父さんは決してホステスを連れ込んだりはしないだろう。
酔って母の悪口ばかり言っていたが、私達にも暴力を振るうようになっていた。
「お父さんはな、怒ってないんだよ!」と私やユキをどつきまわす父と「もぐら」の薄汚いホステスはお似合いだ。
数か月前から本棚の上に「何か雑誌のような物」が置かれているのに気づいていた。
椅子に乗って、背伸びをして確かめてみたら外国人の女の人の裸の写真集だった。
何故か当時は時々草むらなんかに雑誌が落ちていて大人の女の人の裸の写真を目にすることはあり、男子はそれを見て大騒ぎしていたが、肝心の部分はモザイクがかかっていたり、黒く塗りつぶされていて見えないようになっていた。
しかし、父が隠していた写真集は明らかにそれらとは違っていた。
本格的な裸で、男性のモノも堂々と出ていた。
モザイクも黒く塗られている部分もなかった。
どちらかというと気分の悪くなるようなシロモノだったが、父と「もぐら」のホステスも同じ事をしていると思った。
ホステスに溺れていた父はますます家には帰って来なくなり、帰って来たら何が気に入らないのか暴力を振るった。
そういう生活が続いた中で私は小学校を卒業し、中学生になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます