第13話 ある日、森の中で…
デメテル温泉に向かうには普通、馬車に乗って向かうのですが、私の修行ということで片道三時間の道を徒歩で行くことになりました。
更に行く道は馬車で行くための、あまり魔物が出ない道ではなく、好戦的生ものが多く出る道。
私たちの荷物も温泉に行くための荷物ではなく、魔物を討伐するための装備と荷物になっています。
「あの…本当に温泉に向かうんですよね?」
「そうよ、予定通りなら夕方になる前にはつくわ」
せっせと荷物の確認をするリオル。
荷物の確認が終わると、「よし、じゃあいくわよ!」と張り切って先に家を出ていきました。
私も弓を背負い、腰に矢が入った筒をつけて家を出ました。
門の外に出て、深い森の中を目指して私たちは歩き始めました。
馬車では危険回避、というより確実に雇った兵士が恐れるほどの危険な魔物がいるのでこの道を回避して遠回りをするのですが、私たちはここを突き抜けます。
「あの森…最近じゃ誰も近づいてないですよね…」
「そんなことないわよ、魔物が増えすぎないようにノヴァがたまに来ているのよ、だからそこまで危険ではないと思うわ」
その「たまに」の頻度が気になるんですが…
特に魔物に襲われることはなく、森の中に突入する私たち。以前この森に一度だけ入ったことがありますが、それはもう…と早速半獣『ワーウルフ』が三匹も現れました。三匹とも片手で持てるくらいの斧を持っており、頭をやられたら…
「それじゃ、早速始めるわよ!私はあまり手を出さないから頑張りなさい!」
リオルはそう言うと木に登って行ってしまいました。
一人で三匹も相手をするのはかなりキツいのですが…やるしかないですよね!
斧を振り上げて襲いかかってくるワーウルフ。戦い方はもちろん射って逃げての繰り返しなんですけど…逃げられるのでしょうか…
「グルルァ!」
「危なっ!」
弓を構える余裕もなく、距離を詰められてしまいます。
「なに立ち止まって構えようとしてるの!立ち止まって構えてる余裕なんてあるわけないでしょ!」
「無茶言わないでくださいよ!狙いが定まらないじゃないですか!それに絶対力入りませんよ!」
「ごちゃごちゃ言ってると夜になってもっと危険になるわよ!何とかしなさい!」
スパルタすぎじゃないですかね…
私はワーウルフから距離を取ろうとしますが、ワーウルフの足は速く、すぐに追いつかれてしまいます。
「こんっの!」
斧を振りかぶったワーウルフの腹を思いっきり蹴り、構えましたがほかの二匹が邪魔をしてきます。
「相手は三匹なんだから一匹一匹相手にしようとしたら無理に決まってるでしょ!もっと頭使いなさい!」
頭を使えと言われましても…
そうです!相手の武器を奪ってしまえば!
…いや、奪おうとする間に後ろからやられることが目に見えていますね…
ならば!
私は二匹の攻撃をかわし、起き上がろうとしているワーウルフの両足に刺し、その場からまた逃げました。
残りの二匹はコンビネーションがいいのか二匹同時に襲いかかってくるのでさっきのように蹴り飛ばすことは難しいです。
細い道があれば一匹ずつ対応ができるのですが、ここは森なのでそういうわけにもいきません。
せめてブレイさんのように弓そのもので戦うことができればいいんですけど…
…そうです!弓を使えばよかったのです!
