第16話 過去を振り返ることはいいことですよね

今から二年前、私とリオルは今住んでいる街とは遠く離れた王国、カレイドで普通の魔法使いの一族として日々魔法の勉強をしていました。

戦争には巻き込まれていない国でしたが、資源の豊富さや優秀な魔法使いの多さで他の国からは目をつけられていました。

そんなことも知らない私とリオルは毎日のように遊び、共に勉学に励んでいました。

私が戦争の火種を作るまでは…

国が、魔法使いが狙われているため国からは決まった人以外門の外に出てはいけないという御布令が出ていました。

ですが私達は「出てはいけない」ということしか分からず、ある日の深夜、門の外に出ることを決めました。

私は両親を起こさないように、静かに家を出るとリオルの家に向かいました。

すると玄関前にリオルが辺りをキョロキョロ見ながら立っていました。


「遅いじゃない…というか本当に行くの?」


「勿論です。この目で見てみたいのですよ、外の世界というものを」


「それは知ってるわよ、でもこんなことバレたらどうなるかわからないのよ?」


「バレないためにこうやって深夜に家を出ているんじゃないですか、ちょっと出てすぐに帰ってくれば大丈夫ですよ」


門前の警備は誰かが外に出ないためであり、深夜には配備されていません。

私とリオルは門の前まで来ましたが、門には鍵が閉まっています。


「無理じゃない…帰るわよ」


「何を言っているのですか、こんなこともあろうかと『フライ』をマスターしてきたのですよ」


「『フライ』って…高等魔法じゃない、使いこなすには数ヶ月が必要なのにどうやってマスターしたのよ?」


「両親に隠れて練習していました…この時のために」


「…ミラって本当にバカよね…でもさすがね」


「ではいきますよっ『フライ』!」


私はリオルを抱えて魔法を唱えると、体が浮き上がり、私はそのまま門を越えました。


「これが…門の外…」


あたり一面に森が広がり、奥には大きな山も見えます。

この景色こそが私が見たかった景色であり、今見た最高の景色です。

私はゆっくりと降りてリオルを降ろし、森へと歩き出しました。


「ちょっと待ちなさいよ!もう見たからいいでしょ?」


「何を言っているのですか、散歩なのですからもう少し歩いてみましょうよ、何かあるかもしれませんよ」


「そりゃあ確かに何かはあるかもしれないけど…」


門の外に出たのにまだ怯えているリオル。

私はリオルの手を引いて森の中に入って行きました。

月だけが明かりになり、周りはあまり見えませんが、やはり門の中とは違ってワクワクします。


「このワクワク感…たまりませんね!また出てみましょうか!」


「絶対に嫌よ…ねぇ、なにか聞こえない?」


私が足を止めると、確かにリオルの足音以外に何か聞こえます。


「誰でしょう…?門を開ける音もしていませんが…」


「と、とにかく早く帰るわよ!『フライ』を使って!」


「そうはさせねーよ!お前らを捕まえて人質にするんだからなぁ!」


突然茂みから現れた見たことのない男の人。

私達は驚いて逃げるしかありませんでした。


「早く門に!」


「でも鍵が空いてないじゃない!」


男の人の足が遅いのかなかなか追いついてきませんが、リオルを持ち上げて呪文を唱えている暇はなさそうです。


「あんただけ門の中に入りなさい!そして助けを呼びなさい!」


「でもそれではリオルが捕まってしまうじゃないですか!そんなことできません!」


「じゃあこのまま二人とも捕まってもいいの!?」


「それもいやです…ですが…」


「こう見えて私体力あるのよ、なんとか時間を稼いでみせるわ」


私を安心させるためか笑顔で言うリオルですが、きっと内心は恐怖に満ちているはずです。


「…分かりました、すぐに迎えに行きます!『フライ』!」


空に浮かび、門に向かおうとしたのですが、首に何かが刺さり、地面に落ちて意識を失ってしまいました。


「ミラ!?どうしたのよミラ!」


私の体を揺らすリオル。ですが反応はありません。

すると茂みから筒を持った男が出てきました。


「心配するなよ嬢ちゃん。ちっとばっかし寝てもらってるだけだからな」


「ぐっ…ううぁ!」


門に向かって走るリオル。

しかしリオルの首にも何かが刺さり、倒れてしまいました。


私が目を覚ますと、薄暗く、牢屋のような場所でベッドに寝かされていました。


「ここは…リオル!」


掛け布団を上げるとリオルは静かな寝息を立てて眠っていました。

無事で良かったです…いや、状況は全然良くないです。

あの男の人は私達を人質にすると言っていたので殺されることはありませんが…

何とかして逃げ出さなくてはなりません。

私はリオルを起こすために体を揺らします。


「リオル、起きてください」


「う、う~ん…もうちょっとだけ…」


「ここは家ではないのですよ!起きてください!」


「家じゃない…?あっ!!」


急に起き上がって慌て始めるリオル。

パニックになって固まっています。


「これからどうしようこれからなにをしたらいいのおうちにかえりたい…」


ぶつぶつと呪文のように言うリオル。

その表情は絶望の一言でした。


部屋にはベッドとトイレ、ドアが二つ。

ひとつのドアは外から見えるように上半分が格子になっていて、もうひとつのドアはごく普通のドアになっています。

私はベッドから立ち上がり、普通の方のドアを開けるとそこには洗面台とお風呂が一緒になっているバスルームが。

なんというか…人質への待遇の仕方ではないですよね…

私が何かないか調べていると部屋の外から足音が聞こえ、あの男の人がドアの前まで現れました。


「悪いが嬢ちゃんたちにはしばらくここにいてもらう。嬢ちゃんたちの国が早く条件を飲み込めばすぐにでも出してやる。嬢ちゃんたち、名前は?」


ここは…答えたほうがよさそうですね…


「なんでそんなことに答えなきゃいけないのよ!」


「人質の名前がわからなかったら説明のしようがねぇじゃねぇか!こっちは嬢ちゃんたちみたいな好奇心で出てくる子供を狙ってたんだよ!ただでさえよく分からねぇ国なのにそこの住人の情報なんて分かるわけねぇだろ!」


ド正論ですね…


「お兄さんも大変なのですね…私はミラ・アルセです、こっちはリオル・フィンです」


「ちょっとミラ!そんなに簡単に教えていいの!?」


「いち早く家に帰るにはこうするしかないのです。そうですよね?」


「ああ、理解が早くて助かる。ほらよ、朝飯だ」


扉の下のパカパカ開く部分から出てきたのはロールパンとオムレツ、クラムチャウダーにプリンまでついてきました。


「先程から聞きたかったのですが何故ここまで待遇がいいのですか?」


私がそう聞くと男の人は俯いたあと後ろを向いて話してくれました。


「それはな…俺には嬢ちゃんたちと同じくらいの娘がいるからだ。昨日はあんなことをして嬢ちゃんたちを襲ったが国のため…引いては家族のためだからな。俺の娘は可愛いぞ~、お父さん大好きって―」


「このクラムチャウダー美味しいわね!ママのより美味しいかも!」


「そ、そりゃあよかったな…じゃあおとなしくしてろよ」


そう言って男の人は去って行きました。


「さて…これからどうしましょう…」


「決まってるじゃない!」


「脱走ですか?」


「お風呂に入るわよ!」


「えぇ…」

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