第6話ヒーローは遅れてやって来ます
私達三人は門の近くまでやって来ました。
門に警備はおらず、ウェルカムな感じはしますが…
「罠…ですかね」
「篭城戦だったらね。だけど今はそうじゃないから大丈夫でしょ」
「だったら攻め込むまでだ。ミラ、防御魔法は覚えているか?」
「ええ、転職の際に貰ったリストに鉄のように硬くなる魔法が書いてありましたから。それがどうかしたんですか?」
「覚えているならいい、ならば今小生にかけておけ。小生は突入して片っ端から潰していく。そうすれば敵の親玉が出てくるだろう、お前らはそいつを殺れ」
ブレイさんは治療用の包帯で弓と自分の腕を巻き付け、まるで自分の国のために特攻して死ぬ気満々の兵士の顔をしていました。
「あんた…死ぬ気?」
「死なないためにお前らがいるのだろう。ミラ、小生を殺したくないのならお前の魔力をありったけ寄越せ。小生も防御魔法は覚えているが自分の魔力は攻撃魔法に回したい。リオル、お前は親玉を見つけ次第すぐに殺せ。敵将のいなくなった兵士など烏合の衆だ」
他に作戦は無いのですか、そう言いたい私でしたが、こっちは三人。出来ることなんて限られ、限られています。リオルも下唇を噛んで頷いていました。私も頷きます。
突入するため私達は門の前まできました。
「それではいきます…『コーティガン』!!」
「『ボマーアーツ』!」
ブレイさんが門を思いっきり殴ると門が吹き飛び、その先にいた数十人のルメラカ軍の兵士も吹き飛んでいきました。
「なんだあいつ!?」
「敵襲!敵襲!」
周りいた兵士もほとんどが武器を持っておらず、ある者は叩き切られ、ある者は頭を地面や壁に叩きつけられたりと、見る限りでは戦争というよりも虐殺が行われていました。
「リオル!こいつやるから水でもかけて聞き出しておけ!」
ブレイさんは頭突きをされて気絶している兵士を一人をこっちに投げ、また戦闘を開始しました。
「あいつ…戦争国育ちなのかしら…えーっと水…っとあった。おりゃ」
リオルは水分補給用の水を魔法使いの兵士の顔にかけると、兵士の意識が戻りました。
「ひぃっ!殺される!」
まぁ…あのブレイさんの後ですからこんな反応ですよね…そんなことを思いながらリオルの顔を見てみると、博打帰りの私に向ける顔とは違う、冷酷な表情をしてナイフを構えていました。幼少期の頃からの付き合いでしたが、リオルのこんな表情を見るのは初めて…うむ?初めてな気がしなくもないような…まぁ今はいいでしょう。
「殺されるかは返答次第よ。嘘をついたら殺す。反抗しようとしたら殺す。逃げようとしたら殺す。沈黙が3秒以上続いたら殺す。遠回しな言い方をするなら殺す。いいわね」
「は、はい…」
「率直に聞くわ。ここにいる中で一番強いやつ、もしくは一番偉いやつは誰?」
「それは…ルメラカ国魔術軍3番隊隊長のフルーホ様です…」
「嘘ね。殺すわ」
「嘘じゃない!フルーホ様はここの国を潰せと命令されて来たんだ!我々はフルーホ様の部隊だ!」
「へぇ…じゃあここにはもうそいつ以外は特別強いやつはいないってこと?」
「あぁ…ドータスカ様も今はこの国を潰したと思っている頃だろう…なぁ、ここまで話したんだからもういいよな?」
「途中から敬語じゃ無くなったのは不快だけど…いいわよ、行きなさい!」
リオルは兵士を立たせて門の中に思いっきり押しました。すると兵士の身体はすぐにブレイさんの弓によって貫かれ、蹴り飛ばされました。
「どうだった?何かあったか?」
「さっき倒したあのフルーホってやつが親玉らしいわ。…面倒ね」
「死体でも晒せば逃げ出すのだろうが…さっきの所まで少し距離があるな…」
「だぁれがぁぁ死体になったんだってぇぇ!?」
突如ブレイさんの背後から鋭い何かで切りかかるまっ黒焦げの人。ブレイさんは弓で防ぎます。
「その声…フルーホか、随分とまぁ…変わったな」
全身が細く引き締まり、なにか薬でも打ったかのように筋肉がムッキムキになっていました。腕は刃のようなものになり、その姿は正しく『化け物』と呼ぶのに相応しいです。
「ヒャヒャヒャア!さっきはよくも殺してくれたねぇぇぇ!?おかげで一度しか使えない大事な大事な大事な大事な蘇生魔法を使うことになっちゃったじゃんかぁぁぁ!!」
フルーホは距離を置き、狂ったように斬撃を放ち、私とリオルは必死に避けます。
ブレイさんはというと、斬撃を弾きながらフルーホに接近していきます。
「今度こそその息の根を止めてくれる!」
「死ぬのはぁぁ!!お前だよぉぉ!!やれお前達!」
フルーホの合図とともに生き残っていた魔法兵士達が一斉に魔法を放ち始めました。
「ちっ…まだ生き残っていたか…防御魔法ももう少しで効果がなくなる…ならば!」
ブレイさんは自分にあたる魔法を無視してフルーホに切りかかります。
「そこまでもぉぉぉ…想定内なんだよぉぉぉ!!」
フルーホは凄まじい早さでブレイさんの眼の前に迫り、弓を破壊し、ブレイさんの腹を膝で蹴り飛ばしました。
「ぐっ…ごはぁっ!」
壁に叩きつけられたブレイさんは意識を失っているのか、動きません。
「ブレイさん!」
「ブレイ!…よくも!」
リオルが矢を放ちましたが、フルーホはハエを叩き落とすように折ってしまいます。
「お前もぉぉぉ…死ねよぉぉぉ!!」
走ってこっちまでくるフルーホ。
ですがリオルは笑っていました。そして私の耳にこう告げました…
「ごめんね、博打行く約束…守れないや…」
再び弓を構えるリオル…私も構えます。
「あんた…逃げなさいよ、一緒に死ぬとかセーラが可哀想じゃない」
「そうですね…ですがリオルを放っておく方がよっぽど嫌です」
フルーホが迫る中、私達は矢をいくつも放ちましたが、全て切られ、気づいた時には…
「まずはお前からだよ」
リオルの腹に刺さる刃。そして私も倒れていました。…あったかいですね…血でしょうか…?まるでお風呂に入っているかのような…そして気のせいでしょうか、片目も見えなくなっています。…これが死ぬ直前というものなのですね…
「うぉらぁぁぁぁ!!!そいつらから離れろバケモンがぁ!」
何処からか飛んで現れ、巨大な大剣でフルーホを吹っ飛ばす人…ノヴァさんでしょうか…
「これはひどい怪我…お二人共今すぐに治します!」
この声は…エリーさんでしょうか…
「てめぇ…よくもうちの可愛い後輩をやってくれたな…細胞一つこの世に残さねぇ!」
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