西暦2025年6月5日:ガレジア魔術学院にて

水の都:クーレタイトに来て早くも三日が経った。

本来ならばそろそろ次の街に出かける頃なのだが、今日は約束の日だからすっぽかす訳には行かない。


てな訳で、今回は俺達が学院の一日講師をした話をしよう。

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「おい、起きろルーファス。時間だぞ」


「ん・・・・ふあぁ、おはようございますご主人。」


日は昇っているものの周りは静かだった。恐らく6時くらいだろうか。


「あぁ、おはようルーファス。早速だけど着替えて朝食を済ませようぜ」


「そうですね、では顔でも洗ってきましょう。」


ルーファスを起こすまでに身支度を整えて朝食を用意しているので、向こうの着替えやその他諸々の身支度が終わるまで段取りを再確認しておこう。


「まずは初等部の子にも分かるように最初から仕組みを話して・・・上級生にも飽きさせないように雑学と実験をさせてっと」


あれから俺達は一度話す内容をファナリア学院長に提示し、許可を得ては軽く雑談をした。その時に以下の事を教えてくれた。


今回の講義はこれが初めてであり、生徒に人気が出れば定期的に開こうと考えている事。これに限らず講義を続けるならば初等部・中等部・高等部の生徒を一斉に参加させる予定である事。授業の時間を全てこの講義に使うという事。


どうやら生徒の事を本気で想っているらしい。だからこそ思い切った事をするあの学院長は個人的に好きな部類に入るというものだ。


「そういやルーファス、昨日買った素材は何処にしまったんだ?」


「あ、私のカバンの方です。リュックには入りきらなかったのでそれだけ別にしました。」


顔を洗い、歯磨きをしようとしていた時に応えたらしく会話が終わるとシャカシャカと音が鳴りだした。(余談だが、朝飯を食べる前に歯磨きをするのは歯の健康に良いと風邪の噂で知ったらしい)


「りょうーかい。そんじゃあ素材と魔導書を借りるぞ」


共通で荷物を入れているリュックから魔導書を取り、ルーファスのカバンから幾つかの素材を拝借した。


「あ、イラクサがそろそろ切れて来たな・・・此処で売っていれば買わないとな」


元々俺達は個人の荷物はカバン(ルーファスは背中に背負うのと肩掛け用の2種、俺はベルトに直接カバンを取り付け、肩掛け用の2種)に入れてそれぞれ背負ってるが、入りきらない物やお互い使う物(ノートの代えや保存食、錬金術や薬の調合素材等々)はリュックに入れて管理をしている。

まぁ背負うのは年や体格的に俺だが、苦にはならない。


「ご主人、身支度終わったんでご飯食べたら行けますよっ!」


荷物チェックと整理をしていたら丁度終わったらしく、いつもの元気で少し五月蠅い好奇心旺盛なルーファスが戻って来た。


「良し、それじゃあ食べるか」


軽く飯を済ませ、俺達はガジア魔術学院へと出かけた。

俺達は教員側の入り口から入るように言われていたのでそのまま職員室に着いて挨拶をして改めてファナリア学院長の元に行った。


「おはようございますファナリア学院長。改めまして今日はよろしくお願いします」


「お願いしますね、学院長!」


「いえいえ、それはこちらの台詞ですよ。よろしくお願いします。ルーファスさんだったね、君にも期待しているよ。」


一昨日がアレだったが、流石は初等部から扱っている学院だけあってルーファスと仲良くなるのに30分と掛からなかった。


「今から朝礼をしてきますのでそれが済みましたら場所移動を開始するので現地に着きましたら講義を開始して下さい。」


流石に全校生徒が揃っても大丈夫な場所は体育館ぐらいだが、せっかくの講義だからという事で一日課外授業という方法を取ったらしい。場所は歩いて15分の花畑で、近くに川もあるので遊びたい人は水着を持ってきてOKだそうだ。 


