金持ちで貧乏な冒険者②

 姉に最後通牒を突きつけられた、数日前の出来事を思い出しながら、フレンは1階の通路をとぼとぼと歩く。


「サニアさんってば、どうしてあんなに自信満々だったのかなぁ」


 サニアには申し訳ないが、才能ゼロの自分が1ヶ月以内にランキング入りするなんて無理に決まっている。姉は性格上、一度言ったことは撤回しないだろうから、あの家を追い出されるのは決定事項と言える。


「おっと、ここを右に曲がらないと」


 フレンはこのまま進むと行き止まりに到達することを見越して、通路を右に曲がった。行き止まりにはアイテムが落ちていることが多いらしいのだが、調べ尽くされた1階にアイテムはもう残っていない。


「王立の学園かー。勉強は嫌いじゃないけど、やっぱり冒険者を続けたいよね。でも姉様の言うとおり。僕はブラーシュ家の財力の上で成り立ってる、なんちゃって冒険者なのかも……っと、左に曲がった先のフロアで休憩しようかな」


 グチグチと独り言をいいながら、スイスイ通路を進んでいく。その動きには淀みがなく、まるで頭の中に地図が入っているようだった。

 やがてフレンの言う通りに、通路を抜けた先に広い部屋が現れた。その場所はモンスターが出現しない、安全地帯セーフティポイントと呼ばれる場所で、冒険者の多くはここで休息を取る。


 フレンは腰につけていたバッグを外し、地べたに座り込み、年代物の懐中時計を取り出した。


「夕食までもう少しあるな。もうひと回りして今日は終わりにしようかな」


 時間を確認するとあと数時間の猶予がある。懐中時計の入れ替わりに、懐からおやつにと持ってきたリンゴを取り出してひと噛りする。


「うん、おいしい。なんか冒険者って感じだよね」

 塔の中で、リンゴを丸かじりする自分の姿が冒険者のそれのようでフレンは嬉しくなる。やがては仲間を見つけて、焚き火をしたり、テントで宿泊したり、冒険者らしい生活ができるのだろうと、フレンはいつも夢を見ていた。


 ふと地面に置いたバッグが目に入った。フレンが冒険者として登録した日にサニアがプレゼントしてくれた高級品だ。頑丈で持ちやすく、とても使いやすい。

 しかし、そんなバッグに自分は釣り合っているのだろうか、とフレンはいつも心がざわつく。唯一の武器である短剣は武器屋の処分品を安く譲ってもらったものだし、防具なんて私服で塔に入ろうとしたら、入り口でベテラン冒険者に止められて使わなくなった装備を恵んでもらったものだ。

