第14話 一年は早いはもはや死語に近いです
森の中でアームモンキーと相撲をしていた半裸の男の人はアームモンキーが立ち上がっては投げ飛ばし、立ち上がっては投げ飛ばしと…五回ほど投げ飛ばすと服を着直してその場に座り、地面に手のひらをつけて瞑想のようなことを始めました。
「急に瞑想のようなことを始めましたね、どうしたのでしょうか?」
「部族特有のお祈りか何かでしょ、さっさと森を出るわよ」
リオルがその場を去ろうと足を踏み出した瞬間。
「破ァ!」
突如リオルの足元の付近が爆破し、土が吹き上がりました。
「さっきから気配がすると思っていたが…やはりいたな。出てこい」
「ど、どうします?」
「どうするって…行かなきゃ殺られるでしょ…今下手したら足が吹っ飛んでたし…」
「ですよね…」
私達は恐る恐る男の人の前に姿を現すと男の人は立ち上がり、こちらに近づいてきました。
こちらの手が届きそうな距離まで近づくと、男の人は目を細めて私たちの姿をぐるっと一周しながら見ると「ふむ」と一言。
「お前さんら…人間か」
「そうですけど…あなたは違うのですか?」
「違うぞぉ、儂は竜人族といって竜の体に飽きた竜が人間の姿になった一族だ。それはそうとお前さんらこの森に何か用か?生態系の調整なら一昨日済ませたばかりだろう」
生態系の調整…ノヴァさんのことでしょうか。
「特別ここに用事あるわけじゃないわ、温泉に向かう道にここを通っているだけよ」
「温泉…デメテル温泉のことか、それにこの森を通るということはお前さんらブリーズタウンから来たということだな。ならひとつ頼みがある、聞いてくれるか?」
「ええ、私たちにできることなら構いませんよ」
「ちょっ…」
「うむ、いい返事だ。早速頼みだが儂を温泉まで連れて行ってくれ」
「もちろんいいですよ!リオルもいいですよね?」
「いいけど…一人で行けない理由を教えてくれない?デメテル温泉はお金がなくても入ることはできるからそれ以外の理由よね?」
「うむ!儂が竜人族だからだ!」
はっきりと言いますね…それだと私達すら温泉に入れないじゃないですか…
「今お前さんら儂をバカだと思っただろう!表情で分かるぞ!」
「だったらそんな自信満々に言わなきゃいいじゃない…それにあんた見た目は赤い肌以外は普通の人間だからバレないでしょ」
「問題はこの赤い肌だ、数十年ほど前に同じ竜人族の阿呆がやらかして以来竜人族は出入りが禁止されている。だからどうにかして入りたいというわけだ」
「ではどの道入れないのでは…あっ、いいことを思いつきました!」
「ほう、言ってみろ」
「簡単なことです、竜の姿になればいいんですよ」
我ながら見事な発想です、これには二人共びっくりするはずです。
「あんた…大馬鹿でしょ」
「何故です!?かなりいい案だと思ったんですけど!」
「お前さん…普通人間がドラゴンを見たらどうすると思う?」
「え?逃げるか討伐ですよね?」
「つまりお前さんはアレか?儂に死ねと言いたいんだな?」
私を食べてやろうかと言わんばかりに目を大きく開く男の人。
食べないでください。絶対に美味しくないです。
「違いますよ!ペットとして連れて行けば問題ないと思ったんですよ!」
「あんた…デメテル温泉が湖並みに広いと思ってるでしょ…そこまで広くも大きくないわよ!せいぜい二十人くらいしか入らないし深さも一メートルくらいしかないわよ!」
「で、でも竜の姿に戻ってもこの大きさのままでは…」
「儂が竜の姿に戻れば五メートルほどあるぞ、これでも戦争時代前から生きておるからな」
「戦争時代前から生きているのですか!?となると数百歳ですよね?」
「ああ、今年で五百と四十だな。だがそんなことはどうでもいい!そっちのも何か案はないのか?」
「あったら言ってるわよ、竜人族なんて初めて見て聞いたし、デメテル温泉と関わりがあることも今知ったわ。大体数十年もすればその時の目撃者も残っていないだろうし、そのままでも行けると私は思うけどね」
なんという発想。
さすがはリオルとしか言いようがありません。
「なるほどな…では正々堂々と行くとするか!」
「いや、あくまで予想よ?覚えていたらどうするのよ…」
「その時はその時だ!…と、儂の名前をまだ言っていなかったな、儂はトレラ・フォリだ、短い間だがよろしく頼むぞ」
「よろしくお願いします、私はミラ・アルセです」
「リオル・フィンよ…どうなっても知らないわよ…」
こうして私達はトレラさんを連れ、アームモンキーに手を振られて森を出ました。
森を抜けると草原が広がり、温泉までの道が出来ていました。
「おぉ~こんなに整備された道初めて見ました」
「そうね、まるで誰かが定期的に来ているような…いやまさかね…」
「ああ、あの温泉までの道は調整をしに来る奴がたまに整備して行くぞ。『面倒くさい』と呟きながらやっているが嫌ならやらなくていいと思うのだが…」
ノヴァさん…そんなことまでしていたのですか…
道を歩いていくと私達のような冒険者に襲いかかって来る魔物はいますが、何故か襲いかかってきません。
「何をキョロキョロしている?この草原には凶暴な魔物などおらんだろう」
「いや、普通は襲いかかってくるはずの魔物が襲いかかってこなくて不思議なんですよ」
「ふん、魔物には儂の姿が人間に見えていないからな、恐れているのだろう」
そう思うと今の私達ってかなりすごいですよね。
ドラゴンを連れて歩いているのですから。
お土産の話をしながら歩いていると入口の所に看板があり、「ようこそデーメーテール温泉へ」と書いてあります。
「さて…ここからお土産屋さんとか宿屋さんを無視して真っ直ぐに行けば温泉のある施設に行ける町に入るけど…トレラは不自然な行動は控えること、ミラは物珍しさにいろんなお店に飛び込まないこと。頼むからこれだけは守りなさいよ」
「お前さん儂を田舎者扱いか!余計な心配などしなくてもいい!」
「そうですよ!私だって子供じゃないのですから!」
「心配しかない…」
町に入ると人がたくさんいて、とても活気が溢れていました。
同じような服を着ている人が多く、動きづらそうな靴を履いて歩いています。
「う~ん!温泉街って初めて来たけど雰囲気がいいわね!お土産屋さんはあとで行くとしてまずは温泉よね!」
いきなりテンションが上がるリオル。
ルンルンと歩くリオルですが、私はお菓子屋さんが気になります。
手持ちのお金はそこそこあるのですぐにでも買いに行きたいのですが…
直ぐに返ってくれば大丈夫ですよね!温泉までは真っ直ぐと言っていましたし!
リオル、すぐに戻ります!
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