XXV 底辺だった僕は魔女であるとカミングアウトします
きょうのたのしいたのしいあるばいとがおわった。…………もう……ドジっ娘でいいです……はい。
「聞いて無いですよ……今日は獣人コスチュームの日だなんて……」
肩を落としながら、僕はトボトボと家に帰る。
陽はまだ傾き始めたばかりだというのに、娼館の近くで街娼がもう呼び込みをやっているようだ。
「カシウスさん大丈夫でしょうか……ちゃんとお昼を食べていればいいのですが……」
と、心配をしながら帰っていた訳だけど……
「九五一…九五二……九五三! 九五十…四! ……九百――」
庭の方から何かが聴こえる。そう、例えるなら男の人が半裸で汗を垂らしながら腕と足の爪先で身体を支えながら、地面ギリギリまで伏せては離して伏せては離してを繰り返すアレの音。
え?なんで詳細まで分かるかって?
だって……ね。塀の向こう側から白い湯気の様なものが立ってるから……ね。
僕はすぐに人がいないか周りを見回した。
「……誰も居ませんね」
左太腿の辺りにあるカードホルダーからカードが一枚出てくる。
「ソード、
小アルカナの剣の騎士。それを利用して脚部を強化する。そして、僕はそこから跳んで庭の塀を跳び越えた。
「何をしているのですか!! ちゃんと安静にっ!?」
落下によりスカートがふわりとめくれそうになる。僕は慌てて手で前の方を抑えて着地した。
「あ、いや、これは、その、えっと……」
予想通り半裸状態で腕立て伏せをしていたカシウスさん。慌てて何か言い訳を考えている様だ。
「言い訳は無用です! さっさと湯浴みで汗を流して安静にして下さい!」
「は、はい!」
それにしても……カシウスさんの身体つき……羨ましいなぁ……
この身体じゃもう無理だけど、男だった時に彼ぐらいの細いけど筋肉があるって言うのに憧れてたんだよね……
「……ハァ。夕食……作りますか……」
悲しくなったので僕は諦めた。
「ちょっと、バルバトス様!?」
夕食の準備中。スープを作っている途中、急に背後から抱きしめられた。
「おや? てっきりあのニンゲンの雄の名前を言うかと思いましたが……」
「カシウスさんですか? あの人は一応騎士だった様ですし流石にあり得ないでしょう?」
「そうとは限りませんよ、姫。私の知人が、ある別の世界から漂流してきた本を所持しているのですが、確か……そう、騎士達の物語です」
……とてつもなく嫌な予感がする。僕の抱く騎士に対するイメージを壊すような事を言われる……そんな気がする。
「場所はブリテンと呼ばれる所の騎士の王の話でして確か……ガヴェ……ガヴェインと呼ばれる騎士が騎士王アーサーの妻、王妃グネヴィアを寝取る描写があったそうです。それと、これは別の本の内容ですが、とある美形の騎士が彼の上司に当たる人の奥方と駆け落ちする話もありましたね!」
そんな話、聞きたくなかった!
丁度、バルバトス様が背後から抱きしめている状態だったから、僕は耳を両手で塞ぐために腕を上げることができなかった。それにしてもなんでバルバトス様は嬉々として語ってるの!?
「そ、そうなのですね……と、所でその……そろそろ離れて貰えると料理中なので助かるのですが……」
「嫌です」
「か、カシウスさんに見られたらマズイと思うのですが……」
「見せびらかしましょう!」
と、ここでリビングの扉が開く音がした。バルバトス様と一緒に音のした方を見ると、カシウスさんが入ってくる所だった。
あ、終わった。
「あー、ピュルテさん。その、いつまでもお世話になっているのも何なので何かお手伝いを――何奴!!」
「どうも〜」
バルバトス様を見て警戒するカシウスさん。そんな彼に対して、バルバトス様は余裕を持った表情で挨拶をする。
「私はバルバトスと申します。以後、御見知りおきを」
「バルバトスだと!? 魔神柱が大てnピュルテ嬢に何の用だ」
カシウスさん……大天使って言おうとしたな……
「私はただ、姫の手料理が完成するのが待ち遠しかったのでちょっかいをかけていただけですが?」
「そ、その呼び方は辞めて下さいって……!」
「姫? まさかピュルテ嬢は魔人族?」
「それは違います!! 私はただ家事にしか才の無いただの小娘です!!!!」
取り敢えず否定する。ついでに大天使とかも否定しようかと思ったけど、やめておいた。
「それとバルバトス様。そろそろ夕食が出来上がるので離れるか配膳の手伝いをお願いします!」
「
「あ、ちょっ――」
「カシウスさんは手伝いは良いのでそこの椅子に座って待っていて下さい!」
「は、はい!」
なんとかこの場でのバルバトス様とカシウスさんの戦闘を回避することができた。
僕は三人分の容器に均等にベーコンスープを、カシウスさん用の少し多めに水を含ませて炊いた乾米、僕とバルバトス様の乾米、あとは副菜などを配膳する。バルバトス様の手伝いもあってスムーズに終えることができた。
「さ、食べましょうか」
「ええ、そうしましょうか。姫」
「か、感謝する……」
……どうしよう。バルバトス様のことを説明するためには僕が魔女であると明かさないといけない。でも、そうすると僕は殺されるだろう。それにもし、バルバトス様の名前の件はただたまたまだと言った場合は、僕とバルバトス様の同棲について誤解を生みそうだ。あとはいつボロが出るかも分からないからね。
……うん。言った方がまだ現実的だ。
「あの……カシウスさん」
「は、はい。な、何か?」
「実を言うと私……魔女なのです」
僕は右手の甲の罪印を見せながら言った。
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