 とてもじゃないが今のフレンの収入では装備を買うことができない。1階では宝箱も期待できないため、装備を一新するためにはまだまだ時間がかかりそうだった。


「冒険を続けるためにも、まずはランキング入りしないと……」

 と、そのとき、遠くの方でかすかだが、人の声が聞こえた気がした。


「た……て……」


「あれ? 声がする……」

 人間、つまりは冒険者の声だろう。1階を探索している、ということはきっと初心者の冒険者のはずだ。

 フレンは食べかけのリンゴを懐にしまうと、お尻についた砂埃を払いながら立ち上がった。


「……すけ……」


「なんだろう、あっちから聞こえる!」

 声が聞こえる方向は来た道とは逆だったが、何やら嫌な予感がしたフレンは急いでその方向へと走り出した。

「この先は丁字路になってて、左は行き止まり。右は2階に続く階段の方だけど……」


「た、すけ……」

「!?」

 声がどんどん大きくなる。かろうじて聞き取れた声は女の子が助けを求める声に違いなかった。

 やがて丁字路にぶつかったフレンは、立ち止まり聞き耳を立てる。


「左だ!」


 声は行き止まりである左方向から聞こえる。


「助けて……! 助けて……!」


「モンスターに襲われたのかな……! 用心しないと!」

 走りながら腰に携えた短剣を取り出し右手でしっかりと握る。1階のモンスターが大したことがないとはいえ、こちらは初心者冒険者。何が起こるかわからない。

 やがて行き止まりである小さな部屋にたどり着いた。ぼんやりと松明の火で照らされている。


「おーい! 誰かいませんか!?」


「助けて、助けて」


 ぐるりと部屋を見渡すが、声がすれども声の主が見当たらない。

「どこに隠れてるんですか!? 助けに来ましたよ!」

 部屋中に響き渡るように大声で呼ぶが、その姿は一向に現れない。

「おかしい……どういうことだろう……」


「助けて、助けて、助けて、助けて」

 女の声が大きくなるにつれ、助けて、という言葉が連呼される。部屋のどこから声がするのかわからないほど、“助けて”という声が部屋中に鳴り響く。


「なんだ、これ……」

「助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて」

「変だよ、こんなの……!」

「助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて、たすけて、たすけて、タスけて、タスけて、タスけて、タスケテ、タスケテ、ダズゲ、デェ」


 瞬間、部屋の四方からフレン目掛けてが飛んできた。


「!?」


 いきなりのことに微動だにできなかったフレンの身体に、その飛んできた物体が命中してしまう。

「うわっ、ベトベトする!?」

 見るとそれは粘着質の真っ白い糸のようなもので、なにやら見覚えのあるものだった。


「これってまさか蜘蛛の糸!?」


 フレンの四肢と胴体にまとわりついて一向に離れないそれは、まさに蜘蛛の糸だった。しかし、その蜘蛛の糸は通常のものとはかけ離れており、あまりに強靭な糸は人間の力で切ることはできない。さらに部屋をよく見てみれば、そのほとんどが蜘蛛の糸で覆われていた。


「うっ、くっ!」

 なんとか振りほどこうとしても、両手両足の自由がほとんど効かず、身をよじるだけで精一杯だ。

「タスケテェ、たすけてぇ」

「うぅっ……!」

 やがてフレンの眼前に現れたのは巨大な蜘蛛の形をしたモンスターだった。背中の部分に不気味な空洞があり、パカパカと空洞を開け閉めすると、穴から漏れる空気の音が人の声のように聞こえるのだ。

「タすけテ、イや、こワい」

 その音こそ、フレンの耳に聞こえてきた女が助けを求める声だった。

「こんなモンスターがいたなんて……!」


 塔1階を3ヶ月の間、くまなく探索していたフレンは、1階の構造も出現するモンスターも完全に把握していた。しかし、人間の声を使って獲物を待ち伏せする狡猾なモンスターなど知りもしなかった。

「まさか、2階のモンスターが1階に降りてきた……?」

 この場所は2階の階段からかなり近い場所だ。ほとんど例を見ないことだが、稀に階段付近では上下階のモンスターが迷い込むケースがあると聞いたことがあった。

「ま、まずい……! このままだと……!」

 不意打ちにより動きを封じられたことが痛手だった。攻撃しようにも握った短剣を振り下ろすための関節が動かない。せいぜい肘が動く程度で、その攻撃範囲では到底モンスターには届くはずがない。


「タベナイデェ、タベナイデェ」


 不気味な音が巨大蜘蛛の背中から漏れ聞こえる。その異様な光景を見たフレンの背筋が凍りついた。


「ま、まさか……! コイツ……!」


 おそらくこの蜘蛛は聞いた人間の言葉を覚えて背中の空洞で、それを真似るモンスターだ。つまり、今までにモンスターが放った言葉は以前に人間から直接聞いた言葉なのだろう。ということは――


