XV 底辺だった僕は姉の考えている事が分かりません
さて、ある国では夏季と呼ばれる季節がある。今は丁度その時期で、僕が現在通う学園は長期休暇に入った。しかし、休暇と言っても結局は家に籠って魔術の研究をしていただけで、特に変わった事は一つを除いて無い。
「ええと……今日は何をお召し上がりになりますか? ラーサ姉様」
「なんでも いい」
銀髪褐色肌の女性は簡潔に答える。彼女は《激情》の魔女、ラーサ・アングレイ。一応僕の義理の姉になる。
彼女はいつも不機嫌なのか、眉間には少し皺が寄っていた。そんな見た目に反して優しい人ではあるが、ギラリとした目がやっぱり少し怖い。
「わかりました。それで――」
「今日 こそ 私 手伝う したい」
それにしても初めて会った時から思っていたけれど、ラーサ姉様はティファレト語の発音がちょっとだけぎこちない気がする。それに発音する時の癖が、砂漠にある聖アリアテス国のビナー語の発音に似ているような……?
「ええっと……お客さんですし、ゆっくりしていて良いですよ……?」
「妹 私 手伝う」
が、頑固だ。というか顔が近いから余計に威圧感があるんだけど。
僕は彼女の熱意に負け、そのまま夕餉の支度が始まった。
夕餉を摂り終え、僕は早く魔術の研究に戻る為に食器を洗っている。そしてその隣にはラーサ姉様。何処か構って欲しそうに流し台の淵に顔を乗せながらこちらを見ている。
正直に言ってとても気まずいですお母様。
台所は食器の泡を流す音だけが響き、ラーサ姉様は何もしてこない。ただ僕の方をジーっと見ているだけだ。
何を考えているのかさっぱり分からない……
「………………(じー)」
「…………」
最後の食器が洗い終わった。しかし、ラーサ姉様は退かず僕をまだ見ている。
すると、台所の窓に水滴のようなものがぶつかる音が聞こえてきた。その音は徐々に増える。どうやら雨が降り始めたらしい。
「……えっと、その――」
「雨!!」
ラーサ姉様は突然、そう言って庭へと飛び出していった。その後を急いで追うと、彼女は心地よさそうに雨にうたれている。
くるくると回りながら雨水を浴びる彼女の表情は柔らかく、眉間の皺は無くなっていた。また、微かに歌声が聞こえてくると思うと、彼女の口が動いているのが見える。
「Ah――」
広々と広げられた両腕が、受ける雨水を弾いている。
気が付けば、彼女の濡れた銀色の髪が妖しく輝いていた。そして、庭の地面から植物が凄まじい勢いで成長している。
歌声に……反応しているのだろうか?
「気になりますね……あとで聞いてみましょうか……」
僕はラーサ姉様の歌声に耳を傾けながら、洗った食器を乾燥させながら片付けた。
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