Ⅸ 底辺だった僕は《堕落》の魔女に会いました。

 今日は……はい、幽世に行く日です……はい……

 高慢姉様に連れられて、僕は大きな城の門を潜る。


「あんまり緊張しなくても良いのよ。この国じゃ私達が崇拝される側なのだから」


「で、ですが……見られるのは恥ずかしい……です……」


 高慢姉様の背後に隠れながら進む。白い石材で建てられて城の圧迫感もすごい。でも、どうして城に……?


『身分証と目的の提示をお願いします』


 城の中に入ってすぐ。目の前には石膏出来た鳥の羽を生やした女性の像がある。その像が無機質な音声で語りかけてきた。

 その像の目の前に高慢姉様は自身の身分証を掲示する。そして目的は幽世での面会だと言った。


『メリー・アラン。面会を許可します』


 メリー・アラン……高慢姉様の名前……


「可愛らしい名前ですね! メリー姉様っ♪」


「クッ、殺せ!!」


 何故か恥ずかしがる高慢姉様。良い名前だと思うけどなぁ……

 と言うか、そんなに恥ずかしいなら偽名で登録すればよかったのでは?

 まぁ、高慢姉様が舌を噛んで自決しようとしていたのを止めていたら、いつのまにか石膏像の目の前に地下へと続く階段が現れていた。


「さ、さぁ、高慢姉様、幽世に向かいましょう?」


「うぅ……これは不覚だった……」


 自決を諦めた高慢姉様をなだめながら、荒い岩肌の壁の階段をゆっくり下っていった。







 もう幽世なのだろうか?

 広い空間に出た。光源が無いはずなのに、この空間は何故か見える。間接照明でもない様だし……どうなっているのだろうか?

 しかも、薄っすらと霧掛かっている気がする。

 と、僕が辺りをキョロキョロ見ていると、誰かの足音が聞こえた。


「ようこそおいで下さいました。《高慢》の魔女様。と、其方の少女は……」


「この子は私達の新しい妹。母様は《七罪》の魔女とでも呼んだら良い、だそうよ」


「おお! 《原罪》の魔女様の新たな! 私はヘンゼと申します。以後お見知り置きを」


 ヘンゼと名乗る男性の影がやっと見えた。細身の老紳士という印象。片手には手燭を持っており、この上には蝋燭が乗っているのではなく、鍵が浮いている。


「は、はじめまして、ピュルテ……です。そ、その《七罪》の魔女という呼び方は恥ずかしいのでやめて頂けると……」


「そうですか。ではピュルテ様、とお呼びいたしましょう」


 お互いの自己紹介が終わる。

 それにしても……カッコいいなぁ、ヘンゼさん。

 執事服の様な衣装にモノクル……とても知的だ。それに、白髪を束ねた姿……何故かわからないけれどとても魅力的だ。

 と、ヘンゼさんに見惚れていると、もう出発するところだった。


「さて、ヘンゼさん。ムーちゃん……《堕落》の魔女の所まで案内お願いするわね」


「ええ、かしこまりました。こちらです」


 ヘンゼさんが手燭を持っていない方の手で、その親指で人差し指を抑えて関節を鳴らす。すると、手燭の上で漂っていた鍵の一つが淡く光り、その鍵の向きを頼りにヘンゼさんが歩き出した。僕と高慢姉様は彼の後を追えばいいのだろう。



 しばらくヘンゼさんの後に付いて行くと、一つの部屋にたどり着いた。牢屋と聞いて鉄格子を連想していたが、そこには黒っぽい金属の壁と扉があるだけだった。


「《堕落》の魔女様はこちらです」


 彼はそう言ってここまで導いた鍵を手に取ると、その鍵で扉を開けた。

 扉は自動的に開くのだが、その動きは重々しく地面との摩擦で空間を揺らす。それ程の扉を用意するほど、彼女は恐ろしいのだろうか?


「それじゃ、会いに入りましょうか」


「は、はい!」


 僕は高慢姉様に連れられて、開かれた入り口を潜る。その入り口を潜ると、急に明るくなった。


「いらっしゃーい……」


「ムーちゃん久しぶり〜♪」


「は、はじめまして……!」


 そこには水色髪の僕と同じくらいの背丈の少女がいた。肌は色白で、そこに白いマキシワンピース。ただ、シワだらけで着替えていないことが分かる。

 ちらりと彼女の耳が見えた。彼女の耳は少し尖っている。その特徴は、本で読んだとある亜人と似ている。


「ん〜……? ああ…貴女が新しい妹……ぐぅ……」


「こらこら、寝ないの」


 物凄くマイペースな人だった。って、何で僕の情報を知っているの……?


「え、えっと、ピュルテです。よろしくお願いします……その……」


「ああもう。この子は《堕落》の魔女と呼ばれているムーちゃ――」

「ムートフェルト……! ……ぐぅ……」


「えっと、ムートフェルト姉様、よろしくお願いします」


「……ん〜……ピュルテは特別にムー姉って呼んでいいよー」


 あ、起きた。というか気に入られた……のかな?


「え、えっと……ムー姉様……?」


「……何この子破壊力やばば」


「いいなぁいいなぁいいなぁ!」


「メリー姉は少し黙ってて」


「その呼び方はヤメロォ!!」


 と、とりあえず仲が良いことは分かった。僕もその輪に加えてもらえたっていう事かな……?


「で、今日は何持ってきたの?」


「ふっふっふっ、ピュルテちゃんのお手製クッキーよ!」


 自分では作っていないのに何故か胸を張っていう高慢姉様。張られた双丘を何故か恨めしそうに見ているムー姉様……そう言えば高慢姉様の大きさはお義母様と同じぐらい……


 ――じぇらぁ……


「あれ? 何でピュルテちゃんも私の胸を恨めしそうに凝視しているの? え? ちょっと二人とも? もしもーし、聞こえてるー?」


 自分の胸を見る。一応ムー姉様よりかはあるけれど……お義母様や高慢姉様よりかは無い。


「……いえ、何でもありませんよ、高慢姉様」


「じぇら……」


「あれれー? なんか二人とも目が笑ってないぞー? しかも目元暗いし、光も無いぞー?」


 揺れる高慢姉様の双丘。何故か湧き上がるじぇらしー。とりあえず言える事は、今日はムー姉様と一緒に高慢姉様をしばきました、まる。

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