XⅪ 底辺だった僕は小動物扱いされました

 どうしよう……。この状況はどうすれば良いんだ?

 魔女だってバレた瞬間、僕の人生終わるよね。首とかをその場で切り落とされるよね絶対……。


「そ、それはすごいですね! 良ければここまでのお話を聞かせてくれますか?」


「喜んで!」







 話を少しばかり聞いてからの結論。男性の話からして、どうやら男性は偽物にしか当たっていないらしい。本人は本物だと思っているのだろうが、ただ魔力の保持量が多い人と魔女との区別は分からないようだ。

 彼が狩ってきた人達は、ただ多いだけの魔力で悪事を働いていた人だけ。なので、僕が狩られる可能性は低くなったと思われる。でも、いつボロが出るか変わらないし油断はできないかも……


「あの、そろそろおやすみになられたほうが良いかと……まだ、お身体には疲れがたまっている様ですし……」


 そろそろバルバトス様が来てもおかしくない。だから僕は、男性に寝るよう促す。


「わ、分かりました!」


「では、おやすみなさい。それと、別にそんな堅苦しい話し方で無くても結構ですよ。余計に疲れると思いますし」


「あ、ああ……おやすみ……」


 僕が作り笑顔で微笑むと、男性は見惚れたようにボーッと空返事をした。おまけに顔を軽く赤くしてね。















「さて、バルバトス様が返ってくる前に準備を――」

「私がどうか致しました? 姫」

「――っ!?」


 部屋を出て独り言を溢した瞬間、左の耳で囁かれて驚いた。僕は左耳にサッと両手を当てて、勢いよく左を向いて一歩後退る。顔が熱い。それに、一瞬だけだったのに左耳にかかった吐息の温もりと擽ったさが残っている。落ち着こうとしても、徐々に心臓の鼓動のテンポは速くなって、体温が上がってしまう。


「ば、ばばば、ばバルバトス様!?」


 一応扉越しに寝ている人が居るので、声は抑えておく。


「おやおや、そんなに驚いて何か疚しい事でも?」


 ち・が・う・よ!

 突然耳元でイケボで囁かれたら誰だって驚くよ!


「ち、違います! 決してそんな事は――」

「では、姫の部屋で寝ているニンゲンの雄は何でしょうか?」


 あ、これ最初っから見られていたやつだ。


「か、カシウスさんは…………拾いました」


「……姫。悪い事は言いません。元の場所に返して来て下さい」


「そ、そう言うのではありません!  成り行きで仕方なく運んだんです!」


 だから、そんなにヒトガタのペットが欲しいなら私に言ってくれればいいのに、みたいな顔をしないで!


「本当ですか?」


「本当です!  詳しい話は食事の時に話しますから!」


 取り敢えず僕は、リビングの方へバルバトス様を誘導することに成功した。








「……で、理由を聞かせてもらいましょうか、姫」


「えっと……その、実は……」


 なぜカシウスさんを介抱する羽目になったのか。その経緯を夕食後に一からバルバトス様に説明した。

 話している途中に、何度かバルバトス様の表情を確認するが、今までにないほど笑顔だ。そう、必死に何かを押さえ込むような笑顔……


「……と、これがこれまでの経緯です」


 心配でバルバトス様の顔色を伺う。


「……姫」


「は、ひゃい!」


 バルバトス様の声に思わず噛んでしまう。


「姫の不安そうな表情、小動物の様で唆るものがありますね!」


「っ!?」


 怒ってなかった。て言うか、僕が必死に経緯を話している間そう思ってたって事!?

 えそしたらすっごい恥ずかしんだけど……


「しかしまあ、ちゃんと元気に回復したら元の場所に返すのですよ? 姫」


「だからあの人は人間ですって。言われなくてもちゃんと回復したら帰します」


 カシウスさんの身分証を思い出す思い出す。

 冒険者についてはまだ、良く知らないから今度調べた方がいいか。それはそれとして、確か身分証には出身地を書く欄があったけど、カシウスさんは書いていなかったっけ?


「……起きてから訊きますか」


 でも、彼からすれば知られたく無い事だろうし……


「姫、記憶に残らずに訊く方法が御座いますよ」


「あるんですか!?」


 おっと、思わず喰いついてしまった。恥ずかしい……

 だからそんな微笑ましい小動物を見るような顔で見ないで!!!!


「ええ、ありますとも。それに、姫の下腹部にあるいんm、失礼、しるしの補助のお陰で強力になりますよ」


「淫紋って言おうとしましたよね!? 結構気にしているんですよ!?」


 僕は思わず叫んでしまった。


「仕方がないじゃ無いですか。蠍と軍旗ですし」


「そ、そうなのですけどね……」


 意味があれだから余計に意識しちゃうんだよなぁ……


「ま、まあ、罪印についての話はやめておきましょう。それで……その……どういった方法ですか?」


「簡単に言えば催眠系統の魔術若しくは魔法ですよ。普通の催眠系統の魔術などは効力の時間が限られますが、姫のその下腹部にある罪印を補助に使えば真祖の魔眼と同等の効力があります」


「真祖!?」


 バルバトス様は当たり前の事のように言っているが、真祖は英雄と呼ばれるほどの人間の実力者でなければまともに戦えない存在だ。彼らの特徴は寿命がないと言っても過言では無いほど長寿であること。そして怪力であり、魔素との親和性が高く、吸血を行う。吸血に関しては一度数滴の血液を摂取すれば数年は生き永らえるらしい。そして忘れてはいけないのは魅惑の魔眼。吸血鬼も吸血の為に持ってはいるが、真祖の場合は……うん、比べ物にならない。


「失礼ながら姫。魔女も真祖と同列に厄介な存在ですよ? 筋力が劣っていたとしても、魔素との親和性はあちらが九割なら魔女は九割九分。充分化け物ではありませんか」


 そ、そうだったんだ……


「……? という事は、魔女も真祖の様に霧になれるのでしょうか……?」


 バルバトス様は僕の言葉を聞いて、何も言わずにニコッと微笑んだ。

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