第3話別れ

母はイトウさんとはいつの間にか破局し、いつの間にかマエカワさんという男と付き合い始めていたようだ。


マエカワさんとも付き合いスタイルに変化はなく、子連れデートであった。

マエカワさんも優しい人だった。何となくイトウさんを気に入っていた私ではあったが、かと言ってイトウさんの話を蒸し返したりはしない大人のような子供であった。


当時小学4年だった私は所謂「大人のお付き合い」というのは具体的には知らなかった。全く何も分かっていなかった。

ただ、両親の仲は急速に悪化し始め、毎晩父の怒鳴り声や母の言い返す声は聞こえていた。


両親が不仲であること、もしかしたら母が出て行くのではないかという不安や恐怖で私は毎晩泣いていた。

黙って涙を流していた。親や妹に気付かれないように。


2段ベッドの下から妹のユキが「お姉ちゃん、起きてる?」

「うん」

「母ちゃん、出て行くん?」

「分からん」


でも、分かっていた。母がいつか出て行っていなくなるという事が。


そしてその日は思った以上に早くやって来た。


朝起きたら母の姿はなかった。

そしてその日から父と妹と3人の生活が始まる。


父子家庭第1日目から何事もなかったかのように、元々父子家庭であったかのようにごく普通の朝。


私達姉妹も「母ちゃんは?」とは聞かなかった。

母はいない、出て行った、それが当たり前であるような母との別れであった。


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