夜が明けて①

 目を疑うような知らせが飛び込んできた。


 城下町中が大騒ぎとなった知らせは冒険者管理局の普段は冒険者ランキングを貼ってある掲示板にでかでかと貼り出されている。


“ナルハの村、壊滅”


「!?」

 その信じられない驚愕のニュースを目にして絶句しているのは、昨日の日中に村を訪れていたアリシアだった。

 何度も何度も、その知らせを目で追ってみるが内容が変わるわけがない。城下町の東にある、あのナルハの村が壊滅したという事実は覆ることがないのである。

「そ、そんな……! 昨日まで何事もなかったのに……!」

 見出しの下に書いてある内容を読んでみると、どうやらナルハの村に昨日の夜に向かった人物が、村人全員が死んでいることを確認したというのだ。すぐに国家騎士を派遣して調査したところ、その報告が事実であることがわかったという。

 つまり、あの川で釣りをしていたおじさんも、ボールを奪い合ってケンカをしていた子どもたちも、みんな死んでしまったというのだ。

「すぐにフレンくんに知らせないと!」

 アリシアは冒険者管理局を飛び出すと、待ち合わせしていた噴水広場へと駆け出した。





 待ち合わせ場所に来ていたフレンはサニアの呪いを解くためには解呪薬を使うしかいないと考えていた。幸い、すぐにでもカーミラから貰えるのだから、あの蒼い剣には使わずにサニアに使用すれば、彼女の視力も元に戻るはずだ。

「フレンくん!」

 そんなことを考えていると、広場の先からアリシアが慌てて駆けてくるのが見えた。

「アリシア! あの、昨日は、その……」

 彼女の姿を見て、昨晩アリシアと一悶着あったことを思い出した。きっと自分がイケナイことを言ったのだろうと反省していたフレンは、おどおどしながらもアリシアに謝ろうと言葉を選んでいた。

「そんなことはどうでもよろしい!」

「えぇっ!?」

 しかし、アリシアはそんな瑣末なことに時間をかけていられない。フレンの言いたいことはわかるが、何よりも伝えなくてはいけないことがあるからだ。

「大変よ、ナルハの村が壊滅したわ……!」

「なっ!?」

「私も信じられなかったけど、国家騎士が調査したらしいから本当みたい。村人は全員、死んでたって……」

 フレンは信じたくない気持ちを持ちつつも、アリシアが嘘の情報をもたらすとも思えずに信じるしかなかった。思い出すのはのどかな村の風景。壊滅した村の光景を想像することはできなかった。

「なんでそんなことに……」

「わからない。けど、私は例の創製者クリエイターが何か知っていると思ってる」

 ナルハの村への“おつかい”を頼んだのはカーミラだ。その“おつかい”をした直後に村が壊滅するなど、明らかに何か関係があるはずだ。

「さぁ、その創製者クリエイターの元に行くわよ……って、今日はサニアさんは?」

 鼻息を荒くしていたアリシアだったが、フレンの側にいつもいる女性の姿が見えずに不思議そうな顔をする。

 アリシアの問いかけに俯きながらフレンは口を開いた。

「実は昨日、アリシアと別れてから変な二人組に襲われて……」

「襲われた!? まさか、それでサニアさんが!?」

「うん、敵の呪いを受けたらしくて、目が見えなくなっちゃったんだ」

 フレンの呪いという言葉にアリシアは大きく目を見開いた。

「の、呪いですって……! 呪いをかけられる人間がいるだなんて」

 呪いをかけてくる敵といえばモンスターだと決まっている。しかし、フレンが言うには襲ってきた暴漢がサニアに呪いをかけたのだという。

 そんなスキルを持つものがいるだなんて、驚愕の事実だった。

「一体どこのどいつよ……! 私の仲間に手を出したんだから、タダじゃ済まさないわ!」

「アリシア……」

 目に見えるくらいにアリシアは激高していた。まだ出会って数日しか経っていないフレンやサニアのことを仲間と呼び、その仲間が傷つけられたことに激しい怒りを覚えている。そんなアリシアの姿を見て、フレンは嬉しくなってくる。

「でもね、カーミラさんから貰えるはずの解呪薬を使えば、きっとよくなると思う」

「なるほど……ってかそれしかないわね!」

「うん!」

 解呪薬をサニアに使えば、蒼い剣と引き抜く機会を失ってしまう。そんなことはアリシアにも十分理解できていたが、フレンが蒼い剣とサニアを天秤にかけるはずもないことは、もっと理解していた。

「そうとわかれば、尚のこと創製者クリエイターに会わなくちゃいけないわ!」

 二人は様々な思いを抱きながら、カーミラの工房がある街外れの森へと急いだ。

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