XXⅧ 底辺だった僕は猫耳と尻尾が生えました……
息が……うまく呼吸が出来ない……
「胸だけで果ててしまったのかえ?」
床にヘタリ込む僕の頭を、お義母様は優しく撫でてくれる。そう言えば、誰かに頭を撫でてもらったの初めてだ……シチュエーションは目を閉じておくけど。
「姫、ニンゲンの雄の見送りは済ませておきましたよ」
そう言えばバルバトス様って一回もカシウスさんの名前を呼ばないで、ニンゲンの雄って呼んでたね。
「ところで魔女よ。貴女は今夜、どうするのです?」
「これでも暇では無いからの。そろそろお暇するところじゃよ。それとピュルテ、もう治しておいたからの。いやー実に珍しいじゃs――悪魔を見た」
え、じゃs……何?
とりあえず手鏡で左眼を見る。結膜は黒ではなく白。瞳孔の形も山羊のものではない。
「え? ど、どうやって治して下さったのですか!?」
「ただお前さんに宿った悪魔を推測して、その悪魔が好むものを与えただけじゃ。ま、簡単に言えばピュルテ、お前の胸を揉みしだいただけじゃながな! にゃははははっ!」
ハッキリ、簡単に言ったよこのひtいやお義母様。
「なんと! 私とした事が、その様なすば、お痛ましい瞬間に立ち会えないとは……やはりニンゲンの雄の見送りなぞするのではありませんでした……」
「す、素晴らしい……って、言おうとし……ました……ね……」
少し落ち着いてきて深呼吸するが、力が入らない。だから、ツッコミも意味がなかった。
「今なら首輪を容易に装させられますね……」
「それはダメじゃ!」
お、お義母様!
僕は信じてい――
「首輪をつける前に猫耳と尻尾じゃろ!」
信じようとしていた僕がバカだった。猫耳と尻尾はあの、たのしいたのしいあるばいとで十分だから!!!!
って、何今の感覚!?
お義母様の右手に魔力が集中したと思ったら、今度は僕の腰と頭から何かが生えてきた様な感覚があった。慌てて元の耳がある所を触れてみる。
「な、無い……」
急いでお義母様の方を見上げると、お義母様はゴシック様式の衣装を用意してニヤケながらこちらを見ていた。
――あ、これは……
罪喰いの完熟する前の段階を初めて見た日の事を思い出す。
「因みにその耳と尻尾とこの衣装には呪いを掛けておいた。頑張って解呪するのじゃぞ?」
……今後の学業どうしよう。
「こ・れ・で・し・た・かぁぁああ!!!!」
やっと解呪出来た嬉しさと、なかなか解呪出来なかった原因を知った苛立ちでこれが荒れてしまった。
取り敢えず今日まで解呪に手古摺ったので、猫耳と尻尾とあの衣装での日常生活をダイジェストにしようと思う。
―呪い受けて一日目
アリサに執拗に耳と尻尾を触られた。高慢義姉さんには理由を言ったら尻尾を強く掴まれた。あ、しかも目は大きく見開いて、息を荒くしながら鼻血を垂らしていたね。
解呪には魔力で抵抗して解こうかと思ったけど、ダメだった。
―呪い受けて三日目
僕の耳や尻尾を触ってくる女子生徒が増えてきた気がする。
解呪は一日目の方法を試してみたが、やっぱりダメだった。
―呪い受けて七日目
学園内で僕の盗撮写真を発見。とりあえず解呪は一旦諦めて、盗撮犯の捕縛捜査を開始した。
因みに、写真は〈転写〉という中級魔術の応用で、頭の中の記憶を絵として紙に転写する技術らしい。恥ずかしいから一枚も漏らさず燃やす。
―呪い受けて十四日目
盗撮犯の新聞委員(性別は個人の尊厳に関わるので伏せておく)を捕縛した。その人から購入者リストをOHANASHIして譲って貰った。そのリストの中にはアリサの名前や高慢義姉さんまで載っていた。
―呪い受けて二十日目
全生徒プラス理事長一人から写真の回収からの処分が完了した。鬼、悪魔、人で無しとか言われる覚悟でやったつもりが、特に何も恨み言をアリサと高慢義姉さんの二人以外からは貰わなかった。
やっと解呪に専念できる。
―呪い受けて二十二日目
カトラスさんに相談しに行った。なんで自分に頼むという手段が思いつかなかったのか、と彼に呆れられてしまった。でも、どうして顔を赤くしているのだろうか?
まあ、結果をいうとカトラスさんでもダメだった。でも、彼は何か触媒による呪いだと教えてくれた。それを壊せば解呪できるらしい。
ありがとうカトラスさん。この恩は忘れない!
―呪い受けて二十五日目
触媒らしき物が見当たらない……
そして呪い受けて二十六日目の今日、やっと見つけた!
長かった……本当に……長かった……
触媒にされていた物は一冊の本。見覚えの無いその表紙を本棚から見つけた時、呪いの在り処と自分を繋ぐ糸の事を思い出した。
……初歩的なミス。なんで僕は最初から呪いの糸を辿ることをやらなかったのだろうか……
「人を呪わば穴二つ」と、とある呪術師が言った。この言葉の通り、呪いは術者に返ってくる。その原理として、呪いは術者から対象まで、解呪されるまで繋がっているのだ。だから、その呪いで繋がった状態で解呪すると、呪い返しが発生する。それを防いだり、軽減させたりするためには触媒を経由する必要があるのだ。
「初歩的なミスを……」
解呪を終えた僕がそう嘆いていると、バルバトス様は僕に言った。
「おめでとうございます、姫。やっと解呪する事が出来たのですね!」
笑顔でそう言った。何も、裏も無い『笑顔』で祝ってくれた。
「……バルバトス様、一つお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
「勿論!」
あ、これは確信犯だ。
「触媒の事……知っていました……?」
「面白そうなので黙っていました。いやぁ、とても愛くるしい御姿で眼福でしたよ、姫」
初めて人を殴りたいと思った。でも、身体はそれに反応はしてくれないので諦めた。
……穴があったら入りたい。
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