第17話 仲直りをするまでが喧嘩です
リオルがお風呂に入っている間、私は部屋に何かないか探しましたが、めぼしいものは見当たりません。
壁を破壊するような魔法はまだ覚えていませんし、何より覚えていたとしても私の魔力が空になっても壁に穴を開けるほどの威力は出ません。
このままじっとしていることが最善だとは思うのですが、リオルは異国でも早く家に帰りたいはずです。
しかし、ここから出られるものはなにもなく、本当にここで待つしかなさそうです。
リオルがお風呂から上がり、私達は作戦会議を始めました。
こんなことをしても何にもなりませんが、暇なので。
「ミラ、脱出する方法は見つかったの?」
「ないです、何もないです。私達が出られそうな隙間のようなものもないですし、穴を開けるような道具もないです」
「絶望的じゃない…」
「それにここから脱出したとしても門の外に出たとこがあの時以外ないので帰れないですね」
「その通りだ、だから余計なことは考えねぇほうがいいぞ」
ドアの向こうからさらっと会話に入ってくるさっきの男の人。
「聞いていたのですか、盗み聞きとは趣味が悪いですよ」
「何とでも言え、俺だって暇なんだよ」
「知りませんよ…他の私達を攫った人たちとお話をすればいいじゃないですか」
私がそう言うと男の人は少し黙ってから一度ため息をついて話し始めました。
「俺…こう見えて人見知りだから急に作られたグループの輪の中に入れねぇんだよ…」
あ、この人多分幼い頃学校で輪の中に入っているようで入っていなくて周りに気づかれずに一人ぼっちだったタイプですね…
「だけど私たちとこうして話せているじゃない、何でほかの仲間と話せないのよ?」
「そりゃあ…嬢ちゃんたちが子供だからだよ…」
「うっわぁ…」
露骨にドン引きするリオル。
「引いてんじゃねぇ!俺の子供と同じような歳だから話しやすいってだけだ!」
「ヘーソーナンダー」
「信じてねぇな嬢ちゃん…」
「当たり前じゃない、子供と話すことが楽しいって言っている大人の言うことは信じちゃダメってママが言っていたわ」
「絶対嘘ですよねそれ」
「そんなことより暇よ。何かないの?」
何で偉そうなんですかね…?
「何もないな。子供なら何もなくてもなにか遊びを考えつくものだろ?」
「まぁ…火遊びくらいならできますけど…」
「火遊び!?そんな歳で火遊びなんかしてるのか?恐ろしい嬢ちゃんだな…」
「そうですか?一度『ファイア』を使うことができれば大体の魔法使いは遊んでいますよ?」
「そっちの火遊びか…」
「そっち?」
「いやなんでもねぇ、とにかく部屋の中で遊んでいろ」
そう言って男の人はまた去って行きました。
「はぁ…暇ね…」
「そうですね、勉強をする道具もありませんし、遊べるような魔法もあまり覚えていませんし…」
「あまりってことは何か使えるの?」
「ええ、昨日私が使った『フライ』、『ファイア』、『ボム』、『ブレイク』くらいですが」
「危ない魔法ばかりじゃない、『ブレイク』なんて聞いたことすらないわよ」
「『ブレイク』は壊す魔法ですよ。使い方によって色々なものを壊せます。」
「壊す」といっても壊せるものは幅広く、机や建物といった物理的なものから人間関係やプライドといった精神的なものも人によっては壊すことが可能です。
「なんだかよく分からない魔法ね…それで壁は壊せないの?」
「私の魔力では無理ですね。木の棒一本折るので精一杯です」
「使えないわね…」
「友人に向かって使えないって失礼じゃないですか!?リオルこそ何か使えるのですか?」
「もちろん使えるわよ!書いた文字を消すための『イレイザー』、お水を冷やすために使う『クーラー』、料理をするときに使う『ファイア』!」
どれも生活で使うための魔法ですね…ん?イレイザー…
「リオル、一つ案があります」
「何?言ってみて」
「それはですね、壁を消すのです」
「バカじゃないの?」
食い気味に罵られました。
「まぁまぁそう言わないでください、私もリオルの魔力程度では壁は消せないことくらい分かっています。作戦はこうです。まずリオルの『イレイザー』で壁を消せるところまで消します。そうしたら薄くなった壁を何度か蹴り続けます。そうすると壁の破片が少し出ると思うので、それを私の『ボム』で爆破させればいけるはずです!」
「ふーん」とリオルは言うと格子のある方のドアの近くに座り、『イレイザー』を唱えると壁の表面が消えました。
「…え?」
「悪かったわね…私の魔力もこんなものなのよ」
部屋の隅っこに座って拗ねてしまいました。
こうなると数時間は拗ねます。
大体の場合はリオルのお母さんのお菓子で機嫌を直すのですが…
仕方がないので私は壁の破片が出るまで壁を蹴り続けることにしました。
蹴り続けること数時間後―
「昼ご飯だ…ってなんでそんなに汗びっしょりなんだ?」
「ちょっと…体力をつけていまして…」
「そ、そうか…じゃあそっちのお嬢ちゃんはなんで部屋の隅っこに座ってんだ?」
「ちょっと色々あって拗ねています」
「色々か…喧嘩はいいがちゃんとに謝れよ」
私はご飯を食べながら蹴り続けた壁を見ますが、破片どころか傷一つ付いていません。
お昼ご飯についてきたスプーンも木製で壁を削るのは不可能ですね…
「もう諦めたら?」
「何を言うんですか、私は諦めませんよ、リオルだって早くお母さんに―」
「もう私たち捨てられたんだよ!そうじゃなきゃこんなに遅くないもん!」
「リオル…ですが―」
「ここから出れる方法はまだあるって言うの!?私たち子供なんだから力はないし、魔法も全然使えないし、何もできないんだよ!元はといえばミラが門の外に出るって言うから!!」
「じゃあリオルは門の外に出たいと思ったことはないんですか!?あのまま一生門の外に出ないで狭い世界で一生を終えたかったんですか!?」
「それは…違うけど…」
私達はその後一言も言葉を交わすことなく、時間だけが流れていきました。
そして男の人が夜ご飯を持ってきたその時。
大きな爆発音がして建物が揺れるのを感じました。
「ちっ、ここがバレたか!」
男の人はそう言うとドアの鍵を開けて私達にここから出るように指示をしました。
「何が狙いですが?」
「狙いもなにもねぇ、このまま爆撃食らったらこの建物は壊れて嬢ちゃんたちが埋もれちまう。この部屋を出て左にまっすぐ進めば階段がある。そこを登ればすぐに出口が見えるからそこから出ろ」
「あなたは?」
「戦うに決まってんだろ」
「ですが私の国の遊撃部隊はとても強いんですよ!矢なんて届かないくらいの高さから敵を攻撃するのですから!」
「ふっ、人質から貴重な助言貰っちまったな…じゃあな嬢ちゃん!これに懲りたら自分の国の言うことと、お母さんの言うことはきちんと聞けよ!」
男の人は走って通路を走り、階段を駆け上がって行きました。
「リオル、行きましょう」
「…うん」
リオルは部屋から出ましたが、俯いたままです。
「どうしたのですかリオル?」
「さっきは…怒鳴ってごめん」
「こちらこそです。さぁ、早く行きましょう!」
「うん!」
こうして外に出た私たちは兵士の人に助けられ、国に戻ることができました。
あの男の人が一体どうなったのか私たちにはわかりません。
ですが王様から説教を受けている時に遊撃部隊が半壊して撤退をしたという報告だけは分かりました。
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