Ⅵ 底辺だった僕は合成魔獣について知りました
イェート・ルクスリアと言う男に着ついて聞いた話に、そう言えば気になる単語が一つあった。それは“合成魔獣”。だから彼に接触する前に、僕は合成魔獣について市街図書館で調べた。それを一応メモ帳に記しておこう。
【合成魔獣】
種族:人造生命体
性別:不明
寿命:個体による
[製造方法]
・合成する素材の中から一つ、核にする物を指定しておくこと。
・核にする素材を描いた陣の中心に設置して、それを囲うように他の素材を並べる。
・素材の配置が完了したら、その場の
・確認が終わったら、陣に魔力を流せば合成が開始する。
・合成が始めると時計回りで周りに配置した素材が核に指定された素材と合成され始める。合成中は魔素が安定していない為、術者が魔力を流しながら整形を行う。
・合成が完了すると、素材からの場合は卵として生成されます。大事に育てましょう。
※合成魔獣を強化する際も似た手順で行われますが、卵からではありませんのでご安心を!
「メモは苦手なのですよね……」
自分のメモを見返すと、メモになていないことがはっきり分かる。
「それにしても……調べてみると興味深いですよね……私も作ってみたいです……」
一応お義母様から錬金術は習った。合成魔獣は合成術の分野だが、錬金術とはあまり変わらないようだ。だから僕もやってみたい。高慢姉様の手伝い……もとい依頼が終わったら試しに作ってみるか。
「さて、あとはイェート・ルクスリアさんとの接触だけです!」
この時、僕は重要なページを読むのを忘れていた。それは……最後にページにある注意書きである。
この市街図書館、国が管理しているもので外観も中もとても大きい。しかもどこかに地下の禁書保管室への入り口があるらしい。その市街図書館を出ると、横幅が広い大きな降り階段が現れる。そしてその階段を降りた先は大きな木がある広場。木の種類はよく分からないけれど、太さとその大きさからして結構な歳だろう。その木は魔素の循環の役割もあるみたいだし……
「あ、見つけました……幸先がいいですね」
広場はまだ人で混雑するような時間ではなかったので、簡単に見つける事が出来た。高慢姉様から貰った人相絵とも一致する。長髪で金色。背後には荷物を背負った合成魔獣らしき生物。接触する方法は……うん、わざと彼にぶつかろう。それが一番シンプルで、難易度が低いと思われる。
てな訳でぶつかった。勿論尻餅をついたのは僕だ。簡単な流れとしては、普通に歩いている彼に、僕が普通に歩いてぶつかる、という感じ。
「す、すみません!」
「いえ、こちらこそ不注意でした。レディ、お怪我はありまs――っ!?」
尻餅をついたの僕に手を差し伸ばして紳士に振舞おうとした男性の言葉が詰まる。やば、魔力の量を誤魔化すの忘れてた。
「いえ、これは私の不注意です。どうか気にしないでください」
僕は彼から差し伸ばされた手に自分の手を乗せず、自力で立ち上がる。彼の背後の魔獣は……特に反応は無し……?
「それでは失礼し――」
「あの、良ければこの後お茶でも如何ですか? お詫びも兼ねてですが……」
スカートを軽く
「私とですか……? 別に構いませんよ。ですが一つ訂正をお願いします。悪いのは私ですからね?」
ここからは一旦、自分が男である事は忘れて女として振舞わねば……
「私はフォル・ファクティスです。貴方のお名前は?」
「私はイェート。イェート・ルクスリア。以後、お見知り置きを」
こうして、僕は偽名を名乗ってイェート・ルクスリアという男性と近くの喫茶店に入った。
よくよく思えば、お詫びもせずにすぐに去ろうとした僕は最低なのでは……?
目の前にはイェート・ルクスリア。自称だけど魔導師らしい。ただパッと見て、本当に彼は凄腕の魔導師なのだろうか?
戦闘は、あの荷物運びをさせられている合成魔獣に頼っているだけなのでは?
「それにしても、その合成魔獣……ですか? 凄いですね」
「ええ、彼女は自信作ですから。選りすぐりの中の更に良質な素材を使っているのですよ」
良質な素材……ね。とても胡散臭い。
「なるほど……しかし、合成魔獣に関する書物は読んだ事がありますが、ソレの使い道は貴方は何にしているのですか?」
「私はですね……荷物運びもそうですが、護衛も兼ねていますね」
やはり戦闘面でもこの人自体は駄目か。となるとますます怪しく思える。ソレを作った理由は何だろうか……
少し緩くなった珈琲を口に含む。先程から彼の視線が気になるが、同時に妙な魔術的なものをあてられているような気がする。まぁ、まだ無意識に
「……そろそろ失礼しますね」
「っ!?」
全く効いていない事に驚いたのだろう。彼は少し驚いた表情で僕の顔をまじまじと見ている。
「私の顔に何か?」
だから笑顔を作って問いかける。
「あ、いや、何でも。そ、そうだ、この後も一緒にどうですか? 実はここに来たのは最近なので良く分からないのですよ。ついさっきまで住宅街に迷い込んでしまいましたし」
「街の案内ですか? それならお安い御用ですよ。ぶつかってしまったお詫びも兼ねて案内致しましょう」
そろそろ怪しまれると思って引き上げようかと思ったけれど、思わぬ収穫だ。彼がそれを望むなら利用しようじゃないか。
こうして僕は、イェート・ルクスリアという男にこの辺りを案内する事になった。
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