ワーウルフに追いつかれ、斧をかわしたあと弓の弦を一匹の首に引っ掛け、体重をかけて倒しました。
すかさず襲いかかってきたワーウルフは両腕を掴み、顎に向かって頭突きをしました。
ワーウルフの顎は毛で覆われていたものの、頭はかなり痛いです…
倒れたワーウルフ三匹の頭を射抜き、やっと一安心です…
「つ、疲れました~…」
その場で仰向けに倒れると、森の清らかな空気と血の臭いが混じってなんとも複雑な匂いがします。
「お疲れ様、でもここで休んでいるとまた襲われるわよ」
「ですがもう歩けませんよ…少しだけ休憩させてください…」
「仕方ないわね…はい、飲み物」
ため息をつきながらも水を渡してくれるリオル。
「ありがとうございます。…はぁ、遠距離の武器なのに近距離で戦うなんて普通やりませんよね…」
「ええ、今の戦いは『もしも敵が目の前に出てきてしまったら』の戦い方だから。次は木の上から狙う修行をやるわよ、一発でも外したら今後一切の賭け事を禁止するわ」
「厳しすぎませんか!?せめて全て当てたらご褒美とか…」
「甘い!『これって砂糖水っていうか少し湿った山盛りの砂糖ですよね』というくらいの砂糖水より甘いわ!」
「それはただの砂糖では?」
「そのくらい甘い考えなのよ!いい?弓を使う人は相手がかわさない限り百発百中が当たり前なの、セーラなんて難しいと言われてるヘッドショットをホイホイとできてるんだから」
「でもブレイさんは…」
「他所は他所!うちはうち!」
「今その他所を私と比べていましたよね!?リオル、今日やたらと理不尽じゃありませんか!?」
「気のせいよ。さて、休憩終わり。そろそろワーウルフの血の匂いにつられて他の魔物が来るから木の上に行くわよ」
五メートルほどある木の上に登り、少し待っていると両腕が体の倍はあるサルがやってきました。
「あのサル…見たことないですね」
「そりゃあこの森の主だもの。『アームモンキー』は見た目はあんなにたくましいけど、気性は穏やかでとても臆病なのよね。肉食だけど。ちなみに狩っちゃダメよ」
最後の部分に問題がありませんかね?と言いかけましたが、あえて言いませんでした。
アームモンキーがワーウルフたちを抱えてどこかに行くと、今度は二メートル程の角が生えたゴブリンがやってきました。
「外したら…分かっているわよね?」
小声で告げるリオル。表情が恐ろしいことこの上ないです。
私は弓を構え、慎重に狙います。
狙うは頭…後ろを向いているのでいけます!
放った弓は首に刺さり、ゴブリンが苦しみ始めました。
「あんた…えげつないことするわね…」
「違うんです!本当は頭を狙っていたんです!次こそは!」
ゴブリンの動きはそこまで激しく動いていません、次こそ頭を…
放った矢は矢を引き抜こうとしていた手に刺さりました。
「うっわぁ…嫌な趣味してるわね…」
ドン引きするリオル。
「わざとではないんです!…あ」
力尽きたようでその場に倒れるゴブリン。
なんだか凄く罪悪感が…
「倒し方はアレだけど…とにかく外さなくてよかったわね…」
リオル、私から距離を置かないでください。
あと私から視線を逸らして話すのをやめてください。
私が敵を嬲り殺したみたいになっているじゃないですか!
「それじゃ温泉に向かうわよ!…私の前歩いてね」
「親友を殺したりしませんよ!?」
「それはそうだけど…ねぇ?何か親友の隠された性格を見てしまったというか…ほら、最近深層心理って流行っているじゃない?」
「ただの偶然です!こんなことで引かないでください!」
こうしてリオルを説得しながら温泉に向かって歩くこと約十分。
ようやく納得してくれたようで横に並んで歩いてくれました。
「やっと理解してくれました…」
「本当びっくりしたわよ、首、手なんて狙っても射抜けることがほとんどない所を狙ったように射抜くから…でもそんな当たりかたじゃこの先心配ね、いざという時に一撃で仕留められなかったら終わりよ」
「そこは気合で何とかします」
「根拠もないことを…でもミラならできそうな気が…やっぱりしないわね」
ふふ、と笑って意気揚々と歩いているリオル。
すると突然ドン!という大きな音が響き、森がざわめき始めました。
「何事ですか!?」
近くの木に身を隠し、しゃがんでいると先ほどのアームモンキーが何者かに放り投げられたように吹っ飛ばされていました。
そして恐らくアームモンキーを投げ飛ばした、を人が投げ飛ばしたアームモンキーに近づいて行きます。
見た目では男の人だと思うのですが…炎のように赤い肌、髪をしています。
頭にはドラゴンの羽のようなアクセサリー。かっこいいです。
「そんな弱さで森の主やってんのか!立て!そしてもう一度相撲をとるぞ!」
…何をやっているんですか。
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