剣士ギルド『ランダムダイス』へようこそ①
スケルトンとの戦いを見事に制し、幻想の塔から脱出した三人は、早速ギルド申請をするために冒険者管理局へとやってきていた。
「そうですね……フレン様の功績値で所属できる剣士ギルドですと、この三つになりますね」
受付のお姉さんが差出したのは三枚の紙。そこには剣士ギルドの名前や所属人数、ギルドの傾向などが書かれていた。
「剣士ギルドだけで三つも……」
「功績値の項目によって振り分けられるのよ。フレンくんは戦闘技術のほかに逃走技術、支援行動にも点数がついているから、ソッチ系の剣士ギルドみたいね」
「ソッチ系ってどういう意味ですか先生」
同じく紙を覗き込んで首をかしげているシャルが手を挙げる。
「剣士って言っても近接戦闘に特化しているだけのクラスじゃなくて、サポートとか防御に特化しているクラスもあるの。見たところ、この三つのギルドはそういうクラスの冒険者を多く排出してるってこと」
言われて見てみると、所属者や傾向の欄にパラディンやロイヤルガードといったクラス名が連なっていた。これらのクラスがアリシアの言う、防御特化したクラスなのだろう。
「じゃあ、僕は防御系の剣士になれるってことだね!」
「あくまでも傾向だけどね。ま、フレンくんの性格上、攻撃型って感じはしないし、ぴったりなんじゃない?」
「いかがでしょう? その中から選んでいただければ、今日中にギルドに所属できますが?」
「えーっと……ど、どれにしようかな……」
フレンはじっくりとギルドの資料を見回している。どれも似たような感じだし、何が良くて何が悪いかが、イマイチ理解できない。また、この選択が後に重要なことに繋がるかと思うと、軽率に答えが出せなかった。
「あー、じゃあこれで」
するとアリシアが、ひょい、と悩んでいるフレンの手から一枚の紙を無作為に選び、受付のお姉さんに手渡してしまった。
「あ~っ! 何すんだよアリシア!」
「どこもほとんど変わらないわよ。結局個人の資質によるところが大きいんだから。シャルだって待ってるんだから、適当に決めちゃいなさい」
「わ、私は全然待ってないですから。フレンさんにはじっくり選んでもらいたいです」
「ほら、シャルだってそう言って――」
「では、剣士ギルド『ランダムダイス』への申請が完了しましたので、この登録書を持ってギルドに向かって下さい」
「へ?」
アリシアの暴挙に抗議をしているあいだに、手続きが終わったのか受付のお姉さんがにっこりとした笑顔で、さっきの紙とはまるで違う羊皮紙を差出してきた。
「ま、まさかもう決定!?」
「はい、しっかりと名前も記入されていますので、ご安心ください」
見れば、氏名の欄に黒々とした文字で『フレン=ブラーシュ』と書かれており、何やら重要そうな判子も押されていた。
もうどうやっても覆ることはなさそうだった。
「ランダムダイスの集会所は街の南にありますので、今日中に足を運んでくださいね」
営業用と思われるお姉さんの鮮やかなスマイルを見て、フレンも力なく笑ったのだった。
※
城下町の南側に多く立ち並ぶ建物こそ、冒険者ギルドの集会所だった。この通りは多種多様なギルドの集会所が乱立しており、統一性は全く無かった。
考え方が違う人間が集まっているせいなのか、城下町の中でも治安が悪い通りで有名な場所でもあったのだ。
集会所の通りに一人でやってきたフレンは、期待三割、不安七割の心境で目的地へと向かっていた。
「ランダムダイス……ランダムダイス……」
だいたいの集会所は看板が付けてあり、どこのギルドの集会所かがわかるようになっているものだ。フレンは申請書を出したランダムダイスというギルドを探して、キョロキョロと見回している。
と、そのとき―
「グガァアアウッ!」
「!?」
突然、平和であるはずの城下町の路地から雄叫びを上げて1体のドラゴンが姿を現した。
「えええっ!? なんでこんなところに!?」
深い紫色の鱗に覆われた巨躯、今にも炎を吐きそうな大きな口、そして自分の身長を遥かに越えるであろう翼にフレンは圧倒される。
