XXⅢ 底辺だった僕はサキュバスではありません!

「…………い」


 声が聞こえる。


「…………さん…………ください……」


 誰かが起こしにきてくれた様だ。でも誰なんだ?


「カシウスさん、朝食の時間ですよ。起きて下さい」


 その声に聞き覚えがあった。

 思い瞼を無理矢理開けて起き上がろうとする。腰辺りに謎の重さがある。


「……今起きま――」


 黒髪紅眼の大天使アーク・エンジェルが、腰辺りに上に跨っていた。

 その後の記憶は、大天使様に再び起こされるまで無かった。







「……っと、確かバルバトス様はこうした方が成功し易いと仰っていましたが……どう考えてもおかしいですよね……?」


 寝ているカシウスさんの腰辺りに跨りながら思った事を口にする。明らかにおかしいだろうけど、でもこうすると相手は逃げ難くなるのは確かだと思う。因みに服は寝間着。え、朝の事?アサノコトナンテナニモナイヨ。ベツニハズカシイトカジャナイカラネ?


「さて、っと……起こしますか」


 僕はカシウスさんの肩を軽くする様に声を掛けながら彼を起こす。前のめりになってちょっと寝間着がはだけそうになるが直しながらする。


「起きて下さい」


 一回目、流石に起きない。


「カシウスさん、起きて下さい」


 少し、カシウスさんが反応した。


「カシウスさん、朝食の時間ですよ。起きて下さい」


 彼は瞼を擦って起きる態勢になった。そこで予め準備していた魅了魔術を起動する。それと同時に、色欲の罪印で魔術への補助を開始。下腹部辺りに熱を感じる……


「……今起きま――」

「おはようございます。早速ですが失礼しますね」


 カシウスさんと僕の目が合った時、彼の目から光が消えた。ただ、直後に変な単語を残して。


「黒髪紅眼の……麗しき大天使アーク・エンジェル……」

「――――っ!?」


 な、何が大天使なのさ!!

 しかも前より階級が一個上がったよ!?

 ……まあ今は落ち着こう。


「……さて、貴方の放浪していた原因、調べさせて貰いますね」


 そこから僕はカシウスさんに質問をいくつか問い掛けた。


「まず、貴方のお名前を教えて下さい」


「……カシウス。カシウス・E・アルトベルグ……」


 やっぱりただの浮浪者ではなさそうだ。


「放浪する前は何をしていました?」


「騎士…で主から魔女狩り……の勅命を受けました」


 勅命……という事は国王?


「貴方の主はどこの国の者ですか?」


「王国、ハーファー王国……です」


 ハーファー……王国。確か首都はスローンズだっけ。でも、取り敢えずカシウスさんから前に聞かされた魔女狩りの話に本物は混ざっていなかったから大丈夫だろう。


「貴方の放浪することなになった原因、教えて下さい」


「……突然の暇を出されました。ただ、その前から王宮では少し不自然な事が起こる様になっていました」


 クビ……か。でも、達成した仕事の量からして魔女では無いとはバレていないからその事が原因では無い。


「その不自然な事が起きる様になった日の前日には何がありました?」


「新しい教会が建ちました。確か……」


 その後、言葉が詰まったかの様に彼は黙ってしまった。思い出せないのかな……?


「ところで、王宮で起きる様になった不自然な事とはなんですか?」


「城の柱に罅、女王陛下の急な疾病、衛兵の装備の急な劣化、謎の猫の声、若い侍女の相次ぐ失踪……などです」


「ありがとうございます。ではまた起こしますので。……おやすみなさい」


 男は瞼を閉じて直ぐに眠りについた。

 ……お尻辺りあら何か硬いものが当たっている気がするけど気の所為……だよね。色欲の罪印によるものじゃ無いよ……ね?

 うん、きっとあれだ。朝起きた時に男性にはよくあるあれだ。しかも十分毎にもなるんだっけ……?

 と、突如、閉めておいた寝室の扉が勢い良く開いた。そしてドアを開けた犯人は大声で言った。


「ピュルテちゃん、私が来t――魔族サキュバス!?」


「だ、誰がまサキュバスですか!? そして何故入って!?」


 なぜかアリサが突入して来たのである。アリサは護身用の小杖を構えて言う。


「貴女の使い魔が入れてくれわ……それにしても、まさかピュルテちゃんが魔族だったなんて……」


「ち、違いま――って、何ですかこの白い羽は!? え!? え!?」


 否定しようとしたら純白のはねが視界に入った。そしてそれは腰から生えて来ていた。慌てて頭の方も触ってみる。


「ち、小ちゃいですけど山羊のような角が……」


 僕の様子を見てアリサは警戒しながらも構を解いた。そして、深妙な表情で両手をワキワキさせながら無言で歩み寄って来る。


「え? あ、あの、アリサ……ちゃん?」


 僕はカトラスさんの腰辺りから降りて彼女から距離を取る。その間でもアリサは距離を詰めてくるのだ。


「大丈夫……ちょ〜っと触って調べるだけだから……フフッ……」


 こ、怖い。ぜ、絶対調べるつもりはないでしょ!

 すると、下腹部辺りの熱が治まり、それと同時に僕の腰から生えて来た翼が急に砂のようにボロボロと崩れ始めて、やがて綺麗さっぱり消えてなくなった。


「消えた!? ドユコト!?」


 何故かアリサは絶望したかの様な顔で僕の両腕を掴む。そして涙を流しながらもう一度出してと懇願し始めた。


「え、えっと……ここでは怪我人が寝ているのでリビングに向かいましょうか。そこでちゃんと話します。それに、彼の朝食も運ばないといけませんし……ね?」


「……うん、分かった」


 アリサを連れて部屋を出ることに成功した。取り敢えずカトラスさんとの関係はまだ訊かれなさそうだし、今はあの翼と角についての誤解を解いて置かないと。

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