XⅣ 底辺だった僕の合成魔獣作成失敗のその後

 合成魔獣を創ろうとして失敗?してから数日経った。マユルさんとバルバトス様のお陰で何とか落ち着くことが出来た。

 ……デモマダカナシイ。


「ピュルテちゃん? ……ピュルテちゃん!」

「は、はいっ!」

「また、ぼーっとしてたよ? 本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫ですよ。ええ、大丈夫です。大丈夫……」


 心配してくれるアリサへの返事を返す。でも、最後には自身に大丈夫だと言い聞かせる事の繰り返し呟く。

 やっぱり辛い。今直ぐにでも探しに出たい。


「まーた、自分に言い聞かせて……はぁ」

「ご、ごめんなさい。でも、本当に魔術の失敗がショックだったので……」

「え、恋じゃなかったの!?」


 あ、変わらないなこの子。


「こ、こここ、恋ですか!? な、何故そうなるのです!?」

「え、だっていつも上の空だし、事あるごとに溜息吐いてるし、私が大丈夫か訊いたら自分に言い聞かせる感じに言うし……ねぇ?」

「だからって恋と確定したわけじゃないじゃないですか! それに……」

「それに?」

今のところ恋愛には興味無いですし……私にはあの人がいますし……

「え? ピュルテちゃん、今なんて言ったの?」


 ……声、小ちゃかった……かな?


「今のところ恋愛には興味無い、と言いました。もしかして小さかったでしょうか?」

「ううん、ちょっと声が二重に聴こえた気がして……ね。気の所為だったみたい。それにしても興味無い……ね」

「な、何ですかその目は……」


 二重に聴こえたと言う部分はよく分からなかったが、まぁ声が小さかったとかじゃ無くてよかった。

 でもその目は何だね。表情もすっごいニヤついているよ、君。


「いいえ、なんでも〜。ところで、話題が変わるんだけど、カトラス様ってどうなの?」

「大きく変わりましたね……でも何故カトラス様なのですか……?」

「えぇ〜だって容姿が良くてしかも玉の輿が狙えるかもしれないよ?」


 全く恋バナから離れていませんでした、はい。


「……もしかして私がカトラス様にアプローチしろと?」

「……私、一度もピュルテちゃんカトラス様を勧めてないわよ? ただ、カトラス様カッコいいよね〜って言っただけじゃない。あ、もしかして、実は気があったの? ごめんなさいね、私の言い方が悪かったわね」


 顔がすっごくニヤついている。殴りたい、その笑顔。


「何故そうなるのですか! さっきも言った通り、今のところ恋愛には興味無いですよ。それに、私などが彼の様な高貴な身分の方々に釣り合いませんし」

「ピュルテちゃんだって魔女じゃない」

「そ、そうですけど……ですが、出生のはっきりしない者よりかは、ハッキリとした方の方が良いと思います。なので私は論外」

「愛さえあれば関係ないわ!」

「それは時と場合によります!」


 そんなこんなで、学園での生活は一応平和だった。










「ピュルテさん、私、そろそろ次の聖地へ参ろうと思います」


 夕食時に、マユルさんが真剣な表情で言った。どうやら路銀が充分に溜まったらしい。


「分かりました。出発はいつにするのですか? お弁当、用意しますよ」

「なんと! え、えっと……こほんっ、明後日の日の出には立とうかと考えているのですが、大丈夫でしょうか?」

「問題ないですよ」


 僕が起床する時間はその少し前だからね。それと渡すなら保存が効くものがいいだろうし……


「嗚呼、ピュルテ様は本当に女神の様なお優しい方ですね……」

「お、大袈裟ですよ……」


 そうなると少し寂しくなるなぁ……いや、バルバトス様には警戒しないと。マユルさんが宿泊している間は特に何も無かったが、その前まではよく目が覚めたら上半身が裸の容姿が整った青年が寝返りをうったときに目の前に……って言う事がよくあったからね。

 食費が軽くなるのは万々歳だけど。


「ところで次向かう場所は何処なのです?」

「アッカード帝国ですね」


 アッカード……あそこには良い思い出がない。


「あそこですか……気をつけて下さい……ね?」

「確かに最近は悪い噂が絶えませんが……身を守る事ぐらいは出来ますよ」


 悪い噂……?

 ああ、確か人攫いが横行しているんだっけ。それに実験動物の脱走、傲慢貴族による増税に耐えかねた民衆の暴動、皇帝暗殺未遂、スラム街で疫病の集団感染……まだまだいっぱいある。

 と言うか、情報漏洩……


「……拾い食いは駄目ですからね?」

「わ、分かっていますわ。疫病には感染したくありませんので」


 念の為に釘を刺しておいた。こう言うことするから僕は母呼びされるんだろうね。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

「あの、改めて言いますがその……あの時は助けて下さり本当に感謝しております。だから……あの……その……」

「巡礼が終わり次第、気軽に遊びに来て下さい。歓迎しますよ」


 僕は微笑みながら彼女にそう言う。


「――はい!!」


 歓迎と聞いて豪華な食事を連想したのだろう。マユルさんの口から少し涎が垂れている。それに、返事にも勢いがあった。これは買い溜めておかないと駄目だなぁ……

















 魔女の森の最奥部。原初の罪を背負う古の魔女は頭を抱えていた。そしてよく“娘成分が足りぬ”と呟くのである。


「メリーは仕事に追われて帰るに帰れぬと聞くし、ムーは獄中。ミルは遺跡探索三昧でマクアは男遊びで連絡無しの行方知れず。モルンはどうせ底無き空腹を満たす為の巨獣狩りじゃろう。クロは近々帰ってくるらしいが……あ奴の習性を考えるに早くて数年じゃろうな。

 ……ん? ラーサは明日か!!」


 手紙の整理の為に開封していたものの一つに、帰省日が明日の日付を記したものがあったのである。


 ――――――――――――――――

 《高慢》の魔女:メリー・アラン

 《堕落》の魔女:ムートフェルト

 《貪欲》の魔女:ミル・エンズ

 《肉欲》の魔女:マクア・リリス

 《大食》の魔女:モルン

△《羨望》の魔女:クロエル・クラシコ

◎《激情》の魔女:ラーサ・アングレイ

―《枢要罪》の魔女:ライラ・フォンセクール


 ――――――――――――――――


 壁掛け板に張り付けた娘の名と二つ名を記した紙に魔女はピンを刺した。


「おっと、ピュルテの名も追加しておくか」


 ――――――――――――――――

 《高慢》の魔女:メリー・アラン

 《堕落》の魔女:ムートフェルト

 《貪欲》の魔女:ミル・エンズ

 《肉欲》の魔女:マクア・リリス

 《大食》の魔女:モルン

△《羨望》の魔女:クロエル・クラシコ

◎《激情》の魔女:ラーサ・アングレイ

―《枢要罪》の魔女:ライラ・フォンセクール

 《七罪》の魔女:ピュルテ

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