「あーあ、またリッカのところか」
しかし、驚いているのはフレンだけ。街を行く人々はドラゴンを前にしても悲鳴一つ上げないではないか。
「おいリッカ! てめえんとこのドラゴンがまた逃げ出したぞ! いい加減にしろよ!」
「逃げたんちゃうわ! お散歩中なだけやっちゅうねん!」
住民の声を聞いて、ドラゴンの影から一人の少女が姿を現した。赤い短い髪が特徴的な、はつらつとした印象を受ける女の子は、住民に対して悪態をついていた。
「お散歩なら縄でもつけとけ!」
「アホか! おっさん! そんなん手に持ってたら引きずりまわされて死ぬわ!」
「
「なんやと……! ええ度胸やないか! ボコボコにしたるから表出ぇッ!」
やがて口論はヒートアップして、住民と女の子は一触即発という様相になってきた。すると、さらにドラゴンの後ろから今度は、いかにもひ弱そうな眼鏡をかけた男性がおどおどとした様子で姿を現した。
「リッカちゃーん、この辺でやめておきましょー。ご近所さんに迷惑をかけてるのはウチですから。それに、表出ろって、もう表出てますよ?」
「あー、もうレックスさぁん。横槍入れんといてくださいよ。前々から気に入らんかったから、ここで一発泣かせたろ思てたのに」
「ふんっ、ランダムダイスなんざ弱小ギルドに遅れを取るわけねぇだろ!」
「なんやとコラァッ! おっさん! もっぺん言うてみいッ!」
レックスと呼ばれた男の仲裁は失敗に終わり、リッカという少女と住民は、ついに取っ組み合いのケンカへと発展していく。
「ランダムダイス? もしかして、あの人たちが……」
口論の中で飛び出した『ランダムダイス』という単語。まさにフレンが訪れようとしていたギルド名に違いなかった。
そうだとしたら、このリッカとレックスと言う人物に話しかけなくてはならないのだろうか……。考えるだけでめまいがしてくる。
「やりやがったなリッカ! 覚悟しろ!」
「こっちの科白や! 行くで! ファフニール!」
「グガアアアッ!」
しかし、フレンのめまいがどうとか、最早そんなところの騒ぎではない。二人は武器を取り出し、戦闘体勢に入ってしまった。リッカはファフニールというドラゴンの背にぴょんっと飛び乗ると、空高く上昇していった。
「チッ! おい! ウィザードはいるか! あのバカ女を撃ち落とせ!」
「任せろ! 耳を劈く轟音とともに一筋の雷光疾走し、その身を穿てッ!――サンダーボルト!」
同じ住民の仲間なのか、一人のウィザードが杖を掲げて魔法スキルを詠唱すると、杖の先から激しい稲光が飛び出し、リッカを襲う。
「甘いわッ! ファフニールに並の魔法は効かん!」
しかし、直撃したはずの雷はファフニールが空中で身震いするだけであっという間に霧散してしまう。全くの無傷だ。
「お返しや!
「げっ! それは反則――!」
ファフニールが大きな口を開けて照準をこちらに向けると、住民は何かを察したのか蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
「へ? へ?」
一人残されたフレンは何が起きたのかさっぱりわからない。しかし、ファフニールの攻撃は中止されることはなく、空中から城下町に向かって、紅蓮の炎を吐き出した。
「うわあああぁッ!」
「伏せて下さいッ!」
「!?」
眼前まで炎が迫ってくると同時に、ひとつの人影がフレンの前に立ちはだかった。
「インヴィジブルシールド!」
広範囲に渡る爆炎が城下町を包んだが、フレンの周りにだけ炎が達していない。それは前方に立ちはだかった男性の防御スキルの賜物だった。
その空間だけ丸い穴が開いたかのように炎は避け続け、やがて勢いを失くしていった。
「ふぅ、大丈夫でしたか君」
「は、はい……ありがとうございます」
くるりと後ろを振り向いて、手を差し伸べてくれた男性。その姿は、あのひ弱そうな見た目をしたレックスという人物に他ならなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます