第12話 温泉の効能はどこも似たり寄ったりですよね
「この弓…リオルにあげた弓だったのですか?」
「ああ、握りを見てみろ、Rと書いてあるだろう」
見てみると小さくRの文字が。
「だが落ち込むことはない。おぬしの弓も製作中だ。なにせおぬしは使いづらい弓を、弓を扱わない職業で使っておるのだからな。上級アーチャーでも使いづらいような弓を僧侶が使ってみろ、使えなくて当たり前だろう」
苦笑いしかできません…わたしが使っている弓は武器屋で一目惚れをして買ったものなので性能などは目もくれていなかったものですから。
「そういえばセーラが近いうちに温泉に行くと言っていたな。小生と二人で行くみたいだからしばらく留守にする」
「温泉ですか、いいですね~お二人で楽しんできてください」
私は一度家に帰り、リオルに「これ、リオルのものでした」と言って弓を渡してから賭博場に向かいました。
何をしようか迷っているとチンチロリンをしているノヴァさんの姿が。
楽しそうにやっているので勝っているのでしょうか。
というかシスターが賭博としていいのでしょうか…
「こんにちはノヴァさん」
「よっ、ミラじゃねーか。ちっと頼みがあんだけどいいか?」
「内容にもよりますけど…頼みとは?」
「金を貸してくれ!途中まで勝ってたんだけど今素寒貧になっちまってなー!」
「よくそんな満面の笑みで言えますね!?」
仕方なく少しだけ渡すと「サンキュー!」と言ってチンチロリンを再開しました。
「よっしゃーやるぜ!オヤジ!全賭け!」
「また全賭けですか…というかその呼び方はやめてください…」
またということはさっきまでずっと全賭けだったのですね…
その様子を見ていると投げる勢いが凄いです。
ションベンになることはなく、お椀からはみ出る直前で華麗にサイコロが舞っています。
出た目は二の目が三つ。ニゾウの嵐で三倍です。
「ッしゃあ!んじゃ金返すぜ」
「どうもです。投げ方豪快ですけどよく溢れませんね」
「そりゃ最初はボロッボロ外してたぜ?やってるうちに慣れちまったな!」
「ウチは困っているんですよ?これまでにサイコロは十個以上壊されましたし、このお椀も四代目ですから」
「これは先代です」と言ってディーラーさんがテーブルの上に出してくださったのは底が貫通しているお椀。
どんな勢いで投げたら穴が開くのでしょうか…
「もう一回戦だ!もちろん全賭けだぜ!おらぁ!」
ノヴァさんが投げたサイコロはお椀の中を火花が散るのではないかというくらい暴れまわり、出た目は四、五、六。シゴロで二倍です。
「よっしゃ!これで温泉に行けるぜ!」
「ノヴァさん温泉に行くのですか?」
「ああ、エリーが教会のかってぇソファーで寝てるから腰を痛めちまってな、湯治に行くんだよ。だがエリーが金の管理をしてるわガキどもにお菓子を配ったりでそんな余裕はねぇからここで博打してたってわけだ。んじゃ、俺は帰るぜ」
置いていた斧を持ち上げて去っていくノヴァさん。
床には斧の刃の跡がくっきりと付いています…
「やっと帰ってくれました…あの人あまり来ていないように言っていますが結構常連なんですよ。道具をよく壊してはいきますが、それ以上に用心棒のようなことをしてくれるんですよ。他の街から強盗が来た時も一網打尽にしていましたし」
武器持って暴れていたらこの店崩壊しているのですけど…と言いかけましたがやめておきましょう。
ディーラーさんが「すこしやっていきますか?」と言ったので私は少しだけチンチロリンをやって惨敗し、家に帰りました。
「ただ今帰りました~」
「おかえり、その様子じゃどうせ博打行って負けてきたんでしょ。まったく…いくらお金があるからって無駄遣いしていいってもんじゃ――」
「リオル!温泉行きましょう!」
「人がまだ話してる途中でしょうが!温泉の話は後で!いい?お金っていうのは―――」
リオルのお説教を聞くこと十分。
