XⅧ 底辺だった僕は変な声を聞きました
昨日は色々と酷かった。あの薬の処理が終わった後、カトラス様とはすぐに別れて僕の家に着いた。
それと、最近はよく現界していた所為か、今日は休む為にバルバトス様が居ない。
「それにしても、女性の身体になってしばらく経ちますが、口調に関してはまだ慣れませんね……」
生活面としては女の体には慣れた。いや、慣れてしまった。初めは色々と戸惑うことがあったが、流石師匠……いや、お義母様。手取り足取り教えてもらえた。
「そう言えば……私にはどんな悪魔が宿ったのでしょうか……?」
魔女は、人間が己に身体に悪魔を宿す事で変質すた元人間の事。男女問わず身に悪魔を宿せば適性が合わない限り魔女へと存在が造り変えられる。
そして大抵は女の姿に造り変えられてしまう。つまり、『男の姿の魔女もいる』らしい。見たことがないから分からないけどね。それに、稀に女が男の姿になる事も……ね。
そんな現象が起きるのは大抵、高位の悪魔が宿った場合だ。
「(……け…た)」
「っ!?」
突然、耳元で誰かが囁いた気がした。その驚きの勢いに任せて僕は背後を振り返る。ちょうど僕はコーヒーを淹れ終えたばかり。立ち上がる湯気を、背後を振り返った僕の髪の毛が切る。
背後には誰も居なかった。
僕の後ろでは、淹れたばかりのコーヒーの湯気が再び立ち昇るだけだった。
今日は休日。学園も今日はお休み。だから僕は家でのんびり寛いでいる。しかし、先ほどの声がまだ耳から離れてくれない。
「“みつけた”……ですか……」
空耳なのかもしれない。けれども、その声を聞いた時、背筋が凍ると同時に、何故か懐かしい……そう思っていた。
と、誰かが玄関の扉をノックした。
「は、はーい」
僕は慌てて寝間着のまま玄関に向かう。そして覗き穴か訪問者が誰か確認した。
顔見知りが玄関の扉の向こうにいると知ると、僕は鍵を開けて出迎えた。
「いらっしゃっい、アリs――」
「ちょ、ちょっとピュルテちゃんその格好で外でちゃダメ!」
「……え?」
僕は、自分の今身につけている衣類を確認した。が、只の寝間着だ。義母様の所ではこれが普通だったから……
「……あ、ああ……す、すみません! すぐに着替えてくるのであがって待っていて下さい!」
直ぐに着替えを済ませ、客人用のカップにコーヒーを淹れて運ぶ。
「えっと、こんな物しか出せませんが……」
「ううん、大丈夫だよ。こちらこそ連絡なしに訪問してごめんね」
「いえ、特に見られても特に問題無いものばかりだったので気にし無いで良いですよ」
彼女の謝罪を受け入れ、僕は先程からの疑問に答えて貰おうと、すぐに問いかけた。
「所で……どうして此処が……?」
その質問に、アリサは一瞬固まった。そして、持っていた飲みかけのコーヒーをそっと置いて深く溜息を吐いた。
「ピュルテちゃん。この世にはねぇ、知らなくても良いものがあるの。貴女なら知っているでしょう?」
「え、えっと、その……こ、怖がらせているつもり……ですか?」
強がっているように聞こえるだろう。正直に言うと怖いです。はい。
「ピュルテちゃんは私が貴女の家を知った理由……入りたいでしょう?」
「そ、それはそうですが……」
「ならその情報の対価に何が必要か分かるかしら?」
「ひぃっ!?」
ゆったりと笑うアリサが怖いです誰か助けて。
「で、ピュルテちゃんはどうする? 知りたい? 知りたくない?」
悪魔だ。悪魔が此処にいる!
少女の姿をした悪魔が目の前にいる!
「……た、対価は何でしょう…………?」
「交渉成立ね。まぁ、ぶっちゃけちゃうと後を尾けたの」
「ふえっ!!??」
まさかの尾行していた発言に僕は驚きを隠せなかった。
「そ、その情報は絶対に誰にも言わないで下さいよ! お願いしますね?!」
「ふふふふ〜。それはピュルテちゃんの働き次第ね〜」
「働き……? あっ!」
そう言えばまだアリサは対価の内容を言っていなかった。
「それじゃあ着いて着てもらうわよ。ピュルテちゃん?」
「は、はい……」
「ピュルテちゃん、このジョッキを五番テーブルにお願い!」
「は、はい! (バシャァッ!」
「注文お願いします!」
「た、ただいま向かいます! (スッテンゴツッ!」
「ピュルテちゃん、これを七番テーブルに持ってって!」
「は、はいぃ! (コケッ! ベチャッ!」
ちょっと待って!
この状況に疑問を持つ前に、なんでドジした所だけしか描写されてないの!?
普通にウエイターの手伝いが出来ていて、たまに失敗しているだけだよ!?
誰か僕を信じて!!
「ピュルテちゃん? まだ情報の対価まで足りてないよ? それとドジし多分マイナスだからね?」
「アリサちゃん鬼畜です!!!!」
僕はその後、
「や、やっと休憩ですか……」
休憩室の机に僕は突っ伏す。その隣でアリサは僕の頭を撫でていた。よくよく思えば、アリサは僕の頭を結構な頻度で撫でている気がする……
「ところで、何故私はアリサちゃんのお店でウェイトレスをさせられていたのでしょうか……? 別に、接客じゃなくて厨房の方がもっと酷使出来たはずなのに……」
「あれ? 今更気が付いたの?」
「わざとだったのですか!?」
ニヤつくアリサの表情を見て騙された事が判明する。けれど、もう疲れた。何も考えたくない……
それに今もまだ、あの声が頭の隅でチラついている。聞き取れた単語は少ないが、音からして恐らくだが「見つけた」だと思う。
「ハァ……」
「ピュルテちゃんが溜息を……は、まさか男!?」
「そ、そそそんなわけ無いじゃないですか!?」
溜息を吐いたのを誤解されたので、僕は慌ててその誤解を解こうとした。でも、アリサは「大丈夫。分かってるから。ちゃーんと分かってるから」と言って聞く耳を持ってくれなかった泣きたい。
あ、因みにこの後は特に何も問題は無く1日が終わった。結局、昼から晩まで店内を大体走りっぱなしだったなぁ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます