XⅥ 底辺だった僕は星に襲われました
踊り終わったラーサ姉様はびしょ濡れだった。けれど、既に肌は乾き始めている。
「えっと、タオルをと思いましたが……大丈夫そうですね」
「私 体温 高い だから 乾く 速い」
姉様はコクリと頷きながら、答えてくれた。
体温が普通の人よりちょっと高い、という意味で言っているんだろうけれど、多分ちょっとどころじゃ無いと思う。
でも、初めて会った時は僕とそんなに変わらなかった気が……?
「そういえば疑問が一つあるのですが、ラーサ姉様は体温が高いのですよね?」
「うん」
「では何故、握手した時はそんなに熱くなかったのですか?」
途端、姉様は急に氷を生成し始めた。
「私 体温 高い だから コレ 熱 冷ます 私 コレ 系統 強い」
なるほど、いつもは氷系統の魔法で体温を調整してたのか。と言うことはいつも不機嫌なのは熱が籠ってて暑いから……?
「妹 今 考え あってる」
「ふふぇ!?」
し、思考を読まれた……!?
「ふふっ 妹 考え 顔 出る 分かる 簡単」
姉様は微笑みながら答える。
「そ、そんなに出やすいですか?」
「偶に 分からない でも 分かる 簡単」
ぽ、ポーカーフェイスの練習しないと今後アリサに弄られるかもしれない……
でも、そこに一つの疑問が新たに湧き上がった。
「……そう言えば何故植物が成長したのでしょうか?」
「秘密」
「で、ですが気になります」
「……ヒント エネルギー」
エネルギー……?
そう言えば熱はエネルギーだったよね。と言うことはその熱のエネルギーを成長に変換……?
でもそれはどうやってやるんだろう。あの時は魔素の流れはあったけれど、陣などが発生した気配はなかった。
と言う気とは……
「…………歌?」
「おお!! 妹 母 同じ 天才!! 高慢 堕落 姉様 他の妹 ヒント あげた 即答 無い!!」
僕が答えにたどり着くと、ラーサ姉様は興奮した容姿で僕の手を取り、目を輝けせながら顔を近付けてきた。
僕は天才というところを否定したが、姉様がは「違う 妹 天才 本当!」と言いながら僕の頭を撫でる。
少し嬉しいが、それでも僕は否定した。
「違いますよ。私はヒントがあったからこそ分かったのです。お母様は見ただけで分かったのでしょう?」
「うん でも 妹 天才 違う 無い」
そう言いながら今度は抱き締めてきた。
この姉、距離感が分からない。
初めてあった時は壁を感じたけど、今はすっごく近い。た、多分距離感が分からないんのだろう。でも、不思議と嫌では無いからこれは姉様の魅力なのかもしれない。
暫く姉様の抱擁で身動きが取れなかったが、この人の事を少し知ることが出来た気がして嬉しかった。
そんな時に、身に覚えのある嫌な気配を感じた。
雨が止んでいる。
ラーサ姉様もそれに気が付いたらしく、氷の戦斧を生成し庭の方へ飛び出す。
僕もその後を追おうと、ラーサ姉様は屋根の上を見上げていた。
その先には何かの影があった。
「
「グルゥゥゥ……ガァッ!!」
ラーサ姉様が唸り声を上げたかと思うと、影に向かって飛んだ。
そして戦斧でその影を横に殴りつける。
しかし、その影が吹き飛ぶ事は無かった。
「空振り アレ 実態 無い」
着地と同時に、姉様が言った。
僕がそれに返事をしようとした時、影が動き出す。
「――!!」
そこまで時間は断っていないはずなのだが、空は暗くなっており、星々が輝いていた。
そして、影の声にもならない叫び声に呼応して、強く瞬き始める。
「
僕は反射的に防御の魔術を起動した。
そして星が降り注ぐ。
力のアルカナと剣のアルカナを複合させた防御魔術は、それを何とか耐えることが出来た。
「ZWAARD
そして攻撃が収まったと同時に僕は剣のアルカナを
計14枚の剣のアルカナの魔弾がヤツを捉える。
「バルバトス様!!」
「
ただ、念には念をと思い、僕はバルバトス様を呼んでさらに追撃を行った。
魔弾は数発当たり、ヤツがよろけたところでバルバトス様が放った黒い矢が突き刺さる。
そして屋根から落ちたヤツをラーサ姉様は氷の戦斧で叩ききった。
「Ahhh――!!」
上半身と下半身が離れたヤツが男性とも女性とも区別がつかないほどの甲高い絶叫を上げる。
街中に響いたその声は、家々の窓や戸を揺らしたが、住民らは出てくる事は無かった。
おそらく、僕たちがいる空間は隔離されていたのだろう。
「――っ!!
僕は星のアルカナのカードをソレに飛ばした。
タロットカードは奴の額に突き刺さると、その体を呑み込む。
そして夜空から昼間の曇り空に変化し、僕たちが元の空間に戻ったことを知らせてくれた。
彼にはシンという名前を与えた。
クラヒットと同じく言語を話すことが出来ないようだが、まぁ何とかなるだろう。
それにしても……なぜ僕は、ラーサ姉様に膝枕をしているのだろうか……
「……ん」
ラーサ姉様が寝返りを打つ。
動けないため、研究の続きが出来ない。
仕方ないので、ラーサ姉様の頭を撫でながら研究とは別の別の考え事をすることにした。
「山羊の眼……」
あの時の自分の身に起きた一時の変化。
そして、僕の意識が飛んでいた間に狂っていた魔導士が放っていた『黒山羊』『狂気』『女神』という単語。
たまにある、自身の思考の違和感。
この違和感は表現が難しいのだが、僕の思考になにかが混ざっているような感覚……というのが一番しっくりくる表現だ。
「それに未だにあの声の正体も分かりませんね……」
あの、何処か愛おしく、懐かしさを感じた声。
僕の中に交じっているのは……誰だ?
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