ハイグウシャ

学校はいつも楽しかったし、好き嫌いの少ない私は給食も楽しみだった。


クラスに吉田さんという病弱な子がいてあまり学校に来れなかったのだが、同じフエーの子で、吉田さんの家庭は母子家庭で、お母さんは看護師をしていてたまに夜勤もあった。


吉田さんは休みがちなので、学校でもらうお知らせやプリントなどをよく届けていたのだが、吉田さんはいつも「献立表を持って来て」と私にお願いしていた。

何の病気かは知らなかったが、吉田さんは私よりはるかに大きく立派な体格で、食べる事が好きだったみたいで、休んで給食を食べれない時は献立表をみてあれこれ想像したり、食べた気になったりするのだそうだ。


「いいよ」と言って毎月献立表を持って行くととても喜んでくれて、「そうや、ミルクセーキ作ろか」とか「ホットケーキ作ろか」などと言って作ってくれた。


お母さんは仕事でいない事が多かったが、たまにお母さんがいると、お母さんも「ミキちゃん、ミキちゃん」といってとても可愛がってくれた。


吉田さんは一人っ子だったから、お母さんが夜勤の時は寂しかったのだと思う。

私も家に帰るよりかは吉田さんといた方がよかったし、お母さんにしてみれば遅くまで一緒にいてくれるミキちゃんという友達は貴重だったのだろう。


帰り際や、吉田さんがトイレに行った時など、私とお母さんが2人っきりになった時は必ず「ミキちゃん、いつもありがとね。これからもずっとミユキちゃんと仲良くしてね。お願いね」と言われていて、そんな優しいお母さんがいて吉田さんがうらやましかった。


ある日、学校から「家族調査」のプリントを渡され、必ず提出するようにとの事だったので、吉田さんにも持って行った。

その日、たまたま給食のパンがたくさん余っていて、吉田さんに持って行ったら喜んでくれるだろうなと思い、先生に聞いてみたら「いい」と言ってくれたので、残りのパンを持って家には帰らず吉田さんの家に直行した。


案の定「ミルクセーキ作るわな」と言って物凄く喜んでくれて、私も嬉しかった。

学校で貰ったプリントを渡して「これ、絶対持って来てって先生が言うてたで」

「ふ~ん」「家族調査やて」

しげしげと眺めたあと、「これ、何て読むん?」「え?ハイグウシャちゃう?」「どういう意味なん?」「さぁ?分からんな」


その時は何とも思わなかったが、家に帰って父に記入してもらったあと、ハイグウシャの欄の有・無には無に〇がしてあった。


ハイグウシャって何やろ?

提出した後もハイグウシャがやたらと気になる。


そうや、辞書で調べてみよ、そう思って「は行」で調べてみたらあった、「配偶者」やっぱり読み方、ハイグウシャで合ってた。


「夫婦の片割れ。夫から見た妻。妻から見た夫」と書いてあった。

無に〇を付けていたという事は・・・・もう両親は離婚が成立していたのだ。


今まで離婚ではなく、単なる別居だと自分に言い聞かせていた。

別居だから母がひょっこり帰ってくるかもしれないと、そう思い込んでた。

いや、自分自身を思い込ませていた。


しかし、別居ではない。離婚が成立していた。

両親はいつの間にそんな話合いをしたのだろうか?


子供には内緒で勝手に親の都合で物事を進めていくのだという事を知った。


もう6年生になっていたが、それでも母が恋しくてもう会えないのかと思うとたまらなく悲しくなって心に中ではいつでも「母ちゃん、母ちゃん」と言っていた。

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