第9話 洞窟探検の危険といえば…

私が声をかけると涙とちょっと鼻水が出てる顔で私に抱きついてきました。ヤバイです。着替えたばかりの服に鼻水が…!

「ミラさん…助けてください…ブレイさんが…」

「ブレイさんに何かされたんですか?」

「今日ご飯をセーラが先に食べ終わって片付けようとしたら『全員が食事終わるまで席を立ってはいけないと教わらなかったのか?』と言われ…それはまだいいんですけど…お風呂入り終わったあとに『おぬしの髪の毛が湯船に入っていたぞ!入り終わったら清潔にしておけ!』と…」

あの人豪快そうに見えてマナーとかに厳しいんですよね…ブルーホの戦いの時もちゃんとに名乗っていましたね…いやでも今日あった時骨かじっていたからそうでもない気がしますけど…

「他人の家でお世話になっておいて口出すのは確かに気にくわないわね…セーラはなんか言い返したの?」

「はい…セーラの家なんだから別にいいでしょうと…」

「そしたら?」

「『マナー、清潔は人の家だろうが関係あるか!おぬしも人の家に行って湯船に入ろうとし、いくつかの髪の毛が浮き沈みしていたらどう思う!』と言われて…ここに来ました…」

「なら普通に扉叩いてくればリオルが出ましたのに…」

リオルもうんうんと頷きますが、セーラさんはぶんぶんと首を振ります。

「二階で話をしていたので…一階に降りようともしましたがブレイさんが道を塞いでいたのでベランダから意を決してダイブしました…」

まるで強盗から逃げる人みたいな…そんなことを思っていると今度はブレイさんがセーラさんの家のベランダからかっこよく私の部屋に窓から入ってきました。

「セーラ、迎えに来たぞ」

本来であればかっこいいセリフなはずですが、シチュエーションがこれですからね…

「助けてください…悪魔が…」

「ちょっ!?私のスカートの中に隠れないでくれる!?下着丸見えなんだけど!」

就寝用のリオルのスカートに隠れるセーラさん。すかさずブレイさんは長いスカートを勢いよくまくり上げます。

「ギャーッ!?なにすんだぁぁ!!」

殴りかかるリオルをサッと避け、丸まっているセーラさんの肩をポンと叩きます。

「ひっ…何をするつもりですか…」

「すまん、さっきはその…言いすぎた。だから…」

「…セーラも…一人暮らしだったので少しだらしなかったです…ごめんなさい…」

こうして二人は無事に仲直りし、家に帰っていきました。めでたしめでたし。さて、ガラスの処理をしませんとね〜

「…ねぇミラ」

プルプルと震えているリオル。トイレでしょうか?