「タべないデェ、タすけテェ」


 このモンスターが冒険者を襲って食い殺したに違いなかった。


「こんなところで死ぬなんて嫌だッ! なにか、なにかっ!」

 みっともないほどに泣きそうな声を上げながらフレンは周りを見渡す。正面には巨大蜘蛛がゆっくりと壁を這って、こちらに近づいてきている。

 しかし、蜘蛛の姿をハッキリと捉えられる距離まできてくれたおかげで、身体を覆う糸は巨大蜘蛛から放たれたものではないことがわかった。


「それならどこから……!?」

 まっすぐに伸びた蜘蛛の糸を視線で辿っていく。すると部屋の隅に小型の蜘蛛が見えた。どうやら子蜘蛛が糸を放っているようだ。

「この糸さえどうにかすれば」

 身動きが取れれば戦うことも逃げることもできる。松明の光に照らされた子蜘蛛を観察しているとフレンはあることに気づいた。


「松明!」


 この部屋には四隅に火のついた松明が設置されていた。それはちょうど、子蜘蛛が集まっている位置と同じ。

「あれを倒せば!」

 フレンはなんとか可動できる腕を目一杯使って、持っていた短剣を振りかぶると、勢い良く松明の方向へと投げた。

 上手く松明に短剣が命中すると火の付いた松明が倒れ込み、子蜘蛛たちを襲った。


「ぎしゃああっ!」


 子蜘蛛のほとんどは炎に包まれる。そこから放たれていた糸にも燃え移り、途中で千切れた。

「よし! これで右手が使える!」

 しかし、切れたのは右方向の糸だけ。まだ自由を取り戻したとはいえない。

「ええっと、何か無いか、何か無いか!」

 短剣は投げてしまって取りにいけない。他に何か投げるものはないかと懐をまさぐっていると、固くて丸い物体に手が当たった。

「これ、さっきのリンゴ……! よし!」

 それは食べかけのまましまっていたリンゴだった。フレンはその食べかけのリンゴを握り直すと、今度は左腕に絡みつく糸の先に向かって、力いっぱい投げつけた。


「ぎしゃっ、ぎしゃああっ!」


 同じく松明の炎が子蜘蛛を襲い、左手の自由も戻った。

「よし! あとは服を脱げば!」

 胴体と両足にくっついた糸はどちらも服や靴の上からついたものだ。両手の自由が利くようになったフレンは急いで靴を脱ぎ、両足の自由を取り戻すと、最後に服を脱いで見事蜘蛛の糸から脱出した。


「はぁはぁっ!」


 全裸の状態で巨大な蜘蛛と対峙する。身につけているものはなにもない。

「たスケテっタスけてぇっ!」

 獲物が動けるようになったことに気づいたのか、巨大蜘蛛のスピードがあがる。こちら目掛けて、気色の悪い足を蠢かせながら一気に近づいてきた。

「うわぁっ!」

 すんでのところで蜘蛛の突進を回避する。そのせいでフレンは入り口から遠い、部屋の奥へと追いやられてしまった。しかし、

「へへっ、でもこれで松明に近づけた……!」

 思惑通りだったのか、フレンはニヤリと笑うと先程倒した松明を手にして、力の限りぶん投げた。


「多分、こんな火じゃ大きな蜘蛛は倒せない……でも、燃えるものがたくさんあれば、きっと!」

 投げつけた先は蜘蛛ではなく、自らの服とそれにまとわりついた蜘蛛の糸だった。さっき自分の腕にからまった糸を燃やしてわかった。この蜘蛛の糸はのだ。


 そして、その蜘蛛の糸は部屋中に巡らされている。


「タスケテェ! タすけテェっ!」

 巨大蜘蛛が猛スピードで突進するが、時すでに遅し。凄まじい早さで燃え広がった炎が巨大蜘蛛をあっという間に飲み込んで丸焼きにした。


「たすけてぇええっ! たすけてェエエエっ!」


 ごお、という轟音を響かせて天井にまで達する炎に包まれた巨大蜘蛛が奇声を上げる。

 まるで本当に蜘蛛が助けを求めているみたいだと、燃え盛る部屋を見てフレンは思った。そして蜘蛛だけでなく自分も助からないと自覚していた。

「これじゃ僕も逃げ切れないなぁ……」

 炎の勢いは想像よりも激しく、フレンの周りにも近づいてきている。入り口までの道も燃える蜘蛛の糸に遮られていて脱出できそうにない。

「せっかく凄いモンスターを倒したのにな……功績値、いっぱいもらえたかなぁ……」

 凄まじい熱と煙に煽られてフレンの意識が遠のいていく。微かに残った意識では巨大モンスターを倒した功績でサニアやマールが喜んでくれるかもしれないな、とそんなことばかり思っていた。


「……姉様……サニアさん……」


 ほんのわずか。ほんのわずかだけ、いつも感じている二人の匂いがしたような気がしたのだが、全身に力が入らないフレンはゆっくりとまぶたを閉じた。



 それはフレンがまだ幼かった頃。


 ブラーシュ家は小さいながらも名家として富も名声も築いていて、マールもフレンも何不自由ない生活を送ってきた。いや、送らせてもらっていた。


 それも両親が健在だった頃までである。


 ある日、フレンの両親は隣国へのパーティに出席するための移動中、強盗によって殺されてしまった。マールが15歳、フレンが5歳の頃である。

 ブラーシュ家は敏腕と言われていた父親の政治手腕と人望の厚さでその名を馳せており、その父親が他界したことによる影響は非常に大きかった。


 あっという間にブラーシュ家は没落の一途を辿ることになり、親戚親類や生前仲の良かった父親の友人たちからの援助も日に日に少なくなっていった。


「私がこの家を立て直してみせる」


 突然、そう言い放った姉のマールは数日間行方をくらませたかと思うと、フレンや他の使用人の知らないところで、いつの間にか冒険者になっていたのである。

 冒険者マール=ブラーシュ。金持ちのお嬢様が冒険者になった、と当時は国中で大騒ぎになるほどの話題をさらった人物である。


 しかし、人々がマールを面白おかしく騒ぎ立てることは数ヶ月もすればすっかりと鳴りを潜めていた。


 マールは女とは思えない豪傑ぶりでその日の内にランキング入りを果たし、数ヶ月後には冒険者ランキング5位以内に入る凄腕の冒険者となっていたのだ。

 ランキング上位者となれば、その報酬も莫大なものになる。マールは自らの腕っ節だけを頼りに本当にブラーシュ家を立て直してしまったのだった。


「ねえさま、かっこいい!」

「そうか、フレン。私はかっこいいか」

「うん、美人で強くてかっこいいねえさま! 大好き!」

「ぐはっ! サ、サニア聞いたかサニア! フレンにプロポーズをされてしまった! どうしよう!」

「落ち着いてくださいマール様。それはプロポーズとはいいません」


 まだフレンの歳が10にも満たないころ。フレンはマールの冒険者としての勇姿を目の当たりにして、冒険譚を耳にして、姉の背中ばかりを追いかけていた。

 そしてマールは自分を慕ってくれる、そんなフレンのことが大好きだった。


「フレンだけは何があっても私が守ってやるからな」

「ねえさま、僕だってねえさまを守るよ!」

「ははっ、そうか守ってくれるか。フレンは男だからな、男は女を守るものだ。いつかは私のことを守ってくれよ」


 夜眠る前はこうしていつも語り合い、マールがいつもフレンの額にキスをして、二人は同じベッドでいつも寄り添うように眠りについていた。


 いつもそうだった。



「ッ!」


 最初に目に飛び込んできたのは、見慣れた天井の光景だった。


「ここは、僕の部屋……?」

 ここは紛れもないフレンの寝室。どうやら、寝室のベッドに寝かせられていたようだ。


「いたっ!」

 身体を動かそうとすると激痛が走る。見れば、腕には包帯が巻かれていて、頭を触ればそこにも包帯が巻かれていることがわかった。

 しかし生きている。痛みが実感できる。それは最高の事実だった。


「でも、どうして助かったんだろう」

 炎に包まれた部屋で意識を失ってから何も覚えていない。自力で脱出したとも思えないし、何があったのだろうか。

 ふとベッドサイドにあるテーブルを見ると、ボロボロになった革製のバッグが置いてある。あれはフレンが冒険のときに装備しているバッグそのものだった。


「バッグ、無事だったんだ。全部燃えちゃったと思ったけど」

 痛む身体をゆっくりと起こしてベッドから這い出ると、テーブルの上のバッグに手を伸ばす。

 ところどころ焼け焦げていたり、穴が空いていたりと、あの蜘蛛との戦いが夢ではなかったことがハッキリわかる痕跡が残っている。


「フレン様!」


 そのとき突然寝室の扉が開かれ、サニアが入ってきた。

 そして一直線にフレンに駆け寄ると、力いっぱい抱きしめた。


「よかった、気が付かれたのですねフレン様! 本当によかった……!」

「いたた、サニアさん、いたいよー」

「知っています。なんですかこんな傷。命があっただけマシですわ」

「……ごめんなさい」


 少しおどけたところを見せてみたが、サニアが聞いたこともないようなかすれた声を出したので、フレンはチクリと胸が傷んだ。抱きしめられているため、サニアの顔はわからないが、きっといつもの無表情とは違うのだろう。


