X 底辺だった僕は魔女についての知識を少し得ました

 朝が来た。と言っても幽世にいるから日の出も見えない。しかし、ムー姉様の牢屋部屋部屋で寝落ちしても習慣というものは恐ろしい。目が覚めてから懐中時計を見ると、いつも起きている時間に目が覚めているのである。

 因みに、高慢姉様はムー姉様と一緒に寝ている。あ、ムー姉様が高慢姉様の頭に噛み付いた。


「あいったぁ!?」


 高慢姉様が飛び起きた。それにつられてムー姉様も起きた。


「……あー…ごめんごめん……ぐぅ……」


「こらこら寝ないの。ほら、おーきーてー……」


 ムー姉様は再び眠りについてしまった。

 そういえば、今更になって思う出した疑問がある。ここに来る前に高慢姉様が言っていた事。つまり脱獄が不可能と言われていたこの《幽世》にどうしてムー姉様が入れられていた事。


「そう言えば高慢姉様。どうしてムー姉様は此処に?」


「ああ、そう言えばピュルテちゃんはその時はまだいなかったんだっけ。えっとねー、ムーちゃんは簡単に言うととんでもない大事件を起こしたから此処に入れられているのです」


 、それに僕は固唾を呑む。ムー姉様は思っていたよりも、そしてその容姿に反してえげつない事をしたのだろう。


「と、とんでもない……事件……」


「そう。その名も――」


 ――ハゲチャーピン事件。


『ハゲチャーピン事件』

 それは今から約一五四年も前に遡る。

 当時、この国《魔法都市国イスクゥシェ》に大きな催しが行われていた。その催しは、この国の始まりに関わったとある大魔女とともに戦った英雄を讃える祭典である。

 そしてその祭典を盛り上げる為に、その英雄の子孫が先祖の格好をしてパレードを行う。そこパレードの最中に事件は起きた。

 なんと、地毛だと信じられていたチャーピン氏の御髪みぐしが空高く舞い上がったのだ。それだけで衝撃が大きいのにもかかわらず、さらに問題が発生する。

 その舞い上がった御髪には『私は英雄の子孫ではないただの馬鹿です』という文章が書かれた、垂れ幕が吊られていたのである。

 そしてその犯人が《堕落》の魔女、ムートフェルトだったのだ。しかし、彼女は依頼されて行ったらしく、依頼主は自身がその英雄の子孫であると主張する者だった。

 確かに色々と衝撃的な事件だったが、巧妙な手口により《堕落》の魔女ムートフェルトは《幽世》へ。英雄の子孫を名乗る者は本当に英雄の子孫であったが《幽世》へ。今まで英雄の子孫を騙っていた一族は財産没収の後に国外追放。これらが裁判の結果だそうだ。




「………………」


「ピュルテちゃんのその気持ち、分かるわよ。とんでもない事件でしょ?」


 確かにどんでもない。とんでもないなのだけれど……


「なんか色々と危なくてダメな気がします!!」


「ねー、そうでしょー」


 あ、これ意味伝わっていないやつだ。し、仕方ないけれどとりあえず気にしないほうがいいのだろう。


「それで……どうしてムー姉様は脱獄を?」


「んー……? 私の話ー……?」


 ムー姉様が二度寝から目を醒ます。そして僕は、彼女にどうして脱獄したか質問をした。


「んー? あー…あれかー……。強いて言えば……寝相……かなぁ〜……」


 ぴこぴことムー姉様の長い耳が跳ねる。


「寝相……ですか」


「そうそう。ムーちゃんったら寝相でこの部屋をすり抜けて地上まで出ちゃったのよ。しかも此処に来るための像の前で寝てたの」


「え? でも、え?」


 流石に人間が出来るような事でもないし、魔女にできる事でもないだろうに、どうして?

 《幽世》では魔法も魔術も扱えないって言っていたはずなのに……?


「む、ムー姉様は魔女……なのですよね?」


「そーだよー……ああ、そういう事ね〜……」


 どうやら僕は、魔女のことをまだ分かっていなかったらしい。


「僕の種族は……確かにぃ……魔女……なんだけど……………………ぐぅ……」


 肝心なところでムー姉様は寝てしまった。仕方ない、高慢姉様に聞くか。


「ん~? ムーちゃんはね。人間から生まれ魔女じゃないの。私にも種族はよく分からないんだけど、なんか《幽世》に近い場所に暮らす種族らしいのよ」


「《幽世》に近い場所に暮らす種族……ですか……」


 というかそれ以前にムー姉様って一人称『僕』だったんだ。いいなぁ〜……羨ましい。


「あ、そうそう。丁度いいし、ピュルテちゃんも私たち魔女の事を教えよっか」


 と言う訳で、姉様たちの魔女に関する授業が始まった。ムー姉様の暮らす牢屋で。







「えーと、つまりは……魔女はどの種族でも生まれてくる。高慢姉様や私は人間ヒューマン、ムー姉様は《幽世》に似た場所に暮らすディーフェと名乗る種族。ディーフェもその枠組みに含まれるけれど、他にも動物や幻想種と人間が複合したような種族の亜人間デミ・ヒューマン。ただし、悪魔は例外。それでそこからなんの前触れもなく魔女は誕生するのですね。それには赤ちゃんの事から魔女として産まれたり、後天的に魔女になってしまう人もいると……」


 それにしても亜人間って酷い呼び方だ。人間と似て非なるものの総称……か。まぁ、僕には関係ないか。


「直ぐに理解しちゃったの……もっと手取り足取り腰取り教えたかったのに……よよよ……」


 悪寒が走るような言い方をする高慢姉様。正直軽蔑します。


「やめろぅ! そ、そそそんな蔑んだ目でみ、見るな! ……興奮しちゃうだろ……ぽっ」


 いやいやいや「ぽっ」じゃないよ「ぽっ」じゃ!!

 というか、高慢姉様は高慢の罪を司っているはずなのに全然そんな感じがしないんだけど……


「…………メリー姉うっさい」


「がふっ!?」


 あ、ムー姉様の魔法のような何かが高慢姉様の後頭部に直撃した。しかも、一発で意識を刈り取った……なにそれ怖い。

 でも一つ言える事は、姉妹仲がいいことは何となくわかった。

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