第19話 帰った先の帰らぬもの
巨大なドラゴンに変身したトレラさんの背中に乗って私達の故郷『ニュームーン』に記憶を頼りに向かうこと約三十分。途中、鳥に襲われたり振り落とされかけたりしましたがとても大きな森が見えてきました。
森の広さはもうとにかく広いとしか言いようのない広さで、建物などは全て森で隠されています。
「こりゃあでかいな…エルフでも住んでそうな森だが…お前さんたちはエルフではないのか?」
「ええ、耳は長くありませんし、長生きもしません。それにエルフ族は数百年前の戦争で全滅しているそうですよ」
この森も当時の魔法使いの方々が奪ったものなのではないかと書籍には書いてありますが…当時の人はもういませんからね…
トレラさんは森のすぐ手前まで来ると地上に降り、私達を下ろしてから人間の姿に変身しました。
「さて、問題はこれからだ。作戦通りにいかなかったら森を燃やせば良かったのだったな」
「ええ、あくまで私たちの目的は両親に会うことであって国に帰るわけじゃないから。でも森を燃やすのは最終手段だからそこは忘れないように」
まぁその最終手段は三段階目なんですけどね。
私達は堂々と森の中に入り、真っ直ぐに進んでいきます。
国に攻めて来る場合、遠回りなど考えますが、侵入者用のトラップが幾千と仕掛けられているので、兵士たちが行き来できるこの真っ直ぐなルートを行かなければいけないのです。
「だがこんな森の中、よく兵士もお前さんたちも行き来できるな、真っ直ぐに行っているとはいえこんなに変わらん景色だとどっちが真っ直ぐかわからんだろう」
「まぁそれは慣れというやつですよ。私達が通追放された時にはリオルのお母さんから地図を貰いましたけど」
「えっ、私それ初めて聞いたんだけど…家にそれらしきものもなかったし…」
それもそのはず。
私の過去の記憶が消えたのはブリーズタウンに着いたあとで、当時の私は何の地図か分からずに捨ててしまいましたので。
「ミラ、どうせお前さんのことだから捨てたのだろう」
「どうせとはなんですかどうせとは。確かに地図は捨ててしまいましたけども」
「捨ててるじゃない…」
などと会話をしながら歩いていますが、兵士どころか人一人にすら会いません。
『ニュームーン』までまだ距離でいえば半分も歩いていませんが、そろそろ何かあってもおかしくないはずです。
「先程からオオカミやらクマといった動物は見かけているが…お前さんたちのところの兵士は昼寝でもしてるのか?」
「それはないと思いますけど…」
その後も小動物は度々見かけますが、人には全く会いません。
そして私たちはついに門の前まで来てしまいました。
「人…一人もいなかったわね…」
「作戦を立てた意味がなかったな!」
「まぁ…先頭にならなくてよかったと思いましょう…」
私が少し錆びた門に手を伸ばすと、門に鍵が掛かっておらず、開いてしまいました。
「開いたな」
「開きましたね」
私はゆっくりと押していくと、悲惨な景色が広がっていました。
倒壊した家、全焼したであろう家、荒らされ果てた畑、そして形さえ残っているもののボロボロなお城。
そういう…ことだったのですね…
「なるほどな、お前さんたちの国は戦争で滅んじまったというわけか」
「あはは…これなら兵士が見回りをしていないことにも納得がいきますよね…」
「膝から崩れ落ちる私をよそに、リオルは無言で真正面にある家であったものに向かって走って行きました。
リオルの家があった場所です。
瓦礫を次々とどかし、何かを探しているように見えますが…
「あやつ…お前さんは自分の家に行かなくていいのか?」
「ええ、私に家はありませんから」
「家がない?無くなったのではなくてか?」
「ええ、私が生まれたのはあのお城の地下なので…行ってみますか?」
「その言い方…面白そうだな、付き合おう」
私とトレラさんはリオルに一言行ってから崩れかけたお城に向かいました。
お城の扉は既に破壊されていて、地下へのドアも壊されていました。
地下への階段を下り、隠し通路のドアを開くとそこには一つのガラス張りのケース、いわゆる培養槽と様々な資料が置かれていました。
「お前さんたち…こんなものを作ってたのか…」
「ええ、この国を隠していた理由として魔法使いが珍しく、拉致される可能性があったことが一般的に広まっていましたが、王が一番隠したかったことはこれだったのです」
「それでお前さんがここの培養槽というやつで生まれたやつってわけか…」
「はい。なので私は人間から生まれた人間ではなく、人間が造って生み出された人間なのです。このことはリオルにも話していません」
「だろうな…だが不思議だな、秘密だったならお前さんは普通に生活できていないだろう、何故リオルに会えたのだ?」
「私は失敗作だったのです。強力な魔法が使えるわけじゃない、怪力を持っているわけじゃない…戦争の道具になれなかった私は好きに生きろと言われて自由奔放に生きていました。リオルと初めて会ったのは学校に行っていた時に会いましたね。さて、私の実家に帰ったことですし、ここを出ましょうか」
「ああ、だが最後にこれだけ聞かせてくれ。お前さんの他にも誰かここで造られていたのか?」
「恐らく…ですけどね。見ての通り培養槽は一つしかなく、私は最初に生まれ、それ以来ここには入っていませんから」
「そうか、変なことを聞いたな」
「いえ、実際私も気にはなりますので」
私達はその後城を出てリオルのところに戻りました。
リオルはまだ何かを探しているみたいです。
「ただ今戻りました。手伝いますね」
「儂も手伝うぞ」
「ありがと、じゃあ瓦礫をどんどんどかしていって、そして何かあったらすぐに私に渡すのよ」
「はい」
こうして私達は一つ一つ瓦礫をどかしていくとトレラさんが写真立てを見つけてリオルに渡しました。
「これ…小さい時のミラと私だ…あー…思い出してきたなぁ…この頃にミラと会ったのよね」
「そうですね、魔法を覚えるために毎日勉強していましたね」
話をしていると急にトレラさんは少し離れた草むらに向かって火の玉を放ちました。
「ど、どうしたのですか!?」
「こそこそ隠れている奴がいるから放った。出てこい」
すると焼けている草むらとは別の草むらから汚れた白衣を着た男性が出てきました。
パッと見誰か分かりませんでしたが……
「アイン…生きていたのか…」
「博士…あなたこそよく生きていましたね」
この人、ドール博士は魔法の研究者であり、科学の研究者でもあり、私を造った方です。
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