「やっぱり僕って冒険者に向いてないのかな……」

「向いていませんわ……いつも穏やかで誰に対しても優しくて、争いを好まない。フレン様が冒険者だなんて向いていないにもほどがあります」

「あはは、だよね」

「けれど……フレン様がどうして冒険者になったのか。私は知っています。わかっています。だから私はフレン様の冒険を応援するのですわ」

「……ありがとう、サニアさん」

 物心ついたころから一緒にいてくれたサニアの言葉がフレンの心の奥の奥まで染み渡っていった。


「ところでサニアさん、僕ってどうなったの?」

「覚えていらっしゃらないのですか?」

 抱きしめる力を緩めて顔を見合わせる。サニアはいつもの無表情でもって小首をかしげた。


「うん、あのとき――」


 フレンは蜘蛛との戦いをサニアに説明した。

 1階にはいないようなモンスターに罠に嵌められたこと。どうにか倒すことができたのだが炎によって脱出ができなくなったこと。


「で、気づいたらベッドの上だった」

「なるほど……フレン様は冒険者管理局の方が、塔の入り口で人が倒れていると通報を受けて保護したと聞いています。私は管理局から連絡を頂き、急いでフレン様の元に駆けつけた次第ですわ。その頃には治療も終わっていて、命に別状はないと説明を受けましたわ」

「入り口……誰かが助けてくれたのかな……」


 しかし塔1階を探索している冒険者は多くない。いたとしても初心者がほとんどのはずで、あんな炎の部屋から人一人助けて入り口まで運ぶなんて、にわかに信じられない。


「そういえば、フレン様は入り口で倒れていた時バッグだけは手に持っていたと聞きました」

「あ、そうだ。バッグだけなぜか燃えなかったんだよね。助けてくれた人が拾ってくれたのかな? ってちょっとまった!」

「はい?」


 入り口で倒れていると通報を受けて保護された。つまり意識がない状態の自分の姿を大勢の人に見られたということだ。

 しかも、その時のフレンは蜘蛛の糸脱出のため衣服を脱ぎ捨てた状態。つまり


「もしかして、僕って裸で倒れてたのかな……?」


「はい」


「あわわわわ!」


 想定していたことは事実だった。つまり、フレンは全裸状態で塔の入り口でぶっ倒れていたらしい。


「何を慌てているのですか?」

「あ、あ、慌てるでしょ!! ま、まさかサニアさんも僕の裸見たの!?」

「はい」

「ぎゃー!!」

「だから何を慌てるのですか。フレン様のお裸など、幼少の頃は毎日のように――」

「ストップやめて!!」

「可愛かったですわ、フレン様。幼いころからほとんど変わらず――」

「ほんっとごめんなさい! すみませんでした!」

「冗談はさておき」


 恥ずかしさのあまり土下座して謝り始めるフレンの姿を見て、サニアは急にトーンダウンする。どうやらフレンをからかっていたらしい。


「バッグの中身は無事なのでしょうか?」

 少しとは言えモンスターを倒して手に入れた報酬が入っているはずだ。それに回復薬などの所持品も少なくない。


「はぁ、まったく……えっと、なくなってるものは無いみたいだけど……」

 サニアにからかわれて紅く熱くなった自分の頬を抑えながら、フレンは自分のバッグを漁ってみる。モンスターを倒して手に入れた大量の小石と回復薬や携帯食料が入っていて、冒険中に確認した中身と変わらないようだ。

 投げつけた短剣はどこにも見当たらなかったが、それは仕方のないことだった。


「では、これは?」

「?」


 サニアが手にしているのは見覚えのない物体。


「それって……剣?」


 それは深い蒼色の染まった鞘に収められた一振りの剣だった。

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