「どうしたんですかリオル?そんな所に立っていないで一緒に片付けましょう?」

「ちょっと一発だけ殴っていいかしら?」

「えっ…?私何か悪いことしましたか?」

「あのバカども二人に恥ずかしい思いさせられた挙句私には謝りひとつなく帰ったのよ…損したの私だけじゃない!」

「だからって私を殴るのもおかしいと思いますけど…」

「うるさい!ならせめてあんたも下着を見せなさい!」

「何を言ってるんですかリオル!?下着なら洗濯する時毎日見てますよね!?」

「そういう問題じゃないの!いいから私に脱がされなさい!」

リオルのよく分からない暴走は五分ほど続き、リオルが落ち着いたあとガラスを片付けて寝ました。風通しがよく…寒かったです…

翌日、私が起きて居間に行くとガレットさんがいました。

「おはようミラちゃん!」

「おはようございます…朝から元気ですね…」

「あんたが起きるの遅いだけよ。…で、どこまで話したっけ?」

私がお話の邪魔をしてしまったようですね、では私は二度寝といきましょうかー

「あんたも聞いていきなさい、かなり大事な話だから」

「ええ、ですけどそんなに大事な話でしたらどこまで話していたかくらい覚えていてくださいよ…」

「うるさいわね、黙って座りなさい。ほれ」

ポンポンと椅子を叩くリオル。私が座るとガレットさんは真剣な表情で話し始めてくれました。

「じゃあ最初から話そうか、数日前、ミラちゃん達が街で戦ったリザードマンいたよね?」

「あの二匹のやつですよね?それがどうかしたんですか?」

「うん、そのリザードマンなんだけど、どうやら生息地である山から来たんじゃないらしい」

「まぁ…そりゃあ大半は山に生息してますが単独行動を好んで別の場所に住むリザードマンもいるとは思いますけど…」

ベルタルタ国に行く途中にもいましたが、単独行動を好むにしても多い気はしましたがね…

「その単独行動をしていた別々のリザードマンが洞窟に生息して繁殖した結果、この辺りにリザードマンが出現してしまったんだ」

なるほど、魔物が少なかったのはそのせいですか…ワーウルフもゴブリンもリザードマンからしたらただの食料にすぎませんからね…

「で、私達がその洞窟に行ってそのリザードマンの殲滅をしてくれって話らしいわよ」

「他の人にも頼んだけど皆『ただでさえ洞窟やばい魔物ばっかりなのにそれに加えてリザードマン数匹とか無理』っていうからね…」

皆さん情けないですね…とは言いたいですが実際私達も苦戦していましたし、洞窟なんて行ったことすらないです。

「あとでセーラ達にもこのことは話すけど…どうするミラ?」

もちろん決まっています。

「やりましょう!きっとブレイさんが無双してくれるはずです!」

「言うと思ったわ…まぁそれしかないのは確かだけども…」

「度々ごめんね!じゃあ僕は仕事に行くから!」

普段のテンションに戻ったガレットさんはそっとドアを開けて出ていきました。

「さて、セーラ達に聞きに行きましょ」

セーラさんの家のドアを叩くと、狩りに行く気満々のセーラさんが出てきました。

「ミラさんにリオルさん…おはようございます…」

「おはようございます、セーラさんとブレイさんにお話があるのですが、ブレイさんはいますか?」

するとセーラさんは気まずそうに俯き、ボソッと

「ブレイさんは…風邪を引いて…風邪を治すために自家製サウナ造りをしています…」

「待って。何故そうなったの?」

「ブレイさんが…『小生としたことが風邪を引いてしまった。ちょっとサウナを造るために洞窟に行ってくる』…だそうです…」

「何一つ理解出来ない…ん?今洞窟に行ったって…」

「ええ…なんでもいい石が取れるとかなんとか…お二人も洞窟に用事があったのですか?」

なんというタイミングでしょう…ですけど大丈夫でしょうか…いくらあのブレイさんとはいえ風邪を引いた状態では…

「セーラ!」

「はいっ!?」

「急いで洞窟まで行くわよ!」

私達は街を出て南に2kmほど行くとある洞窟に疲れないように、なるべく早足で向かいました。

その途中、数匹リザードマンが現れましたので洞窟にはそれなりにいるんですね…

洞窟の前に行くと乾いた熱気がすごく、まるで…

「ブレイ…まさかもうサウナ始めてるんじゃないでしょうね…私もめちゃくちゃ嫌だけど入りましょ」

中に入るとさらに熱く、身体の水分がガンガン抜けていくのを感じます…

中に進んでいくとブレイさんに斬られたであろうリザードマンが半ミイラ状態で倒れており、傷口からの血は蒸発していました。

「カッサカサの死体ね…水分補給しなきゃって温い!お風呂のお湯飲んでるみたいに温い!」

「周辺の岩などで肉が焼けそうなくらいには熱くなってきましたね…」

奥に進んで行くと、さらしとふんどしをして熱した岩で座り、精神統一しているブレイさんがいました。

「…む、おぬしらか。一緒にサウナをしに来たのか?」

目を閉じたまま話すブレイさん。気配でわかるんですかねぇ…

「んなわけないでしょ…ガレットにここにリザードマンの繁殖地になってるから殲滅してくれって言われて、あんたを頼りにセーラの家に行ったらあんたがここにいるって言うから来たのよ。…それにしても何でこんなに熱いわけ?元からこんなに熱いの?」

「おぬしら洞窟に来たことがないのか。ここからさらに奥に行くと標高8000m以上ある山からの極上であり、とても冷たい水と風が流れてくる。ここの岩は熱しやすく冷めやすいためむしろ涼しい場所だった。だからここの岩を持ち帰ろうとしたのだが、小生がここの洞窟に入ってリザードマンと小生が主に火を使って暴れていたらいつの間にか洞窟中の温度が急激に高まり、今に至る。水をかければ冷える気はするのだが、だが同時に普通のサウナのように水かけたらさらに熱くなるのではないかとも考えたのでそのままにしている」

「詳しい説明ありがとうございます…リザードマンってどのくらい倒しましたか?洞窟に入ってからここに来るまで数匹しか見てませんけど…」

「奥にいるのだろう、小生もまだここから奥に行っていない、それにしばらく行けば行き止まりになるからいると思うぞ。そういや小生にその用事があるのだったな、一緒に行くか」

「その格好で行くの…?まぁ他人が見てるわけじゃないから別にいいけど…風邪は大丈夫なの?」

「ああ、おかげでもうなんとも無い。魔力も以前より格段と上がったから以前のようなヘマはせんだろう」

私はそんなことよりどこからブレイさんは服を脱いでいたのかがとっても気になっていましたが、この熱さの中これ以上話を長くするのも嫌なので聞きませんでした…

さらに奥に進んで行くとリザードマンがバッタバタ倒れていました。

「息はあるようだが…火を吐く者としては情けないな」

「そりゃあこんな熱い中水分補給せずに、しかも裸足でいればこうなりますよ…」

「帰りに適当なサイズに切って今晩のおかずにしましょ」

さらに歩くこと数分…すると先程までの熱さが嘘のように涼しくなり、水の流れる音が聞こえるようになりました。

「一気に涼しくなったわね、…と親玉が来たみたいよ」

私達は丁度近くにあったいい大きさの岩に身を潜めて待ちました。すると普通のサイズより少し大きめで双剣持ち、鎧を着ているリザードマンが来ました。どこかの国から逃げてきたんでしょうか?

「なぜ身を隠す?さっさと殺ればいいだろう」

「アホ。また火を吐かれてここまで熱くされたらたまったもんじゃないのよ。ミラ、セーラ、合図をしたら一斉に撃つわよ」

「了解です…」

「承りました」

絶妙な距離まで引きつけ、リオルの合図で矢を放ちました。

リオルの矢は頭に、私の矢は首に、セーラさんの矢は鎧に弾かれてしまいました。

「鎧…硬かったですね…」

まだ生きていたリザードマンは火は吐けないものの、剣を振り回して周りの岩をスパスパと切っていました。

「すごい切れ味ですね、ここの岩も切られてしまいそうです」

「もう一撃!よっ!」

リオルがまた頭に撃ちますが、まだ倒れません。

「威力が足りん…そんなわけはないな。となるとあれしかないな!」

ブレイさんは岩陰から出ると、リザードマンを真っ二つにし、リザードマンは糸が切れたように倒れました。

「確実に倒したと思ったのに…なんだったの?」

「死体使い…ネクロマンサーが関わっています…しかもかなりの使い手の方です…」

「「な、なんですってー!?」」

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