「分かりました。」


「講義は面白くするので、期待してて下さいね!」


ルーファスの言葉に笑顔を見せてファナリア学院長は生徒が待っているであろう校庭に向かった。

その後は何事も無く事が進み、目的地まで着いた。後は此処から教師たちが大まかな講義の説明をし、学院長が合図をして俺達が登場する手筈だ。


「という訳でして、皆さんにこの一日を有意義に過して頂く為に特別講師を用意しました。どうぞ!」


合図を受け、俺達は生徒の前へとやってきた。

さぁ、ここからが俺達の仕事だ。約7時間お付き合い願おうか。


「どうも、先程学院長から紹介を頂いたシルクリッド・フーバーだ。今日一日だけだが宜しく頼む。」


「私がルーファス・レイン!年は学院の人と同じ人も居るであろう14歳ですよっ!」


「さて、今回は俺達が魔術について語る訳だがただ話しても飽きるだろうし中等部や初等部の人達には理解し辛い内容にもなってくるだろう。」


「そこで!私達がまず基礎中の基礎について話していきますよっ!案外此処が一番重要だったりするので良く聞いて下さいよ!」


「質問は話が一区切りしてからまとめて聞くんで理解出来ない所があったらその時聞いてくれ」


「それでは、まず魔術師とはそもそもどんな人を指していて魔術とはどんな事を言うのか説明しますね!」


「まず魔術についてですが、これは私達人間が魔力を使って自然現象を起こす事そのものを指しています!」


「簡単に言えば、水を温めればお湯になったり、逆に冷やすと氷になると言うように違う物に変化させたりといった自然現象を魔力で起こすって訳だ」


「だけど自分の魔力でどうにかしようとしても出来る事は少ないし、使い過ぎても衰弱して最悪死んでしまいます!」


「だからこそ自然の力を借りて、お礼として借りた分の魔力を吸わせるって訳だ。」


「代表的な属性は火、風、土、水の4つで、この属性を操って色んな現象を起こすのが魔術師と言われる人たちですね!」


「これが日常的に俺達が使っている精霊魔術という訳だ。」


「精霊とは火や風と言った自然に命が宿った存在の事を言います!サラマンダーさんやウウンディーネさんが有名ですね!力を貸してくれるので私達には欠かせない存在です!」


「精霊が力を貸してくれないと、日常的な魔術が使えないからな・・・だからこそ俺達は自然そのものを誰よりも感謝しているし、恵を大事にしなければならない。」


「もちろん魔術はこれだけではありませんよ!他にも様々な種類が存在します!」


「神聖魔術に精霊魔術、黒魔術、白魔術、召喚魔術、蘇生魔術、これが主だが一つ錬金術という例外も含めて、魔術の学問は7種類ある。」


「この中でも比較的簡単且つ危険度も低いのが精霊魔術という訳ですね!」


「基本的に悪意や敵意を与えなければどんな時でも力を貸してくれる上に制約も無いから重宝される訳だ。」


「強いて言うなら魔力を吸われるくらいですが、これはどの魔術を使っても代償として吸われるので欠点でも無いですよ!」


「要は魔力は餌みたいなもんだしな・・・これを食わせれば向こうは使った力を回復出来るという仕組みだな。」


「まぁ、簡単に言ってしまえばそうですけど・・・でも、魔力だけでも現象を起こせないのかと言われれば違います!」


「おっと、それについては後で詳しく教えるんで今は大雑把に教えるけど、基本的には精霊や悪魔といった力を借りる者に支払う対価として使えるのが1つ、後は武器に付与するエンチャントをする前のコーティング、精霊や悪魔といった者達に干渉するとかだな」


「ここら辺のお話は難しいから、実際に体感しながらこんな感じなんだとコツを掴んでくれれば嬉しいです!」


「さて、話が逸れたがとりあえず魔術の概要とその種類について説明した訳だが・・・質問はあるか?」


ここで話を区切って一旦質問を待ってみる。話をまとめる時間も要るだろうし、ノートに書き留めている子も居たから少しは来るだろう。

そう思っていたら一人の子が手を挙げていた。


「はい、えーっと・・・中等部2年のミネアさん」


学院長から貰った名簿(学年順・出席番号順に並んでもらってるので名簿通りに並んでいる形)を見ながら当てる。正直この作業が一番怖いと思う、名前間違えるのは地味に恥ずかしいからな。


「私が気になったのは魔力を対価とした時の話です。力を借りた分魔力を対価とするのは常識ですし誰もが使ってますが、そもそも精霊が力を貸す理由とか気になってしまいまして・・・魔力以外にも対価とするような場合や、魔力が足りない場合の対価等はどうするんですか?」


「お、結構良い質問だな。」そう答えつつ俺は学院長の方に向き直った。すると学院

長は視線を逸らしてこちらを見ようとしなかった。


やれやれ、魔術の恐ろしさを伝えても良いというのはこういう事か。


「それじゃ、そこら辺の話を含めて各魔術について簡単に説明をしよう」


さて、このまま続けても良いのだが、キリが良いので此処でページを区切って次のページから続きを記そう。

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あとがき

遅くなってしまいましたが2話目を読んで下さりありがとうございます。

余程基礎中の基礎からの説明となりましたが、主としては西洋魔術の知識や理論等を取り上げつつ作品の中の世界の技術を合わせてオリジナルな世界観を書けたらなと思っております。

講義の内容や進め方は頭の中で決まってるので後1,2話で完結すると思います。

その後はしばらく1話完結の旅を開始したり彼、彼女らの過去を振り返ったりとのんびりな作風になると思います。

それでは、次の話でお会いしましょう。

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