やっと温泉の話をさせてもらえました。
「それで、なんで突然温泉に行きたいだなんて言い出したの?」
「実はこういうことがありまして…」
私はブレイさんたちが温泉に行くこと、そして私が温泉に行きたいことを伝えました。
「なるほど、けど温泉のある街なんて結構あるわよね?皆どこの町に行くか言ってなかったんでしょ?」
「ほかの方達と一緒じゃなくていいんですよ、会ったら合流でもいいですし」
「まぁ…あんたがいいって言うなら別にいいけど…どこの温泉がいい?私はやっぱ有名なデメテル温泉がいいかなぁー」
デメテル温泉とは、老若男女問わず人気の温泉で連日人が多く訪れる場所。
人気の理由は入浴料の安さと効用にあるらしいのですが、豊穣の神様であるデーメーテール様がその湯に浸かって体を癒していたという伝説があるということでも人気があるそうです。
「私まだあの温泉に行ったことないから一度行ってみたかったのよねぇ…どう?」
「賛成ですよ。ではいつ行きましょうか?」
「明日!予定もないしそうしましょ!」
だんだんテンションが上がるリオル。
そんなに行きたかったのでしょうか…
「そうと決まったら明日の準備をしなくちゃね…でも向こうで買ったほうがいいかしら…」
「あはは…準備はリオルにお任せします、まだお昼なので私は狩りに行ってきますね」
私は弓を手に取り、外に出かけました。
街の外に出るといつもどおりその辺には弱い魔物がいるので私でも…
火の玉を吹く鳥、「トゥルク」に向かって矢を放ちましたが躱されるどころか大きく横に外れてしまいました。
おかしいですね…僧侶になったとはいえここまで大きく外れるわけがないのですが…
もう一度よく狙って放ちましたが、今度は上に外れてしまいます。
そういえば左目が見えなくなってから的が小さいものを狙ったことがないですね…これはまずいです。
なんとしても感覚を取り戻さなくてはいけません。
私は何度もトゥルクに向かって弓の向きや力加減を変えながら放ちましたが、一向に当たる気配がしません。
やはり左目が見えないと不便ですね…
結局一時間かかっても当たることはなく、矢を拾いにいった所をトゥルクに襲われて逃げ帰ってしまいました。
「た、ただ今帰りましたー…」
「おかえりー…ってあんた所々焦げてるじゃない!えっ、まだリザードマンがいたの!?」
「いえ…トゥルクに逆襲されまして…」
「トゥルクって…とりあえずお風呂入ってきなさい。事情はだいたい察したけど…」
お風呂に入り、私は嫌なことを考えてしまいました。
私が僧侶になっていいことなんてあったのか。
みなさんの役に立っているのか。
私は足でまといにしかなっていないのか。
私が抜けても…
そんなことを考えながら入っていたせいでしょうか、お風呂から上がっても全くさっぱりした感じがしません。
「あがったわね、じゃあまずこれだけ言わせて、あんた大馬鹿でしょ」
「えっ」
「トゥルクは雑魚中の雑魚。剣を握ったことがない子供でも倒せるレベルの雑魚よ。けどさ、それに負けたからって何?小さいものが狙えなくなっただけでしょ?それにあんた左目の視力失う前から小さいものを狙うの苦手だったじゃない。何を今更再確認みたいに…っていうかその前に練習しないあんたがいけないんでしょうが!次からは私のこと守りますみたいな感じになっておいて強くなったところ一回も見てないわよ!明日温泉に馬車で行こうかと思ったけど変更!歩いて向かうわよ!片道四時間もあるけどあんたのため!わかった!?」
「…はい!」
私はなぜ悩んでいたんでしょう。
そう思わせてくれるからリオルはやはり最高の親友です。
頼りになって、たまに口うるさいですがこんなに優しいのですから。
翌日。その親友の思いもよらぬ一面を見ることになるのですが…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます