第20話 アイン

ドール博士は現在四十を超え、様々な物を開発されている方ですが、二十歳までは無職で城に潜り込んでお金になりそうなものを盗んでいたそうです。

城には魔術結界が張られていて、普通なら捕まるはずが二度、三度と城に潜り込まれたため何かがおかしいと感じた王は国の中から宝を持っている人を探し出し、城専属の研究員にしろと命じたのです。

こうして捕らえられ、ドール博士はお城の研究員となりました。


「いやぁまさか戦争を仕掛けたこちら側が負けるとは思ってもみなかった。こちらだけが使えると思っていた魔術がもうとっくに世間に知れ渡っていたというのだからね。科学もこちらより半世紀分も発達していたよ。こっちが弓で相手をしているのに相手は鉄の筒から高速で飛び出してくる鉄の玉で攻撃をしてきたのだからそりゃあ勝てるわけがない。今思えば他の国との交流をせずに篭もりきっていたから当然の結果とも言えるけどね。世間一般に魔法が珍しいと思っていただけでとっくに魔法は当たり前の存在になっていたなんて面白おかしい話だよね」


「急に語りだしましたね…博士らしいですけど。あと私の名前はアインではなくミラですよ」


「おっとこれは失礼した。この呼び方はあまり口にしてはいけなかったね」


「アイン…一という意味だったな、研究者が付けそうな名前だ」


「アンファンでも良かったけどね、研究の第一歩ということで」


「ちょ、ちょっと待って、何の話をしてるの?話の流れでミラの話ということは分かるけど…私その博士?と初対面だしこの国の研究者だってことも初めて知ったんだけど…」


「無理もないですよ、博士は普段研究室にずっといますから。外に出ることなんて滅多にないです」


私が培養槽から出てきて追い出される前はずっとここにいたのでドール博士は親みたいな存在なのです。

まぁ私を生み出した人ではあるので一応親なんですけど…


「じゃあ聞くけど…なんでミラがそんなに詳しいのよ…」


「それは…」


「隠さなくていいだろう、儂が知ってこやつが知らないというのもおかしいからな」


トレラさんは私の頭をポンと叩いてそのまま手を置きました。


「そうですよね…リオル、私実は…」


私が言おうとしたその時、お城の方から大きな爆発音が聞こえました。


「何事ですか!?」


驚く私達ですが、ドール博士だけは笑みを浮かべています。


「完成した…完成したんだ…僕の最高傑作が…」


「ドール博士…ですがあの部屋の培養槽には何も…」


「あれかい?あの部屋にもう用はないよ。この城が完全に崩れることも時間の問題かと思ってあの部屋とは別に培養槽のための部屋を作っていたのさ。さて、アハツェーンの誕生だ!」


「十八…あなたはそんなに作っていたのですか!」


「ああ、だが君のような成功作であり失敗作のような物はあまりできなくてね、生まれても精々普通の兵士のような性能で戦うことくらいしかできないものが多かった。アハトゥのような戦闘に優れていた野性味あふれる物もいたけどね。だけど今回は違う!誰にも見られずに!誰にも邪魔されずに作った僕の最高傑作!さぁ見に行こうじゃないか!新たな人口生命を!国一つ簡単に滅亡できる人工生命を!」


博士はそう言ってお城に走って向かっていきました。


「あやつ…狂ってるな…」


「ええ…そういう方ですから」


「そんなことよりあいつとんでもないこと言ってなかった?『国一つ簡単に滅亡できる』って…」


「ええ、ですがそんな人造人間を作って制御ができるわけがありません」


「だとしたら相当まずいことになるぞ、制御ができん殺戮兵器などあってたまるか」


私達はお城に向かい、爆発が起きた所に行くと、博士と九歳くらいの実験体にきせる用の服を着た女の子が立っていました。

女の子の右手と腕は黒く、髪は真っ白に染まっていました。


「見てくれ、出てきたばかりだというのにもう二足歩行をしている。僕が来た時には服を着ていたから知能もあると言っていいだろう」


「ぬー」


「話せないのは致し方ないか。これから覚えればいいだろう」


「博士…この子をこれからどうするつもりですか?」


「この国を滅ぼした国を滅ぼしに行く…なんてバカバカしいことはしない。ただこの子に言葉を覚えさせて金儲けをしてまた実験をする」


「そうして用済みになったらミラ同様捨てるというわけか」


拳を固く握り締めて今にも殴りかかりそうなトレラさん。


「そんなことするわけがないじゃないか、アイン…ミラも捨てたわけじゃない。自由にしてあげたんだ」


「それを屁理屈と言う!」


博士に殴りかかったトレラさん。

しかし博士に拳が当たる寸前にトレラさんは目に見えない速さで床に叩きつけられてしまいました。


「トレラさん!」


「ぬっ」


「こいつ…儂をハエを叩くかのように…」


「すまないね、この子はもう私のことを親だと思っているらしい。まだ僕たちが話していることは分からないのだけどこういうことは分かるらしい。では僕はこれで失礼しよう。どこかでまた会えることを楽しみにしているよ」


そう言って博士達はどこかに行ってしまいました。


「博士…トレラさん、大丈夫ですか?」


「叩かれただけだ、問題はない」


では何故地面に顔をつけたままなのでしょうか…


「ねぇミラ…さっきアンタが言おうとしてたことだけど、アンタ要するに人造人間なんでしょ?」


「ええ…そうです…」


「そう…はぁぁぁ…重要な事を言うかと思って心臓バックバクしてたけどバカみたいね」


「いやかなり重要ですよ!ずっと一緒にいた親友が人造人間だったって!」


「人造でも人間よ。食べ物が美味しく感じる、泣いたり笑ったりする、血を流す、バカみたいなことをする。十分アンタは人間じゃない」


「リオル…ありがとうございます…」


「なんで泣いてるのよ、ほらさっさと帰るわよ。トレラも悪かったわね、こんな里帰りに付き合わせちゃって」


「礼などいらん、儂も温泉に入れたから満足だ」


「それでお願いがあるんだけど…」


「分かっている、ブリーズタウンまで送ればいいのだろう?」


「ええ、頼むわ」


こうしてまたドラゴンに変身したトレラさんの背中に乗り、私達は町へと帰るのでした。

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パーティ全員弓しか使えませんが何か? 茜色蒲公英 @kanohamarin

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