Bパート

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 冒頭になりますが、山手線にグリーン車はないことをググって知りつつも、面白さ優先でGOしたことを、ここにお詫び申し上げます。

 もはや、直す気力すら湧いてこないとはこれいかに。


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 その後も、焔さぁん、は、グリーン車に立ちはだかる、さまざまなヤバくてお偉い方々を、ワンパンチでぶちのめして突き進んでいった。


「なーにが悪戯に大陸に戦争の火種をくすぶらせるじゃァ!! ワシの股間のミサイルでも見曝せぼけぇ!!」


「テポドゥン!!!!」


「自分たちからやるやる言っておいてなに芋引いてんだオラァ!! 禿散らかした頭を後ろ髪で隠してんじゃねエ!! こちとら全裸じゃ、ちったぁ見習えやァ!!」


「トゥランプゥ!!!!」


「イェスウィーキャン!! ユキャンフラーイ!? アイキャンチー〇ポ!! オルゥァアアアア!!!!」


「オ・バマァ!!!!」


 凄い勢いで、グリーン車を突破していく焔さぁん。

 その勢いはなんとうか、黄道十二宮を急ぐ、青銅闘士のごとくであった。

 なんというコスモ。いや、チン〇。


 オカイソギンチャクラッシュおそるべし。

 たとえそれが小さくとも、腕っぷしはやはりヤク〇――本物のようだ。


「よし!! グリーン車の終わりが見えて来たぞ!!」


「これでようやくこの危険な展開ともおさらばだ――頼むからもうこれ以上、吹き飛ばすと政治的にヤバいことになるようなのは出て来てくれるなよ!!」


 そんなことを願いながら、扉の前へとたどり着いた焔さぁん。

 しかし、扉が開くと同時に――それまでの走りがまるで嘘のように、急にそれまでの勢いを失って、彼はその場に静止した。


 いったい、何が起こったというのか。


「焔さぁん!? どうしたっていうんだ!!」


「どうしたんだ、豪一郎くん!!」


「豪一郎さん、何を突っ立っているんだ!!」


「はやくいってくださーい!! 後ろがつかえてーます!!」


 はたして、そういう扉の向こうに立っていたのは――。


「……お父さん」


「……あけみ、どうしてお前がこんな所に!!」


 なんだか清楚な感じの服装、三つ編みにした黒髪を揺らしている、眼鏡少女。

 彼女が青い顔をして、豪一郎さんを眺めていた。


 まさかとは思うが。

 いや、まさかも何もない。


 この誰も止めることが出来ないオリエン〇ル急行――焔豪一郎が、我に返って立ち止まるなど、相当な相手である。それこそ、自分の目の中に入れても、痛くないような。


「まさか、豪一郎さん、その娘が!!」


「……あ、あぁ」


 俺の娘の、焔あけみだ。

 そう呟いて、さっと、豪一郎さんは自分の股間を手で隠したのだった。


 父親の情けない全裸姿を見て、さっと、娘さんが顔を青ざめさせる。

 そりゃそうだろう。ただでさえ、見た目に気の弱そうな娘さんである。こんなお父さんの格好を目の当たりにしてしまえば、思わず、そんな顔にもなってしまうだろう。


 そんな彼女をフォローするように、違うんだ、あけみ、と、豪一郎さんが叫ぶ。


「なんで全裸で電車の中に乗ってるの!!」


「これには深い事情があるんだ!! というか、ワルプルギスの夜はどうしたんだ!?」


「えぇっ!? どうしてお父さんが魔法少女のことをしってるの!?」


「いや、それは」


「さてはお父さん――私の日記勝手に読んだのね!!」


 父親の痴態に顔面蒼白だった顔が、徐々に徐々にではあるが、怒りに染まり上がっていく。あぁ、これ、ダメな奴だ、あかん奴だ、と、分かってはいるけれど止めることは出来ない。

 もしこの思春期の娘の反応を止めることができる人間が居るとしたら。

 それは神か何かだろう。


「お父さんのバカぁ!! 変態!! 露出狂!! 広域指定暴〇団の組長!!」


「ぐぼぁああああああああ!!!!」


 焔さぁんが再び倒れた。


 立って、焔さぁん。

 貴方がここで立たなかったら、いったい誰が立つというのか。

 先頭を切って、この阿鼻叫喚、全裸、無間地獄の夜を駆け抜けるというのか。


 少なくとも、僕はそんな役はノーサンキューだぞ。


 しかし、娘に面と向かって、面罵されればそれも止む無し。

 しかも微妙に事実だから始末に負えない。


 哀れ、焔さぁん。

 何度となく立ち上がっては、再び走り始めてみせた彼だったが、今回ばかりは流石に、その足で立ち上がることは難しいようだった――。


「くっ、焔さぁんがやられたか!! どうする、皆!?」


「このままじっとしていても、彼と同じ運命を辿るだけだ――豪一郎さんの屍を踏み越えて、俺たちは進もう」


「三木!! お前、それでも人間かよ!! この冷血漢!!」


「だったらどうしろって言うんだ!! 豪一郎さんの死を無駄にすることの方が、よっぽど彼の気持ちを裏切ることになるんじゃないのか!! 生き残った俺たちだけでも、せめて、最後まで走りぬくのが――」


「あれ? お兄ちゃん?」


 電車の奥から声がする。

 はっ、と、その声に、三木が僕から視線をその声がした方へと切り替えた。


 はたしてそこに立っていたのは、水色をした水着のような服に身を包んだ女の子。

 いかにも魔法少女――だけれども、そこはかとなく発せられる雑魚臭は何故だろう。

 いうなればこの残念感。出てきた瞬間、マジかよ、と、嘆きたくなるこの感じ。


「沙耶香!?」


 その名前を叫んだ当たり、どうやら、彼女もまた三木の知り合い――というか、妹に間違いなさそうだった。


 おいおい、身内とエンカウントし過ぎだろ、この電車。

 どれだけ魔法少女が乗ってるって言うんだよ。

 というか、山手線で移動するのかよ、魔法少女。空飛んで移動するんじゃないのかよ。


 いろいろと言いたいことはある、言いたいことはあったが、ぐっとそこは堪えた。

 それよりもだ。


「うわ、なにその格好? どうしちゃった訳?」


「聞いてくれ沙耶香、これには深い事情が!!」


「身内から犯罪者とかちょっと勘弁して欲しいかなぁ。なんてね、兄貴がそんなこと、考えもなしにするような人じゃないって、私信じてるよ」


「沙耶香」


「……うん、信じてるから」


 そう言って、そのお兄さんと同じ、よく分からない、顔の角度をつくる。

 振り向いて顎を上げた彼女は、つっとその瞳から涙を流す。


「けど。そんな格好で電車の中走るなんて。あたしのお兄ちゃんって、ホント馬鹿……」


「ギョギョォ!!」


 血と、まるで魚芸人のような言葉を吐いて三木が倒れる。

 馬鹿な、三木よ、そんなお前まで倒れてしまうなんて。


 くそっ、これでこちらの陣営はついに三人になってしまった。

 巴三四郎社長は、まぁ、娘に裸を見られることくらい、なんとも思っていないから、きっと大丈夫だろう。けど、マイケルさんは――。


 なぁんて思っていると。


「親父!?」


「アンコさぁん!!」


「なにやってんだよ!! 全裸で電車乗るとか勘弁してくれよなァ!!」


「レッド・ゴーストゥ!!」


 はい、あっさりとこっちもやられましたよ。

 ばたりと三木の上に重なるようにして、マイケルさんは倒れた。


 おいおい、ちょっともう少し数合わせの噛ませ犬なら噛ませ犬らしく、もってもらわないと困りますよ。

 マイケルさん、困ります。

 ほんと、困ります。


 魔法少女の父二人。

 死屍累々、山手線の電車の中である。

 さて、これはもうどうしようもないのではないか。


「巴社長、もう止むを得ません。流石に三人の死体を抱えて、移動することは不可能です。ここは、私たちだけでも撤退しましょう」


「……いや、四人のようだ、要くん」


 どういう意味だ。

 僕は後ろに立っている、股間にサイコガンを持つ男へと視線を向けた。


 僕の視線に応えるように、サイコガンの男が顎をしゃくる。

 前をよく見てみたまえ、とでも言いたげだ。


 その様子に再び振り返ると――席から立ち上がるピンク色の髪をした少女の姿が目に入った。


 あぁ、それは、ピンクと白のふりふりとした、いかにも、正統派魔法少女という感じの、そういう格好をした女の子。

 もし、この全裸というシチュエーションでなかったなら、ずっと眺めていたい可愛い娘。


「……お父さん」


「……円香ェ」


 そう、それは僕の娘、円香であった。

 豪一郎さんの娘さん――親友であるあけみちゃんの陰に隠れるようにして、僕の方を見ると、彼女はぼそりと一言。


「……きもちわるい」


 心臓をそのまま掴んで抜き取られたような、そんな衝撃が僕の体を襲った。


 ふは、ふはは。


 娘から気持ち悪いって。

 しかも、面と向かって言われるって。

 オーケィ、そりゃね、反抗期だからね、少しくらいは仕方ないさ。


 そういう周りを傷つけるような言葉も、使ってみたくなる年頃さ。それも仕方ない。

 けど。


「そんなのってないよぉぉおおおおお!!!!」


 絶叫、と、共に僕はその場に膝を折った。

 誰のためにこんな辛い思いをしてまで、山手線を疾走してきたと思っているのか。

 全裸で駆けてきたと思っているのか。


 あんまりだ、あんまりにしても、あんまりだ。

 こんな風に娘に軽蔑の言葉を投げかけられて、悲嘆に暮れることになるのであれば、僕はいっそ、娘なんて作るんじゃなかった。

 こんな辛い思いをすることになるのなら、人の親に等なるのではなかった。


 最低だ。

 僕は最低だ。


 握りしめた股間からそっと手を放す。

 全裸で街を駆け抜ける快感に、先走り液で濡れに濡れたそれを見た瞬間、僕は自分がどうしてこんな情けない人間なのかと、激しく打ちのめされた気分になった。


 そしてそのまま――僕は意識を失ってその場に倒れたのだった。


 あぁ、X兵衛。

 今までいろいろとありがとう。

 皆も、僕のことを助けてくれてありがとう。


 けれど、もう疲れたよ。


 魔法少女のお父さんって、こんなに大変なものなんだね……。


「……ま、まど、まどま、マギ、カァッ!!!!」


 絞り出すような断末魔を上げて、僕は意識を失ったのだった。

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